あきまつり












普段より人のにぎわう通り。

さまざまな出店にひきつけられるように集まる子供。

その一角で少女は少年に声をかけた。

「サスケくん、せっかくのお祭りなんだからもっと楽しそうにすればいいのに。」

そう言って掴もうと伸ばした腕を、少年はすい、と無言でよけた。
目鼻立ちの整った黒髪のその少年の顔に笑みはない。
眉根を寄せて口を軽くへの字に曲げて。

「そりゃあさ、ナルトが来れなかったのは残念だけど、ね?」
柔らかな薄紅色の髪をした少女が軽く首を傾げて見せる。
任務のときとは少し違う女らしい装いでそのような仕草をみせる彼女は、
いつものじゃじゃ馬ぶりもどこ吹く風で、いささかしおらしくも見えるが、
ふだんの言動と切れ者だけに底知れない素を垣間見ている身としては、
いい雰囲気になどなれるわけもなく、顔を背ける。

「・・・あいつ、元気だったじゃねえかよ。」
さっきまで。
任務が終わってしまうまで。馬鹿みたいに五月蝿かったのに。

「そうなのよね、もしかして、帰り道にヘンなもの食べてお腹でもこわしちゃったのかしら。」
ヘンなものってなんだ。
とそのあまりの物言いになにか言い返したくなったものの。ありえないと断言もできないのが悲しいところ。

「今日はお祭りだからって、カカシ先生がはやく終わらせてくれたっていうのにさ。」

なにやら期待したような素振りがどうにも癇に障り、
「・・・帰る」
ちらちらと伺う視線を完全に無視した形で、少年はきびすを返す。

「えええ、ちょ、ちょっと待ってよ、サスケくーん!」

その後姿はすぐに雑踏に掻き消され、ひとりとり残された少女が怒りに肩を震わせて叫んだ。


「乙女をなめてんじゃないわよ、コンチクショー!」






コトリ、タン、タン、チーン、

涼しげなガラスの鳴る音がする。
テーブルに並べた大小さまざまの器を箸がすべる。

「なかなかいー音!」

すずしげで楽しげでだけど、すこし寂しい音。

「なっかなかの名演奏だってばよ。」


お箸を持って一回転、くるりとまわってにいと笑う。


どん、どん、どん、遠くで太鼓を叩く音がする。
チン、リン、リーン、あわせるように重なる高い音。


今日は里の秋祭りだ。
サクラちゃんが一緒に遊ぼうっていってくれた。けど。
「おれ、チョーシ悪いから。」
そういって。断ってしまった。

今頃、サクラちゃんサスケと一緒にお祭り楽しんでるのかなあ。
サスケのやろ、サクラちゃんに手え出してないだろうなあ。

はあ、とひとつため息をついて。


今日は10月のはじめの日曜。ただの収穫を祝うだけの祭りは、
表立って口に出すことを許されない「あの日」に近く、
必然的にその意味を含むようになっていた。

すなわち、九尾が封印されたあの時の、多くの犠牲者を悼む、というもの。

それゆえに、ただでさえ冷ややかな里人の眼は、いっそう険しく。
なかには石を投げつけるものや呪詛を吐くものもいる。

そんなのへっちゃらだけれど。

サスケやサクラちゃんの前ではちょっとかんべんしてほしかった。


「こんなお腹・・・」
へその辺りに手をやって、ふと考える。

九尾はほんとに、俺のおなかにいるんだろうか。
ひょっとしたらいつのまにか見えない呪いは毒のように全身に巡って、腕も足も全部九尾になってしまってるのかもしれない。

そしたら、おれは、里を滅ぼす・・・?

背筋にひやりと冷たいものが走る。
確かに、そんなものが近くにいたら誰だって。

「殺したく、なるかも・・・」

俺がどんなに里を好きだとしても。そんなことはお構いなしに。



俺はなんにもしちゃいないのに。
俺が生きているだけで、それを許さないと思う人がいて。

そいつらが望むのは死。

俺がどこにもいなくなること。



いざとなれば、そういざとなれば、多分、選ぶ道は、ひとつ。


どんどん、と戸を叩く音がして息を潜めた。
今日は決して出てはいけない。
誰が何をしに来るか分からないのだから。
それは去年までで嫌というほど分かっていること。

「・・・ナルト。いるんだろ?」

「・・・」
返事をしそうになって思いとどまる。
まさか、だってサスケはサクラちゃんとお祭りにいってるはずなのに。
そうっと立ち上がって音を立てないように玄関までたどりつくと、外を覗き見る。
仏頂面をした少年がひとり立っているのを確認して、チェーンをかけたままそうっと、ドアを開けた。

「サスケ?」
「お前、どこか悪いのか?」
「は?」


訳の分からない問いに固まっていると、睨んでいた黒い瞳が不意にそらされる。

「・・・邪魔したな・・・」
きびすをかえす後姿に慌ててチェーンをはずしドアを開ける。

「サスケッ・・・ま、待てっ・・・!」
いったい何しに来たというのだろう。
わざわざ人の家までやってきて顔をみるなり帰るなんて。

「何か用か」
「な、何か用かって。お前のほうこそなんの用だってばよ。」



「別に」
「べ、別にって、おま・・・」


ドン、

鈍い音がして、なにかが背中にぶつけられた。

「あ・・・」


いてえ、そう思った瞬間、ぐいっと頭からおさえつけられて廊下に伏せさせられた。
2撃目が先ほどまで自分の立っていたところをかすめて壁にぶちあたる。


ぐちゃり。
壁に赤く飛び散った、腐った果実のにおい。

風が通るほどの速さでサスケが下に飛び降りる。

「ば・・・よせ!よせってば・・・」


少し経って右手を肘まで赤く染めて、サスケが上がってくる。

「ばーか、サスケ、気い短すぎ!」
「うるせえ・・・お前、実戦なら殺られてるぞ。」
「どうしたんだってばよ。」
「2度とこんな真似しねえように、口にありったけ詰め込んできた。」
「ごしゅーしょー様・・・」

どろり、とゆるやかにしたたる。
「おまえ、・・・・・・・・・。」

俺の背中を冷たく伝う。

「ん、ああ、困ったってば。いっちょーら、台無し。」


「なんで・・・・・・・」

その問いには答えない、答えられない。・・・答えたく、ない。



「こんな里、憎くねえのかよ、お前。」

「憎く、なんか、ないってば」

考えさせないで。俺が本当は里を滅ぼしたいなんて。

もしかして、心の奥底でそう願っている。



どこかで封印が千切れていく音がする。





俺の血は化け物と混ざり合って、全身がもう腐り果てて。




ゴオン、鐘が鳴る。




鎮魂の鐘が鳴る。










腹の奥底で、嘲笑う化け物の声を聞いたような気がした。








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「サスケ」

「なんだ。」

「俺、これ着替えたら、お祭り、いこうとおもうんだ。」

「・・・」


「俺ってば火影になる男だし、やっぱこそこそしてべそべそしてんの性に合わないってば。」

「・・・」


「一緒行ってくれる?
 ・・・すっごくすっごく、ヤナ目にあうかもしれないけどさ。
 やんなったら置いてっていいからさ。」


無言のまま差し出された右手。
「はぐれねえように手えつないでやるよ。」

「うわっべとべと!」
「ついでに手え洗わせろ。」


握った手は赤く冷たく濡れて。掴まれて俺の手も紅く染まった。














この話、途中まで書いたところであゆりんに見せました、ら、まあ。
「よくある設定だけど」あゆりんが同時期書いていたキリリクSSとすっげーかぶってて。
「鐘が鳴って誕生日で封印で石が投げられてサスケがぷんすか。」すげ。
どうしよう。というわけでさよはトマトを投げつけることにしました。
ら、ギャグになってしまったような。あれ??(笑) (さよ)


最初に読ませてもらった時、ほんとーにそっくりだったのでびっくりしました。友よ(笑)。
同じような題材で同時に書くのは、去年のバレンタイン時にもやったけど、なかなか楽しかったです。
とにかくサスケがストレートで一生懸命で健気で可愛いったらv 「ナルトをいじめたら承知しないぞ!」とばかりに腐ったトマトを口の中に押し込むなんて、かわいー、おとこらしー、ほれるーv
サクラとサスケの会話も、原作初期の頃の雰囲気っぽくてよいなあ。 (あゆりん)


あゆりんのナルト誕生日SS「傘がない」はキリリク部屋にあります。
(04.10.04)




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