ゴオン、ゴオン・・・・
地の底から低く低く唸る様な風が吹き上げる。

街のはずれの一角に現れた、たくさんの赤い鳥居。
幾重もの鳥居の奥にたちこめる闇と、確かに感じる尋常でないものの気配にサスケは息を呑んだ。
(・・・なんだこれは・・・)
その気だけで、吹き飛ばされてばらばらになってしまいそうな威圧感。

「あー、先生おなかすいたってばよー。」
背後からの緊張感をそぐ能天気な声にがっくりとする。
「我慢しなさい、ってか朝ごはん食べたでしょ!」
「なんだけどさー、なんかこの前もすっごいおなか減ったんだってばあ・・・」
「泣き言いわないの!仕方ないわね、これ食べなさい。」
「あ、団子!アンコ先生あんがと!」

もしゃもしゃと団子を食べるナルトを振り返ってサスケは思う。
(・・・・・・・・大物なのか・・・ただのドベか・・・)
ナルトはいつもの格好に火影から手渡されたという二振りの剣を担いでいる。
それは子供が持つには大きく、どうみても似合うとはいいづらい。

「じゃあ、とりあえず確認しとくけど!」
そういってアンコがちらりとあたりを見やると数人の人影が降りてくる。
「今回も短期戦!予定は12時間以内!それ以上長引いたときは速やかに引く!」
総勢15名ほどの暗部。
「あとは、この前と一緒ね。」

ざ、と鳥居をくぐるアンコの表情が固くなる。
皆も続けて入っていく。すでに戦闘準備にはいったのだ。
びりびりと肌に痛いほどの殺気。

そして。鳥居を一つくぐるたびに増す邪気に満ちた獣の気配。
「サスケ」
ナルトがぎゅうと袖を掴む。振り返るとにっと笑ってみせるナルトの顔。
「俺がついてっからダイジョーブだってば!」
一瞬見抜かれたようで、かっとなる。
「うっせえよ、・・・お前こそ・・・」

「死ぬな」

振り絞るように、サスケはただひとつの願いを口にする。




いくつもの、いくつもの鳥居をくぐる。
どのくらい歩いたのだろう、不意に視界に赤以外の色が映る。
暗い暗い闇。
その奥に古い小さな木造の社。
「着いたか・・」
暗部がかちゃかちゃと荷物から武器を出して装着し始める。
カカシは、つ・・・と地面に小さな円を描いた。
ちょいちょいと手招きをしてナルトをその中に座らせる。
「俺またお味噌?」
「そ、しばらくの辛抱。お前が死んだらジ・エンドなんでね。」
不服そうなナルトの額の上になにやら血文字で呪をかけたあと、
座り込んだナルトの背中に覆い被さるようにぴったりとサスケを配置する。
「何の真似だ・・・」
「先生、俺背中重い・・・」
「サスケ、お前の任務、意外と大変だからね。
 まずナルトを指示があるまでこの円から出さない事、
 ナルトを九尾から守る事、絶対傷ひとつつけるんじゃないよ。
 それから俺たちが使う技を写輪眼で見てすべて覚える事、
俺たちに何かあった場合速やかにナルトを連れて避難すること、以上。」
「って結界張っててここなーんにもないじゃんかよ。この前も俺ここで座ってるばっかだったのにー!」
「俺たちはお前らの相手してる余裕はないの。
 ・・・サスケ、というわけだから何してても別にいいけどねー、見てないから。」
「このクソ教師・・・」

「封印を開けるわよ。準備はいい?」
アンコの甲高い声が響き渡った。
社の扉が開く。





扉が開いた途端。
目にもとまらない速さでなにかおおきなものが飛び出した。
一直線にナルトを目掛けて。

「ちい!」
速過ぎる。そして大きすぎる。
(間に合うか!)
本来、飛び退って逃げるものを、こんな小さな円なんか描くから・・・。
サスケが舌打ちして印を切ると眼前に巨大な火の壁が広がる。
目の前に来た一部はその中で悶え、弾ける。
しかし、飛び散った化け物の頭は3つに分かれて手薄な側面をつこうとする。
「くそ!」
「遅い!」
土の中からがっと幾つもの鋭い岩が槍のように伸びる。
破片はそれに突き刺さって絶叫した。怒号が飛ぶ。
「気い抜いてんじゃないわよ!何と戦ってるのか、考えなさい!」




社の奥からもっとうす暗い重い気が立ち上がる。
身の丈10メートルはあろうかと思われる化け物が口を開け牙を剥き飛び掛って来る。
「来る!陣形を!」




「なんだか映画とかみたいで現実じゃないみたい。」
真っ暗い部屋の中でサクラは水晶玉を食い入るように見つめる。
そこにはナルトやサスケ、暗部の化け物と戦う姿が映し出されている。
「外からしか見えないものもあるわよ、サクラちゃん」
隣りに座る紅はそういって笑う。

ここは火影の執務室奥。周りには無数の水晶球がいろいろなものを映し出している。
過去も未来も、全て。闇の中で映し出されては消える。
「不意に覗き込めば、呑まれる。
 だから見てはいけない。」
そう、火影様はいった。
この部屋に入る事を許される者は殆どいない。紅自身、ここに入ったのは初めてだ。
このサクラという少女に、火影は何を期待しているのだろう。
考えていると視線を感じたのか、目線は水晶玉を見つめたまま、サクラが問い掛ける。
「紅さんは参加されないんですか?」
「ああ、あたしは幻術と情報収集が専門でね。ああいう野蛮で原始的なのはお断りなのよ。
 アンコなんて、今回守備だけなのになんだか張り切っちゃって・・
 まあ、あの子は魔物に耐性があるし土系も得意だから守りの役に立つだろうけど、あたしはダメ。」
そのこたえに少女は薄く微笑む。
「サクラちゃんとしてはどう予想を立てる?」
「・・・わかりません。九尾なんて敵、想定した事がないもの・・・だから見ておかないと。」
「・・・・・」
「いつ九尾と戦うことになってもいい様に・・・・勝って・・・
 勝つだけじゃなくて・・・・助かる道を考えないと・・・・」
紅はぞくりとする。
(この子、どこまで気付いているのかしら・・・)



飛び散る血。煙とともにあがる異臭。
「ガァ!」
さらに鎖鎌のような武器が飛ぶ。
「・・・それじゃ通じないでしょ!」
「あんたの仕事よ!さぼんなー!」
「人使い荒いのよね・・・」
カカシが火の術を飛ばし武器に乗せる。


幾重もの傷、幾筋もの血、毒のような酷い臭い、ただれ落ちる肉。
長い時間が過ぎていた。
現れては消える化け物を延々と倒し続ける。

ナルトはじっとうずくまったまま、社の奥を睨みつけている。
歯を食いしばったままずっと、微動だにせず。
顔色は真っ青でひどく具合が悪そうだが、サスケにはそれを気遣う余裕がない。
間髪いれずにナルトを目掛けてくる「もの」を火の術で消しながら、上忍たちの使う全ての術をコピー。
とんでもない作業だ。



ぼろぼろの肉隗に成り果てたものがどう、と倒れたあと。
耳が痛いほどの静けさがあたりを包む。
「・・・・・来る・・・・・」
ナルトが体を固くして呟き。ゆっくりと、刀をもったまま、立ち上がった。


「ナルト・・・」
ひどい威圧感がサスケを襲う。
「まだ出すな!」
暗部の声にはっとして、サスケはナルトを押さえる。
正面から組むようにして顔を覗き込むと、ナルトの目が赤い。
深紅の、それは、魔物の、光。



「ナルト・・・・!!」
大きく両肩を揺さぶると、びくっと震えて。それからいつもの声で。
「あ・・・サスケ・・?」
だけどその瞳は深紅のままで。
「倒さなきゃ・・・俺が・・・・」
うわごとのように何度も続けて血の色を失った唇が動く。


「来る!」
いきなり何もないところから津波のように氷が襲ってくる。
豪火球等で防げるレベルのものではない。
「動け!ナルト!開放してもいい!」
カカシの声。
聞くやサスケはナルトの体に手をかけそのまま横へ飛ぶ。

敵は見えなかった。
ただひどく重く淀んだ気配がある。

封印からでたナルトは、刀を抜いた。
「・・・・・・・・・・」
なにかぶつぶつと呟きながら辺りに視線を泳がせる。
一瞬びくっとすると後ろへと跳ね、その直後に先ほどまでナルトのいた地面に亀裂が走る。

見えないものと、戦っている。

「おおおおおおおーー!!」
人でないような叫び声をあげると、ナルトは虚空に飛び掛った。
「ギャァ!!」
刀を突き立てた空間から黒い隙間ができて、どす黒い血が地面に流れ出る。

血は転々と社へと逃げるように伝っていく。
「逃がすかよ!」
ナルトが社へと走る。
「サスケ、行って加勢しろ。」
「・・・・・」
無言で頷くとサスケも後を追う。



「あたしたちには、手を出せないのよね・・・ここからは・・・」







「どういうこと・・・なの?」
サクラは首を傾げる。その問いに紅は答えられない。
答える事ができる者は。
「それが、契約だからじゃ・・・」
入り口に火影の姿。
思わず起立して会釈する紅。
火影はゆっくりと歩いてくる。
「12年前・・・あの場にいたものは手を下す事が出来ぬ。」
「・・・・・化け物と、契約?」
封印が完全ではない事は、サクラもなんとはなしに気付いていた。
術者が死んだことも、容れものからしばし封印が解けることも。
だが、契約とは。
「化け物も、あの戦いの深手では己が生き長らえぬことを分かっていた。
 じゃから、容れものに入る事をよしとしたのじゃ。」
「・・・・・・ひど・・・・じゃあ、ナルトは・・・・」
「そうしなければ今、この地に木の葉はなかったであろう。・・・・全滅よりは、と。」
サクラの目から涙がこぼれた。

『みんなが嫌ってるの、あの子』
『親がいないんだって。でもいい気味よね。』
『遊ぶと、ナルト菌がうつるぞ、よんなー。』
皆、酷い言葉をかけていた。親たちは嘲笑っていた。見下げるような目線で。
大人たちは知っていて、見ぬふりを?
たった一人、なにひとつ知らぬ赤子に背負わせて。
その事実を自分のせいではないのだと背を向けて。
「・・・・・いっそ、滅びちゃえばよかったのよ・・・」

「あやつは、そう思ってはおらぬ。」
火影が言葉を継ぐ。
水晶玉の中にナルトが映る。術から庇うサスケと。
眩しいほどの炎の術と白く光る氷の術が交差し部屋を照らす。
「だからワシも、道が見出せる事を、願っておるのじゃ」




「ナルト、正面だ!」
闇の中、サスケは何故かそこが急所だと、確信していた。
サスケの声に躊躇いなくナルトは闇に刃を付き立てた。


「ギャァ!!!!」

今までより、いっそう激しい断末魔の叫び。
どう、と音がして白い狐が倒れた。
社から外に出ると、カカシたちが立っている。
「これで、3つ。」

「あれは、どうするんだ?」
屍骸を指差そうと後ろを見ると社がない。
「消えちゃうのよ。どうしようもないわ。」

「お腹・・・いた・・・」
不意にナルトがうずくまる。
尋常ではない汗に地面に寝かせ、シャツをめくった。
朱の封印がざわざわと揺れるように文字を変えていく。
「なに・・・・」
「封印が一つ消えたからね。自動的に組み変わってるんだよ。少しすれば落ち着く。」
「8つの封印が解けたら・・・こいつは自由になるのか?」
その問いに問いにカカシはただ肩をすくめてみせる。
「それよりもサスケ、ナルトに傷つけちゃったね?」
見ると、めくられたシャツのちょうど、みぞおちの辺りに薄く傷が出来ている。
これを傷というのか?と不満げなサスケに
「あと細かい傷が他にないか、全身くまなく見ておいて。報告は明後日位でいいからのんびりと。
 ただし細大もらさずに。」
「・・・・了解・・・」

サクラが来てから後、簡易的に魔物が入ってこない札などがつくられ、
現在では「ナルトの家」「火影屋敷」「アカデミー」「サスケの家」には魔物がでないようになっている。
(まあ、どこでもいいか・・・・休めれば・・・)


サスケはひとつ、溜息をついた。
とにもかくにも、ひとつ、長い一日が終わったのだ。







あくまでもRPG。・・・・RPGってながいんだよな、これが・・・。さよったら途中でやめたゲームも多いし、最後までいけるんだろうか。だいたいの話はもう最後まで決まってるんですが。
戦いばっかもなんなので次はサスナルな閑話になります。(さよ)


戦闘シーン、すげーです。私には書けないから尊敬。
やっとサスケにも見せ場が! 真打ちはやっぱりナルトだけど(笑)。でも傷をくまなくチェックできるなんて、さよの(つーかこの話の)サスケにしては、すっげー幸せでよかったねえ(ほろり)。
(あゆりん)

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