Step
「次は絶対勝つからな!」
叫びながら、びしっと金髪の少女が黒髪の少年に向かって指を突きつけた。
小柄な少女が大きな青い瞳で精一杯睨み付ける様は、迫力があるというよりは可愛らしいと言った方が近い。
「次ってのは100年後くらいかよ」
案の定、指を突きつけられた少年は全く動じず、さらりと受け流した。
余裕ありまくりの態度に、少女はますます悔しげに地団駄を踏む。
「次は次だってばよ!ぜーったい、おまえなんかやっつけて、火影になってみせるからな!」
「ふん、老衰でくたばるくらいまでは待っててやってもいいぜ」
「おまえ、マジムカツク!」
言い捨てて、少女は憤然と少年に背を向ける。
数歩歩いて振り向くと、
「サスケのバーカ!」
盛大にアッカンベーをして、少女は後も見ずに走り出した。
みるみる遠くなる背中を見送って、少年はひとつ舌打ちをする。
「・・・あのウスラトンカチ」
「まったく、あんたも懲りないわよね、ナルト」
金色の髪を梳かしながら、サクラは呆れたように呟いた。
「だって、サクラちゃん・・・」
「ほら、もうちょっとだから振り向かない!ちゃんと前を向く!」
後ろを向こうとしたナルトを制して、サクラは手早く長い金髪を梳かし終えると、いつも通りのツインテールに結ってやる。
さらりと細い髪が手の中を流れる感触に、サクラはちょっとだけ手を離すのが惜しい気になった。
「ありがと、サクラちゃん」
「うちに愚痴りに来るのはいいけど、せめてお風呂とか入ってからにしてよね」
サスケとの勝負(修行とも言う)にこてんぱんに負けた後、サクラに泣きつきに来るのが殆どナルトの日課になっていて。
今日もいつものように泥まみれでサクラちゃーんと抱きついてきたものだから、首根っこを掴まえて風呂に突っ込んだのだ。
従って、今ナルトが着ている服はサクラが貸したものなのだが、ナルトには全体的に大きいようで、ちょっとだけ着心地が悪そうにしている。
サクラの名誉のために言うならば、決してサクラは太っている方ではなく、むしろ他の少女に比べてもスレンダ−でスタイルも悪くない。
単にナルトが平均より小柄なだけで。
ただ、胸の辺りだけはぴったりというか、むしろキツそうなのが、多少むかつくのは否めない。
「で、今日はどうしたの」
「サスケってば、ひどいんだってばよ!」
ハチミツ入りホットミルクを渡しながら促すと、堰を切ったようにナルトが喋り始める。
あちこち脱線しながら、逐一語られる今日の出来事に、サクラはレモンティーを飲みながらふんふんと相槌を打つ。
もちろん真面目に聞いてなんかいないけれど。
真面目に取り合ったってバカを見るばかりだというのは、最初の1回で学習済。
里一番の切れ者の異名は伊達じゃない。
「ほんと、イヤミばっかりでさ!」
頬を紅潮させて喋り続けるナルト。
風呂上がりでさっぱりした身体は、ほんの数カ所掠り傷があるだけで。
普通、あんなに泥だらけになるまで動き回れば、ましてこの子みたいに粗忽者なら、到底この程度の怪我ではすまないだろうに。
(苦労してるわね、サスケくん)
騒がしくて無鉄砲で、いつも無茶ばかりしているこの少女は、任務中もさんざん迷惑をかけてくれて。
うざいと思ったこともあったけれど、やたらと自分に懐いてくる姿は妙に憎めなくて、いつの間にやらお姉さん気分。
だから、サスケが誰を見ているか気付いてしまっても、ああそうかとほろ苦い気分で納得した。
この子だから、どうにか諦められた。
サクラの知っているうちはサスケは、興味のないことにはまったく目を向けないクールな男の子。
女子のうっとりした視線にも、男子のやっかみにも、顔色一つ変えたことがない。
そこがクールビューティでステキと、ますます女の子人気が高くなるのだから、まったく顔がいいとは得なもの。
そんなサスケが、一方的にライバル宣言された少女に対しては、真正面からぶつかって、毎日毎日修行の相手までして。
やたらと突っかかってくる少女に、憎まれ口で応対するのもひどく楽しそうで。
何より、その子といる時だけ、時折柔らかな笑みを見せる。
あいにくと、視線が合うとすぐにスカシ顔に戻ってしまうから、肝心の本人には届いていないみたいだけど。
そんなこと気付いてしまったら、もう諦めるしかしょうがないでしょう?
そりゃ、ちょっとは・・・だいぶ、泣いたけど。
「それで、サスケがね」
ナルトの話はまだ続いている。
けれど、不満たらたらだった最初の頃とは、明らかにトーンが違ってきている。
段々相槌がおざなりになってきているサクラにも気付かないようで。
「カカシ人形を的にしたら、全部命中させたんだってば」
「・・・それ、部屋にあったぼろ人形のコトでしょ。あんたの手作りってサスケくんに言ったの?」
「うん!すごかったってばよー。しかもぜーんぶ急所に当たっててさあ」
そりゃそうだろう。
思わずこめかみを押さえたい気分になるサクラに構わず、ナルトははしゃいだように話し続ける。
サスケがああした、こうしたと、ひどく楽しそうに、目なんか輝かせて。
「・・・やってらんない」
「どうしたってば?サクラちゃん」
ぼそっと呟いたのに反応して話を止めたナルトの両頬を、サクラは思いっきり捻り上げた。
「い、いひゃい、いひゃい、ひゃくらひゃーん」
「こんの、ぜーたく者!」
「な、なんでー?!」
とんでもなく不器用な男の子と、まったく無自覚な女の子。
想像するだに前途多難な二人だけど。
(教えてなんかあげないわ)
好きだったあの人と可愛いあの子。
失恋の代償としては、これくらいの意地悪、ささやかなものよね。
サスケの出番がない。
ベタな少女マンガを狙ったはずなんです。
なのに、ちょろっとしか出ない筈だったサクラちゃんが、語り始めてしまいました。