好きなあの子と喧嘩をした。
だってあんまり楽しそうに笑うから。
お日様みたいな笑顔を誰にでも惜しみなく振りまくから。
「へらへらしてんじゃねえよ、ドベ。みっともねえ」
つい零れてしまった言葉。
眩しい笑顔はあっという間にくしゃくしゃに崩れて。
「サスケのバカヤロー!!」
・・・ああ、また同じことの繰り返し。
それからあの子はずっと口をきいてくれなくて。
たまに向けられる顔は、機嫌悪そうなふくれっ面。
苛々してそわそわして、何も手につかない。
ここで問題です。
そんな状況で任務についたらどうなるでしょう。
ちなみに本日の任務は屋根の修理。
単純作業ですが、刃物を使います。
答え。
ロクなことになりません。
君が笑う 僕が笑う
「‥‥何やってんの」
しみじみと呆れたように呟いて、サクラはサスケの左腕に大きな絆創膏を貼った。
鉋代わりのクナイでざっくりと切った傷は結構深く、出血もそれなりで、上腕部をきゅっと縛って止血するのも忘れない。
忍びが刃物の使い方間違って怪我するってどうよ。
サクラの顔にはそんな言葉がしっかり書かれている。
まったくその通りだが、サスケとしても言い訳はあるのだ。
もっとランクが上の任務とか、でなくてもせめて演習とか、もうちょっと緊張感を伴う状況だったらこんなことはなかった筈。
黙々と木を削ってるだけなんて頭も体力も使わない任務だから、つい余計な事を考えて手元が疎かになってしまったわけで。
色々と言い分はあるのだけれど、それを口に出すことはしない。
めちゃくちゃ間抜けな失敗をしたのには変わりはないし。
第一、この恐ろしい程に聡いチームメイトには理由なんかバレバレだろうし。
案の定。
「この期に及んで、今更何であんなケンカしてるわけ? あなたたち上手くいったんでしょ?」
呆れ半分、心配半分といった様子のサクラから目を逸らして、サスケは黙り込んだ。
うちはサスケが思い人に告白したのは、ついこの間のこと。
人を好きになると胸がドキドキするとか、せつなくなるとか、そんなのウソ。
そんな可愛いもんじゃない。
あの子が他の誰かと一緒にいるのを見るたびに。
にっこり笑いかけるのを見るたびに。
腹の底からどろどろしたものが湧き出てくるようで、胃なんかキリキリ痛んで。
それがあんまり苦しかったから、玉砕覚悟で告白しました。
いっそ望みの欠片もない程に砕けちってしまえば、諦めつくかもなんて自虐的な発想で。
だから、
柔らかそうなほっぺたが真っ赤になって
大きな青い瞳がこぼれ落ちそうな程真ん丸になって
そして、ものすごく嬉しそうな初めて見る笑顔で
頷いてくれた時には
・・・死ぬかと思った。
「あんまり心配かけないでね」
手際よく包帯を巻きながらサクラが呟く。
「サスケくんとナルトがちゃんと仲良くしてくれないと、私、立つ瀬ないでしょ」
サクラがサスケを好きだと広言していたのはそう遠くはない昔。
うざいとしか思っていなかった彼女の想いが真剣であると悟ったのは、サスケも誰かを同じ目で見つめるようになったから。
たったひとりのうずまきナルトを。
交わることのない想いに決着をつけたのはサクラ。
泣き腫らしたような目で、いっそ爽やかな程に味方になると宣言した。
「さ、おしまい。でもまだ出血止まってないみたいだから、しばらく傷口は心臓より上に上げててね」
「・・・悪い」
綺麗に笑って立ち去る少女に、さんざん迷って、結局サスケはそれだけ口にした。
女は強いとサスケは思う。
自分には到底できない。
好きな相手を諦めて、他の誰かとの幸せを願うなんて、死んでも無理。
だって、曲がりなりにも成就してお付き合いなんてものをしている今でさえ、視線ひとつ他に向けられるだけでこんなに苦しいのに。
結果はどうあれ、告白してしまえばこんな感情とはおさらばできると思っていたのに、むしろ大きくなるばかり。
あの子は相変わらず誰彼構わず懐きまくって、ついつい八つ当たり。
それで喧嘩になってしまっても、自分だけを見てる眼差しに優越感なんて、これじゃ進歩ねーじゃんと自分で自分にツッコミ入れたくなるけれど。
思いがけず手の中に落ちてきた宝物は大切すぎて。
仕舞い込んで誰にも見せたくないと思い始めるのに時間はかからない。
だけどどうしてそんなこと言える?
誰も見ないで。
自分だけを見て。
なんて女々しい感情、あの子には知られたくない。
・・・そんなカッコワルイ。
うちは家の躾は大層厳しくて。
男子たる者、それ以前に忍びたる者おいそれと感情を出すものではないなどと、物心つくかつかない頃から叩き込まれたら、気持ちを隠すのばかり上手くて表現するのはとんと苦手な子供が自然とできあがる。
ナルトに告白なんてやらかした時点で、サスケの許容量はオーバーヒートだったようで。
この上、ヤキモチ妬いてますなんて素直に言える程HPは残ってない。
「情けねえな」
白い包帯を忌々しげに睨み付けて、サスケはため息を吐いた。
サクラの忠告に従って、怪我した箇所が心臓より上にくるように中途半端に片腕を上げた不自由な体勢。
開いた指の間から零れる陽射しの向こう、太陽よりも眩しい金色が目を射た。
「サスケ」
実を言えばナルトの気配には随分前から気付いていた。
治療をしている間中、少し離れた所からこちらを伺っていた気配。
サクラも当然気付いていて、だからこそ治療を終えるとさっさと立ち去ったのだろう。
普段なら有り難い配慮も、今現在は感謝する気になれないが。
ぶっきらぼうな返事に怯んだ様子も見せず、ナルトはサスケの隣に腰を下ろした。
「手、貸せってば」
「あ?」
「いいから!」
言いながらナルトはサスケの腕を掴むと、自分の肩に置かせる。
「そのままだと疲れるだろ。血が止まるまで貸してやるってばよ」
そっぽを向く顔は、相変わらずふくれっ面。
眉間には似合わない皺なんか刻まれていて。
見ているうちに苛々が募って、サスケは腕をふりほどいた。
「いらねえよ。それよりさっさと任務に戻れ。大体、んなシケた面見せられてりゃ治るもんも治らねえよ」
こんなみっともない姿見られたくないし、ふくれっ面のナルトを見ているのも辛い。
・・・そりゃ、どっちも自業自得なんて分かっちゃいるけど、原因が目の前にいてはいつまで経っても浮上できそうにない。
だから、意図的に普段よりもキツイ口調で、キツイ目線で言い放つ。
そうすれば、きっとナルトは怒って行ってしまうだろうから。
後のフォローはものすごく大変だろうけど、とりあえず考えないことにして。
案の定ナルトはサスケを睨み付けると、がばっと立ち上がった。
「・・・つっ!」
次の瞬間左腕を襲った衝撃に、サスケは辛うじて声を殺す。
ナルトの容赦ない平手打ちに真新しい傷口は少しばかり開いたようで、じわりと包帯が赤い染みを作った。
「・・・てめえ、何す・・・」
怒鳴り付けようとした言葉は、途中で消えた。
加害者のくせに自分の方が痛そうな顔で、ナルトは右手を握りしめている。
「にやにや笑ってるのみっともないって言ったのおまえじゃんか! だからオレ、いっぱい真面目な顔してたのに、そしたら今度は『シケた面』? おまえ、結局オレが何やったって気に入らないじゃんか!・・・じゃあ一体どうすればいいんだってばよ!」
一気に言い終えると、堪えかねたように大きな瞳から涙が零れる。
ぼろぼろと零れ落ちる雫に本人もびっくりしたようで、慌てたように頬を擦ると悔し気に顔を歪めて。
「もう、サスケなんか知らないってば!」
叫ぶなり、くるりと背を向けた。
「ナルト!」
ようやく我に返ったサスケは、とっさに腕を掴んで引き止める。
すると案外抵抗なく、走り出しかけていた身体は立ち止まり。
けれど、振り返った顔はきっと唇を引き結んだままで、ちょっとつつけばまた泣き出しそうな程に目元が潤んでいる。
怯みそうになる心を押さえ付けて、見上げる瞳をじっと見返した。
やたら喉が乾いて、ただでさえ悪い目付きはますます剣呑になって、けれどそんなこと気付く余裕などとうになく。
「オレは」
言わなきゃいけない。
意地や見栄なんて気にしてる場合じゃない。
好きな子にこんな顔をさせたままなんて、その方がずっとカッコワルイ。
誰にでも笑うナルトに苛ついて。
自分だけのものにならないのが悔しくて。
だけど、こんな顔を見たかったんじゃない。
させたかったんじゃない。
「オレ、は・・・」
それでも。
長年自分の感情を紡ぐことなんて殆どなかった口は、何かの呪いのように思うように動いてくれなくて。
空しく口を開閉させるばかりのサスケから、ナルトはふいっと視線を逸らした。
「もういいってば」
諦めたような小さな呟き。
「オレ、おまえに好きって言われてすげー嬉しかった。だから、いっぱいはしゃいじゃったんだけど、おまえってばうざかったんだな。・・・いいってばよ、もう」
その瞬間、サスケの中で何かがキレた。
「違う!」
悄然と項垂れる小さな身体を思いきり引き寄せる。
驚きに振り仰ごうとする黄色い頭を自分の肩にぎゅうっと押し付けて、顔を見ないようにして。
「おまえの方こそ、オレの他に好きな奴なんて掃いて捨てる程いるだろうが! いつでもどこでも誰彼構わず笑いかけるし、ひっつくし」
大きく一つ息を吸う。
「・・・オレは、おまえとしか居たくないのに!」
言ってしまった。
初めて告白した時よりも恥ずかしいことを言ったような気がする。
腕の中のナルトはやけに静かで、身動き一つしなくて、不安が募っていく。
・・・やっぱり、遅過ぎたんだろうか。
それともウスラトンカチにはこんな言い方じゃ通用しなかったか?
しかし、これ以上どう言えっていうんだ。
「サスケ、離してってば」
聞こえてきた台詞に一瞬心臓が止まりそうになる。
「ちょっと苦しいってばよ」
どうやらぐるぐる考え込んでいるうちに抱き締める力が強くなっていたらしい。
慌てて腕の力を緩めて、けれどその身体を離すことはせずに。
だって、離したら逃げて行きそうで不安だったから。
少しだけ緩んだ腕に、小さく息を吐くナルトは俯いたままで、その表情は見えない。
自分から覗き込む勇気はなくて、どうしようとちょっと途方に暮れた時。
「何しやがる!」
いきなり伸びてきた腕がサスケの両頬を掴んで。
そのままぐにっと引っ張るから、思わず身体を離してしまう。
けれど今度は反対にナルトの方から身を寄せてくる。
「サスケって、実はバカ?」
背中に腕を回してぎゅっとしがみついて、にっこりと笑いかけ。
「オレだって、サスケといるのが一番ウレシイに決まってるってば!」
降参。
あっさり繰り出された最終兵器になす術なんてあるわけない。
まったくこの子はいつだって、呆れるくらい自分の感情を垂れ流し。
忍者としてそれはどうかと思うし、時々ムカツクこともあるけれど。
だけどそのまっすぐさが、本当はいつだって眩しくて、羨ましくて。
それが自分に向けられたりしたら、バカみたいに有頂天になってしまう。
思わず緩んでしまう表情が、片手じゃ押さえ切れない程に。
慌てて顔を逸らしてみてもどうやら無駄な足掻きらしく、しっかり目撃されてしまったようで。
「サスケ、変な顔〜」
「ほっとけ!」
「でもさ、その方がいいってばよ」
そしてまた、惜しみなく向けられる笑顔。
ああ、もう何でもいい。
この子が笑ってくれるなら
バカでもヘンでも何だって。
だから、もう両手をあげて全面降伏してやる。
「 」
抱き寄せて、耳元で小さく呟く。
まだ1度しか言ったことのない言葉。
ナルトはびっくりしたように目を見張って。
お日様のように晴々と笑った。
せめて、この子が一番幸せそうに笑うのはオレの前であるように。
オレが幸せに笑えるのはこの子の前だけなんだから。
サスケにとってナルトはonly、ナルトにとってサスケはbest、な存在じゃないかなと思います。何となく。
ヘタレサスケ推進委員会様に投稿させていただいたんですが、他の方々の悦作品に比べてうちのだけへタレのレベルが違うっていうか、単にガキっちいだけじゃん!なサスケになってしまいました。とほほ。
まあ、12歳(推定)ならこんなもんでいい・・・のかな?
(ヘタレサスケ推進委員会は現在閉鎖されています)
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