Happy Happy Greeting
目下の所、うちはサスケは念願かなってようやく思いの通じた恋人に、はっきり言ってめろめろだ。
これまでの自分を思うにつけ、これは一体何の冗談だ、冗談にしても笑えねえなんて多少自虐的に思うこともなくはない。
けれど、本当に冗談だったとしたらなんて、考えただけでもぞっとしたので、事実は事実と受け入れることにした。
開き直ってしまえばあっさりと、サスケの世界は恋人を中心に動くようになっていた。というか、それ以外の物は、まったく、これっぽっちも、原子のカケラ程も存在していないに違いない。とは彼をよく知るごく少数の言。
あいにくと、その有り余る愛情をストレートに表現する能力を著しく欠いているため、返ってくる反応は、怒ったり拗ねたり殴りかかってきたり、芳しくないものが多いのだけれど。
とは言っても、そういうところもたまんねえなんて思ってしまうので、改善の兆しはあまり見られない。
ところで件の恋人は、よくいえば底抜けに真っ直ぐ、悪く言えば単純一直線な性格なので、今何を考えているのか推測することくらい、サスケには至極簡単だ。 そんなに分りやすくてどうするよ、と突っ込んでみたくなるくらいに。
だが、考えている内容は分っても、一体どこがどうなってそんな思考に到ったかという過程については、殆どの場合、皆目見当がつかない。
何しろ相手は通常の人間ではなく、意外性NO1忍者なんて呼ばれる存在だ。
その思考過程まで分かるようになったらかえってヒトとしてヤバイかもしれない、なんて恋人にしては酷すぎる事を、いくら何でもあんまりかもなと思いつつ、常々こっそり考えていたのだが。
多分、その考えは正しい。つーか否定する奴なんてこの世にいないんじゃなかろうか。
サスケは、己の家の玄関先で満面の笑みを浮かべているナルトを前にして、しみじみと考えた。
滅多にない休日に、約束もなしにありえないくらい朝早くからやって来たのはまだいい。
そんなのはいつものことだし、むしろ歓迎する気満々だ。
だがしかし。
(何がそんなに楽しいんだドベ。また何かろくでもないこと考えてやがるな)
ここまで楽しそうなナルトを見るのは結構久しぶりで、ひそかに胸が高鳴っていたりもするのだが、それより訝しむ気持ちの方が大きかった。
「あのさあのさ、サスケ」
そんな内なる葛藤をカケラも窺わせない鉄面皮にナルトはにっこりと笑いかけ、そしてサスケは己の予想が間違っていないことを知った。
まったく有り難いとは思わなかったが。
「今日は、オレになーんでもワガママ言っていいってばよ」
「飲め」
とりあえず玄関先じゃ何なので、家に上げていつもの居間に座らせる。
落ち着いたところでおもむろにコップを差し出すと、ナルトは目を輝かせた。
「さんきゅー。…………うっめー、サスケ、おかわり!」
「待ってろ」
買っててよかった、カルピス。
夏になると何故か出回るその飲み物を、当然サスケは好まない。
ねっとりした甘さからして苦手だし、その飲み方も気に食わない。
一体どうしてわざわざ薄めてから飲まなきゃいけない、製造者側が最初から程よい濃度で造っておけばいいだけの話じゃないのか、と妙に理不尽な気がするのだ。
ナルトにすっごく美味しいから飲んでみろと言われ、不承不承ほんの一口舐めてみたら、脳天つきぬけそうな甘さに吐き気を催したという過去も、悪い印象につながっている。
とは言っても、その出来事は別にナルトの悪戯というわけではなく、原液に限りなく近い濃度のそのカルピスは、彼が日常的に好んで飲んでいるものだったのだ。
それを知った時には、怒るよりも何よりも、いくらなんでも身体に毒だろこのウスラトンカチ!と心配(ある意味怒りに近くはある)が先に立った。
が、何しろナルトはカルピスがとてもお気に入りなので、無下に取り上げても厄介なことになりそうだと、条件をつけることにした。
飲むのは一日一杯、せいぜい二杯。それもサスケが作ったものを飲むこと。
『うえー、甘くないってばー』
『それくらいが一番おいしいんだって、サクラが言ってたぞ』
『え、サクラちゃんが? そっかー、そんならしょうがないってば』
それで納得されるのもかなり悔しい気がしたのが、そのすぐ後に、
『それに、サスケが作ってくれんなら、けっこーおいしくなるかもしんないってばよ』
なんてにっこり笑って言ってくれるものだから、ついうっかりその唇から味見をしてしまったこともある。
勿論あとでナルトにはぎゃんぎゃん文句を言われたけれど、これなら結構イケるかもと思ったことは秘密だ。
そんなこんなで甘いもの嫌いなサスケの家にもカルピスは常備してあって、それを目当てにナルトが遊びに来たりとか、都合のいいことはこれまでにも多々あったけれど。
本当に、買っててよかった。
いつもよりかなり濃い目に作りながら、サスケはそう思った。
うずまきナルトは、一点集中と言えば聞こえはいいが、要するに目の前のこと以外かなり疎かになってしまう頭の造りをしているので。
好物に夢中になって、つい先程の発言を忘れてくれたら助かる。
考えながらひんやり冷えた甘いカルピスを造り終え、ついでにアイスクリームも添えてみた。
勿論、ナルト専用の買い置きアイスだ。
「うわー、ハーゲンダッツだってばよ〜」
案の定、ナルトはすっかり夢中になって飛びついた。
よし、オッケー。
隣で、ナルトの十分の一ほどの薄さのカルピスをほんのちょっぴり舐めつつ、サスケは心の中で拳を握った。
まったく、ワガママがどうこうなんて、どういう経緯で言い出したかは知らないが、どうせろくなことじゃないだろう。
誤魔化してしまった方が無難だ。絶対に。
食べ終わって少しお腹を休めたら、修行に誘って。一日くたくたになるまで動き回れば、まったく記憶の隅にも残らなくなるだろう。
かつては、ナルトのそういうところに散々苦労をさせられたものだが、よもや感謝する日がくるなんて。
本当に人生ってやつは分らない。
なんて柄になく感慨に浸っていると、カルピスのコップを握りしめたまま、ナルトがわくわくと話しかけてきた。
「で、いいワガママ思いついたってばよ?」
……前言撤回。
何でこーゆーことはしっかり覚えてやがるんだ、こんちくしょう。
サスケは我知らず、頭をかきむしった。
てゆーか、いいワガママって一体何なんだ、おい。
そもそも、誰かにワガママを言うという発想がサスケには希薄だ。
家族は失われて久しいし、そもそも健在だった頃だって、うちは家は厳しい家だったから好き勝手にワガママを言える環境では、到底なかった。
その上に、他人に弱みをさらすのはまっぴら御免なこの気性。
頼んでまで他人に何かをやってもらうくらいなら、自分でやった方がずっとマシ、というか確実で早い。
そういうわけで、どうにかうやむやにできないものかと、時間稼ぎなぞしてみたのだけれど、どうやらそれは無駄だったらしい。
「なあなあ、早くワガママ言えってばよ〜」
そんなサスケの気も知らず、くいくいと袖を引っ張りながらなおもナルトは無邪気に言い募るので、さすがに苛々した気分になった。
(オレがそういうのが苦手だって、こんだけ付き合ってて分らねーのか!)
しかし思い切り毒づくのはひとまず胸の中だけにしておいて、サスケは自らを落ち着かせるように大きく息を吸った。
あまりキツイ言い方をしてもナルトは怒るだけだろうし、事態の解決にはならないだろうと一応配慮したつもりだったのだが。
「んなくだらねえこと、なんでオレが言わなきゃなんねーんだ、このウスラトンカチ」
だがしかし、普段の口数はさほど多くないくせに、いらん時だけ毒舌を吐いてしまう間の悪さは、望んだわけでは決してないが、もはや第二の天性になってしまっている。
しまったと思う間もなく、ナルトはぷうっと頬を膨らませた。
「くだらなくなんかないってばよ! ぐだぐだ言ってねーで、さっさと言えってば!」
「いきなりわけ分んねえことぐだぐだ言ってるのはてめえだろ。つーか、何でそんなにオレにワガママ言わせたいんだ」
「それは…………」
「それは?」
「…………言う必要なんかないってば!」
思い切りあかんべーをされて、さすがにサスケもぷつんと来た。
大体、ワガママ言えとか言っておきながら、そっちの態度こそワガママそのものだ。
駄々をこねている、と言ってもいいかもしれない。
「必要なくても、言いやがれ」
「何で!」
「おまえが言わなきゃ、オレも言わねえ」
「何だってばよ、それ! オレが先に聞いたんだぞ!」
「うるせえよ。ワガママ言っていいんだろ。ほら、とっとと吐け」
「オレがゆってんのは、そーゆーワガママじゃないってば!」
「じゃあどんなんだよ」
ぐっとナルトは言葉を詰まらせた。
誤魔化すように右手のスプーンでアイスを突き刺そうとするが、いつのまにかすっかり溶けてしまっていたらしい。
「あー……」
それまでの言い合いのことなんかすっかり忘れたかのように、ナルトはじーっとカップを見つめている。
「おい、新しいアイス、持ってくるか?」
「へ?」
それがあんまり残念そうだったので、おもわず問いかけてみれば、青い瞳がまん丸に見開かれた。
「ア、アイスって、もしかして、もいっこ食っていーわけ?」
「何そんなに驚いてやがる」
「だって、いつもだったら、お代わりダメだってゆーじゃんよ」
「それ、まだあんま食ってないうちに溶けちまっただろう。一個には勘定しねえよ。ま、食いたくねえなら、別にいいけど」
「う、うーん、食いたくないわけじゃないけどさ……」
喜び勇んで飛びつくかと思えば、ナルトは妙に煮え切らない態度でもごもごと口ごもっている。
なんだかよく分からないが、とりあえずサスケは冷蔵庫に向かおうと思って、立ち上がりかけた。
が、ナルトの手が裾を掴んで引き止める。
「何だ」
「えと、やっぱアイス、いらないってば。今は」
「そうか?」
珍しいこともあるもんだと思いつつ、サスケは再び腰を下ろした。
「えと、その、理由、だけどさ」
「ああ」
ようやく言う気になったのかと、サスケはナルトに向き直る。
けれどそれきり言葉は途切れてしまって、ナルトは妙にもじもじと俯くばかり。
何となく落ち着かない気分になって、やっぱりアイスを取ってこようかと思い始めた頃。
「…………び、だから」
「は?」
いつもの無駄に元気一杯の様子からは想像つかない程小さな声に思わず聞き返せば、ナルトは開き直ったようにきっと顔を上げた。
「………今日、サスケの、誕生日だから! だからプレゼントにワガママきいたげよーって思ったんだってばよっ」
わけわかんねえ。
必死な様子のナルトの言葉を受けて、サスケはまずそう思った。
一応は、サスケとて、自分の生まれた日くらい覚えている。
それが確かに今日だということも分っている。
しかし、それが特別な日とか祝うべき日だとかいう感覚はこれっぽっちもない。
実際今朝も、目が覚めて最初に考えたことといえば、今日は休みだしナルトが来るだろうから、晩飯何にしようかということくらい。
それ以前に、アカデミー時代からつい最近まで何かといえば喧嘩ばかり、何とか告白してお付き合いを始めたのはごく最近というこの相手に、誕生日なんか教えた覚えはこれっぽっちもない。
「サクラちゃんから教えてもらった」
投げかけた疑問にあっさり答えは返ってきたけれど、ついでに怨みがましげな視線も一緒についてきて、サスケは目を逸らした。
確かに恋人の誕生日を他人に教えてもらっては面白くなかろうと、己を鑑みてひっそり反省するけれど、それはそれとして。
「で、何で誕生日に“ワガママ”なんだ?」
「だってさだってさ、誕生日にはプレゼントをするもんなんだろ? でもオレ、そんなんしたことないから分んねーし、お金もないし。そしたらサクラちゃんがさ」
またサクラか。
賢しいチームメートの少女にいまだにナルトはこよなく懐いていて、また彼女自身、かつての態度が嘘のようにやたらとナルトを可愛がりかまい倒すようになっている。
恋愛じゃないと分っていても、やっぱりその口から彼女の名前が嬉しげにこぼれ落ちるのは面白くない。
けれどサスケはどうにか自制すると、先を促した。
「サクラちゃんが、教えてくれたんだってば。こーゆーのはお金じゃなくて気持ちなんだって。自分が欲しい物をあげるんでもいいし、してもらって嬉しいことを返すんでもいいんだって。だから」
「だから、ワガママ言えって?」
話の流れは何となく分ったが、肝心なところは今ひとつはっきりしない、ような気がする。
だからどうして、それがプレゼントになるのだろう。
考え込んでいると、それに気付いたのだろう、ナルトが再び話し始めた。
「あのさ、サスケ、甘いもの嫌いじゃん?」
「まあな」
「オレが食べてると、すぐ怒るし」
「それはおまえが、あまりにも考えなしな量を食ったり、晩飯前に食ったり、とにかく無茶な食い方ばっかするからだろうが」
「なのに、サスケんち来ると必ずカルピスあるだろ? 今日なんかアイスもあったし。そんでサスケ、甘いの嫌いなのに、絶対ひとくちは付き合ってくれるよな」
「……おまえが、一人で食うの嫌だって言ったからだろ」
「うん」
こくんとナルトは頷いた。
「それってさ、えと、違ってたらゴメンってば。オレのため、なんだよな? オレがワガママ言うからサスケ、オレのためにちょびっと無理してくれてるんだよな」
「それ、は」
違う、とサスケは思った。
それは無理じゃない。無理なんかしていない。
サスケはそれが何であれ、他人のために無理を出来るような性格はしていない。
ただ、そうしたいからやっているだけだ。
ナルトが喜んでくれるなら、笑ってくれるなら、それが見たくてやっているだけ。
「だからオレ、オレがしてもらって嬉しいこと、おまえにしてあげるんだってば」
サスケは、口を開きかけて、また閉じた。
言えない。
ナルトがあまりに幸せそうに笑うので。
「納得したってば? だったら、ちゃっちゃとワガママ言えってば。なんたってバースデープレゼントだもん。何だってきいてやるってばよ」
少し顔を赤くして、照れ隠しのようにナルトは早口に言った。
「何だってっておまえ、言えば何でもきくっていうのか」
「あったりまえだってば」
そのために聞いてるんだからな!と大威張りで言われ、正直サスケは途方に暮れた。
サスケは他人にワガママを言う性分ではないが、目の前の相手に限っては、実は通してみたいワガママが無いわけではない。
(んじゃ何か? オレ以外誰も見るなとか口きくなとかいっそ閉じ込めたいとか、そーゆーのでもOKだっつーのか)
もっとも、そんなこと言える訳ないことは、分っている。
それは確かにサスケの内に潜む願いで、けれど本当に叶えたいかと言えば首を傾げてしまうもの。
サスケの好きになった相手はきっと、野生の花や動物と同じで、狭い世界に閉じ込めてはいけない存在。
無理矢理そんなことをしても、この手の中でむざむざ萎れさせていくだけ。
……それでもいいかも、と一瞬思ってしまったことは、きっちり蓋をしてなかったことにした。
「で、ワガママ決まったってば?」
わくわくと待ちきれないというように聞いてきたナルトに、サスケは考え考え、ゆっくり口を開いた。
「それは、誕生日限定なのか?」
「へ?」
「今ワガママ言ったとして、その内容はこれからずっと有効なのかって聞いてんだ」
「えと、うん、いいってばよ?」
あまりよく分かってない表情で、それでもナルトは頷いた。
分ってないのに分ってるふりするのは色々とヤバイからやめとけと、後で言い聞かせなくてはとサスケは思う。
けれどそれは明日以降にして。
「じゃあ、ワガママ言うぞ」
「おう!」
「おまえがこれから先、ワガママ言いたくなったら、オレに言え」
「……はあ?」
「他の誰にも言うなよ。オレだけに言えよ」
ナルトの、一番嬉しいこと、一番の笑顔、すべてを真っ先に手に入れて、そして独り占めできるように。
「あのさ、わけわかんねーんだけど。いや言ってることは分るけど、それって何の意味が……」
「ある」
「えと、それってプレゼントって言えるかどーかかなり疑問が……」
「言える」
さらりとサスケは言い切った。
そもそも突飛なプレゼントを提案してきたのはそっちのくせに、何を今更常識ぶってと、思いつつ。
「…………サスケ、それで嬉しいんだってば」
根負けしたかのように、ナルトは小首を傾げて問いかける。
寸分の迷いもなくきっぱりと頷けば、そっかと小さく呟いた。
「えとさ、どんくらい嬉しい?」
「これくらい」
言いながら、素早く開き加減の唇を掠め取る。
一瞬だけの触れ合いに、ナルトの頬が真っ赤に染まった。
「いきなり何すんだってば! もー、こーなったらお望みどおりワガママ言ってやるってばよ! サスケ、アイスお代わり! カルピスも!」
「アイスはいいが、カルピスはやめとけ。もう2杯飲んだだろう」
「なんだってばよ、それ! ワガママ言えって言ったじゃん!」
「無条件にきくとは言ってない」
「うわ、ひきょうものー」
「ワガママってのはそういうもんだろ」
ぶつぶつと不満だらけの口を、サスケはもう一度ふさいだ。
今度は、ほんの少しだけ長く。
ますます顔を赤くして黙り込んだナルトに、サスケはこっそりほくそ笑んだ。
感情が顔に出にくいってのはこういう時に得だなと、珍しく己の性格に感謝する。
きっとナルトとおなじくらいばくばく言ってる心臓を、そっと押さえながら。
「もらったからな。オレが一番嬉しいプレゼント」
82928キリを踏まれた睦月依音さまからのリクエストです。「天然ナルトで甘甘サスナル」
…………申し訳ございません! もう、リクをお受けしたのがいつだったか忘れてしまいました。それくらいお待たせしてしまいました。本当にすみませんでした。
今更ですが。依音さま、リクエストありがとうございました。
サスケ視点のお話って随分久しぶりです。(更新自体が久しぶりというのはなかった方向で)
ナルト馬鹿なサスケを書くのはとてもとても楽しいのですが、書いてる間は原作のことはなるべく考えないようにしているあたり、かなり痛々しいぞ、自分。
でもやっぱり、こーゆーサスケがサスナルにはまった原点なので、どんなに外しまくろうと、今後もこの路線で行きたいと思います。 (あゆりん)
「・・・サスケは優しいよ。優しくて愚かだ・・・。」素敵大王ヘタレ様。
でもそんなあいまいな約束、3日後にはナルト忘れちゃうような気もする。
だって脳みそちっさいんだよ(笑) (さよ)
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