こんなことがしたいわけじゃない。
 なんて言えないけど
 こんなことだけがしたかったわけじゃない。
 それは本当。







  
Cry for the moon







 腕の中の身体が眠りにつくのを確認して、オレはそっとベッドから出た。
 あいつが目を覚まさないよう、物音を立てないように、気配さえ殺して、そこら中に散らばった服を集める。
 腕を通そうとして、半分だけ開いたカーテンから差し込む月明かりに気が付いた。
 青白い月の光が、眠るナルトを柔らかく照らす。
 丸くなって眠る身体は、悲しいほどに小さくて。
 誘われるように伸ばした手を途中で止める。
 この手。
 大人とは程遠いこの未熟な子供の手で、小さな小さなおまえを抱く。
 多分それはひどく愚かな行為。
 だけど、オレにはこれしか方法がなかった。
 オレはおまえを包み込める長い腕も広い胸も持っていないから。
 どうしようもないほど好きな相手を、欲しくて欲しくてたまらないおまえを手に入れるために、
 縋るように抱き締めるしかできなかった。


 身支度を終えて、振り返らずに部屋を出る。
 眠るおまえの面影を振り切るように。
 あどけない子供そのままの寝顔と、白い肌のあちこちに散った紅い痕はいつだって酷くアンバランスで。
 夜闇の中で印されたそれを太陽の下で見るのが辛くて、オレはいつも朝が来る前にこの部屋を出る。
 なんて欺瞞。
 この手で堕としておきながら、その結果から目を逸らして。
 それでも止めることができず、幾夜も同じことを繰り返す。
 おまえをオレに繋ぎ止める、ただそれだけのために。


 オレが見ていたのは、太陽の下で笑うナルト。
 誰よりも深い孤独と痛みを抱えて、それでも前を見つめて、途方もない夢を語って笑うおまえを、
 愛しいと思った。
 尊いと思った。
 オレにはできないことをやってのけるおまえが、ただ眩しくて。
 オレのものにしたかった。
 どんなことをしても。
 どんな罰を受けたとしても。


 後悔はしない、筈だった。


 ナルトの瞳をこちらに向けるだけなら、ひどく簡単なこと。 
 寂しがりやのあいつの心は磨かれた鏡のよう。
 寄せられる好意を写し出し、好かれた分だけ相手を好きになる。
 多分それは例外はなく。
 だからオレは


 「おまえが好きだ」
 誰よりも、何よりも、おまえだけが欲しいと。
 それだけでもう、ナルトはオレを拒めない。


 「オレも、サスケ好き」


 知っている。
 これは最低の方法。
 知っていて、何でもいいから、嘘でもいいから、おまえが欲しくて、誰にも渡したくなくて。
 だからオレは
 誰かがおまえを求める前に、おまえが誰かの手を取る前に、
 おまえの心に付け込んだ。



 抱き締めれば、柔らかく抱き返してくる腕。
 その唇から零れるのは、狂おしいほど望んだ言葉。
 与えられれば与えられただけ、そのままおまえは返してくる。
 でもそれは、本当のおまえの心じゃなくて。
 おまえの本当の望みじゃなくて。
 オレの心が反射したにすぎない幻。
 おまえを手にすればする程、オレの心は切り裂かれる。
 ‥‥‥それがオレへの罰。
 

 いつしかオレは何も言えなくなり、ただおまえを抱く。
 おまえもやがて何も言わなくなり、ただオレに応える。


 それでも、オレはおまえを離せない。
 どうしても離すことはできない。
 今この手を離せば、おまえは他の誰かのものになる。
 おまえに優しい誰かのものに。


 それだけは許せない。
 おまえは誰にも渡さない。


 たとえ、おまえがどう思っていても


 それでも、オレはナルトを








 ドアが閉まって、サスケの気配が遠ざかっていくのを確認して、オレは目を開けた。
 ‥‥‥今日も居てくれないんだな。
 分かっててもやっぱり悲しい。
 天井を見上げると、真夜中のはずなのに何か妙に明るくて、カーテンが少し開いているのに気が付いた。
 ああ、満月だからこんなに明るいのか。
 ゆっくりと身を起こして窓を開ける。
 サスケが見えるかな、とちょっと期待したけど、白っぽい闇の中、あいつの姿はもうどこにもなかった。


 窓枠に肘を付いてひとつため息。
 ちょっと身体が重くて、腰の辺りがだるいけど、すごく辛いってほどじゃない。
 最初の頃は、起き上がるどころか指一本動かすのも大変だったんだから、これってやっぱり慣れかな。
 こんなに慣れる程、そーゆーことしてるのに、サスケは一度も朝まで一緒にいてくれたことはない。
 何でだろう。
 オレと一緒にいたくないのかな。
 ホントはオレのこと好きじゃないのかな。
 そう思ったら、涙が出た。


 ずっとずっと小さい頃から。
 里中の嫌われ者のオレを、好きになってくれる人なんかいなかった。
 だから。
 誰かがオレのこと好きになってくれたら、
 オレのこと一番好きって言ってくれたら、
 絶対、オレもその人のこと好きになる。
 その人のためなら何でもする。
 そう決めてた。


 「好きだ」
 オレが欲しかった言葉をくれたのはサスケ。
 めちゃくちゃ嬉しかった。
 だってさ、ちょっとは心配だったんだ。
 もしかして、オレを好きって言ってくれる人を好きになれなかったらどうしよう。
 それってば、すごくつらい。
 でも、サスケならそんなこと考える必要ない。
 だって、ずっと前からあいつのこと好きだったんだから。


 イルカ先生とかカカシ先生とかサクラちゃんとか。
 大好きな人達はいるけれど。
 でも、サスケは違うんだ。
 最初から全然違ってた。
 何でかなんて、分からないけど。
 誰よりも認めてほしいなんて、一番のトクベツになりたいなんて、そんなこと思ったの、サスケが初めてで。
 絶対叶えられないって思ってたから、ずっと言えなかったけど。
 

 本当に嬉しかった。
 好きな人が好きって言ってくれて、有頂天だった。
 だから、あいつがオレを欲しいって言った時、サスケが望むことでオレにできることは何でもしてあげたかった。
 すごく痛かったし、恥ずかしかったけど。
 でも、ぎゅっとしてくれるのは気持ちよかった。
 オレのこと必要だって全身で言ってくれてるみたいで。


 だけど。
 何でだろう。
 いつからかサスケは、好きって言うと、辛そうな顔をするようになった。
 それとも痛そう?悲しそう? ‥‥よく分からない。
 だけど、言う度そんな顔するから、そんなの見たくないから、段々言えなくなって。
 そしたら、サスケも好きって言ってくれなくなった。
 全然、言ってくれなくなった。


 ‥‥‥やっぱり、もうオレのこと好きじゃないのかな。
 だから、オレが好きって言うと嫌なのかな。
 でも、サスケは優しいから。
 意地悪ばっかり言うけど、ほんとはすごく優しいから、オレのこと突き放せないだけ?
 だから、こうやって毎晩のようにオレを抱くの?
 ほんとはウンザリしていても。
 ‥‥‥だとしたら、すごく悲しい。
 胸の中、手でぎゅっと捕まれてるみたいに痛くて、苦しくなる。


 でも、そうだとしても、
 それでもオレ、サスケから離れられない。
 離れたくない。


 まだオレのこといらなくなったんじゃないよね。
 まだ傍にいてくれるんだよね。
 問いかけたくて、でも答えを聞くのが怖くて、結局サスケにしがみつくことしかできなくて。
 オレを求める腕を感じる時に、やっと少しだけ安心できる気がする。
 

 オレ、サスケと一緒にいたいよ。
 サスケじゃないとイヤなんだよ。


 たとえ、おまえがそうじゃなくても


 それでも、オレはサスケを







 「      」







 二人の子供は


 同じ月を見上げながら


 同じ言葉を口にする。


 お互いに届かない言葉を。


 それはまるで


 月が欲しいと泣く子供。


 
 
 
 

 いいから素直に言いなさいよ、あんたたち。
 というわけでこの話、一見シリアスのようですが、実は二人が大ボケかましてるだけですね。
 誤解がとければ、すっごいバカップルになりそうな気がします。
 問題はどうやって軌道修正するかってことでしょう。
 そこまで私しーらないっと(無責任)




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