A Day in the Life







 「ダメだ」
 「何でっ!」
 「当たり前だろうが」
 「だから何でだってばよ!」
 ぼろアパートの一室から、けたたましい声が聞こえてくる。
 食ってかかるような甲高い声と、それよりほんの少しトーンの低い平坦な声。
 開け放された窓の外には爽やかな一日を感じさせるような青空が広がり、吹き抜ける風も心地よい。
 が、部屋の中ではそれに相応しからぬ言い争いが続いていた。
 「説明なんてする必要あるか」
 「言わなきゃ分かんねーだろ!」
 にべもなく言い切ったサスケを、ナルトはきっと睨み付けた。
 「だって約束してたじゃん! 今日は一緒に遊びに行くんだって。オレ、ずーっと楽しみにしてたのに・・・」
 中忍になってからサスケもナルトも任務で忙しくて、スリーマンセルだった昔みたいに毎日会えるわけじゃない。
 だから、一緒に過ごせる休日を、指折り数えて待っていた。
 やっと迎えたこの日、朝一でサスケが迎えに来てくれて。
 「何だ、寝坊してなかったのか」
 「ちゃーんと起きてるってばよ」
 久しぶりに会ったサスケは相変わらず無愛想で口が悪くて、それでも、ほら行くぞと手を差し出してくれた。
 そこまでは順調だったのだ。
 なのに、手をぎゅっと握った瞬間、サスケの顔がさっと変わった。
 しばらく無言だったかと思うと開けかけたドアを閉め直し、ナルトの手を取ったまま室内に逆戻りして。
 「どうしたってばよ?」
 「今日、出かけるのは止めだ」
 そうしてサスケは、戸惑うナルトに向かってあっさりと予定変更を告げたのだった。




 「ぜってー遊びに行ってやるってばよっ!」
 「ダメだつってんだろうが!」
 だけど、いきなりダメと言われてもナルトとしては到底納得できない。
 双方一歩も引かず、不毛な睨み合いは延々と続いていた。
 「何度も言わせるな、ウスラトンカチ」
 元々表情に乏しいサスケに本気で睨まれると、ナルトといえども思わず引いてしまいそうになる。
 むしろ、常日頃サスケがナルトにそんな冷たい表情を見せる事など殆どなかったから、かえって耐性がついてないとも言えるが。(ちなみにナルトと親しい面々は、思いっきり免疫が出来ているらしい。)
 それでも、怯みそうになる心を押さえ付けるようにして、ナルトはサスケを睨み返す。
 だって、本当に楽しみにしていたのだ。
 ものすごく久しぶりのサスケと一緒の休日。 
 何をしようかな、どこに出かけよう、一緒に修行なんてのもいいかもしれない。
 色々考え過ぎて昨晩はとうとう眠れなかったくらいなのに、いきなり中止なんて冗談じゃない。
 しかも何の説明もナシなんて、横暴過ぎる。
 闘志満々で、玄関までの脱出ルートに立ち塞がるサスケの隙を伺っていると。
 「とことん馬鹿だな、おまえ」
 いきなりトンと胸を押された。
 それは決して、拳を入れられたわけでも秘孔を突かれたわけでもなく、ごく軽く手の平で押されただけだったのだが。
 「あれ?」
 その瞬間、何故だか目の前がぐるぐる回り始めて、立っていられない程足元がふらついて。
 真後ろにあった椅子に、倒れるように座り込んだ。
 倒れ込んだ拍子に椅子ごとひっくり返そうになって慌てて椅子の背にしがみついた所を、伸びてきたサスケの腕に抱きとめられる。
 「何すんだってば!」
 咄嗟に突き飛ばそうとするナルトを押さえ込んで、サスケはとことん呆れたと言いたげに口を開いた。
 「オレは何もしてねーよ。これくらいで立ってられない程熱でフラフラなのはおまえだろ」
 



 
 「熱?」
 思ってもみなかった事を言われて、ナルトは慌ててぺとぺとと自分の身体を触ってみる。
 確かに少し熱いような気がするけれど。
 それに、何となく身体がふわふわしてだるいような気もするのだけれど。
 「寝不足だからじゃねーの?」
 「このウスラトンカチが!」
 本気の怒鳴り声にナルトはうひゃあと身を竦める。
 「すぐ怒るってばよ〜」
 「怒ってねえよ」
 そっと窺うと上から見下ろすサスケの黒い瞳と目が合った。
 ひどく険しい顔とキツイ目線。
 「心配してるんだろうが。それくらい分かれ」
 吐き捨てるような言葉も、やっぱり怒ってるようにしか聞こえない。
 けれど、そっと額に当てられたサスケの手はひどく優しかった。
 あまり体温の高くないサスケの手はいつもひんやりしていて、触れられるとひゃあっと飛び上がってしまう事もあるのだけれど、何故か今は。
 (気持ちいいってば)
 頭の芯がすうっと静まるようで、心地よさに思わず目を閉じる。
 知らず額の手に凭れかかるような体勢になっていて、サスケが眉を顰めたのにナルトは気付かなかった。
 「やっぱ熱いじゃねえか。それくらい自分で気づけよな」
 額に当てた右手はそのままに、サスケの空いた左手がつと移動する。
 「・・・うひゃっ」
 「37度後半くらいか。脈も速いな」
 ナルトの首筋に手を当てたサスケのスカシ顔がすぐ目の前にあって。
 カーッと一気に顔が熱くなったのは、熱の所為だけじゃないとナルトは思う。
 「ね、熱はともかく、脈はおまえが変なトコ触るからだってばっっ」
 「脈拍測るには首が一番だろうが」
 「だからっていきなり触られたらびっくりするだろ!」
 「これくらいで驚くんじゃねえよ。てか、いつも触ってるだろ。こんな風に」
 頸動脈に触れていた指が一旦離れる。
 けれどまたすぐに戻って来て。
 今度は指先だけが触れるか触れないか程度に、首筋の皮膚をつうっと滑った。
 「やっ・・・ちょっ、やめろってば、病人に向かって!」
 背中に走るぞくりとした感触に、ナルトはサスケの手を振り払おうとじたばた暴れた。
 と、予想に反してあっさりとそれは離れていき、代わりに。
 「やっと自分が病人だと認めたな?」
 ニヤリと見下ろす意地悪そうな顔。
 (し、しまった!)
 嵌められたと今更ながらにナルトは臍を噛んだ。
 「分かったら観念してきっちり休め」
 「ヤだってばよっ」
 けれど、このままサスケの言う通りにするのはあまりにも癪に障る。
 生来の負けん気と外への未練がナルトに必死の反撃をさせた。
 「熱あるとしても、今は何ともねーもん。全然元気だし普通に動けるし。だから、遊びに行っても多分大丈夫だってば」
 「んなわけねーだろうが。今現在熱があるっつーのに出歩いたりなんかしたら、ますます悪化するに決まってる」
 「オレが大丈夫つってんだから、大丈夫なの!」
 「おまえの大丈夫が大丈夫だった覚えはあまりねーぞ」
 「う〜〜〜」
 けれど、反撃は悉く返り討ちに合ってしまって。
 それでも必死に言葉を探していると、サスケが大きくため息を吐いた。
 「何でそこまでして外に行きたいんだ?」
 「・・・だって」
 どこか困ったようなサスケの声に、ナルトはしゅんと俯いた。
 「こんないい天気であったかくて気持ち良さそうなのにうちの中いたってつまんないってば。それに・・・」
 「それに?」
 「・・・オレ病気だったら、おまえ帰っちゃうじゃん・・・」
 せっかく会えたのに。
 とてもとても久しぶりに、サスケとゆっくり過ごせる筈の日だったのに。
 なのに熱くらいで台無しになってしまうなんて。
 しかもサスケはどうにかして予定を中止にしようとしているし。
 (サスケはオレ程楽しみにしてなかったんだってばよ)
 悔しくて、情けなくて、じんわりと目元が熱くなった。
 「・・・も、いいってば。大人しく寝ててやるから、おまえとっとと帰れってばよ」
 一息に言い終えると、サスケに背を向ける。
 うっかり目尻から零れそうになった雫を慌てて袖で拭いていると、
 「誰が帰るか」
 背中からふんわり抱きしめられた。
 「看病くらいさせろよ、ドベ」
 思わず振り返ると、拗ねたようなサスケの顔がそこにあって。
 とても珍しいものを見たような気がしてマジマジと見つめていると、何だよ、とサスケがぶっきらぼうに呟いて、無理矢理顔を前に向かされた。
 「え、えと、看病って、おまえがオレの?」
 「他に誰がいるんだ」
 「でもうつったら困るってばよ。それに、おまえの休みもつぶれちゃうし」
 「そんなんどうでもいいだろ。ったく、おまえホントに馬鹿だな」
 サスケの腕にぎゅっと力が籠り、耳元に吐息がかかる。
 「一緒にいたいのが自分だけなんて思ってんじゃねえよ」
 降って来た声に驚いてもう一度振り向こうとしたけれど、ぎゅうぎゅうに抱きしめられて動けない。
 だけど、胸の前で交差するサスケの腕にそっと触れてみれば、明らかにいつもより体温が高いようで。
 「・・・サスケ、帰らないってば?」
 「ああ」
 「オレと一緒にいたい?」
 「・・・ああ」
 「・・・じゃあ、いいってばよ」
 返事は返って来なかったけど、ほっとした気配が抱き締める腕を通して伝わって来る。
 その腕にぎゅっとしがみつくようにして、ナルトは笑った。




 「37度8分」
 正確な体温が分かってしまうと、途端にものすごく気分が悪くなってくるから人間の身体とは不思議なもので。
 ふらふらになってしまったナルトをサスケは軽々とベッドまで運んでくれて、パジャマを出して来たり汗を拭いてくれたり、そりゃ甲斐甲斐しく面倒を見てくれた。
 それはいいのだが。
 「これで遊びに行こうなんてまったくウスラトンカチだな。おまけにラーメンしかねーし氷も作ってねーし。薬も期限切ればっかじゃねえか」
 「病人相手に怒るなってばよ・・・」
 「怒ってねえって何度言わせる!」
 いや、それ怒ってるし。
 居てくれるのは嬉しいのだけど、こうお小言ばかりじゃやっぱりムカついて。
 ぷうっとナルトは頬を膨らませた。
 「そんな気に入らないなら帰ってくれていいってば。オレ一人で寝てるし、何かあったらイルカ先生呼ぶってばよ」
 「他の奴に見せられるか、勿体無い!」
 「もったいない?」
 訳の分からない言葉に首を傾げていると、サスケは慌てたように立ち上がった。
 「とりあえず買い物行ってくる」
 「なあなあサスケ、もったいないって何だってばよ」
 離れようとするサスケの裾を引っ張るナルトには、今の自分がどんな様子をしているかなんて全く自覚がない。
 熱で赤くなった頬、潤んだ瞳、更には少し舌っ足らずな喋り方で。
 「サスケってば〜」
 ため息を吐いて、サスケはナルトの上に屈み込んだ。
 ほんの一瞬だけ重なる体温。
 「・・・・!」
 「こーゆー事、他の奴がしたくなったら大変じゃねーか」
 言いながら、サスケはそそくさと立ち上がって玄関に向かう。
 「すぐ帰ってくるから、大人しくしてろよ」
 それでも、しっかりと釘を刺す事は忘れずに。
 パタンと閉じたドアを、ナルトは両手で唇を押さえながら見つめた。
 「こんなの、サスケしかしないってばよ・・・」
 さっきより熱が上がったような気がするのは、気のせいじゃないかもしれない。
 「悪化させてどうすんだってばよ、バカサスケ!」
 悪態をつきながら、ナルトは布団に潜り込んだ。
 口調とは裏腹に、幸せそうに綻んだ表情で。 










 

 さよがべりきゅーなサスナル絵を描いてくれたので、そのイメージで書いた話です。心配してても仏頂面のサスケ、よいわーv 絵に合わせて話を作るのは結構楽しかった。イメージ壊したら申し訳ないけど。
 絵が普段よりすこーし大人っぽいので、話の方もちょっとだけ年令上げてみました。とりあえずサスケ、拗ねるナルトのあしらい方を多少は取得したらしい。サスケのくせに生意気な(笑)。
(あゆりん)


気の向くまま落書きして、あゆりんに見せる事があります。
あゆりん妙にツボにきてくれたのは嬉しいのですがこのレベルで挿絵というのは気が引けますよ。
でも世話焼きサスケは好きなのでこんなお話を書いてくれるととても嬉しい。(さよ)




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