意識を襲う宿命の鬼にさらわれて
のがれる途無き魂との別離
その不可抗の予感
・・・・わたしもうじき駄目になる
ひとでなしの恋
通い慣れた部屋のドアをそっと開く。
途端に濃密に立ち込める血の匂い。
ああ、あいつが帰っている。
殺風景な部屋の真ん中で、あいつはぼんやり座っている。
月の光に照らされて、闇に浮かぶ金色の髪、むき出しの白い腕。
半分人であることをやめた存在の、この世ならぬ美しさ。
服に、髪に、身体に纏わりつく赤黒い染みさえも、また。
無造作に腕を掴み、細い身体を覆う不粋な闇装束を剥ぐように脱がせて。
優しいとは言えない動作にも、白い面は小揺るぎもしない。
触れる度に、ねっとりとオレの指に絡みつく感触。
鉄の匂いが鼻をついた。
確かめるように全身に手を這わせれば、陶器のような肌には傷一つなく。
大丈夫。これは、こいつの血じゃない。
なら、どうでもいい。
ゆっくりと身体を重ねれば、一瞬だけ交わる視線。
青い硝子玉には何の色も浮かんでいない。
いつもと同じように。
随分と昔、初めて抱きしめた時の暖かさを、まだ覚えている。
子供体温とからかえば、ムキになって突っかかってくるから、ますます体温が上がって。
そのぬくもりが、どれだけ心地よかったか。
どれだけ、癒されたか。
だけど今は。
月光を弾くひんやりとした肌。
触れれば一瞬だけオレの体温を宿し、けれどすぐに温度を手放して。
冷たくなったオレの指を、冷たいおまえの肌に這わせて、それでも次第に昂揚する感覚。
甘くなっていくおまえの吐息。
硝子玉の瞳がようやく意志の光を宿し。
オレを、見た。
やっと。
「サスケ」
縋り付くように指が伸びる。
握り返せば、荒い息の中、懸命に開かれる紅い唇。
「オレの身体、血だらけだってば」
「ああ」
「洗っても落ちないってば」
「ああ」
「・・・オレ、もう人間じゃないね」
「そうだな。おまえは・・・」
「バケギツネだから」
それの、どこが悪い?
呪われた狐憑き。
血まみれの暗殺人形。
里における最大にして最凶の禁忌。
今のおまえを形づくるのは血と闇で彩られたものばかり。
だけど、それがおまえであるならば。
全部おまえであるならば。
そんなもの、どうだっていい。
「サスケ」
なのに、おまえは何故泣く?
オレは選んだのに。
そして、おまえも。
何度も、やめろと言った。
逃げろと言った。
いっそ、攫っていこうかとすら考えた。
だけどおまえが選んだのはオレではなく。
『だってそれがオレの忍道だってば』
おまえのすべてを否定するもの。
利用して食いつぶす事しか考えていないもの。
おまえが選んだのは、そんなクダラナイものを守る事。
そして、おまえの手は血に塗れて。
その背中には、呪いと怨嗟を背負って。
耐え切れない心は、少しずつ壊れていく。
だけどあいつらが、相応しい対価を返した事は一度としてなく。
自ら造り出したバケモノに恐怖と嫌悪と侮蔑の視線を向けながら、その手に刃を握らせて、人を殺せと強い続けた。
・・・・救いようのない、馬鹿だ。
オレの腕の中で、おまえが跳ねる。
この一瞬だけ、おまえは束の間昔のおまえに戻り、涙を零す。
ようやく取り戻した熱がオレを包み、しがみつく指が背中に爪痕を残した。
ひたとオレを見つめる瞳が潤み、震える唇が解かれて。
吐き出されようとした言葉ごと、それを奪う。
奪い尽くせたらいい、全部。
(・・・・タスケテ)
声なき声がオレを呼ぶ。
オレは聞こえないふりをする。
どんなに望んでもあがいても、おまえはもう、人の世界の切符を持たない。
・・・・帰さない。
オレが選んだおまえは、オレを選ばなかった。
だけど。
希望も慈愛もヒトである事さえも振り捨てて。
すべてを剥ぎ落としたむき出しのおまえは、何を選ぶのだろう。
(おれはもうじきだめになる)
いつか来るその時を、灼けつくように待っている。
32000キリを踏まれた海里様からのリクエストです。「暗部ナルト」・・・・どこがやねん。
戦闘シーン書けないのでこんな話になってしまいました。やっぱさよに任せるべきだったか。書いてる本人は楽しかったんですが。
しかし、随分久しぶりに書きました、黒サスケ。「やあ久しぶり!随分見なかったけど元気だった?」と爽やかに挨拶したくなるくらいです(笑)。
ちなみに、冒頭の詩は高村光○郎「山麓の二人」から。全体のイメージも「智○子抄」だったりするのですが。・・・当然ながらあの崇高さの片鱗もございません(汗)。