この人が悪いわけではない。一方的に期待して一方的に裏切られた気分になっているだけなのだ。
それは頭では分かっていた。
この人の傷はまだ癒えていない、それも分かった。
だけど笑いかけるその顔をみるのは嫌だった。
かなりの手練れである事は数回の戦闘で明らかだった。
流れるような型は僕の知らないもので、殺傷を目的とする無駄のない動きだった。
そして顔色一つ変えない態度が、慣れているのだと語っていた。
この人は、強い。
だけど、強いだけなら要らない。
嫌がるものを戦場に引きずり出して戦うのは嫌だった。
紋章がその戦う地の者に多く発現するのは、それなりに戦う意志を紋章が必要としているからだろう。
ルカの勢力の及ばなかったこの地では、今回の戦いは無縁のものだ。
だから、コウを助けたらもう、2度と会わない。
そう思っていたのだ。
紋章が発動するまでは。
発動した一瞬、僕はこの人を、この人のひどく傷ついた心の奥底を、辿った悲しみを、全部分かってしまった。全ての記憶が注ぎ込まれた。理解できないものや弱い感情はそのまま流れていった。強い感情だけが僕を捕らえる。
僕の乾きも痛みも全て曝け出して、伝わってしまったろう。
覆い隠せない魂の接触は、互いに裸で立つよりももっと恥しく、目を背けたくてそれを許されなかった。
彼の全てを僕は受け入れ、僕も彼の前に全てを投げ出したのだ。
「・・・・あ・・・」
気が付くと僕は森の中に立っていた。化け物は倒れたようだ。目の前にあの人がいて、僕を見ている。
僕は・・・・
ぐらり、ときて、僕は意識を失った。
声に出せない渇きは止んでいた。
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