僕は走っていた。



これで最後だから。
おしまいにするから。

だからせめて一目だけでも。

別れたのはつい半刻ほど前だというのに僕はその衝動を抑えることが出来なかった。
薄暗い城内の階段を駆け下りると、広間にはビッキーがひとり残っていた。

石版の前のルックはもういない。
よかった。
おそらく今を逃せば誰かに阻まれてしまう。

「ビッキーさん!お願い!その、・・・ラダト、まで。」
バナーといえば止められるかもしれない。
ひとりで行かせたことを彼女が咎められるかもしれない。
ラダトなら、シュウの用事だといえば通ることができるだろう。
バナー行きの船が夕方に一便あったはずだ。

「はあい、いつもの、えっと、バナー、ね。」
眠そうに彼女が準備を始める。
聞き違えたのだろうか。いつもバナー行きをお願いしているから。
それとも、なにか察してくれたのだろうか。
騒ぎになる前に帰るつもりだから、そのほうが都合が良かった。
そうでなければ森を抜けてグレッグミンスターにつくのは真夜中になってしまう。
一目会って、お別れをいったら、すぐに戻ってくるつもりでいるのだから。

「お願いします。」




バナーの村を抜けて山道を走る。
トランは東にあることもあり、分け入った山の中はすでにどっぷりと日が暮れていた。
どんよりと雲の垂れ込めた空には、星も月も見えない。
通い慣れた道とはいえ、視界の悪さには閉口した。
おまけに空気が水分を含み肌にまとわりつく。途中で雨が降り出すかもしれない。
急ぎ足になる中、追いすがろうとする魔物もなく、1刻半ほどで行程の半分以上を過ぎた。

ロッカクの里への分岐を越えてもうすぐというころになって、ぽつりぽつりと雨が降り出した。

マクドールさんは濡れずに帰り着いたろうか。

雨はすぐに激しさを増した。返すための本は袋に入れていたが、このままでは濡れて台無しになってしまうと懐にしまいこんだ。

もう少し、もう少しだから。





すすり泣きを聞きとめて足が止まった。

脇道の木にもたれるように人が倒れていた。
そしてその脇で、小さな子供が泣いていた。

「どうしたの・・・?」
「お父さんが、お父さんが・・・魔物に。・・・ゆさぶっても起きないの。」
旅人と思しき二人はトランの服装だ。
子供はまだ小さいし、もし罠だとしても十分対応できるだろう。
いずれにせよ放っていくわけにもいかない。

慎重に男の様子を調べると、鋭利な傷は深くすでに息がなかった。
子供だけをつれていって、男はあとで街の人に弔ってもらうのがよいとは思ったが、遺体が魔物に喰われれば骨も拾えないかもしれない。
子供を引き離すのは気の毒に思えた。

もう少しで検問所がある。
そこまでなら運べなくもないだろう。

「お父さんのこと手当てしてもらおう。僕と一緒においで。」
雨に打たれずっしりと重い男の死体を肩口に担ぐと、片手で泣きじゃくる子供の手を取った。
ひやりと冷たい小さな手。

いったいどれくらいこの子はここにいたのだろう。

「お父さんとどこへ行くところだったの?」
「・・・わかんない、お父さんが・・・」
しゃくりあげながら男の子がが答える。
コウと同じくらいの年だろうか。
「どこからきたの?」
ぼくはこのくらいの年のころにはキャロにいて。じいちゃんと、ナナミとジョウイがいて。
ずっと一緒だと思ってた。誰かがいなくなるなんて思ってもいなかった。


魔物の気配がした。
死体の血の匂いのせいか、弱そうな子供がいるからか。
男をおろすと子供を背にかばう。
「ここ、動かないでね!」
敵にとびかかる。互いの武器がぶつかって水しぶきをあげた。

敵は5体。
3体をたおし、4体目にとどめをさす。5体目はその隙に子供めがけて突進した。
「きゃああ!」
怯えた子供の悲鳴。
護身用に持たされていたのだろう短剣を両手で構えてはいるものの、使ったことなどないのだろう。
そのまま祈るようにしゃがみこんでしまった。

僕は無我夢中で飛び込むと、間に割り込んで後ろ手にトンファーで防ぐ。
振り返りざまに体勢を整えて連続で攻撃を入れれば勝てる相手。



どすん、と鈍い音がした。

瞬間、何が起こったのかわからなかった。
全身を衝撃が走る。火がついたような痛み。
少年の短剣が、僕の腹部をついたのだ。
「ぼく、ハイランドから、きたの。」
少年はうっすらと笑っている。
息が詰まり、こみあげる吐き気。
かろうじて2撃目をはずしながら転がる。
「・・・っ」
痛みをこらえて体勢を立て直そうとしたが敵わず、膝をつく。


打ち付ける雨の中、泥だらけになりながら冷えていく自分の体。
傷からあふれる血だけが肌を生暖かく伝う。
「紋章を・・・・」


回復と全体攻撃を。
盾の紋章を握りこむ。



だが、紋章は発動しなかった。







本当は絵で描きたいが、100枚くらいになるもんなあ。というわけでつらつら書いてます。
努力してるんですが、文章での状況説明っつーのが苦手なので分かりづらいところはごめんなさい。



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