「いちいちまとわりつくな。うざいんだよ、てめえ」
 突き飛ばすと、小さな身体はあっけなく地面に転がった。
 大きく見開いた青い目を、一瞬だけ見返して背を向ける。
 遠巻きに行き過ぎる里人達は、咎めるような、いい気味だと言いたげな視線を投げかけた。
 傷つけたオレではなく、傷つけられたあいつの方へ。









 うそつき









 金色の髪をかきあげて、額にそっと唇を落とす。
 それから、かすかに震える睫毛に、柔らかな頬に。
 最後に唇に口付けようとして、開いた手のひらに阻まれた。
 「何すんだ」
 「何すんだはオレの台詞だってばよ、バカサスケ」
 きっと睨みつける瞳と尖った唇。妙に平坦な口調。
 珍しく本気で怒っている。
 だけどオレは驚かない。
 だってそんなの分ってた。
 「昼間のことか?」
 「分ってんなら、こんなことすんなっ!」
 「だってあんなの芝居だろ」
 おまえはぐっと言葉に詰まって、恨めしそうにオレを見上げて。
 「………おまえ、芝居上手すぎるんだってば。時々、ホントかウソか分らなくなる」
 「そうじゃねえと意味ないだろうが」
 頬に添えられたままの柔らかい手のひらに、そっと舌を這わせた。
 反射的に逃げようとする手首を捕まえて、今度は指先にキスをする。
 おまえは真っ赤に頬を染めて、ぽかんと口を開いて。
 まったくひどいマヌケ面。
 「オレ達が、こんなカンケイだってバレないためにはな」
 




 おまえは里で忌み嫌われるキツネツキ。
 オレは里に飼い繋がれる写輪眼。
 「バレたら全部終わりだぜ」
 耳元で囁くと、おまえはびくんと身体を震わせた。
 何か言いたげに開かれた唇を、言葉が紡がれる前に塞ぐ。
 項を押さえつけて舌を忍び込ませれば、今度は拒まれない。
 おまえの中は、どこもかしこも熱くて甘くて柔らかい。
 深く深く貪って唇を離すと、潤んだ瞳がオレを見た。
 「皆に知られたら、どうなると思う?」
 別れさせられて。
 引き離されて。
 二度と会えないようにされて。
 「それでもいいのか?」
 おまえはぎゅっと唇を噛んで、手のひらを握りしめて。
 ひどく辛そうに歪んだ表情で吐き出した言葉は。
 「その方が、おまえは、シアワセになれるってば」
 ざわりと、胸の奥が波打つ。
 いつもいつも嫌になるくらい図々しくて能天気なおまえが、こんな時にだけ見せる諦めのよさ。
 オレを好きだと、一番好きだと言いながら、掴んだこの手をいつか離そうとしているその心。
 殺してやりたいくらい、腹立たしい。
 




 「サスケっ!」
 俯いたおまえの髪を掴んで仰向かせる。
 露わになった細い喉を、空いた片手で締め上げながら。
 「目障りなんだよ、バケモノのくせに」
 ひゅうっとおまえの喉が鳴る。
 くしゃりと顔が歪んだのは、身体の痛みか、心の痛みか。
 見開かれた目がみるみる潤んで。
 堰を切ったように流れ落ちる雫を、唇で掬い取る。
 締め上げる手を外してやれば、咳き込みながらオレの腕に落ちて来た。
 「これが、本当のことになってもいいのかよ」
 「しょうが、ないってば」
 畜生、このウスラトンカチ。
 この期に及んで、まだそれを言うのか。
 





 うっすらと指の痕が残る白い首筋。
 口付けて、別の赤い印を残す。
 腕の中の身体はかすかに逃げたいような素振りを見せるが、すぐにしがみついてきた。
 「うそつき」
 「うそじゃないってば」
 そんな憎まれ口を叩きながら、こんなにオレに縋っているくせに。
 あんな猿芝居に本気で怒るくらい、傷ついているくせに。
 それでもおまえが離れようとするのなら、そんなこと出来なくしてやるだけ。
 オレが本当におまえを忘れて。
 他の奴らと同じようにおまえを蔑んで、罵倒して、キタナイモノを見る目でおまえを見て。
 本当にそれに耐えられるのか、きっちり考えてみろよ。
 あの猿芝居は、里の奴らを騙すためなんかじゃない。
 ただ、おまえに思い知らせるためだけに。





 強情で意地っ張りで臆病な、オレのウスラトンカチ。
 誰が今更離せるものか。
 




 「あのさ、サスケ。しょうがないんだけどさ、それでも」
 「……………」
 「できればホントにならなきゃいいなあって、なるとしてもずっと先ならいいなあって、ちょっとだけ思った」
 「……………思えばいいだろ」
 オレに嫌われたくないと、離れるのは嫌だと。
 ちょっとじゃなくて、心の底から。
 そうすれば、オレは怯えなくてすむ。
 オレの手を離すおまえの幻影を、二度と見なくてすむ。
 邪魔な奴ら全部消しちまうことだって、もう躊躇わなくていいのに。
 









 「思っちゃダメなんだってばよ」
 見透かすようにおまえが笑う。 
 胸くそ悪くなるくらい、キレイな笑顔で。


 
 
 
 
 
 
 











  

 お話が書けないよースランプだー、とぐちってたら、さよに「じゃあ黒い話を書いてみたら?それならちゃっちゃと書けるでしょ」と言われた。ので、試しに書いてみたら、ほんとにちゃっちゃと書けました(笑)。
 いや、こーゆー一人称って状況説明入れなくていいし必然的に短くなるし、(比較的)速いのは当たり前ってゆーか。決して私が黒い人だからとゆーわけじゃないです。多分。
 つっても今回のサスケはそこまで黒くないですね。キレっぷりが甘い。「自分勝手で傍若無人に見えるが実は女々しい攻」が好みなので、まいっかー。
(04.05.29)




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