選択




「グレミオ、ここを開けろ!」
開かなかった扉。
おそらくわずか人1人分の厚みもない、その重く固い扉の向こうに、
「すみません、坊っちゃん」
冷たい鉄の扉の向こうに、まだ声が聞こえるのに。

「グレミオ・・・!!」





扉が開かれたとき、そこにはなにもなく。
取りすがって泣ける亡骸すらもなく。



涙なんて出なかった。
声なんて出せなかった。

ただ、石になったように、誰もいない風景が心を過ぎていった。

ミルイヒを倒した。
敵を討とうとする仲間を制し、僕は彼を引き入れた。
操られていただけだ。
こいつのせいじゃない。
それがどんなに空しいキレイ事でも、僕は自分にそう言い聞かせる。

間違っていると思えば崩れる。
テッドの紋章を継いだことも。
オデッサの遺志を継いだことも。
グレミオを同行させたのも。
全て、選択の余地が無かったとしても、受け入れたのは僕自身。

だけど眠れない。
目だけが冴えて、闇に視線を泳がせる。
(グレミオがいたら、こんなときあったかい飲み物をくれるだろうな。)

なぜ敵を討たない、といわれた。
ミルイヒの軍勢はかなりの数だし、いま、同盟軍はただの寄せ集めに近い。
帝国の熟練の兵士が増えるのは歓迎すべきことだ。
残党狩りをする暇も無いし。
どうせ、次の戦いが近い。

現れたのはテオ・マクドール。
「あなたにも分かっていたはずだ。いつかこの日がくることを。」

それは他にもっといい方法があったのかもしれないけれど。
例えば磔になったままの山賊を置き去りにするとか。
目の前で息を引き取った女の最期の願いを聞かなかったことにするとか。
村を滅ぼされる前に必死の思いでたどりついたエルフの願い出を断るとか。
そういうことが、もし出来たなら。
全てに背を向けたなら。

いまのこの事態はありえなかったかもしれないけど。


自分の選択をそのときの出来る精一杯だったと信じるから
正義などもはやどこにも無いのだけれど
ましてや信じる理想など持ってもいないのだけれど

全てを失うのだとしても


テオ・マクドール、あなたの息子として
得る物も無く戦う道を、行く僕を、
あなたなら、きっと分かって下さるでしょう。








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