うっかりぶつかってしまった口と口。
 それはキスなんて到底呼べない代物で、だからこんなの一時の動揺ってヤツに決まってる。
 2、3日もすれば綺麗さっぱり忘れられる筈。でなきゃどうする。
 何かすっきりしないカンジはするが、あえて気楽に思い込むようにして。
 だけど、そんな簡単に終わるわけないって事は、早速思い知らされた。
 そりゃあもう、嫌になる程。

 






 決定的かもしれない








 「おまえ、その眉間の皺どうにかならない?」
 ほっとけ。クソ上忍。
 「サスケ君はそのクールな所がいいのよ!」
 余計なお世話だ。デコ女。
 「あ、オレ知ってる〜! それってムッツリ君って言うんだってばよ」
 誰の所為だと思ってるんだ。てか意味分かって言ってんのか、このウスラトンカチ。
 ったく、どいつもこいつも鬱陶しい。
 だけど、中でも一番ムカつくのは、黄色い頭の憎ったらしいドベと顔を合わせる度に、そのよく動く唇に視線がいってしまう自分。
 マジでうざい。
 すぐに消える筈だった不可解な感情は今だに居座り続けている。
 よく考えてみれば、原因と毎日毎日朝から晩までツラ突き合わせてれば、状況を改善しようがないのは当たり前だ。
 そんな事に気付かなかったオレもいい加減馬鹿かも知れない。
 スリーマンセルが結成されて数日経つが、元から表情豊かとは言えないオレの顔面は、既に麻痺状態に近い。
 「サスケくーん、どうしたの?」
 ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる奴らを無視して歩き出せば、たちまち黄色い声が飛んで来た。
 「・・・任務が終わったら用はない」
 振り返りもせず言い捨てると、背後はますます何やら騒がしくなったが、とことん無視して歩き続ける。
 だけど。
 「やっぱサスケってば、めちゃくちゃイケスカナイ奴だってばよ!」
 塞ぐ間もなく耳に飛び込んできた声。
 それは、耳から胸へするりと落ちて。
 棘のような痛みを与えた。




 ぼすっと、妙に間の抜けた音を立てて、クナイが的に突き刺さる。
 いつもの修行場で、いつもの訓練。
 アカデミー時代からの日課だったそれは既に身体に馴染み、無意識でも動ける筈・・・なのだが。
 どうにもこうにも調子が出ない。
 的の中心を微妙に外したクナイを舌打ちしながら回収し、少し考えてから踵を返した。
 こんなんじゃいくらやっても無駄だし、それならとりあえず休養して明日の為に英気を養う方がまだマシだろう。
 ・・・明日、調子が戻ってる事は多分ないだろうが。
 思い当たる原因はひとつだけ。それが解消される可能性は限りなく低い。
 ナルトは、オレを嫌ってる。
 誰にでもへらへら笑いかけるクセに、オレを見る時はいつでもしかめっ面。
 足手まといだから手を貸してやるつっても、けんもほろろに撥ね付けられる。
 そんなの前から知ってるし、別にどうでもいいことで。
 あっちがその気ならこっちも無視してやればいいだけだ。
 あんなうざいガキ、オレが面倒見なきゃいけない義理なんか更々ない。
 ナルトがオレをどう思ってようと、オレには関係ない。任務に支障のない限りは。
 本気でそう思ってる筈なのに、何でこんなに苛つくのか。
 あの脳天気な馬鹿面が、どうしてこんなに腹立たしいのか。
 前方の気配に、つと足を止める。
 手を繋いで歩く大小二つの影。
 「そんじゃイルカ先生、バイバイ。今日はゴチソウサマでしたってばよ」
 見なくても容易く想像できる、大好きなセンセイに連れられて、馬鹿みたいに大口開けて笑うナルト。
 それだけで、頭がクラクラする程ムカつくのは何故なんだ?




 衝動のままに行動するなんて、オレの柄じゃないけれど。
 他にこの苛立ちを押さえる方法なんか思い付かないし、このまま放っておくには気分が悪すぎる。
 気が付けば物陰に隠れて気配を絶ち、目の前を通り過ぎようとする腕をひっつかんでいた。
 「うわっ・・・って、サスケ?! おどかすなってばよ〜」
 「気配くらい気付け、ウスラトンカチ」
 あいつの顔が一瞬強張り、たちまちムッと顰められた。
 「ウスラトンカチじゃないってば! 大体何か用があんのかよ」
 「センセイとのんびり夕飯なんて、ドベのくせに余裕じゃねえか」
 「・・・何が言いたいんだってば」
 「修行もしないでふらふら遊び歩いてるくらいだ。明日からの任務はさぞかし期待していいんだろうな?」
 「何だとーっっっ!」
 最初からケンカ売るつもりなんてなかったけれど、この小憎らしい面が気に食わない。
 ・・・あの中忍といる時は、あんなに嬉しそうだったクセに。
 自分でも理不尽だという自覚はあるが、そんなの構っちゃいられない。
 理不尽というならおまえの方がヒドイ。
 オレを見る度ガン飛ばして、やたらめったら突っかかって来て。
 あの事なんか忘れたみたいに、以前とまったく変わらない態度。・・・いや、実際忘れてるんだろう。トリアタマのこのドベは。
 めちゃくちゃ不公平だ。
 だって、オレはこんなに。




 こんなに、おまえの事ばかり考えてるのに。


 

 「そりゃ悪かったな!」
 耳をつんざくキンキン声。ホントめちゃくちゃカワイクねえ。
 「そんな事言ってられるのも今のうちだけだかんな」
 ああうるさい。
 「いっぱいいっぱい修行して、すぐおまえなんか追い越してやるってばよ!」
 その唇からそんな台詞、いい加減聞き飽きた。
 もう聞きたくない。
 「やれるもんならやってみろよ」
 襟を掴み上げて引き寄せる。
 びっくりしたように見開かれた青い瞳は、すぐにキツく睨み付けてきた。
 更に何か文句を付けようとでもいうのか、開きかけた唇に自然と視線が吸い寄せられる。
 久しぶりに間近で見た、ほんのり赤い柔らかそうな。
 唐突に思い付いた。
 これ以上イヤな言葉を聞かずに済む方法。
 何だ、簡単じゃねえか。




 掴んだ襟首を引き寄せる。
 「離せって・・・」 
 うるせーわめき声はぷつんと途切れた。
 当たり前だ。唇を塞がれて喋れるような奴はまずいない。
 驚きに硬直してしまっているのか、ナルトの身体はぴくりとも動かない。
 それもちょっとつまらないから合わせた唇に軽く噛み付くと、反射的にうっすらと開いた。
 逃げようとした頭を押さえ込んで舌を絡め取る。
 震える身体と、微かに洩れる鼻にかかった甘い吐息。柔らかい唇。熱い舌。・・・ぞくぞくする。
 最初の時とは全然違ってて、でもどこか同じような気もして。
 そっと様子を窺えば、あいつは驚きのあまりか目を真ん丸に見開いたまま。
 こんな時に目ェ開けてるなんて不粋だろなんて、自分の事は棚に上げて思ったりしたけれど。
 すぐ目の前にある青い瞳は、マジで零れ落ちてきそう。
 ・・・綺麗だな。
 ああそうだ。
 あの時も、そう思ったんだ。




 「な、な、な、何のつもりだってばよっ、バカサスケ!」
 唇を離したら途端に溢れ出す憎まれ口。
 だけど、今は何故か気にならない。
 片手で唇を押さえて、真っ赤な顔して、潤んだ瞳で睨み付ける。
 これは、オレだけが知ってるカオ。
 「何とか言えってば!」
 怒り心頭という感じで掴みかかってくるのを軽く躱して、再び腕を掴んで。
 また間近くなった顔に、一瞬身を引きつらせたあいつの耳元で囁く。
 「事故じゃねえからな」
 だから忘れるな。
 おまえは、オレとキスしたんだ。
 そのトリアタマにしっかり叩き込んで、オレを見る度思い出せ。
 これでやっとフィフティだろ?
 あいつの顔が、くしゃりと歪んで、
 「〜〜〜っっっ、お、おまえなんか、知らねーっ!」
 ぱんと振り払われる手。
 ますます赤くなった頬。
 背を向けて走り出した、項まで真っ赤に染まってる。
 「ナルト!」
 逃げ出す途中のクセに、律儀に立ち止まるオレンジ色の背中。
 振り向いてくれないのはちょっと残念だが。
 「おまえ、みそラーメンばっか食ってんじゃねーよ。次も同じ味だったらいい加減飽きるぞ」
 「勝手に飽きてろ! 第一、つ、次なんかないってば!」
 再び駆け出す後ろ姿を、今度は止めなかった。
 込み上げてくる笑いを辛うじて堪える。
 捨て台詞もそんな裏返った声で叫ばれたんじゃ全然効果なんかない。むしろ逆効果。
 ・・・これであいつは忘れない。
 てめえだけとっとと忘れようったって、そうは問屋が卸さない。
 そんな事になったら、また思い出させてやるだけ。
 次があるかどうかなんて、オレが決めるんだよ。ウスラトンカチ。



 
 小さな背中が夕焼けの中に消える。
 夕焼けより赤かったあいつの顔。
 泣きそうだった瞳。
 今も唇に残る、柔らかな感触。
 ・・・これは癖になっちまうかも知れない。




 何だかひどく気分がいい。
 こんなにすっきりしたのはいつ以来だろう。
 あんまり気分がいいから、今日は久しぶりに味噌汁を作る事にした。








 ここまで口が悪きゃナルトに嫌われてもしょうがなかろうよ。自業自得。
 突然ぷっつんキレてしまうのは、ある意味うちのサスケのお約束かも。
 しかし、ここまでやっておきながらまだ無自覚らしいです。坊やだからさ(笑)。(あゆりん)
 
 なんかちゅー話ひさびさな気がする。楽しかったv(さよ)




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