うずまきナルトは、困った癖を持っている。






 ぎゅっとする。






 「何でくっついたらダメなんだってば!」
 誰かどうにかしてくれ、このドベ。
 これ見よがしにため息を吐くと、それはますますこいつを煽ったようで。
 ナルトはとんでもなくムクレた顔でオレを睨み付けた。
 「なんだよ、サスケのケチ!」
 そっちこそ何だ、その言い草は。
 いきなり背中から抱きついてきやがるから、軽く振り払っただけだろうが。
 いくら人通りがないとはいえ道端だろう、ここは。
 だから唇尖らせて睨むんじゃない。
 キスするぞ、てめえ。
 「おまえ、オレのことキライなんだろ!」
 「ふざけたこと言ってんじゃねえ、このウスラトンカチ」
 「だってくっつかせてくんねーじゃん!」
 その短絡思考、マジでどうにかしろ。
 こっちがこれだけ我慢してるってーのに、図に乗ってんじゃねえぞ!



 
 とにかくナルトってのはめちゃくちゃスキンシップが好きな生き物だ。
 道を歩けば手を絡めてくる。
 しかも、自分から繋いでくるんじゃなくて
 『サスケ、手!』
 オレに向かって手を伸ばすだけ。
 こっちから握ってやらないと納得しねーんだよ、このガキは。
 家で巻物を読んでれば、隙あらば膝に乗ろうとする。
 しょうがないから膝を空けてやると
 『・・・寝心地よくない』
 文句を言いつつ思い切り体重かけて頭を乗せてきやがるから、しまいには足が痺れてくる。
 いっそ蹴落としてやろうかと思うこともしばしばだ。
 大体、オレは基本的に人と接触するのが好きじゃない。
 どうも近くに他人がいると鬱陶しくてしょうがない。
 他人といることの少なかった幼児体験のせいかもしれないが、それを言うなら全く大人に相手にされずに育った筈のナルトは、どういう原理でこんなくっつきたがりになったんだ。
 まあ、反動なのかもしれないが。
 それはともかく、極力密接な人間関係を避けてきたオレだが、何だかんだ言ってこいつだけは例外だったりする。
 ナルトに触られるのは不快じゃない。
 むしろ触らせろ。
 だけどところ構わずくっつくのはやめろ。
 色々差し障りってもんがあるんだ。
 そのことは事ある毎に口を酸っぱくして言ってる(時には実力行使もしている)のに、こいつの小さな脳みその中には中々留まっていてくれないらしい。
 ちょっと冷たい(オレにはそのつもりはない。これっぽっちも)態度を取ると、すぐ誤解して拗ねまくる。
 四六時中かまってやらねーと、後々までごねて、すげー厄介。
 本当ならこんな面倒な奴、お近づきになりたいタイプではない筈なんだが。
 しょうがないだろ、何しろ例外なんだから。
 何でかなんて、野暮なことは聞くんじゃねえ。


 「いいもん。そんならイルカ先生か、カカシ先生のとこ行くもんね。先生達ならすぐぎゅってしてくれるし、身体もおっきいから抱きつきやすいってばよ!」
 ちょっと待て。
 くるっと背を向けて走り出そうとする首根っこを掴まえる。
 ぐえっと蛙が踏みつぶされるような声がするが、それはこいつの自業自得だ。
 まったく、誰でもいいのか、おまえは!
 怒鳴ってやろうとして、やめた。
 ・・・誰でもいいんだよ、こいつは。優しくて思う存分構ってくれる相手なら。
 少々空しい気分になるが、それでも、あの人の好い中忍とか胡散臭い上忍とかじゃなくて、オレの所に真っ先に来るようになっただけでもどえらい進歩。
 ここまで来たら、きっちりキープしとかなきゃな。
 他のヤツの所なんか、もう行かせねえよ。


 「離せってば!!」
 じたばた暴れるナルトの襟首を掴まえたまま、近くの脇道に移動。
 まず普通の人間は入ってこないような場所だが、念のため周囲を確認する。
 右良し、左良し、上良し、斜め良し。ついでに下良し。
 全方位、オールクリアー。
 不審者なし。
 「はーなーせーっっっ」
 「うるさい」
 往生際の悪い奴をおもむろに振り向かせて、ぎゅっと抱き締める。
 突然の行為に、ナルトは驚いたように目を見開いて動きを止めた。
 びっくりすると固まってしまうこいつの悪い癖。
 はっきり言って、忍びにそれは死活問題だ。
 危険に遭う度硬直してたんじゃ、命がいくつあっても足りやしない。
 ・・・まあ、いろいろ都合のいい時もあるが。
 やがて、ゆっくりでっかい瞳が瞬いて、嬉しそうにオレの背中に腕を回してぎゅう。
 「へっへー、オレの勝ち!」
 そんなこと言いながら、ぐりぐりと胸に頭を擦り付けてくる。
 いかにも得意そうに、にぱにぱ笑いやがって。
 おまえ、オレがくっつくの嫌がるの、単にべたべたするのがキライだからだって思ってるだろう。
 だからオレを屈服させて、自分の思う通りにしたと思って、そんなに嬉しい?
 甘いんだよ、ウスラトンカチ。


 機嫌よくナルトが身を寄せてくるまま、背中に腕を回してきっちり拘束する。
 そのままの姿勢で待つこと数十秒。
 やがて居心地悪気にナルトがもぞもぞと動き出す。
 抱き着くのは好きでも、それがずっと続くとどうにも恥ずかしくなってきたらしい。
 だから後先考えて行動しろっていつも言ってるだろうが。
 「ん?うー・・・」
 困ったように眉間に皺を寄せて、さかんに身体を捻ってオレの腕から抜け出そうとする。
 それくらいの動き、計算済み。
 てゆーか、おまえいちいち単純すぎ。
 ここまでバレバレの動きばっかしてんじゃねーよ。実戦だったらどうするんだ。
 とりあえず、逃がすつもりはないけど。
 力で捩じ伏せるんじゃなく、身体を動かす余地は残しておいて、でも絶対に抜けだせないよう、逃げ出そうとする動きを利用して腕の中に封じ込める。
 囲う腕には力を込めて外せないように、けれどその力がナルトの身体には懸からないように微妙に加減して。
 これで、簡単には抜け出せないけど、拘束する力は強くない(ように感じられる)から本気で抵抗もできない状況の出来上がり。
 ほら、おまえ、すっげー悔しそう。
 「何で、全然力入れてないみたいなのに、逃げられないんだってば!」
 「逃げたいなら、離してくださいって言ってみろよ」
 「・・・誰が!」
 「だな。大体、おまえからくっついてきたんだし?」
 「う〜〜」
 顔を真っ赤にして、なおも諦め悪くナルトが身を捩らせる。
 ムカツクって顔に書いてあるのがモロ分かり。
 ったく、楽しいじゃねえか。
 「大体おまえ、くっつくのキライなくせに何で離れないんだってばよ」
 「時と場合と対象によるんだよ」
 ほんと、いつまで経っても覚えやしねえ。
 何時でも何処でも考え無しにくっついてなんかきやがったら、結局困るのはおまえの方なんだってこと。


 一度おまえに触っちまったら、そう簡単に離せるわけないだろうが。
 ついでに触るだけじゃ終われないってのも、きっちり教え込んでるよな。


 「しょうがねーから、また覚えさせてやるよ」
 耳元で囁いてやると、ナルトの真っ赤な顔が瞬時に青くなった。
 さすがにこれくらい直接的に言ってやれば、こいつでも理解できるのか。
 なんて変な所に感心していると、我に返ったかのようにじたばたと暴れ出す。
 今度は、全身の力込めてますって感じで本気出しまくってきやがるから、こっちも謹んで本気で押さえにかからせてもらうことにした。
 力で来られたら力で返すのはこれまた基本。
 で、力じゃオレに敵わないってのも実地で学習済じゃなかったのか?
 ほんと、脳みそ小さいよなあ。
 勝負はあっさりついて、ナルトは息を切らしながらオレの腕の中。
 チクショーなんて毒づきながら、すっぽり収まる小さな身体。


 結局おまえ、人の体温ってヤツがほんとに好きだから、自分から離れることができない。
 だから、オレがぎゅっとする時は、絶対に離してなんかやらない。


 というわけで、時と場合は選べよ。
 ついでに、対象はオレに限定しろ。


 ちゅっとキスをひとつ掠め取って。
 こんなトコではこれが限界。
 ぽんと音を立てそうな程真っ赤に熟れたトマトは、持ち帰って美味しく頂くことにした。





 それからしばらく、ナルトはオレに近付こうとしなかったが、それも予想の範囲内。
 どうせこいつはいつものように、数日もすればすっかり忘れて、何時でも何処でもくっついてくるに違いない。
 その度にかなり厄介ではあるものの、美味しいことも多々あるし。



 そういうわけで、うずまきナルトの困った癖は、実はオレは嫌いじゃない。








 書きながら思ったこと。 「このサスケ、何かムカツク」
 さよも同じ感想を持ったらしく、「あんたんとこの話、結局サスケばっかり良い目みてて腹立つ」と言われてしまった。
 ・・・私からみれば、さよのとこのサスケの方が良い目みてると思うけどなあ。
 実はさよ作「ぎゅう。」のサスケver.のつもりだったんだけど、かなり違うものになってしまいました。


腹立つ、なんて、いったかなあ。この話かなり好きなんだけど。
ついでにいうと、さよはひっつくのがめちゃくちゃ大好きです。動物占いだと羊です。むれていないとだめです。
ぎゅうぎゅうして、圧死してしまう(ことが羊はよくあるんです・・・)かもしれなくても、ぎゅうってします。
「なんで最初からぎゅうしてくんないのさー!けち!」というナルトの気持ちは、だから、とてもよくわかる・・・。(さよ)


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