あかるい
         くらい

 あたたかい

         つめたい


 なにも ない
         たくさん、いる




ここに、ぼくはいない


なにも、ない








   








視界の中に認識できるものはなにもなかった。
(なにもないのかもしれない。)

ただ光のない塗りつぶされた闇。
(そのなかになにかいるのかもしれない。)

空間は果てしない。
(見えていないだけかもしれない。)



なにも耳に入る音はない。
耳が痛くなるほどの静寂というのではない。

音も匂いも感触もなにもない。

ぼくの五感は役に立っていない。


いま、ここに「僕」のからだは存在していない
なのになにか重いものに捕らえられたように、ここから離れられない。


僕はいない。

はじめからおわりまで、ここには きっと なにもない。



ただ意識だけが闇を彷徨う。
ひどく密度の濃い闇はまるで意思をもつかのように重い。

向こう側になにか強い光を感じる。
ふ、と目の前に現れたのは、・・・・レックナート様?

「まだ、ここにくるときではありません。お戻りなさい、あなたの世界へ・・・」


覚める前の夢の世界のよう。
ああ、そうだ・・・きっと、夢をみているんだ・・・・・・・・





夢なら



おきなきゃ








ナナミが  まってる、から。


ジョウイも、きっと。












回帰熱 












「・・・気がついた?」
「・・・」

いきなり、視界の中に溢れる光。
ここは、どこだろう・・・。
知らない部屋。まぶしい・・・ならお昼?
高い天井。きれいな部屋。
ふわふわの、おふとん。あたたかい。

きれいな、ひと。

「もう少し、寝てる?」

きれいな、こえ。耳に心地よい。小さくかぶりを振る。


誰だったっけ。こんなひと、お城にいたっけ・・・

ひどく頭の芯が痛い。
ひとりでに瞼が閉じて意識が沈んでいく。



「・・・お休み。」

やさしいこえ。指が軽く髪をなぜる感触。




だれだっけ・・・・・・・・・

黒髪に、緑のバンダナ、赤い民族衣装に・・・

「・・・・・・・・・・!!!!トランのっ・・・・」

突然、その人が誰なのか思い当たって僕は跳ね起きる。

「こ、ここはっ?ななな、なんでっぼく、」

いきなり動いたせいなのか、頭の芯がきりきりと痛む。
目の前の少年はちょっと驚いた顔をしたが、すぐに平静をとりもどしたようで、にっこりと微笑む。

「おはよう?」

「ああああ、はははひ、おはようごさいます、だからえと。」

「無理しないで?水でも飲む?」
そういうと、水のついであったグラスをこちらに差し出す。
「は、はい、いただきます。」
一気に飲み干すと、ひいやりとした感触がのどを伝った。

(おちつけ、落ち着くんだ、僕。えっと。)
何から聞けばよいのだろう。
ここはどこだろう、ってことと、どうしてここにいるのか、と、どうしてぼくはここにいるのかってことと、
などと考えていると、きしりと軽くベッドの端が沈んだ。

ぎくりとして見やると、ベッドの端に腰掛けたトランの英雄と目が合う。
うろたえる僕を覗き込む様にして、ゆっくりと手を差し出す。 

「ねえ、これ、何本?」
唐突に目の前に突き出された細めのながい指。
「・・・3・・本です」
「うん、じゃあ幻覚は・・もう大丈夫かな。」

「説明するとね。ここは、トランの首都、グレッグミンスター。の僕の家の僕の部屋。
 君はバナーからの道でモンスターと遭遇、戦闘のあと倒れたんだけど。
 怪我はなかったけど毒にあたってたし、この地特有の熱病にかかったみたいで。
 僕はその病気には免疫があるから、君のことを引き受けてここに連れてきた。
 城よりここの方が安全だしね。
 他の人にはうつるといけないから宿にいてもらってる。」

「あの、どのくらい寝てたんでしょうか。」
「君は3日、意識がなかった。」
「3日も・・・あっ、シュウさんが・・・」
「城にはルックが使いをやったよ。」

「すみません、あなたにもご迷惑を・・・」
「気にしなくていい。こんなとこで他国の軍主に死なれると面倒だから。」
微妙な関係の隣国同盟のの軍主が自国の首都で死亡。
この間までは国境で小競り合いをしていた敵陣だ。
どうなるかなんて、確かに目も当てられない。
自分の行動は考えているよりも大きな事態を招きかねない。
帰ったときのシュウのお小言が目に浮かぶ。
「どうしたの?」
「あ、あの、すみません、僕、軍主なのにこんな・・・恥ずかしくて・・・」

うつむいた僕の頬にすこし冷たい長い指が触れる。
「まだ、熱があるみたいだね。」
てのひらが顔をなぜていく。
手はあちこちを動き、猫をあやすようにあごを軽くもって、首筋をなぜる。

そして、くすりと笑うと立ち上がった。
「先生を呼んでくるよ。」


*****************
 

着替えさせた夜着や取り替えたシーツ、体を拭いた布や洗面器をもってドアを開ける。

まるで石版の前であるかのように、いつもの、いやいつもよりかすかに不機嫌そうな顔で
腕組みをしてルックがドアの脇の壁にもたれかかっていた。

「彼ね、目、覚めたんだ。」
そういって、入るかい、と今出てきたばかりのドアを指し示すと、ルックはなんで僕が、と軽く睨みつけた。
「症状から言ってもそのくらいだね。これ以上寝てたら機を逸す。良くなんないなら、ここの医者がヤブなんだ。」
「そう?随分と心配してたようだけど。そうそう、レックナート様もね、来て下さる位だから。」
軽く放たれたその言葉にかすかに眉をしかめる。
「気がついてないとでも思ってた?」
「・・・口を慎みなよ。あとで後悔する。」
低く苦々しそうに睨む少年がロッドを構えると、そのくらいいいじゃないかと薄く笑う。

「ああ、いけない。リュウカン先生は今日はお昼までしかいないんだっけ。早くしないと。」

階段を降りていく。その軽やかな足音の消えるまで、ルックはずっと睨み続けていた。



苦々しい。

なにが、とか。どうして、とか。
そんなことは分からないけれど。  

あの戦闘で。

あのときに、なにかが起きたのは事実だった。
ふたつの真の紋章の共鳴、そして力の中に飲み込まれるように、倒れたあの子。
共鳴は止めなくてはならないと、そう聞いてはいたが間近で見たのは初めてだった。
強烈な光はまるでなにもかもを飲み込むようで、
・・・あれが破壊呪文だけなら、あのあたり一帯は焦土と化していただろう。
あの子の紋章は最終的には守りの盾であり、それが幸いした。
ソウルイータを全開で発動させながら、その外側を盾が覆う。
敵内部にエネルギーを閉じ込めてかつ、味方に全回復。
ありえない攻撃だった。

みなの致死毒を浄化しておきながら、自身は毒に侵されていて、
熱病にもかかってしまっているという。

闇にひきずられてしまったのだと、思った。
2度と目が覚めないのではないかとも。
事実レックナート様が動いたのなら、「門」のちかくまでいったのかもしれない。
宿星の生まれ、還るところに。

・・・同じ宿星だから、共鳴したのだろうか。
自分のものとは明らかに異質な波動。


あのあとからだ。
前の天魁星の態度が明らかに変化した。

気絶したあの子を、熱病だと思う、と誰にも触らせないように抱きかかえ、
理由までこじつけて、ひとりで看病している。
3年間一度も戻らなかった自宅に帰り、だれも近寄らせないように。

(熱病くらい、僕だって平気なんだけどね。)

そう言うのも面倒だから、したいようにさせているけど、
それなりに役目ってものがあるから、一応はここにいるわけで。


「・・・別に気になんかしてない。」

口に出してしまった言葉に、自分自身驚く。


それでも、考えてしまうのだ。あれならば、あの力ならば。

・・・宿星は互いを滅ぼすことができるのだろうか。
人にあらざる強力な力に縛り付けられ、永遠でありながら滅びを願う。
それは、ひそかな自分の願い。


壊れて当然なのかもしれない。
あいつも、僕も。





「あのこが、ほしい、か。」












戻る