夢で、もし逢えたら













 あくがれる 














 これは夢だと夢の中で気付く。






「サスケ」
 きんいろのこどもがわらっている。






 これは夢だ。
(だってあいつはここにはいない)
 そんな顔で笑いかけることは、もう二度とない。
(オレはおまえを裏切ったのだから)
 あの終末の谷で。
 それは手酷く、徹底的に。






 生まれ育った里を捨ててきたことには、サスケは大した感慨を持ってない。
 血を分けた一族はとうに無く、望む力も得られないような里のことはどうでもいい。
 ただひとつ、未練が、執着が、あるとするならば。
 最後まで追ってきた、すべてを賭けてでも連れ帰ろうとしてくれた、あの子供。
 邪魔だと思った。
 いっそその命で、より一層の力を手に入れようかとも思った。
 けれど心のどこかで嬉しかった。惜しいと思ってしまった。
 その時になって初めて向けられた、執着を。
 他の誰にでもなく、ただサスケだけに。







「サスケ」
 ナルトが笑う。
 しんから嬉しそうに、手を差し伸べながら。
 だから、これは夢だ。
 夢だから。







 サスケはナルトの方へゆっくりと足を踏み出した。
 一足ごとに遠ざかっていくのではないかと密かに恐れてたが、金色の、そこだけ鮮やかに浮かぶ姿は同じ場所にたたずんだまま。
 サスケを、待っている。







 あと一歩のところで、サスケは立ち止まった。
 束の間ためらって、手を伸ばす。
 柔らかな髪、ふっくらした頬、細く骨張った肩先。
 今も覚えている感触、それを再び感じることができる。
 指先がかすかに震えた。
 けれど。







 伸ばした手は、子供の身体をすりぬけた。







 青い瞳が哀しそうに曇る。
 口元に、小さく諦めたような笑み。
 それはかつて、サスケが一番嫌いだった表情。
 今でも大嫌いだ。
 そんなことを言う資格がもうないことは分かっているけれど。







「どうせ夢なら触らせろよ、ウスラトンカチ」
 現実では、もう二度と触れ合えない。
 あるとするならそれは、今度こそ
(殺し合うとき)
 どちらかの命が尽きるまで。
 ならば、せめて。







「だってサスケ」
 困ったようにナルトは言った。
「オレ、行くなって言ったのに。たくさんたくさん止めたのに。なのに行っちゃったのは、遠くになっちゃったのはサスケじゃんか」
 糾弾、ではなく。
 どこか拗ねるような響き。
 懐かしい声音は、ひどく心地がいい。
「オレのこといらなくなったのは、サスケの方だってば」
「いらないなんて言ってない」
「うそ。だって憎んでた。殺そうとした」
 憎かったのは本当。
 殺そうとしたのも本当。
(だって邪魔だった)
 ずっと、本当に長いことずっと、サスケの心に空いていた穴を、塞いでしまいそうになったナルトが。
 父を、母を、一族を、そして憧れだった優しく強い兄の偶像を、跡形もなく破壊していったあの男を消し去るために必要だった闇を、消してしまえる程のまぶしさが。
 邪魔で、憎くて、だけど壊してしまえなかった。
 もう、戻れもしないのだけど。
「力が、いるんだ」
 呟いた言葉は、ただの言い訳。
 それは真実で、決して嘘ではなくて、けれどそれが傷つけた理由になりはしない。
「力が必要なんだ。あの男を殺すために」
「なんで」
「憎いから」
「なんで、そんなに憎いの」
「あいつは、すべてを奪った。あいつさえいなければ」
 何も失わずにすんだ。
 今でもサスケは、あの里にいて、父がいて、母がいて、そして。
「おまえと一緒に、いられた。おまえのために生きることが、出来た」
「うそ」
 呟いて、ナルトはすっと身を引いた。
 そんなことをしなくても、どうせ触れることは出来ないのに。
 もどかしくて、苛立たしい。
「うそじゃない」
「でもサスケ。にーちゃんがいなかったら、サスケは今のサスケじゃない」
 淡々と、ナルトは言った。
「家族も帰るところもあって、アカデミーでも友達がたくさんいて、そしたらきっとサスケ、オレのこといらなかった」
 違う、と言おうとして、言えなかった。
 ナルトは正しい。
 いつだって正しかった。
 たぶん、今でさえ。
「オレのこと好きだったのは、必要だったのは、ひとりぼっちで寂しくてしょうがなくて、周りのものみんなダイキライだったサスケ」
 それでも。
 サスケがナルトに惹かれたのは、わずかでも己と似たものを求めた、自己愛と憐憫でしかなかったとしても。
 サスケは、ナルトに救われたかった。少なくとも一度は。
「そんで今、サスケが憎んで消してしまいたいのはそんな自分だってばよ? だったら」
 ナルトの瞳が揺れる。そこにあるのはかすかな笑み。
「そんなサスケが好きなオレをもう、おまえはいらないんだな」
 本当に、残酷なほど正しい。








 光だと思っていた。
 今でも思っている。
 ただ、見るのをやめただけ。
 もう二度と望まないと決めただけ。









「ナルト」
 もう一度、ナルトに手を伸ばす。
 未練だ。
 そう思っても止まらない。
「それでも、オレは」
 ナルトは動かない。
 大きな瞳が瞬きもせず、ひたすらにサスケを見つめる。
「おまえを、」
 指が、頬に触れた。
 確かに伝わる感触。ナルトのぬくもり。
 引き寄せて、抱きしめる。
 ナルトの腕が背中に回って、サスケもまた抱きしめられる。
「一緒に帰ろう」
「帰らない」
「迎えに行くから」
「来るな」
「絶対行く」
 背中に指が食い込むほどに、ナルトは強くしがみつく。
 壊してしまうほどの力を込めて、サスケは腕の中の身体に縋った。
「だってオレ、サスケのこと好きだもの」
「言うな」
「サスケもオレのこと好きだもの。だから」
 唇に押し付けられる柔らかなぬくもり。
 見上げて笑う顔。なんて、まぶしい。






「だから、絶対取り戻す」














 目が覚めると、そこは暗い場所だった。
「時間ぴったりだね」
 焚き火の向こうで男が笑う。
 サスケは無言で身を起こした。
 ごつごつした木の根元で仮眠を取るのももう慣れた。
 彼が受ける任務の大方は、夜の闇の中でしか遂行できないたぐいのもの。
 力と、そして揺るがない心を手に入れるためには都合がいい。
「いい夢でも見たかい?」
 馴れ馴れしく話しかける男が鬱陶しい。
 初めて会った時からそうだった。
 今は遠い昔に思える中忍試験で、うさんくさい笑顔で味方を装って現れたその時から。
 かつての己を知る男と、殊更に一緒の任務につかせる。
 かりそめの師の魂胆を探ることはとうにやめた。
 たとえそれがいけすかない相手だろうと、サスケの目的には関係ない。
 そもそも今サスケがいる場所で、好意の欠片でも持ち得るような人間は存在しないのだから。
「知ってるかい。誰かが夢の中に出てくるのは、君がその人に会いたがってるから」
 途端に睨みつけるサスケの視線に怯んだ様子も見せず、いっそ楽しそうに男は言った。
「じゃなくてね、その人がとても深く君のことを思っているからなんだってさ。会いに来てくれてるらしいよ。ロマンティックだよねえ」
 サスケは無言で立ち上がった。
 片手を上げて、振り下ろす。
 一瞬のうちに焚き火が消える。
「時間だ」
 炎の残像が消えるよりも早くサスケは身を翻した。
 肩を竦めて男がその後を追う。
 あとにはただ、闇だけが残った。






(誰かが夢に出てくるのはね)
 それならば、ナルト。
(君のことを思っているからなんだよ)
 おまえもオレの夢を見たのだろうか。
 だったら






 サスケはかたく瞳を閉じた。
 願ってはいけないことを、この一瞬だけ自分に許すように。










 だったら、二度と覚めなければよかったのに。


  















 やっぱりサスケスキーなら一度は書いておいた方がいいかしら。ということで、里抜け後のサスケさんです。
 未練がましいです。うじうじしてます。てゆーか何から何まで自業自得のくせして何言っとんじゃ。でもこういう女々しい奴もラブvとか言ったらやっぱり腐ってますか(笑)。
 ナルトの告白台詞は、某昔話から。小学校の教科書に載ってました。まんが日○昔話でもやってましたが、ラストが全然違ってて、ちゃぶ台返したくなった覚えが。
 この某昔話、ホントに大好きなので、そのうち、まんまサスナルでアレンジしてみたい気もちょっとする。(あゆりん)

 サスケ、おまえっておまえって・・・
 バカは死ななきゃなおらない。のか?ああ?とかちょっと胸倉掴んで問いただしたくはなりますな。(笑)(さよ)

(05.11.20)



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