森の中





目を、疑った。
森の中に、それは、落ちてた。


朝焼けの森に薬草を摘みにきた僕は、そのこと出会った。
何にも考えてない、無邪気な寝顔。
大の字に横たわり。無防備に。
まさか、何時間も?
追忍に追われ、絶えず身を隠す僕にとって、それは、あまりに無垢なものに見えた。
この里だって、治安は良くない。
行き交うのはすさんだ人々、搾取する悪党。
それなのに。
近づいても、起きる気配はない。
小鳥がつついて、起こしても。

霧の国で両親を失ってから、僕はこんな風に寝たことが、あったかな。

幸せそうな、顔。
おとぎ話のようにそっとくちづけて。
そうしたら、僕も幸福になる気がする。
この子の夢で。

このこ。
ザブザさんの敵、だ。やっと、思い当たる。
あまりにも、殺意がないから。
殺すとはいわなくても、しばらく動けなくしてしまおうか。
そう思って。
だけど、こんなに無防備なのでは逃げ惑うのよりも、始末しづらい。

すっと手を伸ばす。
そっと肩に手をやって。
「こんなところで寝てると、風邪引きますよ。」

ねぼけまなこで、起き上がる。
「・・・んー。あんた、だれー?」

緊迫感が、ないなあ。
たとえば連れて歩いたら、退屈しないかもしれない。
連れて帰りたいな。
こんなに疲れた、僕やザブザさんでも、安らぎを感じるかも。
でも。

はるかむこうに、微かに人の気配。
たぶん、このこの仲間。
きっと、心配して、きたんだろう。
ぐずぐずしてはいけない。
さあ、どうしよう。
「君には、大切な人がいますか。」いなければ、連れて帰ろう。大事にしてあげる。
にこっと、満面の笑み。残念だな。
「君は強くなる。」
だから。
「また、会いましょう。」

すれ違う。迎えにきた黒髪の少年と、視線が一瞬ぶつかる。
(きみなの?)
大切な人、は。
まあ、確かめる機会は、多分来るだろう。
そう遠くないうちに。

あのこには、敵わないかもしれない。
なぜか漠然とそう思いながら、僕は森を後にした。





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