spicy
時々思う。
どうしてコイツはこんなに学習能力がないんだ。
いや、この場合は応用力か?
どっちにしろ、ウスラトンカチに変わりない。
新しいラーメン屋さんに行きたいとナルトが言った。
「サクラちゃんが、すっごく美味しいって教えてくれたってばよ。なんかね、そこしかない特製ラーメンがあるんだって」
「ラーメン、か」
サスケはしばし考える。
苦労して、どうにかナルトのラーメン屋通いを週一程度に押さえたというのに、ここで水の泡にするわけにはいかない。
何しろ、ナルトときたら、料理が作れないわけではないくせに、放っとくと食生活がものすごいことになるのだ。
1日の食事がケーキとパンとラーメンなんて言われた日には、本気で殴ろうかと思ったほど。
(実際思わず殴ってしまった。ごく手加減はしたけれど)
それ以来、サスケがナルトの栄養管理をすることになってしまって。
コイビトとしては何か違うような気もするが、他のヤツに面倒みさせる気はないし。
夕食はどっちかの家で食べるという習慣がついて、二人きりの時間は増えたし。
がりがりの身体も少し柔らかくなって、抱き心地良くなったし(それでも相変わらずやせっぽちだけど)。
役得はいろいろあるので、とりあえずこの状況に不満はない。
それはともかく。
やっぱりここはやめた方が無難だろう。
今日の昼は時間がなくて、ろくなもの食えなかったから、夕食で補給しなければ。
決して、ナルトの口から出たかつての恋敵の名前(しかも笑顔付き)にムッとしたからじゃない。多分。
「ダメ?」
難しい顔で考え込むサスケに、ナルトが恐る恐る問いかける。
上目遣いで首を傾げる姿に、サスケ、思わずぐらり。
・・・とりあえず、ここ3日くらいはラーメン屋に行ってなかったし。
明日、ちょっとまともなものを食わせれば、まあいいか。
「じゃ、行くか」
「ホント?やったー!」
無愛想な返事に、ナルトの顔はぱっと輝いて。
嬉しそうに笑うナルトに、サスケの顔も綻んだ。
やっぱりやめとくべきだったか?
注文したものが来るのをうきうきと待っているナルトを眺めながら、サスケは自問する。
・・・また、面倒なことになりそうな予感がする。
あっさり日和った自分に歯噛みしたい気分。
「へい、お待ち!」
(ちっ、来やがったか)
どんぶりを持ってきた威勢のいい声に、サスケは舌打ちした。
サスケの前に置かれたのは味噌ラーメン。
そして、ナルトの前には。
「わーい、おなかへったってばよー」
目を輝かせて、いそいそと箸を割る姿は非常に微笑ましい。
が、しかし。
「おまえ、マジでそれ食うのか?」
「あったりまえだってばよ。そのために来たんだから!あ、さてはおまえも同じの頼めばよかったと思ってんだろー」
「いや、それはどうでもいいんだが」
ナルトのどんぶりの中身を、サスケはじろりと見る。
普通、ラーメンのスープといえば、醤油色とか濃いめの味噌色とか、とんこつだったら白っぽかったりするけれど。
今、ナルトが嬉しそうに箸をつけようとしているそれは。
そりゃもう見事にまっかっか。
豆板醤だの唐辛子だの、これでもかって程どっさり使ってるんだろうと容易に想像できるくらいに。
つまり、これが最近人気の特製ラーメン。
品名を「激辛タンタンメン」という。
店に入る前、更には注文する直前まで、サスケはさんざん止めたのだ。
「うどんに七味かけるのも辛いからイヤなんてぬかすヤツが、何てもの頼むんだ!」
しかし、何度繰り返しても、ナルトは涼しい顔してしゃあしゃあと。
「だって、これ食べたことないもん。食べないうちから辛いかどうかなんて、分からないってばよ」
・・・いや、見れば分かる。第一、アタマに激辛って付いてるだろう。
つーか、タンタンメンってのは辛いものと相場が決まってる。
そのくらい、容量の足りないその頭でも知ってるだろう!
「最近わりと辛いの食べれるようになったし、多分大丈夫だってば」
その根拠はどこから来る。
仮にそうだとしても、いきなりこれか?!
まるで、アカデミー卒業したての下忍がAクラスの任務を受けるようなもんだ!
・・・って似たようなことを(否応なく)やった覚えはあるが。
サスケの突っ込みなんてどこ吹く風とばかりに、結局ナルトは初志貫徹してしまって。
「オレは忠告したからな」
せいぜい嫌味っぽく言ってみても、堪えた様子もなく。
味噌ラーメンを頼んだサスケに、意気地なしーとからかってみたり、かえってひどく機嫌がよかった。
どうやらサスケを言い負かしたのが嬉しいらしい。
うるせえとぶすくれながら、サスケはナルトを横目で睨む。
どうせ、こいつは痛い目みないと分からねーんだ。
(・・・痛い目みても忘れるけどな)
容易く予想される未来に、サスケはため息を吐いた。
「いただきまーす」
手を合わせて挨拶して、元気良くかぶりついた次の瞬間。
ナルトの手はぴたっと止まって。
ぎゅうっと眉を顰めて。
汗なんかだらだら流れ始めて。
(一口目でギブアップか?)
なんて考えながら見ているサスケの視線に気付いたか、ナルトは口の中の物を一気に飲み込んで、ついでに水も勢い良く流し込んだ。
ぜーはーと肩で息をしながら、
「何、じろじろ見てるんだってば!」
「いや、旨いか?」
「・・・もちろん、おいしいに決まってるってばよ!」
顔を真っ赤にして、目の端には薄ら涙なんか浮かんでるのに、なおも強気に言い張るナルト。
けれど、右手の箸は徒に麺をかき混ぜるだけで。
かなり途方に暮れた感じ。
ほら言わんこっちゃない、とか。
たまには事前に言うこと聞け、とか。
サスケとしては言いたいことはいろいろあるけれど、こういう状況で正論を吐いてもナルトは意固地になるだけだし。
さすがにこんな場所でいつもの喧嘩はしたくないから、サスケは言葉を飲み込んで。
それに、ぷうっと頬を膨らまして不貞腐れている様子が、また。
悪戯心というか、意地悪心というか、そんなものを刺激する。
「そうだな、サクラのオススメだしな」
「う、うん」
「不味いわけないよな」
「・・・当たり前だってば」
「じゃあ、当然全部食べられるよな」
ぼそぼそと下を向いて呟くナルトに、サスケはにっこりと微笑んだ。
もっとも、ナルトには、にやりと意地悪く笑ったとしか見えてないだろうが。
「何なら、辣油でも入れるか?」
「う・・・」
「どうした?早く食べないと冷めちまうぞ」
「ね、ねこじただから、冷めるの待ってるんだってば!おまえだって、さっきからほとんど食ってねーじゃん!」
「オレも猫舌なんだよ」
「うー」
懸命の反撃もあっさりとかわされて、ナルトはまた下を向いた。
何やらブツブツと呟きながら、手持ち無沙汰な右手はますますぐちゃぐちゃと麺をかき回している。
サスケのばか、あほ、いじめっこ。
本人はごく小さな声で、聞こえないように言ってるつもりだろうが、生憎と忍びの耳には丸聞こえだったり。
自分のことを棚に上げて好き勝手言ってやがると思いつつ、ここらが潮時かと、サスケはナルトの髪の毛を軽く引っ張った。
「何だってば!」
「それ、こっちに寄越せ」
「何すんだよ!返せってばっ」
「この味噌ラーメン、味が好みじゃない。だから取り替えろ」
「はあ?」
ナルトが驚いて目を丸くしている隙に、どんぶりを入れ替えて。
「ちょ、ちょっと待てってば!」
取りかえそうと伸びる手を左手1本で押さえ付け、サスケはさっさとタンタンメンをかき込んだ。
「信じらんねー」
ナルトはようやく取りかえすのを諦めたようで、代わりに恐る恐る訊ねてくる。
「サスケ、辛くない?」
「一応は辛い」
「辛いのに何でそんな平気なんだってばよ!」
「我慢できない程じゃないし、味は旨い」
そりゃ、まったく辛くないわけはないが。
でもまあ、サスケからすれば充分許容範囲内で。
むしろ、さすが人気メニューなだけあって、味付けもしっかりしていて、激烈な辛さがこれを引き立てる感じで、なかなかの美味。
だけど、ナルトには到底無理な話。
スーパーで売ってる、味の薄い海老チリだって、辛くて食べられないんだから。
平気な顔で食べ続けるサスケを目を丸くして見ているナルトに、胸の内だけで笑う。
(・・・ほんと、手間のかかる奴)
「いいから、とっととそっち食え。いくら猫舌でもいい加減のびるぞ」
サスケの顔と、殆ど手の付けられていない味噌ラーメンを見比べて、ナルトはこくんと頷いた。
「サスケ、味噌ラーメン、おいしいってばよ」
「そりゃ良かったな」
「あのさあのさ、サスケ」
「ん?」
「だいすき」
一瞬、箸を取り落としそうになり。
どうにかこうにか踏み止まって。
持って生まれた鉄面皮に感謝しながら、
「・・・そうか」
と一言呟けば、
「うん!」
満面の笑みで返されて。
どうしてくれよう。最後にくらったカウンター。
ああチクショウ。
馬鹿な子ほどカワイイなんて、ぬかしたのはどこのどいつだ。
嫌になるくらい、そのとおりじゃねえか!
本当はも少し後にアップするつもりだったけど、内容的にちょっとさよの「来客」とかぶってるんで、一緒にアップしたくて慌てて書きなぐりました。仕事中に(またかい!)。
さよ、書くの早いからー。
しかしこれ、味覚シリーズというより、鳥頭ナルトシリーズって感じがするかも。
「すっぱい」「にがい」は鳥頭な予定ではないんですが(つーかまだ考えてません)。