ミッシングピース







 「マクドールさんの手って冷たいですね。夏なのにふしぎだなあ」
 ぎゅっと手を掴んだまま、あの子が僕にしがみついてくる。
 「えへへ、気持ちいいや」
 「君はあったかいよね」
 「ふーんだ、子供体温なんですよー」
 すりすりと胸にすり寄ってくる頭を掴まれてない方の手で撫でてあげると、ますます喜んで、まるで喉でも鳴らしそう。




 ほんとうに君はスキンシップが好きで
 暇さえあればこうやって触れたがる。
 だから、僕もいろんな理由を付けてはこの城に入り浸っている。
 だってねえ、あんまりいろんな奴に見境なく抱き着かせるわけにはいかないだろう?




 「マクドールさん以外の人にこんなことしてませんよう」
 「そうなの?こんなにくっつきたがりなのに?」
 「そりゃそうかもしれないけど! でも! ‥‥僕だって、一応この軍のリーダーで、だからあんまり城のみんなにひっついてたら、シメシガツカナイってシュウさんが言うし、僕もやっぱそっかなーて思うし、だからいつもはちゃんと我慢してるし‥‥」
 「僕が来るまで我慢してるんだ?」
 ちょっとからかう口調で覗き込んであげると、ぽんっと音がしそうなくらい真っ赤になって、うーとかなんとか唸り声をあげながら、ますますしがみついてくる。
 気のせいでなく体温もまた上がってるみたい。
 まったく、素直で可愛いよね。
 



 「だって」
 ぽつんと呟く声。
 「だって、こんなことしてくれるの、もうマクドールさんしかいないから」




 ぎゅっと手を握り返してあげると、あの子は嬉しそうに微笑んだ。
 「あのね、あのね、マクドールさんって、ちょっとジョウイみたい」
 「ジョウイ君?」
 「うん、ジョウイの手もね、こんな風にいっつもひんやりしてたんです。だから夏にくっつくと気持ちよかったんですよ」
 「‥‥ふーん」
 「でね、反対にナナミは‥‥」
 声が震える。
 まるで涙をこらえるように。
 「ナナミは、いつもすごくあったかくて、やっぱテンション高いからかなーって。冬はいいけど、夏はちょっと嫌だったなあ」




 遠い目をして微笑むこの子が見ているのは、幸せだった幼い頃。
 家族がいて親友がいて、小さくささやかな、けれど満ち足りた世界。
 他ならぬ親友によって、壊されてしまった箱庭。




 砕け散ってしまった世界の欠片を、君は一所懸命拾い集めて。
 そうしてジグソーパズルのようにつなぎ合わせれば、元通りになると思ってた?
 でもね、もう遅いんだよ。
 カケラは失われてしまって、もう戻らない。




 いつも元気で明るくて、この子の傍を離れなかった少女は
 石造りの大きな城からついに帰ってこなかった。




 気の狂うほどに泣いて、それでも君は希望を捨て切れないでいる。
 皇都で君が来るのを待っている、君の親友。
 君に残された最後の欠片。
 取り戻せれば癒されると、そう信じて。




 3年前の僕のように。




 「‥‥じゃあ、僕も体温が高い方がよかったかな?」
 不思議そうに見上げる君の鼻を、ちょっと指で弾いて。
 「だって、ジョウイ君、夏用なんだろう? で、僕も夏用。そしたら、ジョウイ君帰ってきたら僕はお払い箱になっちゃうだろ」
 「え、え、え、そ、そんなことないですよう!」
 面白いように慌て出す君。
 予想通りで嬉しいよ。
 「夏用、二人いても、全然だいじょうぶですよ! だって、ずっとひとりに抱き着いてるとそのうちあったかくなっちゃうから、そしたら、もうひとりにすればいいんだし!」 
 交代に抱き着けば問題なし、むしろおっけーと妙に得意げに胸を張ったりして。
 「‥‥‥!」
 押さえ切れず、僕は笑い出してしまった。
 まったく君は楽しいね。
 ちょっぴり欲張りでわがままな、寂しがりやの子供。
 欲しいものすべてを手に入れたがる。




 でもね、それは無理。
 その夢は叶わないよ。
 君の親友は、戻っては来ない。
 ‥‥来させない。




 笑い続ける僕に、君は不満そうな視線を向ける。
 ちょっとだけ下向きになった御機嫌だけど、なおすのは簡単。
 前髪のはねた君の頭を撫でてあげる。
 「うん、そうだね。すごくいい方法だよ」
 それだけでOK。
 ほら、もう嬉しそうに笑ってる。




 「えへへー、そうでしょ、冬寒いのはちょっと嫌だけど」
 「あ、それは大丈夫。僕、冬はあったかくなるから」
 「‥‥‥は?」
 「どうも、僕って外界に対して体温変化が少ないみたいなんだよね。だから夏は冷たくて、冬は暖かく感じるらしいんだよ。おかげで、よく、夏は冷却剤、冬は湯たんぽの代わりにされたな」
 「マクドールさん、それってへん‥‥てゆーか、人間じゃないですよ」
 「失礼だねー、君。夏冬両用で便利くらい言えない?」
 撫でていた手を拳骨に変えて、小憎らしい子供のつむじをぐりぐりと小突くと、あっけなくギブアップ。
 「痛いですってばー、そーですー、マクドールさん、とってもお役立ちですぅー」
 「分かればいーの」
 小突く力を緩めてあげると、君は反対に頭をすり寄せてきて。
 ほら、これも君が好きなスキンシップ。




 ね、僕はお役立ちだろう?
 君が望む触れ合いもぬくもりも、全部僕があげるよ。
 だから、僕だけでいいだろう?



 
 近い将来、君と君の親友が再びまみえるときに
 君は僕と同じになるんだから。




 優しい君には、親友を手にかけることはできないかもしれないけど
 大丈夫、僕がいるから。
 ‥‥ね、ソウルイーター。




 かの皇王陛下には、まったく恨みはないけれど。
 しょうがないね。
 先にこの子の手を離したのが悪い。
 だから、この子は僕がもらっていくよ。




 「早く、ルルノイエにジョウイを迎えに行きたいな」
 「そうだね」
 「マクドールさん、手伝ってくれますよね?」
 「もちろん」
 最後まで




 薄く笑う僕の右手で、紋章がかすかに光った。




 






  坊ちゃん、相変わらず黒い人です。
  3年間に一体何があったんだろう。
  平気で嘘をつく人になってしまっている・・・つってもよく考えたら嘘は言ってないか。
  本当のことを言ってないだけで。うわ、厄介。
  でも、めっちゃ書きやすかったです。
  この長さで2時間弱っつーのは私の新記録に近い。





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