Give Me A Reason
正直、サスケはあまり面白くなかった。
「ほんっと可愛かったってばよ〜」
うっとりと目を細めながらナルトが言った。
喋りながらも、右手はしっかりとフォークを掴み、サスケお手製ハンバーグを口に運ぶ。
口の中に物を入れたまま喋るなと教育的指導をかましたい所だが、あいにくサスケも同じものを咀嚼中だったため何も言えない。
「なんてーか、歩き方が優雅?ってゆーの? オレ、一目見て目が離せなくなっちゃったってば」
ぐさっとポテトにフォークを突き立て。
「目なんかくりくりっとして、すげー賢そうでさ」
2、3本まとめて口の中に放り込み。
「長くって白い毛がふわふわしてさ、触ったらすげー気持ち良さそう」
塩気の強い味に、水を一気に飲み干す。
ダン、と音を立ててコップをテーブルに置くと、ナルトはようやくサスケを見た。
「なあ、サスケもそう思うだろ?」
「・・・だからって、それは無理だろう」
「えー、でもさでもさ」
不機嫌丸出しサスケの口調に、ナルトは不満そうに唇を尖らせる。
でも目だけは期待したようにキラキラさせて。
ああ、これはおねだりをする時の顔だ。
そんな顔すればオレが言う事聞くと思ってるのか、ウスラトンカチ。
・・・実績は、嫌になる程あるけれど。
平静を装いつつサスケの頭の中はぐるぐる状態。
それを知ってか知らずか、ナルトはにっこりと笑った。
「やっぱ飼ってみたいってばよ。あーんなでっかい犬!」
遡ること数時間前。
「あ、サスケちょっと待って。これもこれも」
「またかよ。いい加減にしろ」
うちはサスケの近頃の日課は、任務帰りに可愛い恋人と夕飯の買い物に出かける事だ。
何しろナルトの食生活と来たら、放っとくと、朝=食パン、昼=菓子パン、夜=カップ麺という献立を平気で・・・むしろ喜んで続けてしまうシロモノで。
これをむざむざと見過ごしていたら、恋人として、というより人としてどうよってもんだろう。
かくして、買い物カゴを持つサスケの周りをナルトが嬉しそうに引っ付いて歩くという光景が、夕方のスーパーの名物になりつつある。
どっちかとゆーと親子っぽい、なんて、うっかり見かけてしまった上司とチームメイトが呆れたように呟いたりもしたけれど、サスケとしては、ナルトの家に上がり込む、あるいは自分の家に連れ込む格好の口実になるし、第一。
ちゃんと後から食わせた分だけ、つーかそれ以上、しっかり自分も食わせてもらってるので、まったくもって問題ない。
「おまえなあ、こんなんばっか買うんじゃねーよ。ちゃんと普通にメシを食え」
たっぷり生クリーム入りプリンにストロベリーアイスクリーム、それらに隠すようにして新製品のカップラーメン。
次々に投げ込まれる物に、サスケは眉を顰めるが。
「もちろん、ご飯はちゃーんと食べるってば。これはおやつだってばよ」
「ちょっと待て。夕飯食った後にこれを全部食べる気か」
「あったり前だってば。サスケの作ってくれたメシ残すなんて、そんなもったいない事しないってばよ」
微妙に論点がズレてる気はするが、にぱっと全開の笑顔付きでそんな事を言われたら、サスケに反撃の手立てはない。
「・・・程々にしとけよ」
「おう!」
ため息を吐きつつも微妙に頬が緩んでるサスケの手を、ナルトが機嫌よく引っ張って。
いつものごとく仲睦まじく買い物を終えて、スーパーの外に出た所に。
それは、いた。
「うわーでっけー犬!」
ナルトの視線の先には、すらりとした体つきの白い大型犬。
動物にはあまり興味のないサスケから見ても、それはかなり器量も手入れもよく、躾もきっちりされているとみえ、血統書付きである事は疑いない。
外見の美しさもさることながら、飼い主の横にぴたりと並び悠然と歩くその姿がとても優美だ。
「すっげキレイ。めちゃくちゃかっこいいってば!」
率直な感嘆の声に、犬はちらりと目を向けただけで、すぐに飼い主に引かれて行ってしまったけれど。
去り際に微かに尻尾を振ってみせたのがまた、ナルトのツボを刺激したようで。
「いいなー、可愛いなー」
「さっさと帰るぞ」
業を煮やしたサスケがぐいと手を引っ張って歩き出すのに、ナルトもとりあえず歩調を合わせているが、意識はいまだ犬の方に向いてるのは明らかだ。
・・・・早いとこ帰ってメシにしよう。
目の前に好物でも並べてやれば、そっちに注意が向くだろう。
そう思いつつサスケは足取りを速めた。
ところが今回に限っては、サスケが腕を奮った夕食(ハンバーグ・チキンライス(旗付き、ただしナルトのみ)・野菜スープ)も効き目が薄かったらしい。
デザートのフルーツヨーグルトを頬張りながら、ナルトは夢見るように宣った。
「キレイでおっきくてあたまよくって何でもゆーこと聞いてくれる犬が欲しいってばよ〜」
「こんな狭い部屋の何処で飼うんだ、このドベ。つーかペット禁止だろう、ここは」
ナルトのアパートは、一人暮らしには十分な広さではあるし、意外なことに結構きちんと整頓されていて(モノが少ないだけとも言う)、そう手狭に感じる事はないけれど。
今日見かけたあの犬はかなり大型で、成犬ならおそらく4、50kgにはなる筈。
おまけに長毛種ときた日には、とてもじゃないがこんな部屋で飼うのは無理だろう。
「そんなら、サスケんちで飼えばいいってば。サスケんち、一軒家だし広いじゃん」
「何でオレが飼わなきゃいけねーんだ。オレは犬なんて別に好きじゃない」
「嫌いでもないだろ。サスケのキライジャナイは、スキと同じだもんな」
それはおまえ限定だ!と怒鳴りたくなるのをサスケはかろうじて押さえる。
ナルトは、いい考えとばかりにますます楽しそうに言葉を続けた。
「いいじゃん。世話はオレがするからさ」
「世話?おまえが?」
「毎日サスケんち行って、ちゃーんとやるってばよ」
だから犬飼って。
とは、マジでどこの親子の会話ですか?ってカンジではあるが。
「・・・・毎日」
犬の食事&散歩が朝晩2回として、その度に毎日ナルトがサスケの家までやって来る。
それは、かなり。
(オイシイかもしれない)
犬に餌をやってるうちに、ナルトもきっと腹を減らせることだろうから、必然的にサスケの家で食べて行くことになるだろう。
夕食のみならず朝食も一緒に摂れるのは、片時も離れたくない恋人としても、ナルトの食生活の管理者としても、極めて魅力的な話だ。
しかも朝、任務前に世話を一通りこなすとなれば、かなりの早起きを強いられるわけで、余り朝に強い方でもないナルトには相当負担になるに違いない。そこを上手く持って行けば。
なしくずしに同棲、もとい同居に持ち込めるかもしれない。
うちは邸の広い庭で戯れるナルトと犬。それを見つめる自分。
まるでどこぞの古い歌のような光景が頭に浮かんだ。
が。
(・・・・ちょっと待て)
ふと何かがひっかかり、そのまましばらく考え込む。
「サスケ?」
期待に満ちてじーっと見つめる青い瞳に、躊躇いながらサスケは口を開いた。
「・・・・ダメだ」
「えー、なんでダメなんだってば〜」
にべもない言葉に、ナルトは顔を顰めて文句をつけた。
先程までの様子を見るにつけ、脈ありっぽいと期待していただけに、余計に不満たらたらだ。
「常識で考えろ、ウスラトンカチ。普段はそれでいいかもしれないが、里外任務とか入ったらどうすんだ。犬がいるから遠くには行けませんなんつったら、ろくな任務回ってこなくなるぞ。忍びの適性なしと見なされるんじゃねえか?」
「そ、それは困るってばよ・・・」
「だったらやめとけ」
「それもヤだ!」
ナルトはぷうっと膨らませる。
もちろん、サスケもこれで収まるとは思ってないし、さて次はどう来るかと待ちかまえていると。
「えっとさ、いない時はイルカ先生にお願いするってのはどうだってば?」
やっぱり出てきたか。
困ったときのイルカ頼みとでも言うのか、ナルトはいまだに何かあると二言目にはイルカの名前を出してくる。
彼らの間にあるのは疑似親子のような感情で、色めいたものではまったくないという事は、さすがのサスケも理解している。
が、理解と感情は別物で、こうもイルカ先生イルカ先生と連呼されると、かなり腹が立つ。というか悔しい。
「却下」
「またダメなのかよっ、おまえさっきからそればっかじゃん! おーぼーだぞ!」
「てめえが勝手な事ばかりぬかしてるからだろうが! ・・・いいか? アカデミー教師ってのも大概暇じゃねえんだぞ。毎年必ず一人はてめーみたいな生徒もいるだろうしな」
「どーゆー意味だってばよ!」
「ただでさえ手のかかる生徒かかえてるのに、犬ころまで面倒見てる余裕あるかよ。おまえ、大好きなセンセイに迷惑かけたいのか?」
「・・・なんでそんな意地悪ばっか言うんだってば・・・」
「意地悪じゃねえ。ホントの事言ってるだけだ」
恨めしげな上目遣いに、サスケは内心、かなりぐらりと来てはいる。
今まで吐いてきた言葉は事実だし正論でもあるのだが、実の所、反対する理由はまったく別だったりするから、多少の罪悪感がなくもない。
『オレ、ちゃんと世話するからさ』
確かにそうだろう。
大雑把に見えて、ナルトには意外とマメな所もある事は知っている。
ナルトの部屋のあちこちにある植木鉢がその証拠。
いつ訪れても、それらはいつも青々と葉を茂らせて、持ち主が丹精込めて育てている事実を知らしめていた。
そんなナルトが、しかも一つ事に集中すると他の事は目に入らない、集中型と言えば聞こえはいいが要するに目の前の事しか考えられないウスラトンカチが、犬なんて飼い始めたら。
(オレの事なんか、ますますどうでもよくなるんじゃねえか?)
そうなったら、仮に同居に持ち込めた所で、苛々と精神衛生に良くない事は間違いないだろう。
一応きっちりおつき合い中の上、世間一般の恋人達がする事も一通りこなしてはいるのだが、今もってナルトの中の優先順位がイルカやサクラと比べて上であるとは思えないサスケ。
この上、自分の地位を脅かす存在を許容するわけにはいかない。
情けないのは百も承知、こんな理由ナルトに言えやしないけれど、なりふりなんて構ってられない程度には惚れているんだから仕方ない。
「とにかく、犬を飼うなんて今は無理だ。諦めろ」
不毛な議論を終わらせるつもりで、きっぱりと言い放つが。
「今は無理? じゃあ、いつかはいいんだな!」
途端に返って来た予想外の反応に、サスケはしまった、と唇を噛んだ。
己の不用意な発言を悔やんでももう遅い。
「なあなあ、いつだったらいいんだってばよ?」
今までしゅんとしていたナルトはうってかわって顔を輝かせ、その金色の髪の間にはまさしくぴんと立った犬耳が見えるようだ。
(何でこんな時だけ反応が速いんだ、こいつ!)
その鋭さをもっと他の所でも発揮してくれればと、思わずにいられない。
「サスケってばー」
右手にデザートスプーンを持ったまま、左手でくいくいと服を引っ張る仕草に、サスケはため息を吐いた。
「・・・どっかの誰かが」
「誰かが?」
「ちっと目を離すと一週間ラーメンばっか食ってたり」
「・・・・・」
「賞味期限の過ぎた牛乳飲んで腹こわしたり」
「・・・・・」
「任務中にラムレーズンのアイス食って、酔っぱらってぶっ倒れたり」
「そ、それは1回しか・・・・・」
「あとは」
ごにょごにょと呟きながら俯くナルトの顎に手をかけて、くいっと仰向かせる。
「こんな所に弁当付けてたり」
柔らかそうはほっぺたには、今し方食べたヨーグルトの欠片。
己の唇で掬い取って、ぺろりと舐めた。
ナルト用に作ったそれは少しばかり甘過ぎるけれど、ナルト風味のエッセンスがかかってるとなれば、サスケにとっては究極の味にも等しい。
「な、何すんだってば!」
慌ててサスケから身を離して、ナルトは赤くなった頬を隠すように両手で押さえる。
指の先まで真っ赤になっていて、普段は自分の方からべたべたくっついてくるくせに、とサスケはいささか場違いな事を思う。
「こういう手のかかる事をしなくなったら、だな」
「・・・・それって、犬飼うのとなんか関係あんのかよ」
「犬より先に自分の面倒みられるようにしろと言ってるんだ、ドベ」
「〜〜〜言ったな! よーし、みてろってばよ、サスケ!」
「みせてもらおうじゃねえか」
言いながら、サスケは多分無理だろうと考える。
何しろナルトにはおよそ学習能力というものが欠けているようで、その型破りな生活習慣(主に食生活)についてこれまでサスケを含めて周囲がどれだけ口喧しく言っても、改善されたためしがない。
もっとも、治ったら治ったで、サスケにとってはかなり物足りないだろうことは確か。
『ホント、幸せそうに世話やいてるんだから』
そう言ったのは、胸糞悪い上忍だったか、最近殊に食えなくなって来たチームメイトだったか。
実際、それを否定する材料も、その気も、サスケにはなかった。
『ありがとうってば』
照れたような、嬉しそうな笑顔も。
『サスケのばかやろー!』
ぷうっと拗ねたふくれっ面さえも。
全部全部、手放す気なんてこれっぽっちもないのだから。
「絶対、おまえに参りましたって言わせてみせるからな!」
「せいぜい頑張れ」
早くも論点のずれた事を言い出したナルトに、一見余裕で返しつつ、サスケはほっと息を吐く。
どうやら既にナルトの中では、今度の事はサスケを見返してやる!という競争心にすり替えられた模様。
とりあえず、本心を悟られることなく手強いライバルの出現は阻止出来たようだ。
同居に持ち込むチャンスを逃したのは少々・・・・かなり残念だが。
「・・・・まあ、そっちはおいおいにな」
「何だってばよ?」
「何でもない。それよりナルト、ケーキあるがどうする?」
「え、ケーキ?! 食う食う食うってば!」
御機嫌取りにはこれが一番と置いた餌にたちまちナルトは食い付いて。
「サスケといると、うまいものいっぱい食えて幸せだってばよ〜」
「そりゃどうも」
期待通りの満面の笑みに、野望を叶える日はそう遠くはなさそうだと、サスケはそっとほくそ笑んだ。
40000キリを踏まれたやちこ様からリク頂きました。「食生活の怪しいナルトに通い夫するサスケ」
・・・・いつもの如く遅れた上に、リク内容ずれてます。やちこ様、たいっへん申し訳ありません!
最初は真っ当(?)に通い夫とゆーか家政夫なサスケでいこうと思ってたんだけど、某CM(犬と夫婦が出てくるヨーグルトだかカレーだかのCMです。多分)を見て、あ、サスナルでいけるかも、と思ったら、こんな話になってしまいました。
久しぶりにヘタレサスケだ!(通い夫というネタでヘタレないわけがない)と勇んで書いたはいいが、ラストやっぱびみょーにたくらんでる?(笑)