「おっはよー!!!!」

なにやら遠くからやかましい声がする。
「・・・・」
うちはサスケは、朝が弱い。
昨日のあいつだということは分かったが、どうにも体が起きてこない。
(つーか、まだ、朝だろ・・・。)
時計に目をやるとまだ7時。

休みの日の午前中は、だいたい寝て過ごすサスケは、まだ、ぼうっとしながらも、黙々と着替えた。
(あいつ、待ちきれねえと、多分・・・)

「ぐぅわー!!!!!」
バターン、というけたたましい音と共に上がる奇声。
(・・・・やりやがった!)

慌てて玄関まで飛び出す。

旧家のうちは家の庭はたいそう広く、玄関から門までも結構な距離がある。
門から少し入ったあたりで、木に吊り下げられてばたばたともがいている子供が見えた。
(うちは家の人間なら5歳の子供でも普通ここではかからないんだけどな。)
こいつ、ホントにアカデミーに在籍してるんだろうか。

「よう。」
「なんなんだってばよ!ここ!おろせー!!」
「縄抜けは初歩だぜ、忍者君。」
にっこりと笑って(きっとそうはみえないだろうが)、ばたついているナルトに答えると。
「むっきー!!!やっぱヤナ奴!」
じたばたと暴れ出す。忍者屋敷だといったろうが。
解いてやって、いくつかのトラップにかからないように手をつないで、玄関まで連れて行く。
人と触れるのが好きと見えて、自分よりわずかに小さい手はしっかりとつながれて。
その温度に自分の手が冷たいことを悟る。その子供のやわらかな暖かさが、不快ではない。
それから、靴を持ってうちに上がると、いくつかの部屋を横切って、登るのに手ごろな木のある裏庭へと進んだ。

「サスケんち、ひろい」
「ああ。」
「あのさ、俺来て、・・・家の人とかおこんねえ?」
「ああ。俺一人だし。」
「そっか。」
へへ、と複雑な顔で笑う。
変なことを聞く奴だ。
てっきり親のこととか聞かれたくないことを問いただしてくるかと思ったら、質問はそこで途切れた。
(変な、奴だ。)
目的の木につくと、ナルトはそっちに興味を移してしまった。
それから特訓がはじまって。
自分は時々口を出しては一緒に木に登った。
昼飯を適当に作って、二人で食べて、昼からまた、木に登った。

夕方になって、声をかけた。
「帰れよ。親が心配するだろ。」
こんなそそっかしいの、目が離せなくて、親はきっと心配してる。
「いないってばよ。」
けろりとそういって、でももう遅いかあ、と帰ろうとする。
(こいつは。)
なにも聞かなかったのは。
(俺と同じ。)

「じゃあなー、めし、あんがとだってばよ!」
「どういたしまして。大したもんじゃなかったけど。・・・明日はもちょっとましなもん作ってやる。」
「それはいいから、早く起きろってのー!」
「いや、もうちょっと遅く来い。せめて9時。」
「えー。寝ぼすけー。」
「・・・門まで出といてやるから。」
毎日7時にあの騒動ではかなわない。
9時ならなんとか頑張れば、・・・って、なにやってんだか、俺は。

だけど、ちょっとだけ、こいつをえらいと思った。
早起きのことじゃなくて。
だれもいなくても笑っていられる、その強さが、少し、うらやましかった。





毎日そいつはやってきた。
俺は毎朝9時に門の前で待ち、日がな一日付き合って、夕方に別れた。
「もう大分登れるようになったな。」
「うん!サスケのおかげだってばよ。」
「もう少しだな。」
「もう少しだってばよ。」
もう少ししたら、登れるようになって、そうしたら、ここにこいつが来る理由が無くなってしまう。
その時は、家の中を探検して回ってもいい。
こいつ、きっとからくりにくるくると百面相をしてみせるにちがいない。

だけど、次の日いくら待っていても、ナルトは来なかった。
二人分作った昼飯は、一人で食っても少しも美味くなく。
物音を聞きつけるたびに門まで出てみたりもした。
連絡は何もなかった。気にはなったが連絡先などお互い知りもしない。
電話くらい聞いておけばよかったのに、と後悔した。
来ると言っていたのだから、きっと明日は来ると思って家の中で過ごした。
だけど次の日もその次の日も来なかった。

次の日も9時に門の前で待った。
また来ないかもしれない。そう思うと待っている自分が馬鹿馬鹿しくもあったが。
近所の名家のおばさんたちと出会った。すれ違う時に挨拶するくらいで大して付き合いはない。
「うちは君大変ねえ。」
「・・・おはようございます。大変って何がですか。」
「最近変な子にまとわりつかれて、迷惑だったでしょう。」
「変な子、ってなんです?」
「だって、あの”うずまきナルト”でしょう。火影様もなんとかしてくれればいいのに、いつまでも野放しで。」
「・・・ナルト?」
「まったく汚らわしいったら。だから言ってやったのよ、もうここには来ないで頂戴ってね。」
言葉を失った。
「なんで・・・ナルトにそんなことを・・」
「当然でしょう。一緒の空気を吸ってると思うだけで吐き気がするわ。」
「あいつがあんたになにかしたのかよ!」
「何かされてたまるもんですか。私はあんたのためを思っていってるのよ。あんな子と付き合ったらうちはの名にも傷がつくわよ。」
「あいつは俺の友達だ!それ以上悪く言うな!」
俺は走り出した。畜生!畜生!
なんだかめちゃくちゃに腹が立って、俺が知らない間にあいつを傷つけたことが悔しくて、
あいつの顔が目に浮かんで、自分が情けなくて泣きそうになった。
アカデミーまで走った。あいつの家を教えてもらおうと、中に入る。
冬休みの学校は閑散として、それでも数人の先生がいた。
「すみません、あの。」
「うちは君、うちはサスケ君じゃないか。」
理事会の事務をしている職員が気付いて声をかける。家にも何度かやってきたことのある人だ。
「うれしいなあ、ついに編入してくれる気になったのかい?」
「いえ、そういう訳ではなくて・・。」
「まあ、とにかくかけて下さいよ。」
「結構です。急いでいるので。うずまきナルトのことで・・。」
「うずまき!またあいつ何かしたんですか!火影様もさっさと処分してくれればいいのに・・・」
とたんに人のよい顔が別人の様に歪められる。職員室内にも険悪な空気が漂う。
「・・・住所を知りたいんです。家を訪ねたいので・・・。」
用件だけを聞いて、ここを出よう、そう思って握り締めた拳を我慢する。
「住所、ですか。」
ぱらぱらと取り出してきた名簿をめくり、ペンを走らせながらいう。
「だけど、何の用か知らないけど、・・・関わらないほうが身のためだと思いますがね。」
「・・・・すみませんが・・それ以上言うと・・・。」
「里一番の嫌われ者ですからね、いろいろ不都合が・・」
「どうも!」
書かれたメモをひったくるように取ると駆け出した。
それ以上聞いたらとびげりの1,2発くらい食らわせてしまいそうだった。

あいつは、いつも笑ってて。
楽しそうで。
人懐っこくて。

こんな扱いを受けていることなんて知らなかった。
なにも知らなかったことが悔しかった。

**********


メモをたよりにナルトのうちを訪ねた。
住宅の密集する繁華街の裏手にあるさびれたアパートの二階のはじ。

とんとんと、ノックするが誰も出てこない。
どこかへ行ったのだろうか。人のいる気配はない。
(あんなの真に受けるなんて馬鹿野郎が・・・。)
どうしようかと思ったが心当たりもなく、そのまま待つことにした。
絶対に会わなければ、そう思った。
冬の空は高く、雲ひとつなく青く澄み切っていた。
(・・・あいつみてえ。)
下らない事を思った。


昼も回った頃、カンカンと軽く階段を駆け上がる音がして、見るとあいつが帰ってきた。
「サスケ?なにしてんだってばよ。なんか用?」
びっくりした顔でこっちをみる。
「まあな」
顔を見た瞬間に自分がどれだけナルトに会いたかったのかを自覚した。
「とにかく中はいれってばよ?なに、いつから待ってたんだってば。」
いくら快晴とはいえ冬に外でつっ立っていれば冷たくもなる。俺の手を握るとひゃあ、とナルトが声をあげた。
中に入るとがらんと何もない部屋。
がさがさとナルトが買ってきた袋をあけ、たくさんのカップめんを棚に置いた。
「食う?」
「・・・おまえ、そんなもんばっか、食ってんのか?」
「うまいんだぞ。これ、新製品。こっちはお勧め。これは定番。どれにする?」
「・・・俺はそういうのはあんまり好きじゃねえんだが。」
「ふーん。」

「ごめん。」
「何謝るんだってば。」
「・・・俺んちの近くで、嫌なこと言われたんだろ?」
「ああ、あれ。慣れてるってばよ。だから、全然へーき。」
「平気じゃねえだろ!あんな・・・」
「俺さあ、キラワレモンだから、いっつもあんな感じ。・・・黙ってて悪かったってばよ。」
「なんでてめえが謝るんだよ。お前は何かしたのかよ!」
「してねえけど、ヨノナカッテノハソウイウモンなんだって。火影のじっちゃんがいってた。」
「・・・」
「難しいことはよくわかんねえけど、俺は俺だし。変われないからさ。」
「だから、仕方ねえっていうのかよ!何だよ、それ。」
「だから俺、すげーこと考えたの!俺が火影になってみんなを変えるんだってばよ。」
「・・・」
「頑張ってすっげー忍者になって『うずまきナルト』を認めさせて火影になって里を変えてやるんだ。」
「馬鹿か、てめえは。」
「馬鹿だもんね。」
にぱ、と笑う。

「てめえ一人で何が出来るんだよ・・」
「・・・」
忍術もろくに使えない、木にも上手く登れない。そんなドベが、里の頂点に立とうって?
あんな、敵意剥き出しの連中相手に、たった一人で、何を変えれるって?
「夢は大きいほうがいいんだってば。おれってばぜってー叶えるもんね。・・・サスケの夢は何なんだよ?」
「俺?別に何も・・・。」

「ふーん。つまんねえ奴。」
「・・・」
「ならさ、一緒に火影になろうぜ。」
「馬鹿なこと言ってねえで、明日はちゃんと来いよ。」
「来てもいいの?」
「うるせーな。木にも登れない火影なんて見たことねーぞ。」
ひとりの寂しさにお前は泣かないのか?
あんなことされて、悔しくないのか?
これからも、そうやって、ひとりでいっちまうのか?

きっとこいつはいろんな思いを抱えてる。全部抱えて。だけど、笑って。
いつも一生懸命で、まっすぐで。
全てに背を向けてしまっている自分とはあまりにも違う。
だからこそ、惹かれるのだと、思った。

夢なんて、もう長いこと忘れていた。
全てを恨んでいた。
自分は昔、何になりたかった?


*********



ナルトが木に登れるようになって、忍者屋敷の冒険をした。
長年住んでいた自分でさえ知らなかったトラップまで見事に全部かかっていくナルトを助けて回るのは正直骨が折れた。
それから前庭の一番大きな木に登って、里を眺めた。

強い風を受けて枝に気持ちよさそうに立つナルトはやはり青空がとてもよく似合って、太陽みたいだと馬鹿なことを思った。
「何?」
「お前って夜が似合わねえよな、と思って。忍者に向いてねえよ。」
「サスケこそ、昼間がにあわねえじゃん。忍者嫌いなくせにぴったりだってばよ。」
互いに憎まれ口をきく。
もうすぐ休みも終わる。
「サスケ、また、来てもいい?」
「いつでも来い。」

郵便屋がなにかをポストに入れていく。
「なんか来たってばよ。」
「ああ、そろそろかな。」
二人で木から下りると、郵便受けに入っていた封書を取った。

「何?」
それは、忍者アカデミーからの、編入学推薦通知。
いつもなら、中も見ずに破り捨てたが。
「忍者、なってもいいかと思って。」
守りたいものができたから。そのために生きてもいい。
「え?マジ?俺ってば先輩?」
「てめえ程度すぐ抜かしてやる。」
忍者アカデミーには飛び級制がある。実力主義の証だ。
こいつと同じ学年まではすぐに飛べる。
そのあと、いかにして同学年をキープするかが問題だな、なんてことを考えて。
ナルトが嬉しそうに笑って。
おれもつられて笑った。
こいつとなら、笑える気がした。どんなときも。

うちはの名も、血継限界の力も、全てお前のために差し出そう。
お前が火影になるときなんて、一体いつになるのか見当もつかないけれど。
その時に、きっと俺は「忍者」であることを誇りに思うだろう。




うちはサスケには好きなものが少しだけある。

うるさい忍者のガキ(限定一名)。





 6000を踏んだ案さまからリクエストいただきました。「どっちかが忍者じゃないサスナル」
 たくさんあゆりんにボツをくらいながら書きました。
 こんなにナルトに命かけたサスケは初めてだわ。
 とりあえずアカデミーに入ったら、ナルトに嫌がらせした先生をシメるでしょうね、このサスケ。(さよ)

 サスケ、愛に生きる男やね。熱いわー。ナルト、まだあまりサスケ意識してないみたいだけど、このサスケなら押しまくるでしょう。これから一緒のアカデミーライフ送るわけだし。くす。(あゆりん)


 なお、タイトルは案さまより頂きました。リクエストありがとうございました!



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