Under the Tree










 どすんと重い音がして、足先のほんの向こうの地面にロッドが落ちてきた。
 なんかヤな感じがして足を引っ込めなかったら、思い切り指の上に落ちてたに違いない。
 ああまったく、殺伐としててやだね。
 せっかく、人が気持ちよーく木陰で御昼寝、しかも膝の上には可愛い可愛い小動物付きだってのに?
 ていうか、まかり間違ってこの子に当たったらどうするつもりだったんだ。
 ロッドはばっちりしっかり地面にめり込んでいて、もちろん普通なら落としただけでこうなることはありえない。
 ということは鉛でも仕込んであるのかな。
 実はこっそり筋トレ中?
「意外に力持ちじゃないか。今度は直接攻撃にも参加してみる?」
「なんでそんな面倒なことしなきゃならないのさ」
 しょうがないから目を開けて振り仰いでみれば、映るのは普段より三割増しの顰め面。
 ったく、予定ではあの子の寝顔を眺めながら心地よく目覚めるはずだったのに。
 仏頂面の魔法使いなんて、寝起きに眺めるもんじゃないよ。





 
「起きたんなら、さっさとそれ返しなよ」
「それって?」
「そこの小猿に決まってるだろ」
 早速、愛称で呼んじゃってるわけ?
 正直あんまり面白くないけど、しっかし、ちょっと見ない間に随分変わったよね。
 ま、僕も人のことは言えないけど。
「小猿なんて失礼な。せめて子犬ちゃんとかさ」
「失礼なのはどっちだか。子犬よりは小猿の方が脳みそあるよ」
「いや、じゅーぶんひどい言い方です。てゆーかルックのじゃないんだから、君に返す筋合いはないし?」
「……いい加減仕事に戻れって、軍師が言ってるんだ。別に僕が返して欲しいわけじゃない」
 前言撤回。
 やっぱりあんまり変わってないな。
 そんな言い方しかできないんじゃ、さぞかしこの子にも誤解されてるだろうね。ご愁傷様。
「ずっと仕事仕事だといい加減キレちゃうかもよ? 同じ天魁星として言わせてもらうけど」
「うるさいよ、旧型」
「うわ、ひっどーい。そりゃ僕は昔の男だけどー」
「変な言い方するんじゃないよ!」
「しっ」
 不意に、膝の上であの子が寝返りを打った。
 人差し指を唇に当てて咎めると、相手もつと押し黙る。いささか不満げな面持ちで。
「……んー」
 口の中でなにやらむにゃむにゃ呟きながら、僕の膝でしがみつくように丸くなる子供。
 けれどそれ以上は動くことなく、じきにまたすやすやと寝息が聞こえてきた。
「どうでもいいけど、もう少し静かに喋れない? この子が起きちゃうだろ」
「むしろ起こしにきたんだよ、僕は」
 苛々した口調ではあるけれど、しっかり声を潜めてる。
 それなりに長い付き合いになるから知ってはいたけど、ほんとにまったく素直じゃないね。
 それならそれで、きっちり徹していればまだ可愛げがあるものを、妙なところで正直だ。
 何しろこの魔法使いときたら、戦争に参加するのはあの女に言われたからで。
 いつ誰に話しかけられても答えは同じ、『何か用?』
 挙句の果てには戦闘時だってSレンジのくせに後列で、ボスが出るまで見てるだけ。使えるんだか、使えないんだか。
 いつだって自分からは、何一つ動こうとしなかった風使い。ほんと、どういう風の吹き回しやら。
 視線を向ければ目に入るのは、汚れた靴と放り出されたままのロッド。
 姿が見えないこの子を探して本拠地中歩き回って、やっと見つけたお目当てにべったりひっついてる僕にムカついた?
 いじらしいよね、まったく。





 
「いいからそれ、離しなよ」
「イ・ヤ」
「君のそういうところが気に入らないんだよ」
 そんなこと知ってるけど。
 でもフツー、笑顔には笑顔で返すの常識だろ?
 たとえニセ笑顔でもさ。
 ま、その気持ちは分らないでもないよ。
 君にとっては業服だろうし、僕としても不本意だけど、多分僕らはちょっぴり似てる。
 感情を見透かされるのが嫌い。無遠慮に踏み入ってくる奴らが嫌い。大事なものにちょっかいかけられるのが大嫌い。
 共通点が嫌いなものばっかりってのは笑えるけれど、あいにくと好きなタイプまで同じだったってのは、あんまりシャレにはなってない。
 だから向こうが僕を嫌っているのは当たり前。
 それは既定の事実として、かといって僕も同じように嫌っているかといえば意外とそうでもなかったりして。
 何故って、ねえ?






 これみよがしに、眠るあの子の髪を撫でてみる。
 柔らかくてふわふわで、相変わらずいい手触り。昔飼ってた子犬を思い出す。
「にやけ面」
「うらやましい?」
 返事が出来ないのを承知の上で問いかければ、案の定口を閉ざして黙り込む。
「どこが。暑苦しい」
 ぷいとそっぽを向いて、吐き捨てるような台詞。
 なんかもう、ここまでくるといっそ可哀想になってきた。
 とか思いつつ。
 暖かい陽だまりの下、右の手袋を外して、あの子の額にうっすら浮かんだ汗をそっと拭う。
 そのまま右手を唇にあてると、ほんの少ししょっぱい味がした。
「……とっとと起こして、軍師の所に連れて行きなよ」
 あくまでそっぽを向いたまま、だけどそんなに悔しそうな顔して、この期に及んでそんなこと言うかなあ。
 もう少し、本当に言いたいこと言ってもバチは当たらないんじゃない?
 いいけどね、僕には都合がいいわけだし。
「あれ、君が連れて行くんじゃないの?」
「探して来いって言われただけ。見つかったんなら後は知らないね」
「ふーん」
 こらえきれず吹き出すと、とっておきの冷たい視線が降ってきて。
 ふんと肩をそびやかして、魔法使いは空中に消えた。






「う、にゅー……、あれ、まくどーる、さん?」
「おはよう」
「おはよーございます。……って、いまおひるですよねえ?」
 ようやく起き出した子供はまだ半分くらい夢の中。
 のそのそと身を起こしかけているのを、腕を掴んで引っ張ってやれば、容易く僕の胸にもたれかかってきた。
 そのまま背中をさすってあげれば、またとろとろとまぶたが落ちそうになっている。
「うー、起きなきゃー」
「まだ大丈夫じゃない?」
「んー、でもおしごとが……、あれ?」
 くっつきそうになるまぶたと格闘する大きな瞳が、ふと少し先の地面を捉えた。
 ああもう、忘れ物なんかするんじゃないよ。
「ロッド……。これ、ルックの、ですよね?」
「そうだね」
「ってルック、来てたの?」
「うん、君を探しに」
 驚いたようにあの子は目を丸くした。
 何度かぱちぱちと瞬きをして、やがて恐る恐る僕を窺う。
「ルック、怒ってた?」
「ちょっとね」
 僕のことを。
「……そっか」
 しゅんと落ちた小さな肩。
 ごめんね。
 でも一応、嘘じゃないし。
「また、ルックのこと怒らせちゃったぁ……」
「そんなにいつも怒ってるの?」
 こくんとひとつ、頷いて。
「僕、なんかいっつも苛つかせちゃってるみたいで。……なんでかなあ。ルックやマクドールさんみたいに、頭よくないからかなあ」
「そんなことないよ」
「でもルック、怒って帰っちゃった」
「ルックが短気すぎるだけだよ。少なくとも僕は、君といると楽しいよ?」
「……ほんとですか?」
「本当」
 にっこりと微笑んでみる。
 今度は心の底から真実を話しているから、笑みはごく自然にこぼれた。
 つられたようにあの子も笑う。
 最初はおずおずと、でもすぐに全開の笑顔で。
「僕も、マクドールさんと一緒にいるの、すっごく嬉しいです!」
「よかった」
 柔らかい髪をくしゃりと撫でて、僕らはひとしきり笑いあった。






 本当にね。
 嫌いじゃないよ、魔法使い。 
 敵になり得ない相手を見境なく嫌うほど、僕は根性悪くないもの。
 可愛いあの子は、いつでもどこでも直球勝負。
 もって回った優しさとか気遣いとか、察してくれるようなタイプじゃない。
 まだまだ自分のプライドが大事な誰かさんと違って、僕は体裁なんか気にするつもりはないし。
 絶対に叶えたい望みがあるなら、そんなもの不要なだけだろ?
 とことん開き直れないその性格には、むしろ感謝してあげたっていいよ。
 もっとも、いらないお世話だろうけどね。






「じゃ、そろそろ行こうか」
「はい!」
 先に立ちあがって手を伸ばす。
 素直に預けられる手のひら。
 頼りない程小さくて、だけど。
 紋章も、世界も、運命すら色褪せる
 僕だけの希望。





 
 手段を選んでるうちはそんな願い、本物じゃないんだよ。
 ねえ、臆病な魔法使い?
 
 













 

 坊ちゃんが旧型機なら2主はマークII。むしろゼータ? 「ザ○とは違うのだよ、○クとは」(違)
 なんか段々坊ちゃんが、某ジャンルのカ○シ先生みたいになってきました。そしてルックはとてもサス○っぽい。
つっても私、そのジャンルじゃバリバリのサ○ナルで、断じてカカ○ルじゃないんですが。むしろカ○サク推奨なんですが。…萌えって不思議だなあ。
 以上、伏字だらけの後書きでした〜。
(05.06.29)



戻る