回帰熱 3
「・・・あなたが、トランの英雄ですか?」
その問いに目の前の少年は、僅かに目を細め、口元だけを笑みに変える。
「そういう君は英雄ゲンカクの子だってね。」
「なんで・・・」
「ああ。コウと同じ格好だからそうかな、って。」
コウは、裁縫が得意という姉に「解放軍のリーダー」の服を作ってもらって遊んでいた宿屋の子供だ。
「ゲンカクの子」という言い方に感じる不意に突き放された距離。
会話が途切れて。
「・・・あの、ごめんなさい・・・」
「なにを謝るの?」
「あんまりそういう言い方って好きじゃないんですよね・・・?」
「そうだね。うんざりする。・・・仕方ないけどね。」
「どうしてこんなところにいるんですか?」
「んー、まあ、面倒くさくってね。なんでもかんでも担ぎだそうとするから逃げてきちゃった。」
「はあ・・・」
それでは、自分と一緒に戦ってくれなどとは言えそうにない。
この人は自分の役目を終えて、もう紋章など使いたくないのだろう。
僕はまだ自分のなすべきことも終わらない、108の星も揃わない。
考えて俯いていると、ちょいちょいと手招きをされ、同じ岩に座った。
手袋をした少年の手がぽんぽん、と頭をなぜる。
「ごらん、星が綺麗だよ」
「ああ、新月だからですね。」
明かりのない田舎の、満天の星。
「僕、忘れてました。そらってこんなにも星があるんですよね。」
「星はいつでもそこにあるんだ。見ようとしないときも。」
「・・・はい」
「ほらいま星が流れた。」
「あ、ほんとだ。お願い事しなきゃ。」
「・・・・ねえ。」
「なんですか?」
ふ、と返される微笑。
「いや・・・君の星はあれだね、僕のはその向こうの赤い星だよ。」
「わあ、近いんですね。」
重なるほどの距離に並ぶ星。
強い白い輝きと赤い瞬き。
「そう見える?だけどね、本当は果てしなく遠いんだ。」
「・・・・そうなんですか。」
それを自分と一緒にはして欲しくないのだという柔らかな拒絶だと受け取ると視線を水面に向ける。
(この人は108の星じゃない。)
だからぼくと一緒に戦う理由なんて何もない。
だけど、この虚脱感はなんだろう。
勝手に期待して勝手に失望して。
「・・・ごめんなさい、ぼく、もう戻らなきゃ・・」
明日、ここを発とう。ぺこりと頭を下げて、もと来た道を駆けだした。
その後姿を引きとめもせずに見送って、ぽそり、と呟く。
「・・・なにか話があるんじゃないの?いいかげん出てきたら?」
かさ、と草を踏む音がして小柄な少年が不服そうに姿を現す。
「やあルック久しぶり、元気だった?」
にっこりと社交辞令。
「・・・」
名を呼ばれた神官服の少年は不機嫌そうに黙ったまま黒髪の少年に向かい合う。
「今度はあの子?レックナートの弟子の定めとはいえ君もご苦労な事だね。」
「・・・君こそなんのつもりさ。」
「なにが?」
「トランの向こうにいれば僕らには会わないのに。わざわざこんなところで待ち伏せなんてどういうつもり、って聞いてるんだよ。」
「ああ、ほんと奇遇だよねえ。僕はのんびり釣りをしてただけだよ。」
「結構前からいたんだろ?真の紋章が近づくのが分かってたんじゃないの?太公望よろしくさ。」
「どうかな?だいたいテレポートで来られたら逃げる暇もなかったと思わない?」
「どっちにしろ君は今回仲間にはなれない。とっとと帰りなよ。」
「仲間になんてなる気はないよ。そうだね、約束しようか。必要じゃなければいつでも僕はグレッグミンスターに帰るから。」
「じゃ今すぐそうしなよ。」
「それを決めるのはリーダーだろ?それともレックナート?」
「・・・うるさいな」
「僕にとっては・・・テッドもグレミオも父さんも・・・108の星なんかよりずっと大切だった。
・・・皆、宿星でなかったから。いまはもう誰もいない。」
「・・・」
「だけど『真の紋章』使いは死なないから、ちょうどいい。」
「・・・邪魔をしたら承知しないよ」
「ルックでもいいんだけど」
「こっちから願い下げだよ」
「言うと思った。」
「・・・やってられないよ。・・・忠告はしたからね。」
眉をしかめて一つ大きな息を吐いて暗闇に踵を返す。
残された少年は薄く微笑んで星を見上げる。
「・・・凶星、に願いをかけるんだね。」
ねえ、きみの国では流れる星に願いをかけるんだね。
僕の国では滅びの予感をその星に見ているのに。
禍々しい星の定めをなぞる君の願いを叶えてあげる。
僕たちはまるで同じもののようで。けれども決して似ていない。
うちの坊ちゃんは1と2でかなり性格が違います。とはいえ私の中では矛盾なく続いているのですが・・・・・・。
幻水のページへ