洩れる声を殺そうとして彼女は唇を噛む。
 血が滲む程強く。 
 軽く舌打ちをして彼女を組み敷く男は唇を重ねてきた。
 固く閉じた唇をなぞるように舌が這い、背筋に走るざわめきに耐えて必死に歯を食いしばる。
 男は唇を合わせたまま、嘲笑うかのようにゆっくりと身体を動かした。
 身体の中の楔が位置を変え、彼女に嬌声を上げさせる。
 喘ぎに開いた唇から舌が忍び込み、気がつけば自らそれを絡め取り快楽を貪っていた。
 吐息だけで男が笑う。
 彼女の瞳から滴が零れる。
 ぬめる感触は生々しく、淫らで。
 ずっと昔、事故のように一度だけ触れた唇とはまったく別のモノのよう。
 事故のようなあの口付けだけを、思い出にする筈だったのに。
 ひどい、ヒドイ、酷い男。
 綺麗に忘れさせてもくれないなんて。






 大きな手がゆっくりと髪を撫でる。
 少し冷たい乾いた掌の感触はひどく心地いい。
 身体の疲労と相まって、このまま微睡んでしまいたくなるけれど。
 少しばかり努力をして目を開けると、至近距離から闇色の瞳が彼女を見つめている。
 飽かず金色の髪を梳き続けている指。
 長くて節ばっていて、ナルトのそれとは全然違う男の手。
 この手を好きだと思う。
 この手の持ち主を愛してると思う。
 だけど。
 ナルトはゆっくりと口を開いた。
 「気安く触るな、強姦魔」




 どうしてこんな事になったんだろう。
 ・・・なんてナルトには言えない。
 責める資格なんてこれっぽっちもない。
 サスケを拒んだのも、傷つけたのも、追い詰めたのも、全部自分。
 だけど、本当はきっと、心の奥ではこうなる事を望んでた。
 初めての痛みと快楽は、彼女の華奢な身体を翻弄し、悲鳴を上げさせたけれど。
 なりふり構わず自分を求めるサスケが、泣きたいくらい恋しかった。
 それでも、歓喜に打ち震える心の中には同じ強さで哀しみが存在している。
 だって、これは手に入れてはいけないもの。
 欲しいと願う事すら許されないもの。
 一度得てしまったら、手放す事はきっとずっと辛くなる。
 知らなかった頃ですら引き裂かれそうだった心がこの上どんな痛みを受けるのか、想像すらできない。
 だけど、これは必要な事なのだ。
 誰よりも何よりもサスケのために。
 だから、大きく息を吸い込んで、弾劾の言葉を口にした。
 「うちはの当主が犯罪者なんて、ゴセンゾサマが泣くってばよ」
 爪が食い込む程に掌を握りしめて、込み上げそうになる涙を必死に押しとどめながら。





 乱れたシーツに沈み込みながら、なおも睨み付けてくる潤んだ瞳。
 真直ぐに見返す事が躊躇われる程の強さを秘めたそれを受け止めて、サスケは些かも動揺を見せない。
 整った面には薄い笑みすら浮かんで。
 「強姦じゃねえだろ。抵抗しなかったくせに」
 「不利な状況では、下手に抵抗するより相手に従って隙を待つってのは常道だってばよ」
 くっと喉を鳴らしてサスケは笑い、不意にナルトの髪から指を離した。
 触れられていた部分に感じた空気の冷たさを払い除けるかのように、ナルトは軽く頭を振った。
 いけない。
 このまま触れられていたいと望んではいけない。
「ドベがよく覚えてたじゃねえか。・・・じゃあ今はどうだ?」
 身体に巻き付けられたシーツがゆっくりと剥がされた。
 サスケの眼前に晒される何一つ身に纏っていない素肌。
 白い肌のあちこちには色鮮やかな紅い華が咲いている。
 「逃げないのか」
 首筋から胸元にかけてのそれをゆっくりと辿る手を、ナルトは避ける素振りも見せない。
 「逃げたって無駄だろ。・・・いい加減にしろってば。オレとヤりたかったんならもう気がすんだろ。足りねーならまたそのうち相手してやるってばよ」
 「足りねえよ。全然足りるわけないだろ」
 不意にサスケの手がナルトの胸を強い力で掴む。
 弾力のある膨らみを握りつぶしそうな程の力に、ナルトは必死で呻き声を押し殺した。
 息が止まりそうな苦痛の中、確かに一瞬背筋を走り抜けた感覚を振り払うように、糾弾の言葉を投げ付ける。
 「自分の思う通りにならないなら、力づくでどうにかしようって? おまえってサイテー」
 「好きでもない相手と付き合おうって奴よりはマシだろう」
 低い声に、ぴくりとナルトは肩を揺らす。
 一瞬顔を逸らしかけたが、サスケの視線の鋭さがそれを許さない。
 知らず激しくなる動悸を押さえながら、ナルトは声を振り絞った。
 「そんなのおまえの知ったことじゃないだろっ・・・んっ!」
 きつい口付けに言葉を奪われる。
 反射的に押し退けようとした手は、片手で容易く押さえられてしまい身動きが取れない。
 もう片方の手がナルトの身体のあちこちを這い回り、既に彼女を知り尽くした愛撫は弱い部分を的確に攻めてくる。
 「あっ・・・」
 解放された唇から漏れたのは甘い響き。
 身体が熱を持つ。
 表面から段々奥まで浸透して、徐々に意識を蝕んでいく。
 このまま流されてしまいたい身体と留まろうとする心がせめぎ合い、朦朧としながらも、ナルトは必死に歯を食いしばった。
 「オレはおまえが好きだと言った。それでも知ったこっちゃない?」
 「オレはおまえを好きじゃない。だから関係ない」
 「好きじゃない相手にこんなことさせるのか」
 「おまえが無理矢理してるんだろ」
 「・・・じゃあ、あいつがしたいって言ったら?」
 「!」
 「やっぱりさせるのか?」
 ・・・誰が!
 咄嗟に飛び出しかけた言葉をぎりぎりで押さえ込んで。
 ナルトは大きく息を吸い込んだ。
 「断る理由はないってば・・・つっ!」
 前触れもなく身体の中に侵入した熱塊に息を呑む。
 馴らされつつあるとはいえ、昨日まで男を知らなかった身体は突然の行為を受け止め切れず、悲鳴を上げている。
 それでも、痛みの中に確かに混じる甘さを振り切るように、ナルトは声を振り絞った。
 「こんなこと・・・オレには何の意味もない・・・っ! 何度やっても、無駄・・・だってば・・・」
 オレは、絶対におまえの手を取らない。
 何度も繰り返した言葉。
 何度も繰り返した行為。
 けれど、サスケは。
 「無駄じゃねえよ。オレにとっては」
 好きな女を抱くのが無駄なんて男が何処にいる。
 動きを止めて耳元に口を寄せて、サスケはいっそ優しいとすら言える口調で囁いた。
 「こうしてれば他の誰もおまえを見ない・・・触れられない」
 アツイ。
 耳朶にかかる吐息が。触れてくる指が。身体いっぱいに感じるサスケの存在何もかもが。
 熱くて熱くてたまらない。
 「おまえも、オレ以外に何も見なくてすむだろう?」
 見たくないよ。
 触れたいと思わないよ。
 サスケ以外の誰にも。
 だけどそれは、絶対に言ってはいけない言葉。
 快楽の波に為す術もなく身を委ねながら、ナルトはただ首を横に振り続けた。
  





 好き。大好き。愛してる。
 おまえが大事。ホントに大事。
 だから、何でもしてあげたい。
 おまえが望むもの、何でもあげたい。
 ・・・オレ以外なら、何でも。





 だからお願い。
 オレを望まないで。


 



 5963リク続きです。リク内容は「サスナルコでサスケの嫉妬が醜く露見。ダーク風味でできれば長文で」ってことでした。
 ・・・キリを取られた羅輝様の名誉にかけて断言しますが、「エロ入れろ」なんてひとっことも言われてません。つっても具体的にはぼかしてるし、嫉妬要素もなぞる程度しか入ってない(泣)。
 悉くリクを外してしまって羅輝様ごめんなさい。あ、でも今回中編(爆)だし、一応長文もどきって事でお許しを。
  



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