これ、拾っていいんだろうか。
…………ていうか、拾わせろ。
ひろいもの
道端に、段ボールが置いてあるとする。
そして中には、それはそれは可愛らしい小動物が入っていたとする。
普通なら「拾ってください。可愛がってください」ということで、それからどうするかは発見者の胸先一つ。
犬や猫ならそんなものに一切興味はないうちはのサスケ、あっさり無視するか数少ない知り合いに押し付けるかというところだけれども。
これならば、落ちてなくても是非とも拾いたいし世話したい、むしろ囲うんでもオーケーなんだがしかし。
こんな所にこんな物がこんな格好で落ちてるなんて、一体何の罠なんだ。
呆然と立ちすくむサスケの目の前で、それは。
「遅いってばよ、サスケ!」
生クリームまみれの顔で笑った。
帰宅したサスケの目にまず飛び込んできたのは、家の前に置かれた巨大な段ボールだった。
それはもう、人一人余裕で入るくらいの代物だ。というか実際入ってる。
段ボールの中には、ちょこんと座ったうずまきナルト。
おまけにその手にはでっかいホールケーキを抱えて、顔中生クリームだらけにしながら幸せそうに食べてる真っ最中ときたもんだ。
しかも何故だか身体には真っ赤なリボンを巻きつけていて、自分でも鬱陶しいのか時々顔にかかるそれを避けながら、それでもフォークを持つ手は放さない。
「何やってんだ、おまえ」
ようやく気を取り直したサスケがひとまず問いかけると、ナルトは不満そうに頬を膨らませた。
「いちゃいけねーのかよ」
「んなこと言ってねえだろ」
「だったらいいじゃん」
「悪くはないが、そのケーキは一体何だ」
「サクラちゃんが買ってくれたんだってば」
「はあ?」
ますますわけが分らずに、サスケは眉間の皺を深くする。
何が悲しくてこいつは、人の家の前で段ボールに入ってケーキを食べているのか。
そのケーキがサクラから、というのがまたムカつくが。
しかしまあ、ナルトにこれ以上詳細な説明を期待しても無理だろうと、サスケは早々に見切りをつけることにする。
こんなことにいつまでもこだわっていたら、このウスラトンカチとまともに付き合っていくことなんて到底できない。
いくら人通りが殆どないにせよ、屋外でいつまでもこんなことやってるのもどうかと思われて、サスケは座り込んだままのナルトに手を差し伸べた。
「とりあえず、中入れ」
「おう!……と、その前に」
嬉しそうに頷いてサスケの手を取ろうとしたナルトは、途中で慌ててその手を引っ込めた。
ケーキを注意深く脇に置いて、きっちり正座してサスケを見上げる。
かなり下方から向けられる目線に、サスケは思わず息を呑んだ。
普段ならばサスケとナルトの身長差はおよそ5cmといったところで、ほんの少し悔しそうに見上げる目線はいつでもサスケの心臓を勢いよく引っつかんでくれたものだが。
今、地面に座り込んだままのナルトがサスケと視線を合わせるには、ほぼ直角に近いくらい首を反らせる必要があって。
その状態で見下ろすと、惜しげもなく露になった白い首筋やら、広い襟ぐりから覗く鎖骨やら、ばっちりくっきり飛び込んでくるのだ。
目を逸らしたいが逸らすのも惜しい。
複雑な男心の葛藤も知らぬげに、ナルトは真っ直ぐサスケを見つめて口を開いた。
「サスケ、誕生日おめでとうってばよ!」
「あ?」
一瞬、サスケの頭の中が白くなる。
そういえば、と慌てて指折り数えてみれば、本日の日付は7月23日。まさしく自分が生まれた日に他ならないが。
「何ぼーっとしてるんだってば?」
「いや、別に………」
首を傾げるナルトに、サスケは曖昧に頷きを返した。
キレイさっぱり忘れてました。
とは、さすがに言い辛い。
元々サスケは自分の誕生日なんてものにさして興味はなかったし、おまけにここのところ若干レベルの高い任務が立て続けにあったせいもあって、勢いそんな瑣末事は頭の端からぽろっと転がり落ちてしまっていた。
固まってしまっているサスケと裏腹に、ナルトはひどく嬉しそうに笑う。
「へっへー、驚いただろー。オレってばすっげー色々考えたんだからな」
得意満面なその様子を見ていると、考えたといっても「お祝い」よりも「驚かせること」の方に主眼を置いていただろうてめえ、と問い詰めたくなる程だ。
悪戯好きのナルトのこと、その邪推はかなりな部分で当たっているかもしれないが。
ふっと、サスケは表情を緩めた。
好きで好きで大好きな相手に誕生日を祝ってもらえて、嬉しくない奴がいるわけない。
(いたらコロス)
物騒な、おまけにかなり的外れなことを考えながら、サスケはゆっくりと腰を下ろした。
ナルトと視線を合わせて、にっと笑う。
「結構、驚いた。てめえにしてはやるじゃねえか」
「あったりまえだってば。オレってば火影になる男!」
「それで、祝いに来たくせに何でおまえはこんな所でケーキ食ってるんだ」
ナルトが、自分の誕生日を祝ってくれるために待ち伏せていたことは分った。
そのことに文句はない。
むしろ大歓迎だが、こういう場合ケーキは普通、サスケへのプレゼントになるのではないか。
いくら食い意地の張ったナルトでも、さすがに他人へのプレゼントを勝手に開ける真似はしないだろう。
甘いものがまるきり駄目なサスケとしては、最終的にはどうせナルトの腹に収まるんだしちっとも構いはしないのだが、何故だろうと疑問は残る。
「だってサクラちゃんが、食べていいって言ったんだってば」
「サクラが?」
「うん、サスケの誕生日なんだけどどうしようって聞いたら、サスケんちの前で箱に入ってケーキ食ってろって。おまけにリボンとか巻かれちゃったんだけど、邪魔なんだよなあ。もう取っちゃ駄目かな?」
赤いリボンをひらひらさせながら、ナルトは首を傾げた。
それはひどく似合っていて、取ってしまうのは惜しいなとサスケは思う。
「あ、そだ。これ、サクラちゃんから預かったんだった」
思い出したようにナルトがごそごそとポケットから取り出したものは、一通のメッセージカード。
一見して何の変哲もないカードだが、何しろあのサクラのこと、何があるか分らない。
手渡されたそれをサスケはこの上もなく注意深く開封すると、そのままぴたっと動きを止めた。
「なあなあ、サクラちゃん何だって?」
ごく小さなカードのこと、中身なんて一瞬で読んでしまえる筈だが、何故かいつまでもじーっと見つめたまま微動だにしないサスケに、ナルトが焦れたように問いかけた。
「おまえ、読んでないのか」
「人の手紙読むなんてシツレーなことしないってばよ」
「そうか」
ぱたんとカードを閉じて、サスケはおもむろにナルトに向き直った。
じっと見つめてくる視線に気圧されたのか、狭い段ボールの中でナルトが心持ち後ずさる。
どことなく警戒するような表情に、ウスラトンカチのくせに珍しく敏いじゃねえかとサスケは考えたが、とりあえず口には出さずに。
「そのケーキ、やっぱりオレ宛らしいぞ」
「え、ええっ?! だってサクラちゃんが………。どーしよー、オレ殆ど食べちゃったってば。サスケ、ごめん!」
「気にすんな。それはおまけだとさ。本命は、これ」
「これ?」
サスケの指差す方向を辿ろうとして、ナルトはひどく困惑した表情になった。
何故ならサスケの人差し指は、真っ直ぐナルト自身に向けられていたからだ。
「オレ、もう何にも持ってないってばよ」
「だからおまえが、プレゼントだろ?」
「は?」
「段ボールの中のモン、全部オレへのプレゼントだって、このカードには書いてあるぜ」
「へ?」
「じゃ、そーゆーことで」
まだ今ひとつ事態を把握しきれていないのか、ナルトは呆然と瞬きを繰り返すばかり。
我に返るその前にと、サスケは段ボールを抱えて立ち上がった。
勿論、底が抜けたりしないように細心の注意を払ってはいるが、それでも箱の中はかなり揺れたようで、反射的にナルトはサスケにぎゅうっとしがみついた。
「び、びっくりしたあ………ってサスケ、何すんだってばよ!」
その拍子にようやく今の状況に気付いたか、今更ながらにナルトはぎゃんぎゃん喚きだした。
しかしサスケの首に腕を回してしっかりしがみついてる状態でとなれば、迫力なんてこれっぽっちもありはしない。
こんな状況じゃなくても、ナルトのこの程度の悪態なんて、サスケにとってはこの上なく微笑ましく愛しいものではあったけれども。
「だからプレゼントを受け取ったんだろ」
「そんなのオレ聞いてねえ! わーっ、連れ込むなってばよ!」
さっさと家の中に入ろうとするサスケに、慌てたナルトがじたばたと暴れる。
さすがに歩きにくくて、サスケはじろりと箱の中を睨みつけた。
「いい加減にしろよ。いつまでも家の前で騒いでると近所迷惑だ」
「いい加減にすんのはそっちだろ。それにサスケんち、ご近所さんなんていないじゃん」
「うるせえ。大体おまえ、オレのお祝いに来たんだろ。手ぶらで来てそのまま帰れるとでも思ってんのか」
「だからそれはー」
「こんな時くらい、素直にオレの欲しいもの寄越せよ」
「サスケの欲しいもの?」
目を丸くするナルトに、サスケはすいと顔を近づけた。
ただでさえくっつきそうな程近づいていた顔を更に近づければどうなるかなんて自明の理。
ましてサスケは最初からその目的でやっている。
掠めるような口付けに、ナルトの顔が真っ赤になった。
「これでも分らないつったら、落っことすぞ」
半ば脅しめいた台詞に恨めしそうな顔をして、それでもしがみついてくるナルトの腕の力が強くなる。
「………落としたら、ホントに怒るってばよ」
「了解」
くっと喉元で笑えば、拗ねたようにナルトが唇を尖らせた。
それは可愛くていいのだけれど、意趣返しのように髪の毛を引っ張られるのには少々閉口して、もう一度、今度は少し長めに唇を塞ぐ。
指の力が抜ける頃に唇を離すと、上気した頬で、それでもナルトはぷいっと横を向いた。
「返品、しなくていいよな?」
そっぽを向いた耳元に囁くと、不貞腐れたように呟く声。
「できるのかよ、バカサスケ」
「誰がするか、ウスラトンカチ」
おもむろに段ボールを持ち直して再び家の方向へ足を向けるが、今度は反論の声は上がらなかった。
目の前の柔らかな金髪を堪能するように顔を埋めると、調子に乗るなと言うように小さな手にぺちっと叩かれたけれど、まったく気にならない、むしろ嬉しいなんて大概終わってるなと、サスケは思う。
だけどそんなことを今更後悔も反省もする気はないし、とりあえずは。
(グッジョブ、サクラ)
切れ者のチームメイトに、サスケは心の中でこっそり感謝した。
今年もどうにか書きました、サスケ誕生日おめでとうSSです。最近のWJ展開をみてると、素直に祝ってやるのもましていい目を見させてやるのもどうかという気がするんですが(笑)。
実はこれ、昨年さよが7/23当日だけアップしたイラストが元ネタです。本当に一日で下げちゃったんで、ご存知の方は少ないかと思います。
その後さよは再アップはしないと言ってたのですが、私が無理言って、つーか「あんたがアップせんでも私あれでSS書くからね」と宣言したらば、描き直してくれました(笑)。だってあのサスナル、可愛くて好きだったんだよね。
さよのイラストは絵の部屋に置いてありますが、ここからも行けます。→★
(04.7.19)