風船



閑静な住宅の並ぶ、木の葉の里の西のはずれ。
「・・・どこまで続くんだってば・・」
どこまでいっても、高い塀のつづく、大きな屋敷。
やっと見つけた正門から、声を張り上げてみる。
「すみませーん、誰かいませんかー!」
しばらく返事を待ったが、どうにも人の気配はない。
「俺ってば怪しくないやつだから、ちょっとだけ、入りますってばよー!!」
そういって、たたたっと、門の中に入り込む。
(えー、っと、確か、あの辺の・・・あ!)
見つけたー!と思った瞬間、
足に何かがかかって、体全体がずんっと勢いよく沈み込む。

「うぎゃあああああああ!!!」


(・・・うるせえ・・・・)
惰眠をむさぼっていたその家の住人が、頭を掻きながらめんどくさそうに庭に降りてきたのは、それからしばらく経ってからだった。

「出せー!早く助けろってばよー!!」

「・・・うるさい。騒ぐとこのまま埋めるぞ!」
仏頂面のままそう言い放つと、穴に落ちた子供は、げ、という顔をして、ぴたっと止まる。
暗い地中にいるというのに、陽のあたる場所にいる自分よりも明るく見えるのはその金色の髪のせいだろうか。
じいっと見上げてくる大きな青い目、年のころ10から12位の、小さな子供。
(ガキくせえ奴だ。)
同じ年頃のくせに、黒髪の少年はそんなことを思ってしまう。まあ、自分があまり子供らしくないことは承知しているが。

それは背丈より少し高いが反り返っていてのぼれない仕掛けになっている。
やれやれ、と背を向けて母屋に向けて歩き出すと、また、きゃんきゃんとわめき出した。
「・・・今、縄をもってくるから。」
「ちゃんとそう言えっての!」
人のうちに不法侵入して自業自得だというのに、なにをえらそうに。
ちょっと頭にきたから、わざとゆっくり縁側をあがって部屋に戻る。
(縄ばしごがあったのはあの部屋で、それと、・・・。)

「死ぬかと思ったー」
「そのくらいで死ぬわけねえだろ」
「あな、埋めとけよ。おまえ落ちたら、怪我するぞ」
あんなもんに誰が引っかかるかよ。ウスラトンカチ。
自分の家に仕掛けてあるトラップに自ら引っ掛かるほど間抜けではない。
「・・・それより、てめえ何の用で人ん家のなかうろついてたんだ。」
「あー!!そうだった!!」
いちいち煩い奴だ。耳元でわめくんじゃねえ。
「あれ、取らせてってばよ。」
そういって指差したのは高い木の枝に引っかかって揺れている白い風船。

ずいぶんと高い場所にかかったものだ。
見上げていると、
「そーゆーわけで!」
答えも聞かずに木のほうへ駆けていき、ひょいひょいと登り始めた。
なんとかと煙は、とはいうが、存外木登りは下手ではないな。なんてことを思ってしまう。
すぐに風船のかかっている細い枝までたどり着き、手を伸ばす。
一瞬、他の何かに気を取られたようで。

「わ!」
「ばか・・・・!」

バランスを崩して頭から落ちる。走って木を駆け上るが、間に合うはずもなく。
どうにか落ちる途中のそれを捕まえると、全身で庇いながら地面に落ちた。

「・・・・っつ・・・」
「・・・・んの、馬鹿・・・」
「だ、大丈夫か?その・・・」
「平気だ」
心配そうに覗き込んでくる瞳がうざい。
痛くないわけではないが、とっさに受け身を取った。骨は折れていない。

「・・・おまえこそ、怪我はねえかよ」
「あ、うん、平気」

そういう手にはしっかりと、風船のひもが握られていて。
「へへー、無事だったー」
嬉しそうに、得意そうに笑う。
そんなたいそうな代物でもあるまいに。まるで宝物みたいに。
「ちょっと待っててな、これ、届けてくるから。」
そういって、走り出そうとする。また、トラップにかかられても面倒だから、引き止めた。
「どのあたりだ?」
「ぐるーっといって、あっちずっといったとこ。」
考えて、ああ、東側の近くに公園があったな、と思い至る。
「近道させてやるからついてこい。」
トラップのないところを選んで、東側の塀までたどりつくと、ぐい、っと抱き上げた。
「わあ!ななななにするんだってばよっ!」
塀の高さは内側からでもかなりなもので、心得のないものが登るなんて無理。
抱き上げたまま塀の上まで飛び上がると、目を丸くした。
「すげー!おまえ、すげー!!」
それには答えずに、そのまま道のほうに降りると、腕からするりと抜け出して元気よく公園の方に走っていく。
遠目でそれをみていた。
砂場で遊ぶ子供に風船を渡そうとする。嬉しそうにする子供。ほほえましい光景だ。
すると、母親だろうか、大人が近づいてきて。
礼でもいうかと思ったら、少年の手をはじき、短く罵声をあびせ、小さな子供の手を引いて立ち去る。


風船は今度こそ。高く、空へ飛んでいった。


(なんだ・・・?今のは・・・)

しばらくその場に立ち尽くしていた金髪の少年はやがてくるりと背を向けて、うつむきながら自分に向かって歩いてくる。
近づいてくる姿にどう声をかけたものかと思案していると、不意に顔を上げてにいっと笑って見せる。
「ふーせん、とんでっちゃった・・・わりい」
瞬間、無茶苦茶に腹が立って、あの母親に対してなのか、目の前の精一杯強がる笑い顔になのか、分からないけど。
「おまえ、ハラたたねーのかよ!」
「・・・かんけー、ないだろ。」
そういうと、ぎゅっと下唇をかんで、無言で睨みつけて来る。
何で嫌われてるのかなんて、知らない。オヤガイナクテ ロクナ ソダチカタヲ シテ イナイ、と皆が言う。
オマエナンカ キエテシマエ。そんな目で忌み嫌う大人たちが。どうしたら認めてくれるのかなんて知らない。
そんなのは、だけどいつものことで、だからちっとも平気だけれど、人に言われるとやっぱり悔しい。
悔しいけど、どうしようもなくて、泣いたってだれも慰めてくれやしないから、
傷ついてなんかいないのだと、自分のために笑っているしか。
それしか、ないのに、今さら。
ぽつり、呟く声。
「・・・確かに俺には関係ないな。」
「・・・」
ずきん、とした。初対面の奴に関係ないって言われるのなんて当たり前なのに。
「じゃ・・帰る」
訳もなくがっかりしてしまって、帰ろうとすると、ぐいと襟を掴まれた。
「お前が言ったんだろ?」
「・・・・」
「関係ないって、・・・お前が・・」
押し殺すような声と。睨み付ける黒い瞳がやけに真摯で、戸惑う。
何で怒ってるのか、分からない。傷ついたような目をして。
だけどなんでお前がそんな目するんだってばよ!

「俺がいったい、なにしたってんだよ!離せよ!」
そういって、襟を掴む手を引き離すと、
「お前なんか・・・」
嫌い、といおうとして言えなかった。
言っちゃいけない気がした。
どうしていいか分からずに、駆け出す。

なにを、俺は・・・。
あんなガキに、何でこんなに腹が立つんだよ!

なぜだか近道をして戻る気になれず、家の外周を歩いて正門から家に入ると、先ほど縄ばしごを取りに上がった縁側へ向かう。
片づけねえとな・・・。縄と、片隅に一緒に置いてあった薬箱を持って上がる。

「先に手当てしてやればよかったな・・・」
自分も数カ所の擦り傷を作っていたが、薬を出す気にもなれず。
ぺろり、と面倒くさそうに腕の傷を舌で舐めると、少年は部屋の奥へ戻っていった。







 実は6000キリリク(どっちかが忍者じゃないサスナル)のボツ案でした。
 私的にはこのサスケは忍者じゃなかった。の、だ、が。
 「・・・忍者でもいけるよ。」(byあゆりん)な一言でボツに。(さよ)

 だって、この話だとサスケが忍者じゃない意味がないじゃん。それにしてもサスケ、初対面でお姫様抱っこですか?さすが。(あゆりん)



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