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 その店のドアを開けた瞬間、押し寄せてきた甘ったるい匂いにサスケは眉を顰めた。
 何度来ても慣れない匂いを、なるべく口で息をするようにして避けながら、カウンターに近付く。
 「いらっしゃいませ。何にいたしましょうか」
 にこやかに声をかける店員に生返事をして、おもむろに色とりどりのケーキの並ぶウインドウの前に屈み込んだ。
 女の子に人気のこの店のケーキは、どれを取っても非常にカラフルで可愛らしいデコレーションが施されている。
 が、こういう物には興味のないサスケにとっては、所詮胃の中に収まってしまう物を何でこんなにいろいろ飾り立てるんだか不思議でしょうがない。
 それでも大事なあの子がここのケーキをお気に入りだから、あの子の部屋を訪ねる時は3回に1回は買って行くようにしている。
 今日も今日とて、真剣な顔でウインドウを覗き込むうちはサスケ。
 客の女の子達が遠巻きに眺めているのなんてまったく気付きもしない。
 とりあえずイチゴショート。
 あの子の一番のお気に入りは外せない。
 自分の分はチーズケーキ。
 辛党のサスケのこと、自分用なんて本当は必要ないのだが、あの子は一人で食べるのを嫌がるからなるべく甘くなさそうな物を選んで。
 いつもはこれくらいでやめておくのだが、ここの所手土産なしだし、今日は夕食作って待ってるって言うし、やっぱりもう1個くらい余分に買っておこう。
 なおもじーっとウインドウの中を睨み付けていると、ふと見慣れない色彩が目に映った。
 パステルカラーの洪水の中で、比較的地味目の色合いのそれの前には「あずきと抹茶を使った和風ケーキ」と札がついている。
 (・・・新製品か)
 あの子は新製品には目がないし、あんこなんて見てると胸が悪くなるくらい大好物だし。
 これなら間違いはないだろうと踏んで、サスケは店員に声をかけた。
 「これとこれとこれ、・・・後、それも」
 ケーキ3個だといつもの小さめの箱には入り切らず、かと言って大きい箱だとすかすかになってしまうため、隙間埋めに小さなシュークリームを数個足して今日のおみやげ完成。
 「スタンプカードおつくりしましょうか?」
 「いや、いい」
 頬を染めながら話し掛ける女の店員にぶっきらぼうに返事をする。
 最近来る度に同じことを聞かれるのは正直うざくて、店を変えたいと思うこともしばしばだが、しょうがない。
 あの子がここのケーキを大好きなんだから。
 いそいそとケーキの箱を小脇に抱えてサスケは道を急いだ。



 「わーい、ケーキだvvv」
 ぼろいドアを開けると、期待通りに満面の笑みのナルトがお出迎え。
 それはいいのだが、真っ先にケーキの箱を抱きかかえて頬擦りまでするナルトに、サスケはかなりムッとする。
 (そういうことはオレにしろ!)
 なんてこと口に出せるわけもなく、眉間に皺を寄せたまま靴を脱いで上がり込むと、待ってたようにどんっとナルトがぶつかってきた。
 「いらっしゃいってばよ!」
 「・・・ああ」
 そのままぎゅっとしがみつかれて内心かなり焦りつつも、サスケの表情や声はそんなもの丸っきり窺わせない平坦なもので。
 あまり良くない癖だろうかと、時々サスケは己を省みる。
 任務中や食えない連中(ex.某上忍)とやり合う時なんかにはこの上なく便利なのだが、恋人と語らう場面で役に立った覚えはあまりない。
 とにかく感情表現がストレートで、言葉の裏とか奥床しさなんて事まるっきり理解してくれないナルトにはそれが不満なようで、いつもごねられるのだが。
 生まれついたこの性格、簡単に変えられるものならば、ナルトゲットまでの道のりは遥かに平坦だっただろう。
 でも、とりあえずゲットできたんだからいいか。
 なんて考えながら、条件反射のようにナルトの腰に手を回していたりするあたり、サスケ、真剣に反省する様子はない。
 「・・・おまえ、ちっともびっくりしないってば」
 ナルトは唐突に腕をほどいて、つまらなそうに唇を尖らせる。
 おいこら、今のは驚かすために抱きついてきたのか?
 それは恋人の出迎え方としてはかなり違うだろ。
 ・・・というより、随分理不尽な言われ方をされてる気がするけれど。
 「一応は、驚いてる」
 とりあえず当たり障りのない事を呟いてくしゃっと長い髪を撫でてやれば、見上げてくる顔は笑みを浮かべていて。
 いつも程拗ねないのは、ケーキの功徳かとサスケは胸を撫で下ろした。



 ナルト手作りの夕食の後。(ちなみに今日のメニューは焼き魚、煮物、けんちん汁。サスケが一口も残さず味わい尽くしたのは言うまでもない。)
 「ケーキだ、ケーキだv」
 嬉しそうに箱を開けながら、ナルトはまずイチゴショートを取り出した。
 サスケの前にチーズケーキを置くと、おもむろにいただきますと合掌する。
 つんつんとフォークの先でケーキのはしっこを崩して、生クリームたっぷりのイチゴを一口で頬張って。
 「おいしーvv」
 簡潔な感想をこの上なく幸せそうな表情で宣って、ナルトはぱくぱくと無心にケーキを食べ続ける。
 さっきの晩飯も結構量食ってたよな。
 なんて思わずツッコミ入れたくなるような食べっぷりだけど、以前同じ事を言ったら『甘い物は別腹なの!』と怒られたため、それ以来余計な事は言わないようにしている。
 だがしかし。
 「ごちそうさまっと。さー次いくってばよv」
 「おい、まだ食うのか?」
 あっと言う間にイチゴショートをたいらげた直後、いそいそと和風ケーキに手を伸ばすナルトにサスケはさすがに呆れた声になる。
 ちなみにサスケのケーキはまだ半分も片付いていない。
 「だって今日中に食べないとおいしくなくなるってば」
 「大して変わらねえだろ」
 「変わるの!スポンジぱさぱさになるし、あんこだって固くなっちゃうってばよ。サスケは味オンチだから分からないだろうけどさ」
 「オレは味オンチじゃねえぞ。甘いのが苦手なだけだ。その証拠におまえのメシは旨いって言ってるだろう」
 「そ、それは〜〜」
 さらりと言ってのけるサスケにナルトは口籠った。
 言い返したいけど、下手に反論すると自分の料理がおいしくないってことになっちゃうし、それはイヤ。
 真っ赤になって睨み付けてくるナルトの頭の中では、そんな考えがぐるぐるしてるんだろうと容易く予想が付く。
 「もー、何でサスケってそーゆーことばっか口が回るんだってば!ほんとヤなヤツ!」
 いーだ!とおまえ幾つだと問いたくなるような顔を向けて、ヤケのようにナルトはケーキにフォークを突き立てる。
 しかし、大きな固まりを掬い取ってかぶりついた次の瞬間、拗ねまくっていた表情はほわっと緩んだ。
 その機を逃さず、すかさずサスケは声をかける。
 「旨いか?」
 「あんこすっげーあまくて、めちゃくちゃおいしいってばよ〜」
 「よかったな」
 「うん!ありがとね、サスケ」
 にこにこしながらケーキを食べるナルトはさっきの事なんかすっかり忘れてしまったようで、サスケはこっそりほくそ笑む。
 (・・・簡単すぎ)
 まったくこの子はいつまでたっても相変わらずの単純思考で。
 こんなんで世間の荒波を渡って行けるのかと心配になってしまうくらいだが、まあ自分が傍にいればどうにかなるし、てかするし。
 第一、そんな所がもうどうしてくれようってくらい可愛いんだからしょうがない。
 ・・・なんて自分も相当終わってると思うが、この状況にまったく不満はないので構わない。
 そう考えて、サスケはうっすらと笑みを浮かべた。



 「・・・サスケ、何にやにやしてるんだってば」
 「いや、別に何でも」
 「何でもなくて、おまえがそんな顔するか?!」
 むっとした顔で言い募るナルトの右手はそれでもしっかりフォークを握ったまま。
 ほっぺたにはクリームの欠片までこびりついている。
 「すげーうまそうに食べてるなって思っただけだ」
 確かにそれは嘘ではない。(ただし本当の事を全部言ってるわけではないが)
 これだけ美味しそうに食べてる様を見れば誰だって笑みの一つや二つ零れるというもの。
 「おいしい物をおいしいって思うのはあったりまえじゃん!いっつも表情が変わらないおまえの方がオカシイんだってば。あ、でもサスケあんことかクリームとか苦手だもんな。こんなおいしいもの食べられないなんて気の毒〜」
 にいっと笑ってナルトは、これ見よがしにたっぷりのあんこを口に運ぶ。
 じっくりと味わっているその表情は心底幸せそうで。
 ・・・いくら自分が買ってきたケーキでも、自分以外の物がナルトにそんな表情をさせるのは何だか非常にムカツク。
 「そんな甘そーなもん、食えなくて幸いだ」
 いきおい、口調は随分素っ気ないものになる。
 「・・・おまえ、ほんとにヤなことばっか言うってば。そんなヤツにはお仕置きだってばよ〜!」
 「おい・・・っ」
 言うなりがばっと柔らかい身体がサスケにしがみつき、咄嗟に出た制止の言葉はもっと柔らかな感触に封じられた。



 まったりと、こってりと、アマイモノが。
 融けてしまいそうな熱を伴ってサスケの口内に忍び込んでくる。



 こくり、と。
 ナルトの舌によって口内に押し込まれた物を反射的に嚥下すると、満足したようにナルトは最初と同じく唐突に身体を離した。
 「名付けて極甘ケーキの刑だってばよ!」
 勝ち誇ったような笑顔。
 一方サスケときたら、思わず口元を押さえて硬直したままで。
 日頃鍛えた鉄面皮のおかげで赤面だけは免れたけれども。
 「どーだまいったか!」
 それでもサスケの動揺なんてナルトにはすっかりお見通しようで、にやにやしながらびしっと指を差す姿はまったくもって小憎らしい。
 大体普段はちょっとくっつくと途端に真っ赤になって、キスするのにも苦労するってのに。
 いたずら好きというか負けず嫌いというか、こーゆー時だけ羞恥心の箍が外れるなんて。
 (すげータチわりい・・・)
 それでも、他の事ならともかくこんな状況で負けっぱなしってのは男としてどうよってカンジだし。
 というより、むしろ好都合?
 ナルトからキス(しかもディープ)なんて、滅多にあるもんじゃないこの状況。
 そっちがその気ならこちらもとことん利用させてもらうまでの事。
 「へっへー、びっくりしたろ!」
 得意気なナルトに向かって、サスケはおもむろにため息を吐いてみせた。
 「・・・すげーびっくりした」
 「ふっふーん、そーだろそーだろ」
 「びっくりし過ぎて味なんか分からなかった。だから、もう一口寄越せ」
 「へ?わ、わ、ちょっと待った!」
 慌てて後ずさるナルトをすかさず捕まえる。
 それでも尚じたばたと逃げ出そうとするから、しっかり腰に手を回して捕獲完了。
 「お仕置きなんだろ?じゃあ、きっちり味合わせてもらおうじゃねえか」
 「それちがう!なんかちがう!絶対ちがう!・・・ちょ、サスケっ、タンマってば!」
 顔を近付けるとあからさまに怯えた顔をして、必死に身を反らす。
 マジに焦ってる様子を見れば、ちょっと可哀想かもなんて仏心が湧かないわけじゃないけれど。
 考えなしに軽はずみな事をすればどんな事になるか、身を持って知ってもらった方が後々この子のためでもあるし。
 とか何とか理屈を捏ねつつも、結局は泣き入って潤んだ瞳で見上げる表情に大いにそそられてしまった青少年うちはサスケ。
 「タンマなし」
 あっさり言い捨てて、顔面蒼白になったナルトを軽く抱き上げた。





 「ごちそうさん。うまかった」
 「・・・ひとくちじゃないってばよ、これ」
 満足そうに手を合わせるサスケを余所に、ナルトは起き上がる気力も体力もないようで、シーツにくるまったまま恨めし気に呟く。
 「おまえ来るといっつもこうだってば・・・」
 それがそんなに不満かよ。てか挑発したのはそっちだろう。
 そう言いたくなるのをサスケはぐっとこらえて。
 「・・・今度は何が食いたい?」
 だって拗ねたナルトを放っておいたら、結局後で痛い目見るのは自分だし。
 それくらいなら少々の意地は脇に置いといて、とりあえず効果抜群と思われる御機嫌取り。
 案の定。
 「あのね、プリン!クリームいっぱいのがいいってば!」
 「・・・了解」
 こんなに単純でどうするよ。
 自分で仕組んだとはいえ、あっという間に機嫌を直して飛びついてくるナルトに、サスケはため息混じりにこれで何回目だか分からない事を考える。
 でも。
 「わーい、サスケすきーv」
 そんな事を満面の笑みで言われて、ぎゅっと首に手を回されたりなんかしたら。
 (まあ、いいか)
 なんてこれまた何十回目か分からない言葉を心の中で呟いて。
 しがみついてくる身体を柔らかく抱き返した。




 13000キリを踏まれた卯月未琉様からリクエスト頂きました。リク内容は「日常甘々サスナルコ」
 ツッコミ来る前に自己申告しますが、冒頭シーン、はっきり言って先日アップしたホワイトデーネタとかぶってますね。ネタ的にはこっちの方が先に考え付いてたんだけど。 
 うちのコンセプトって「ヘタレサスケ」なんですが、ちょっと修正。「ヘタレだけど良い目を見るサスケ」ってのが私のモットーらしい(笑)。手が勝手にサスケが幸せな方向に・・・。
 どーでもいいけどナル子食欲魔人過ぎ。てか甘々リクでケーキ話なんてひねりなさ過ぎです、自分。
 こんなんを受け取って下さった卯月様、本当にありがとうございました。
 
 

 

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