どこぞの女じゃあるまいし、そんなモンに夢なんて、これっぽっちも持った覚えはないのだが。
 「うおー、口が腐るぅぅっっっ!」
 「てめ・・・ナルト!殺すぞ!!」
 いくら何でも最初がこれじゃあんまりだ。








 あの時からかもしれない








 玄関の戸を力任せに開けると、立て付けの悪いそれは、思いきり耳障りな音を立てた。
 構わずに荷物をそこらに投げ捨てて、一気に洗面所まで突っ走る。
 古い廊下はやたら長い上、足を踏み出す度にぎしぎし軋んで、マジうざい。
 やっとの思いで辿り着くと、洗面台に頭を突っ込み、思いっきり蛇口を捻った。
 近くの山から引いている冷たい水が、多少なりとも苛立ちを押さえてくれるかと思っていたが、どうやらそれは甘かった。
 ちっとも効きやしない。
 容赦なく降りかかる水は、頭の芯が痺れそうな冷たさだというのに。
 いつまでも、唇の熱だけが引かない。
 一瞬だけ感じたあの感触が、どうやっても離れてくれない。
 なおもしばらく浴び続けていたけれど、さっぱり効果はなくて。
 しょうがなしに諦めて、濡れた髪を腹いせのようにタオルで乱暴に擦った。




 過ぎちまった事をぐだぐだ考えるなんて、無駄な事はヤメロ。
 どうせあのトリアタマも今頃すっかり忘れてるだろう。
 ・・・何かそれはそれでムカつくが。
 無理矢理自分に言い聞かせながら、夕食の支度を始める。
 この里にうちは一族はもうオレひとりきりで、たとえ手伝いでも他人をこの家に入れる気はしない。
 否応なくやらざるを得なかった家事一般は、今ではそこそこの腕だと思う。
 頭の中を他の事が占めていても、無意識にメシのひとつやふたつ作れるくらいには。
 魚を焼き網に乗せて大根を擦りおろし、茹でた青菜に醤油をひと垂らし。
 煮立った出汁にみそを溶かして、お玉で軽くすくって味見をする。
 少し、濃い。が、豆腐を入れれば薄くなるから、まあこんなもんか。
 唇の端に付いた雫を無意識に舐め取る。
 じんわり広がるみその味に、思わず固まった。
 同じ味がする。
 あいつの・・・ナルトの唇と。
 ガツンと目から火花が出そうな痛みの中、そこだけえらく鮮明だった感触。
 「・・・ちょっと待て、おい」
 一瞬にして蘇ってしまった記憶に、頭を抱えたくなる。
 畜生あのウスラトンカチ、いい加減人の頭の中から出て行きやがれ!
 連鎖反応式に思い出してしまったバカ面に悪態を尽きまくっても、効果なんかまったくなくて。
 やたら熱く感じる唇を持て余し、ひりつく喉に何度水を流し込んでも乾きはちっとも治まらない。
 ・・・冗談じゃない。




 唇の感触と共に思い出すのは、あの時のナルトの表情。 
 瞬間、げっと顔を歪めて。
 両手で口を覆って。
 横を向いて吐く真似をする程、ばりばりに嫌悪感を表現していた。
 そりゃまあ、ムシが好かない相手とキスなんてやらかしてしまったら、そんな反応示すのは無理ないのかもしれないが。
 心底嫌そうにオレを見るあの目を思い出す度に、胸の底が重くなっていくような気がする。
 「畜生・・・腹が立って来た・・・」
 マジで馬鹿みたいだ。
 何で、あいつの事なんかこんなに気にしなきゃいけない?
 お調子者で喧しくてくだらない悪戯ばかりしている、ダントツのドベ。
 まったく接点のない相手と関わる程オレは暇じゃない。
 たまに否応なく授業で組まされる事があったくらいで、今日まで口すら殆どきいた事がない。
 ・・・ただ、見ていただけだ。
 簡単な術もろくに使えなかったアカデミー時代のナルト。
 周りの連中が囃し立てるのにいちいちムキになって、時には派手なケンカもやらかして。
 どうしようもない落ちこぼれとしか認識していなかったあいつを、ある時、演習場で見かけた。
 一瞬、ニセモノかと思った。
 一人黙々と修行を続けるあいつは、いつもの間抜け面とはまったく違っていたから。
 何度失敗しても、諦める事なく同じ事を繰り返すその姿。
 汗に濡れる金色の髪と、意志の強そうな青い瞳がひどく印象的で。
 何故かそれ以上見てはいけない気がしてすぐに立ち去ったから、あの後上手く行ったのかどうかは分からない。
 知っているのは、次の授業でナルトが自信たっぷりにその術に挑戦し、そして成功して見せた事。
 しかし、そんなの出来て当たり前だと、誰にも、教師にすら顧みられる事はなく。
 オレですら頭に血が上りかけたその態度に、あいつは何の反応も見せず、ただ昂然と頭を上げていた。
 短気で馬鹿で騒がしくて、だけど不器用な程真直ぐで、諦めるという事を知らないウスラトンカチ・・・うずまきナルト。
 目に付いたから、時々見てた。それだけだ。
 オレにとって、あいつはたったそれだけの存在だ。
 たかが唇と唇が間違って触れたくらいで、動揺する理由なんかない。
 だから、今もこんなに心臓の音がうるさいのは。
 自分からぶつかってきたくせに、失礼極まりない態度を取りやがったウスラトンカチがムカつくからだ。
 そう決めた。
 てゆーかそれ以外にあるかっっっ!



 
 あれは単なる事故に過ぎない。
 ちょっとした人込みを歩けば日常茶飯事で起きるような、ありきたりの事故。
 ただ、ぶつかった箇所が少しばかり特殊だっただけ。
 いつもだったらあれくらい躱せた筈なのに、あんなフカクを取っちまったのは、多分ひどく驚いていた所為で。
 あいつが真正面からオレを見たのなんて、考えたらあれが初めてだったんだし。
 いくらオレだって、思いがけない出来事に一瞬動きが止まってしまう事くらい、ある。
 だから、倒れかかってくるナルトを避けられなかったのは、不可抗力だ。
 初めて間近で見た珍しい色の瞳に、見入ってしまった所為なんかじゃない。
 まして、わざと避けなかったわけじゃ、絶対ない。
 ないったらない!



 
 
 


 とりあえず、作りかけのみそ汁は流しに全部ぶちまけた。
 当分、みそ味のものは食えそうにない。










 オフィシャルで「キスはみそ味」なんて言われた日にゃ、神のお導きっつーか、サスナラーへの挑戦っつーか、挑戦なら受けねばっつーか。
 とか言いつつ兵の書発売からかなり日数経ってしまいました。私のペースなんてこんなもの。てゆーかナルト出て来ない(爆)。
 続き一応あるのですが、いつ書けるか分からんのでここで終わっときます。神様が降りて来たら書く・・・多分。
(あゆりん)


・・・・今日は味噌いためにしようvくすり。(ちゅー味?)(さよ) 


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