咎人
「おねがいです、僕も連れて行ってください。」
連れて行きたくなかった。
戦力は足りてる。足手まといはいらない。
ああ、そうだね。囚われの少女は君の大切な人。
だけど、だからなんだっていうんだい?
おとなしく村で無事を祈っててよ。
そうすれば助け出してあげるよ。
よかった、心配したんだよ。
そういって、抱きしめてあげればほら、ハッピーエンド。
ロリマーの戦力が欲しい。同盟軍の思惑。
吸血鬼を倒したい、ビクトールの執念。
テンガアールを助けたい、ヒックス、君の願い。
あの吸血鬼はウィンディの仲間らしいし。倒しておいた方がいい。
単に一致したから人助け。
だけど、なにもかも煩わしくて。
僕は自分の心さえわからずに、流れの中を彷徨っている。
笑わせるじゃないか。
帝国に反旗を翻す同盟軍のリーダーは、
その理由さえ見失って。
友を置き去りに、
グレミオを失い、
パーンを見捨てて、
父を討ち、
次は、誰を失えばいい?
「坊っちゃん、私からもお願いです。」
クレオが僕に言う。
あなたの愛した人も
あなたを愛した人も
僕がいなければ、失わなかったかもしれないのに。
「・・・そう・・・」
「クレオは、強いね。」
「・・・そうでしょうか。」
野営中、火の番をしていたクレオに、話し掛ける。
「坊っちゃん、どうぞ。あまり、美味くはないかもしれませんが。」
そういって、コーヒーを渡される。
「どうせ、眠れないのでしょう?」
「ああ。」
一口すすると、とても苦い。目の前で炎が揺らめく。
「テオ様は、最期にあなたを誇りにおもう、とおっしゃいました。
坊っちゃんとともにこの道を歩いてきて、私もやはり、そう思います。
・・・わたしも、ですから、テオ様に恥じぬように・・・
グレミオにも、パーンにも、笑われぬように、しっかりしなくては。
そう、思いますから。」
「クレオは、死なないよね?」
「大丈夫ですよ。坊っちゃんこそ。」
「・・・僕?」
「私を置いていかないで下さい。」
「クレオ・・・」
「私は武人ですから。戦うのがつとめです。ですが、
大切な人を無くすことがつらくないわけではありません。」
パチン、と、火の中で木の弾ける音。
「・・・ヒックスは、まだ、彼自身の手で守りたいものをもっています。」
「テンガアールのことだね。」
「甘いといわれるかもしれませんが、私は彼らに幸せになって欲しい。」
「そうだね。」
失くしていく僕らのかわりに。
「僕ら、二人きりになっちゃったね。」
軍勢は六千とも七千とも、城の中さえ手狭になって。こんなにも味方が増えたのに。
多くの宿星が集い。
それでも僕は失っていく。
「ヒックス!来てくれたんだね!」
「テンガアール。助けに来たよ!」
その幸せを心のどこかで軽く嘲笑い、この地方を手中に収めた。
もうすぐ、帝都だ。
そうすれば、全てが終わる。
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