夜の風が開けたままの窓から入り込んで来る。
冷たい空気に一瞬身震いしたが、窓を閉めるために立ち上がろうという気にはなれない。
ナルトは床に座り込んだまま、上体だけ寝台に凭れかかって目を閉じた。
今日もいつも通り任務に出て、一日中くたくたになるまで働いて、帰宅後はカップラーメンで夕食を済ませた。
少し前までならその後は、演習場で修行をするか、あるいはそのまま部屋で巻物を広げるか。
元気盛りの子供にはやりたいことがたくさんあって、短すぎる一日をつまらなく思いながら眠りにつくのが常だった。
けれど今は、淀んだような時間を、ただ持て余している。
指先から全身にここ数日で溜まった疲労がじわじわと広がっていくようだ。
昼間忘れようとしていた分だけ反動のように浸透するそれに、指一本動かす気力すら湧かないが、不思議と睡魔は訪れない。
どれくらいそうしていたか。
不意に響いた物音に、ナルトは身を竦ませた。
縮み上がりそうになる心臓を宥め、音がしないように唾を飲み込む。
怯えているのを悟られてはいけない。
深呼吸しながらおそるおそる振り向けば、そこには誰もいなかった。
ただ、開いた窓から、切り取られたような闇が見えるだけ。
どうやら風ではためいたカーテンが窓にぶつかった音らしい。
全身の力を抜いてほうっと息を吐くと、ナルトはまた元の姿勢でうずくまった。
一旦跳ね上がった鼓動が落ち着いてくると、何故だか笑い出したいような気持ちになってくる。
こんなにドキドキしてそわそわして落ち着かなくて、これじゃあまるで。
(待ってるみたいじゃないか)
あいつを。
毎晩のように通ってくる男を。
ナルトの意志を無視して蹂躙するためだけにやってくる、うちはサスケを。
『おまえ、ムカつくんだよ』
冷たい声で、サスケは言った。
そうして、無表情な目のままで、ナルトを犯した。
それは一度きりでは終わらずに、今も続いている。
月が高くなった。
サスケはまだ来ない。
来るならさっさと来ればいいのに。
ナルトは半ば自棄のようににそう思う。
サスケが来るまでナルトは眠れない。
いつやって来るのか考えるだけで身体が震え、とても眠ることが出来ない。
もしかして今日は来ないかもという甘い期待は、いつだって裏切られた。
サスケがやってくる時間はいつもまちまちだ。
ほとんど解散直後のこともあれば、夜が深くなってからのこともある。
明け方に来られたりしたら、最悪だ。
一睡もしていない身体をサスケに更に酷使され、僅かな睡眠も許されずに朝になる。
そのまま任務についたところで立っているのもやっとな有様で、夜這う前にきっちり仮眠を取ってきたらしいサスケに殆ど任せきりな羽目になる。
それをネタにまた無体を強いられる悪循環。
ナルトは組んだ腕に顔を伏せた。
爪あとがつくくらいぎゅっと拳を握り締める。
確かに、ナルトはサスケの訪れを待っているのかもしれなかった。
まるで注射の順番を待つ子供のようだ。
どうせ味合わされる痛みなら、早く済んでしまえ。
そうすれば少しの時間でも眠れる。
ほんの僅かでも、体力を回復させることが出来る。
そうして手に入れた眠りが、安らかなものではありえなくても。
目覚めた先には、同じことが繰り返されていくだけだとしても。
こうして風の音にも怯えなければいけない時間は、もしかしたらいたぶられるその最中よりも耐え難い。
これから訪れる屈辱への怖れ、そして、したたかに付けられた傷を思い出してしまうから。
『おまえなんか、大嫌いだ』
何度も言わなくても、分ってる。
オレってばバカだから、こんなことされるまで分らなかったけど。
だからもう言わないで。
これ以上、思い知らせないで。
何でこんなことになったんだろう。
無駄なこととは知りながら、ナルトは考えずにはいられない。
どうすれば、こんなことにならずにすんだのだろう。
どこで間違えてしまったのだろう。
生い立ちと環境のせいもあって、ナルトはその年頃にしては一般常識に欠けてはいたが、それでもサスケに強いられている行為を何と呼ぶかは知っていた。
けれど、通常は男女の愛の営みとされるそれと自分達の間で行われているものが、同じだとは思えない。
押さえつけられ、貫かれ、揺すぶられて、身体の中にぶちまけられる。
目の前が白くなるような苦痛の中で無理矢理熱を煽られて、望まない頂点に追いやられる屈辱。
そこに愛情、あるいはそれに類する暖かな感情があるなんて信じられない。
もっと悪い事に、単なる好奇心からとも言い難かった。
それほどにサスケは執拗だ。
嵐を避ける動物のように身を丸め、声を必死に殺していれば、反応がないのは許せないとばかりに、悲鳴を上げて懇願するまで苛まれた。
かといって、羞恥を堪えて愛撫に身を任せれば、蔑む言葉とともに行為は更に激しさを増した。
何かの意趣返しなのか、屈服させたいのか、単に遊んでいるだけなのか。
ナルトには分らない。どれにしたって大差はない。
悪意をぶつけられることには慣れている。
道を歩くだけで周囲から突き刺さってくる視線。
目を合わせないようにしながらも、憎々しげな目を隠そうともしない大人達。
物心ついた時から、ナルトは絶え間ない悪意の中で生きてきたといってもいい。
だけどサスケが向けてくる感情は、これまで里人達から向けられてきたものとはまったく違っていた。
より直接的に、徹底的にナルトを傷つけようとするサスケ。そしてそれは成功している。
視界に入る距離にいれば彼の一挙一動に身が竦み、抱かれている最中は他の事は全部頭からすっ飛んでしまう。
一人でいる今でさえサスケのことばかり考えて、心が血を流す。
(どうして、サスケはそんなにオレが嫌いなんだろう)
里人から嫌われているのは、腹の中にいるバケモノのせい。
だからナルトは彼らの憎悪を悲しく思うが、それだけだ。
だってそれは、ナルトのせいじゃないのだから。
けれど、サスケは知らない。ナルトのことを。里のトップシークレットを。
サスケが陵辱し、嬲っているのは「九尾の器」ではない、ただの「うずまきナルト」。
それ程までにサスケが嫌っているのは、他ならぬナルト自身そのもの。
心が、抉られるようだ。
それとも。
不意に浮かんだ考えに、ナルトは伏せていた顔を上げた。
(それとも、知ってる?)
ヒヤリと、胸の奥に氷が落ちた。
ナルトの秘密を、九尾のことを、知っているからサスケは酷いことをするんだろうか。
サスケも、みんなと同じなんだろうか。
もしかしたら一片の救いかもしれないその考えを、しかし次の瞬間、ナルトは必死に否定した。
違う。サスケは知らない。知っているはずがない。
里人達はその憎しみの深さにも関わらず、ナルトに暴力を振るうことは滅多になく、たまにあっても石や棒で殴るだけで、絶対に直接手を触れようとしなかった。
たまに道でぶつかったりすると、生理的な嫌悪に顔を歪めて立ち去った。
だから、サスケは知らない。
知っていたら、バケモノの住まう腹の中に己を捩じ込ませることなんか出来るはずがない。
ナルトは、祈るように目を閉じた。
サスケは知らない。
知らないから、あいつは毎日オレを抱きに来る。
今日も、きっと来る。
不意にカーテンが揺れた。
風とは明らかに違うその動き。
「よう、ウスラトンカチ」
見開いた瞳に、夜より暗い姿が映る。
その時、ナルトの胸にゆっくりと広がった感情は、怯えと、諦めと、そして。
奇妙なことに、安堵かもしれなかった。
あははは、やっぱり最中シーンまでたどり着けませんでした〜。
これってエロ修行のためだけに考えた設定だったのに、なんでこーなっちゃうんでしょう。要するに適性がないということか?しくしく…
そしてやっぱりサスケがひどい奴。てゆーか出番なし。
さよに、「もーちょっと愛を示してやって」と言われたので、それなりに努力して修正しようとしたんだけど、何故かますますひどい奴になっていくんで諦めた。
念のため。愛はあります(きっぱり)。でも、シャイなあんちくしょうだから、愛を見せてくれないんです(笑)。
続き書くかどうかは微妙なところ。なんか修行を続けてもどうにもならなそうな気がひしひしと…。
(04.10.30)