はつもうで









 息を吐くとすぐに真っ白な煙になった。
 けれど目の前に広がる地面はもっと白く、晴れた日差しが反射して目が痛いほど。
 雪の朝は静かだ。
 それは雪が音を吸収しているためばかりではなく、この場には子供が二人きりいるだけだからかもしれない。
 さくさくと、積もった雪を踏みしだく音が二つ。
 よく注意しないと聞き取れない程かすかな足音が淀みなく前を行き、少し遅れて力いっぱい踏んばっているかのようなぎこちない足音が続いていた。
「サースーケー、まだ、か、ってばっ」
「もう少しだ。何だ、もう息が上がったのかよ」
「んなことねー! ちょ、ちょっと歩きにくいだけだって………うわあ!」
 柔らかい雪だまりを踏み抜いてしまったナルトが、悲鳴を上げてつんのめった。
 そのままだと頭から雪に突っ込んでしまうところだが、あいにくと、それをむざむざ見過ごす程サスケの反射神経も愛情も鈍くはない。
「つくづくどんくせえな、ドベ。だからオレの足跡の上を歩いて来いつったろう」
 電光石火の早業で振り向きざまにナルトを抱きとめるなんて朝飯前ではあるけれど、ついつい余計な一言を付け加えてしまうのがサスケの厄介な癖で。
 案の定、助けられたナルトは感謝するより早く怒って睨みつけてきた。
「ドベドベうっさいってば! それに、おまえの後ばっかついてくなんて、冗談じゃないってーの!」
 あかんべーと舌を出すナルトに、やれやれとサスケは肩を竦める。
 街中のように人通りが多く雪をかいてならしてある場所なら少しは歩きやすいのだろうが、今彼らがいるのは里外れの森の中だ。
 人の手が入っていない、どこまでも真白な世界に最初の足音を標す楽しみも最初のうちだけで、新雪の厄介さにすぐに閉口したナルトは、しきりに不平を訴えている。
「なあなあ、なんでこんな所まで来なきゃいけないんだってばよ」
「初詣でに行きたいつったのはてめえだろ」
 無神論者というよりは、神や仏があるのなら速やかに出て来い問い詰めたいことは山程あるぞ、な幼児体験を持つサスケとしては、正月元旦の初詣でなんぞまったくどうでもいいことだけれど。
 ごく最近やっとの思いでテリトリー内に引き込んだ恋人に、『初詣で行ってみたいってば』と期待に満ちた目で宣われては、反対する理由もない。
 といっても本音では、こんな寒い朝には暖かい布団の中で、もっと暖かい体温を抱き枕にぬくぬくしていたいのだけれど、それはまあ、帰ってから利子をつけて返してもらえばいいということにして。
「それに、人が来ない所がいいつったのもてめえだ」
 里の中心にある神社はおそらく今頃、芋の子を洗うような混雑を見せているに違いない。
 それに比べれば今向かっている古びた社は、場所柄もあって普段から殆ど訪れる者はなく、ましてこの雪では参拝者は皆無に近いだろう。
 実際、サスケもナルトも森に入ってからお互い以外に人間の姿を見ていない。
 にぎやか好きなナルトは、実の所人が多く集まる場所が苦手だ。
 サスケも人込みは好きでないし、特に最近では、ナルトといる時に余計な他人が近くにいることくらい鬱陶しいことはなかったから、その点では好みが一致していて問題ない。
「そりゃそうだけどさー、でもこんなきついなら最初から言ってくれてもいいじゃんよ」
 あっさりと切り返されて、ナルトは不満そうに頬をふくらませた。
「家を出る前に一応聞いたぜ。こんな雪なのに出かけるのかって。そしたらおまえ、何て言った?」
「………」
「『今は降ってないからへーきだってば!』って言ったよな?」
 とどめとばかり、にっこりと笑ってやったらさすがにナルトは沈黙した。
 そらみたことかと思ったが、ナルトの不満もまあ、分らないでもない。
 確かに、雪が降り積もったまま誰も踏み固めていない道の歩きにくさときたら、かなりのものだ。
 ただしそれも常人ならばという但書きつき。
 仮にも忍びの端くれならば、水面を歩く要領でチャクラを足の裏に流してやれば、土の上と変わることなく普通に歩けるはずなのだ。
 現にサスケはそうしているし、それが出来ない奴をドベといって何の差し支えがあろうか。いやない。
 ………なんて反論を、サスケは胸の中だけに留めた。
 そこまで言ってしまったら喧嘩になることは必至だし、せめて今日くらいは、なるべくそれは避けたいと思う。
 何しろ今日は、新しい年の一番最初の日なのだから。
 サスケは、つと手を差し出した。
「何だってばよ」
「手」
「だから手がなんだってば」
「握ってろ」
「はあ?! 何でおまえの手なんか握んなきゃいけないんだってば」
「どっかのドベがが雪の上ですっ転んだりしたら、風呂わかしたり着替え準備したり、結局オレが面倒なことになるんだ。だから大人しく握ってろ」
「………なんか、コケるって決まってるみたいな言い方………」
 断言されて、不満そうにナルトは唇を尖らせる。
 けれどいつもみたいに真正面からぎゃんぎゃん文句をつけるには、これまでの自らの所業を顧みて、さすがにためらうものがあるらしい。
 ぼそぼそと語尾を濁した力ない反撃を封じるように、サスケは更に言い切った。
「実際コケただろ」
「あれは、ちょっとバランス崩しただけだってば! たまたまなの!」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。どっちでもいいから、ほら、行くのか行かねえのか」
「どっちでもよくねー!」
「初詣で、行きたいんだろ」
「うー………」
 畳み掛けられて、ナルトは不満そうに唸り声を上げた。
 けれど。
「ナルト?」
 問いかける声に見上げた顔はうっすら赤く、その目はためらうようにサスケに向けられている。 
 他人には倣岸とすら映るかもしれない無愛想な表情と、辛抱強く差し伸べられた手をしばし見比べて。
「しょうがないから、握ってやるってばよ」
 叩きつけるような勢いでその手を掴むと、ナルトはぷいとそっぽを向いた。
 握りしめる力の強さにサスケは一瞬目を細める。
「分かりゃいいんだ、ウスラトンカチ」
「うわ何えっらそー! お願いしたのはそっちだってばよ!」
「ならついでにオネガイするが、オレを巻き込んでコケるなよ」
「だーれが………っとっと」
 身を乗り出した拍子にまたしてもつんのめったナルトを、これまた当然ながらサスケが抱きとめて、決まり悪そうな照れ笑いに、殊更呆れた顔を向けた。
「あー、わりい………」
「ったく、言った端から」
「うるせー、たまたまだってば、たまたま!」
「てめえのたまたまは、しょっちゅうって意味か」
 ぎゃあぎゃあと言い争いながら、再び歩き始める。
 しんとした空気にその声もいつしか消えて、同じリズムを刻む二つの足音だけが残った。








「サスケ、あけましておめでとってば」
「おめでとう」
「今年も、だいすきだってばよ」
「……………」
「あ、サスケ、耳赤い」
「うるせえ」
 覗きこむ青い瞳から、頑なに顔を背けようとしたけれど。
 悪戯めいて楽しげなその表情に逆らえるはずもなく。
 何よりも、初詣でに行く前から今年の望みを叶えてもらってしまったからには、お返しをしなければフェアじゃない。
「………オレも」
 それは雪に吸い込まれてしまう程に小さな声だったけれど、届けたい相手にはしっかりと伝わったようで。
 嬉しそうに笑み崩れるナルトの手を、サスケはしっかりと握りしめた。







 

 


 年頭にあたって、去年のことなぞつらつらと振り返ってみたんです。
 したら、更新の少なさもさることながら、両思いできっちり出来上がってる恋人同士なサスナル、とゆーのを殆ど書いてなかったのに気付いて、愕然としてしまいました。なんてこったい。
 よっしゃいっちょらぶいのを、と思って書いてみたんだけど…玉砕っぽい? 
 いや、そういえばうちの話って、デキてる人たちでも所詮この程度だったわ。うん、思い出した。
 どうやら、ぬる甘サイトとしてのアイデンティティーは健在だったようです(笑)。ダメじゃん。
 おそらく今年もこんな調子ですが、どうぞよろしくお願いします。
(05.01.07)




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