Lunchtime rhapsody



 

 4時限目終了のベルが鳴った。
 授業終了直後の教室はただでさえ一気に空気が弛んで騒がしくなるものだが、昼休み開始の合図ともなるこの時刻、ざわめきは一際大きくなる。
 眠い授業から一時とはいえ解放されてのランチタイム、食べ盛りの高校生にとっては待ちに待った瞬間なのだ。
 机を動かす者、購買へ走り出す者、誰も彼もが慌ただしく動き回る教室の隅で、一人だけ周囲の喧噪など目に入ってないかのように、じっと座ったままの少年がいた。
 かといってこの少年、村八分にされているわけでも食欲がないわけでもましてダイエットしているわけでもない。
 窓際の一番後ろなんて絶好のロケーションで頬杖つきながら窓の外を眺めている姿は、妙に他人を寄せつけない雰囲気を漂わせているが、何の事はない。
 彼は現在人待ち中なのである。
 「サスケ、今日は定期便来ねえなー」
 「ドベだから呼び出しでもくらってるんだろ」
 「じゃあ今日は一緒に食べない? お弁当作り過ぎちゃったの〜」
 不機嫌そうなサスケの返事に、聞き耳をたてていた女子生徒がすかさず甘い声で割り込んだが。
 「パス」
 「おい、サスケ・・・」
 これ以上ないくらいあっさりと一蹴されてしょげ返る彼女を見兼ねて、最初に声をかけた男子が注意しようとしたその時。
 サスケの表情が僅かに変わった。
 それは、彼をよく知っているかあるいは非常に観察力の鋭い者くらいしか分からない程度の変化ではあったけれど。
 程なく、廊下の向こうからどどどどと喧ましい足音が聞こえたかと思うと、教室のドアが勢い良く開かれた。
 「サスケっ、勝負!」
 勇ましい台詞と共に、サスケに向かって仁王立ちでびしっと指を突き付けたのは、長い金髪をツインテールに結ったほっそりした少女。
 挑戦的な視線を受けて、サスケは口元に笑みを浮かべながらゆっくりと立ち上がった。
 「また返り討ちされに来たのかよ、ウスラトンカチ」
 「うるさいっ、今日は負けないってばよ! それにオレはウスラトンカチなんて名前じゃなくて、うずまきナルト! 何度も言わせんなっ」
 勝手知ったる様子でずかずかと教室を横切ると、ナルトは手にした風呂敷包みをサスケの机の上にどんっと置いた。
 ちょっと曲がった結び目をもたもたした手付きで解くと、中から現れたのは二段重ねのお弁当が二つ。
 ナルトは腰に手を当てて胸を反らせると、堂々と宣言した。
 「お弁当早食い1本勝負開始だってばよ! 今日こそオレが勝つ!」 





 金色の髪に青い瞳、黙って座ってれば学年一の美少女と言っても差し支えのないうずまきナルト。
 が、彼女はその外見に反してとびきりの元気娘、というよりとんでもない負けず嫌いであった。
 入学当初からナルトが巻き起こした騒動の数々は枚挙に暇がない。
 「うちはサスケ! おまえには絶対負けないってばよ!」
 その彼女がある日突然うちはサスケに向かってライバル宣言した事は、暴挙ではあっても、さもありなんとある意味当然と思われるあたり、その行跡は伺い知れる。
 一方、抜きん出た容姿と運動能力、更には成績でも常に上の中辺りを維持しているサスケは、ナルトとは違う意味で注目の的だった。
 特に女子生徒からの人気は凄まじいものがあり、本人は一向にそれらに無頓着な所がより一層人気に拍車をかけている。
 実際、女子からの告白の嵐も男子からの妬み攻撃も顔色一つ変えずにばっさりと切り捨てる様は、正にクールビューティ。まったくこれっぽっちも容赦はない。
 よって、ナルトの一方的な宣戦布告も、(ナルトの勇気というか無謀さに敬意は評しつつ)サスケの冷たい視線攻撃であっという間に終わりだろうというのが大方の予想する所だった。
 それがまさか。
 こんな風景が日常になるとは、想像した者は誰もいなかったに違いない。
 





 「また連敗記録を伸ばしに来たのかよ」
 「そんなこと言ってられるのも今のうちだけだってば」
 闘志満々のナルトを余裕でいなすサスケ。
 薄らと浮かべた笑みは爽やかというにはあまりにも悪役チックではあるが。
 (あのうちはサスケが楽しそうに)
 (女の子と毎日早食い勝負して)
 (おまけに連勝中・・・)
 周囲の囁きなど一向に気に留めるそぶりもなく、サスケとナルトは右手に箸、左手に弁当の蓋という状態でおもむろに向き直った。
 「せーの、で始めるってばよ」
 「いつでも来い」
 「せーの!」
 次の瞬間、同時に弁当をかき込み始める二人。
 「あいつらの箸の動き、見えるか?」
 「・・・いや、全然」
 「うわ、うずまきお握り一気食い・・・」
 既に日常と化しているとは言え、色んな意味で物凄い光景にいつまでも慣れる事のできないクラスメート達は、今日もただ対決の行方を見守るのだった。





 「煮付けにお魚にきんぴらにたまごやき。どーだっ、完璧だろっ」
 「芋は煮崩れ。魚は焦げてる。きんぴら甘過ぎ」
 「う、うるせーっっ」
 一見和やかな会話を繰り広げつつも、バトルは速やかに進行中。
 弁当の中身が減っていく速度は二人とも互角というところで、今日こそはナルトが一矢報いる可能性なきにしもあらず、と思われた時。
 「けど、卵焼きは悪くない」
 「え・・・」
 信じられない事を聞いたかのように、ナルトの箸がぱたりと止まる。
 「・・・勝負あり、だな」
 「あーっ、てめえ、卑怯だぞ!」
 隙を付くように一瞬だけ早く弁当箱を空にしたサスケに、顔を真っ赤にしてナルトが咬み付く。
 対するサスケは何事もなかったような顔でさっさと弁当箱を風呂敷に包み、ぽんとナルトに手渡した。
 「油断するおまえが悪い。それに、オレは正直な感想を言ったつもりだが?」
 にやりと笑うサスケに、ギャラリーからはまたしてもどよめき。
 ただし、先程までとは違って、女子生徒の黄色い声が多く混ざっていたりするのだが。
 しかし超レアと噂されるサスケのそんな表情も、ナルトにとっては珍しいものではない上に、陰険な笑みとしか認識されていないらしく、じろっと睨み返して。
 「明日こそみてろよ!」
 「どうせ同じ結果だろ」
 「おまえって、ほんといちいちムカツク! 絶対、明日はオレが勝つんだってばよ!」
 言い捨てるなり、ナルトはダッシュで教室を飛び出した。
 去り際に、おまけとばかりにあっかんべーを残して。





 登場と同じく嵐のように去って行った少女の足音が完全に遠ざかった頃、ようやく教室はいつもの平穏を取り戻し、若干遅めの昼休みを満喫し始める。
 (今日もどうにか無事にクリアしたな)
 サスケは席に座り直すと、深々とため息を吐いた。
 「・・・勝たせてたまるか」
 和やかなざわめきに紛れて、ぼそりと呟かれた言葉を聞いている者は誰もいなかった。
 と思われたが。
 「んな面倒くせー事よく続けてるな」
 「別に面倒じゃねーだろ。なーサスケ」
 呆れたようなシカマルに、楽し気に茶々を入れるキバ。
 どうやらあの騒ぎの最中も、この二人はマイペースで昼食を摂っていたらしく、サスケが自分の席に落ち着くとすぐにやってきたのだった。
 一見反対の事を言いながらも、同じようなにやにやした表情を浮かべる彼らをサスケは実に嫌そうに見遣った。
 「・・・ほっとけ」
 呟きながら、無意識に胃の辺りを押さえる。
 実の所、サスケは決して食が細いわけではないのだが、食事はそれなりにじっくりと味わって食べたいタイプだ。
 でなくとも、ろくに咀嚼もせずにほぼ丸飲みに近い食事が、胃に優しいわけがない。
 胃薬の世話になる日も遠くない気がする。
 というのが、サスケの秘かな心情であるのだが。
 この勝負、どうしても負けられない訳がある。
 『絶対おまえに勝つってば!』
 強い光をたたえて見つめてくる瞳。
 自分だけを映す、その青。
 「フリでも1回負けてやれば、ナルトも満足するんじゃねえの」
 「そしたら手作り弁当食べられなくなるじゃんか。やっぱり好きなコの手作りってのは男の夢だろ」
 「男の夢を2分で丸飲みするのかよ。・・・やっぱ面倒くせえっつーか理解したくねえ」
 「やー、それでも昼休みの度にナルトが会いに来てくれるっつー役得はでかいんじゃねえの?」
 「あーそういうこと」
 「・・・勝手な憶測してるんじゃねえ!」
 たまりかねたようにサスケが怒鳴りつけても、シカマルとキバは怯んだ様子も見せない。
 それどころか。
 「どっか違う所でもあんのかよ」
 「てかとっと告白しろ」
 あっさり返されてサスケは言葉に詰まる。
 更に追い討ちをかけるように
 「下手にコクっても玉砕必至だし?」
 「それで手作り弁当まで食えなくなったら元も子もないし?」
 「だったら今のままの方がましってとこか」
 「そのためにも勝ち続けなきゃいけない、と」
 「うわ、やっぱめんどくせー」
 「だから勝手に人の気持ちを代弁するな!」
 サラウンドで言いたい放題言われて、サスケは握った拳をふるふると震わせる。
 だがしかし。
 「反論があれば受け付けるぜ?」
 そう言われれば、返す言葉などあるわけがない。
 何しろ彼らの言ったことは、隅から隅まで毛一筋程の狂いもなく。
 本当、だったりするのだ。 
 (しょうがねえだろ! 勝負でもなきゃあいつはオレん所なんか来ねーんだから!) 
 悔しそうに唇を噛み締めるサスケに、悪友どもは当分退屈はしないとばかりににんまりと笑った。
 


 

 「その顔、やっぱり今日も駄目だったみたいね」
 「サクラちゃん・・・それって、オレが負けるって最初から分かってたみたいだってばよ」
 むくれるナルトに、サクラは苦笑を向ける。
 「当然。てかサスケ君は死んでも勝ちにいくでしょうよ」
 「そんなのずるいってば! あいつ何でもできるんだからこれくらいオレが勝ったっていいじゃん。サスケってば心せまっ」 
 そういう問題じゃない。
 とは思いつつ、それを口に出す事はせずにサクラはナルトのぷうっと膨らんだ頬を指で弾いた。
 「で、今日の収穫は?」
 「うん、ばっちり! サスケ、やっぱり和食好きってほんとだってば。食べてる時の顔違うもん。でね、卵焼きは甘いのが好きみたい。ちょっと砂糖多すぎかなって思ってたんだけど『悪くない』だって」
 「・・・あーそー。じゃ明日からのお弁当の方針は決まりじゃない。よかったわねー」
 途端に嬉しそうに語り出すナルトに、サクラは生ぬるい目で相槌を打つ。
 「うん。でもきんぴらは辛い方がいいんだってばよ。あいつの好みってわけ分かんねー」
 いや、それはみんな知ってるし。
 一方的にライバル宣言された挙句、毎日早食い勝負を挑む少女に惚れるあたり、どう考えたって真っ当な好みとは言い難い。
 (てか何で気が付かないのよ、この子は)
 いっそここまでくれば、サスケに同情したい気分になる。
 一方通行の想いじゃない分、より一層哀れは募るというもので。
 「あんたねー、勝負なんてかこつけてお弁当作ってる余裕あるなら、とっとと告白しちゃったら」
 呆れたように言ってやると、途端にナルトは真っ赤になって俯いた。
 そうやって恥じらっている様はサクラでもぐらりと来そうな可憐さなのだけれど。
 「だってオレ、まだいっぺんもサスケに勝ってないもん。それで告白なんかしたって、バカにされるに決まってるってば」
 「そうかなあ」
 「絶対そうだってば。あいつ、いーっつもスカした顔してその辺の奴らなんか目に入ってませんって態度じゃん。だからさ、何でもいいからあいつ負かさないと、オレの方なんか見てくれないってばよ」
 「そうとは限らないわよ」
 むしろ、今現在サスケの視界にはナルト以外のモノは入ってないに違いない。
 サクラのみならず、サスケをある程度知ってる人間にとってはとっくに周知済みのこの事実、当の本人だけがまるで分かってない。
 「とにかく、勝つまでは絶対言わないの!」
 「・・・あんたがそれでいいなら別にいいんだけど」
 (サスケ君、ほんとはとっくに負けてるんだけどね)
 そしておそらく、これからもきっと負け続けるのはサスケの方だ。
 これ程負けず嫌いで意地っ張りな相手を好きになった時点で、既にそれは決まっている。
 だけど、今の所サクラはそれを口に出すつもりはない。
 二人に含む所はないのだけれど、かつて憧れていた相手が彼女持ちになるのも、妹のような友人を取られてしまうのも、まだちょっと切ない気がするのだ。
 「それにさ。も、もしかしてうまくいっちゃったりなんかしてもさ。このままオレから告白しちゃったら、ほんっとに負けっぱなしじゃん。そんなの悔しいってばよ!」 
 ・・・とは言うものの、やっぱり二人とも幸せになってもらいたいのは事実だし、このままでは進展する日なんて永遠に来ないような気がするし、サスケにその点での甲斐性を求めても無駄なような気もするし。
 (やっぱりそのうち何とかしなきゃいけないかな)
 ほんとに手のかかる人達、とサクラはため息を吐いた。







 お互いに勝たなきゃ明日がないと思い込んでるこの勝負、決着がつくのは何時になるのか、果たしてそんな日が来るのか。
 それは誰も知らない。





 16161ゲッターたまこ様からリクエスト頂きました。「サスナルコ学園物でギャグ」
 お弁当がっつくサスケにナルトお握り一気食いって、いくらギャグでもどうよ、なカンジですが。
 今回のサスケ、さよには「ファ○リー!」のレイフみたいと言われました。でも、このナルトはフィーと違ってちゃんと自分の気持ち自覚して頑張ってるので、レイフよりは随分報われてると思うんだけどなあ。(また知ってる人少なそうな昔の少女漫画話を・・・)
 それにしても最近のナルコ話、妙に食べ物率が高いのは何故。(単に私が食い意地張ってるせい)
(あゆりん)
「それできみが勝ったか知れないけどはっきりいって不毛だね。」(BY ケイ)
「ほっといてくれ!」(レイフ)
ってやりとり(はたしか「ファミリー」の1巻か2巻だった。)を思い出したのです。(懐かしい。)
そして思い出します、学生時代。あゆりんはとてつもなく食べるのが早かった。そんでもって一緒に食べている私を待たずにとっとと行ってしまうので、置いていかれたくなくてめちゃくちゃお弁当箱小さくしてたんだ。
うーん。腐れ縁の遠い思い出。
シカマルとキバ描いてみました。よりによってなんて制服の似合わない二人・・。(泣)
(さよ)




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