「あの、また、お願いなんですけど・・・」



トラン共和国首都グレッグミンスターのマクドール邸。
僕はいつものように多少の居心地の悪さを感じながらお願いをする。

一緒に戦ってください、と。



目の前にいるのは先だってのトラン内戦で宿星を束ねた者。
ソウルイーターという真の紋章の使い手。
恐る恐る上目遣いに見上げる先に、にっこりと返される笑み。

(ゴメンナサイ)
言えずただ笑みを返す。

戦いを強いておいて、
(ボクハホントウハアナタヲタタカイニマキコミタクナインデス)

役に立つから利用してるくせに、どの面下げてそんなこといえるだろう・・・。
言葉は自己満足に過ぎず意味を持たない。
口にするくらいなら僕は、この道をたどってはいけない。


「・・・もう少し休んでいくかい。」
「あ、いえ、いきます、すみません。」
「・・・あまり無理をするな。」
軽く眉をしかめた少年にあいまいに笑みをかえす。
疲れていないといえば嘘になる。
とみに最近は寝ているはずなのに疲れがとれずひどく体が重い。
食べているのに味が分からなかったり、ものにさわっても感覚がひどく鈍くなっていて、
冷たいとか熱いとかそういう感覚をたどるのもむずかしい。
痛覚が鈍くなるのは戦争中はたまにあると聞いた。
極度の緊張状態で感覚が麻痺していくのだと。
真の紋章を発動させるときに一瞬全身に走る苦痛だけは、例外だったが。

(つかれてるの、かな。)

それでもこのご時勢でその日の寝る場所を持っている者が言ってはならないと思う。
だれもが、だれもがきっと終わりにしたいと思っているはずだから、
待ち望んだその日が来るまでは僕は、どんな姿になっても立っていなくてはならない。

「大丈夫です。」

僕の心配をしなくてもいいように。
僕を咎めないように。
ぼくの心を探ったりしないように。

戦いを終わらせるまではどこまでも血に染まっても。

「・・・行こうか。」
声に頷く。
戦争中でなかったのならば、どんなにかよかったろう。
ああ、でもそうでなければ僕がここにくる理由もない。

どうか、僕を。










「約束」












「軍主殿、少しよるしいですか。」

今日の報告事項と今後の連絡を終えてシュウの部屋を出ようとして、呼び止められた。

「なんですか?」
なにも大きな事件はなかったはずだし、自分も咎められるようなことをした覚えもない。
「マクドール殿はどうされました。」
「戦いの後トランに戻られましたよ。」
「・・・申し上げにくいのですが、これからしばらく大きな戦いはありません。
 マクドール殿のお力添えは必要ないと思われます。」
「・・・トラン兵の士気が落ちているのでしょう?あの方は必要なのではないのですか?」
「そう、トランの兵も、故郷に帰りたいといいだすかもしれませんね。
 そもそも体力を消耗した戦いの後、いつも一人でお戻りになるのは危険ではありませんか?」 
「・・・うん・・」
「それにあなたもです。『軍主が』『頻繁に』『おなじ道を』『少人数で』通っている。
 しかもわが軍の手の届かない地帯です。それが何を意味するか分かっていただけますね。」


謀略を好むハイランド軍がこれまで手を出してこなかったのが不思議なほどだ。
軍師の嫌味な口調にむっとしたものの、返す言葉もなく、部屋を後にした。




約束だよ。君がぼくを迎えに来るんだ。

約束、ですか?

うん、待ってるから。






自室に戻り、ベッドに体を放り出した。
彼の笑みを思い出して、なぜか胸が痛くなった。

トランへいく名目を失ってしまった。
マクドールさんにとって、それはいいことに違いない。
もう、戦いに巻き込まなくてすむ。


ごろん、と寝返りを打つ。
なぜか眠れない。

早く知ってたら、もうきませんって言えたのに。
マクドールさん、ずっと待ちぼうけで困ってしまうかもしれない。

ぼんやりと部屋に目をやって机の上の一冊の赤い本が目に留まった。
バナーでマクドールさんが釣った魚、僕みたことがないっていったら、
あのあたりにしかいないんだよ、とかいって、持ってきてくれた本。
きれいなお魚の絵がいっぱい載ってる小さな図鑑。
マクドールさんが貸してくれたんだ。
返さなきゃ。

体をおこしてベッドを離れると、本を手に取った。

かえさなきゃ。


そして、ちゃんといわなきゃ。



いままでありがとうございました。
もう大丈夫ですから、だから



もう来ないと分かったら、あの人はどこかに行ってしまうかもしれない。
遠くに行ってしまって、二度と会えないかもしれない。

つ、と胸をなにかが刺す。



どうして。

彼の顔がこんなにもみたい。





会いたい。
















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