Happy Baby
「先生、赤ちゃんってどうすればできるの?」
海野イルカ。アカデミー教師歴8年。
生来の子供好きと面倒見の良さから、この仕事を天職としてきた彼であったが、あいにく保健体育は担当しておらず。
元教え子の突然の質問に、顔面蒼白全身硬直の事態に陥った。
「おやおやナルト、おませさんだねー」
絶句するイルカの背後からカカシがひょっこり顔を出す。
「あれ、カカシ先生、何でこんなとこいるってば」
授業終了後のアカデミーの廊下なんて、カカシが出現するには甚だ不似合いで、ナルトは長い金髪をさらりと揺らしながら首を傾げた。
「隣の報告所に行った帰り。どうでもいいけど、こんな誰が来るか分からないとこでそーゆー会話はちょっとやばいんじゃない?場所移動しよっか」
「うん」
素直にナルトは頷いて、まだ固まったままのイルカの腕を引っ張ると、カカシの後を付いて行った。
とりあえず、中庭のベンチに落ち着いて。
授業が終わってかなり時間が経っているため、中庭周辺からは既に生徒の姿は消えているが、遠く校門の辺りには帰宅途中の子供達がちらほらと見える。
「うーん、のどかだねえ」
「オレもちょっと前までああだったってばよ」
「おまえはいつも居残りだったんじゃない?」
「いっつもじゃないもん!週に5日くらいだもん!」
「それ、いつもって言うでしょ」
「ナルト!!」
ナルトとカカシののんびりした会話が繰り広げられる中、硬直状態のイルカがようやく復活を果たす。
「あ、イルカ先生が起きた」
「その、さっきの質問の意味は・・・」
にっこり笑うナルトにイルカは恐る恐る問いかけた。
その顔には困惑の2文字がでかでかと書かれていて。
今更おしべとめしべの説明をしなければいけないのだろうか。
でも家族のいないナルトにとって他に尋ねられる人もいないんだろうし。
だがしかし。
ぐるぐると考え込むイルカに向かって、ナルトはさらりと言った。
「だから、オレ達早く赤ちゃん欲しいんだってば。でも、なかなかできないんだよなあ」
「オレ達?」
さっきとは微妙にニュアンスの違う言葉。
というより、結婚何年目かの主婦が使うような。
ひゅうとカカシが楽し気に口笛を吹くのを、イルカは空しく聞いた。
つまり問題は、赤ちゃんがどこからやってくるかなんてメルヘンなコトではなく。
「オレとサスケ」
ナルトの口から出た少年の名前に、イルカは顔を引きつらせた。
下忍になるにあたり、アカデミートップの少年とドベのナルトを同じ組にしたのは、少しでもスムーズに任務をこなしていけるようにとのイルカの親心。
とはいうものの、正反対の気性を持つ子供達は最初から喧嘩が絶えなかったようで、人選ミスかとかなりやきもきしたのだが。
それが一体いつの間に、何がどうしてどうなったものやら。
『オレ達、オツキアイしてるんだってば!』
ナルトから元気いっぱいの報告を受けた時には、思わず目眩がしたものだ。
家族のいないナルトの面倒をずっと見てきたイルカにとって、彼女は生徒というより妹か娘のような存在で。
可愛い娘にこんなに早くムシがつくなんてと男泣きしそうになったが。
満面の笑みを浮かべたナルトの横で、仏頂面して立つうちはサスケ。
むすっとしたまま、ちょっとだけ会釈をした少年の顔は、よくよく見れば仄かに赤く。
サスケはとてもナルトを大事にしているようで、何よりナルトが物凄く嬉しそうだったから、この子が幸せならしょうがないと認める気になったのだ。
しかし、二人ともまだまだ子供。
当然それに見合った付き合いをしていると、イルカは今の今まで信じていたのだった。
「サスケはね、オレによく似た女の子がいいんだって。でもさ、やっぱりオレは、サスケ似の男の子も欲しいんだってば。だったら、どっちも産めばいいってサスケが言ってさ。サスケんちすげー広いから、何人でもおっけー、むしろ多い方がいいってv」
楽し気に喋り続けるナルトに、イルカはがっくりと肩を落とす。
(ナルトー、おまえは不良になってしまったのかあ!)
婚前交渉=不良。
海野イルカはとことん古風な男であった。
それでも一縷の望みを託して、声を振り絞ってナルトに問いかける。
「・・・ナルト。おまえそもそも、そのー、赤ちゃんの作り方、知ってるのか?」
「やだー、イルカ先生ってば!いくらオレと先生の仲でもそーゆーことは大声で言うもんじゃないってばよ!」
「そ、そーだなー、あははは・・・」
頬を染めたナルトにバンバンと背中を叩かれて、イルカは力ない笑いを洩らした。
「大声で言えないなら、小声で先生に教えてちょーだい」
放心状態のイルカに代わり、それまで黙っていたカカシが突如会話に割り込んでくる。
「えー、カカシ先生のスケベー!」
「いやいや、ナルトがどれくらい知ってるかちゃんと分からないと、アドバイスできないでしょ」
「うーん・・・」
ためらいながらも、カカシにぽしょぽしょと耳打ちをするナルト。
ややあって、
「んー、ごーかっく!」
にっこり笑ってカカシがナルトの頭をぽんぽんと撫でた。
「ほぼ完璧だねー。サスケに教えてもらったの?」
「あったりまえだってばよ!毎日がんばってるってば!」
褒められて嬉しいのか、ナルトはえっへんと胸を反らす。
にぱっと笑う顔は、言ってる内容を考えなければ、無邪気で可愛い子供そのもので。
「待て、ナルト!いかん、それはいかんぞ!そういうことは結婚前にするもんじゃない!」
はっと気を取り直したイルカが、慌てて止めに入る。
握りこぶしをつくって力説する姿に、カカシとナルトは困ったように視線を交わした。
「そう言われても、やっちゃってるものは仕方ないんじゃないですか?」
「カカシ先生の言うとおりだってばよ。それにオレ、サスケのお嫁さんになるって約束してるもん」
「おまえ達はまだ子供じゃないか!そんなの何年先のことか・・・」
「それが大して先じゃないかもしれないんですね、これが」
振り返ったニ対の視線を受けて、カカシは胸元から取り出した紙片をひらひらさせながら、楽しそうに笑った。
特別婚姻許可申請書。
「ってなあに?カカシ先生」
「おまえも知ってるだろうけど、忍びの仕事は危険が多い。若くして命を落とす者も少なくない。そこでだな」
木の葉の里では、婚姻可能な年齢は男女とも18歳以上とされているが、特例措置が設けられている。
とある条件を満たす者に限って、それ未満の年齢でも結婚できるのだ。
すなわち、里にとってその血を残すことが有益と認められる者。具体的には、
・傑出した能力の持ち主である者
・代々優れた忍者を輩出してきた家系の者
・その血が途絶える恐れのある者
・独立して生計を営む能力のある者
これらを兼ね備える者だけが、許可を得ることによって、若年でも結婚を認められている。
「ふえー、そうなんだあ」
「ちょっと待ってください。もしかしてカカシ先生が持ってらっしゃるのは・・・」
「ええ、サスケが出してきた申請書です。15歳以下の場合、上司の承認が要りますから」
うちはの末裔、恐るべし。
素早い行動力に舌を巻きつつも、イルカはカカシに憤然と食ってかかった。
「それをあなたは認めるんですか!」
「うちはサスケは条件を全て満たしてますからねえ。反対する理由は特にありませんが」
「しかし、いくら何でも・・・、どうした、ナルト」
なおも言い募ろうとして、つんつんと服の裾を引っ張る気配にイルカは顔を下に向ける。
「先生は、オレとサスケがケッコンすんの、反対なの?」
「い、いや、そういうわけじゃないぞ!ただおまえたちはまだ若すぎるから、もうちょっと大きくなってからでも・・・」
「でもオレ、今、サスケと一緒にいたいんだってば。オレもあいつもずーっとひとりだったから・・・」
じんわりと大きな瞳が潤む。
「おとーさんとおかーさんとこどもたちがいっぱいの家が、早く欲しいんだってばよ・・・」
「ナ、ナルト・・・」
「実はこれ、役所から突き返されて来たんですよ」
泣き出しそうなナルトにイルカがおろおろしていると、カカシが一気に突き落とすような事を言い出した。
「カカシ先生?!」
「係の人がイルカ先生と同じような事を言いましてね、あっさり却下。元々この申請自体あまり出す者がいませんし。前例がないことにはお役所って固いんですよねー」
「だめなんだあ・・・」
ナルトの青い瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちて。
「ナルトっ、泣くな!ずっとダメなわけじゃないんだからっ」
「今がいいんだってばよ〜」
慌てて宥める言葉に耳も貸さず、ひくっとしゃくり上げる。
困ってしまったイルカがおろおろとナルトの肩に手を置こうとした時、
「・・・何、こいつ泣かしてんだ」
低い声音と共に、ヒヤリとする感触を首筋に感じた。
「サスケー!!」
首筋に当てられたクナイにイルカが硬直していると、ナルトがクナイの主に向かって飛びついた。
衝撃で刃先が顔の周辺で不規則な動きを見せ、心臓が縮む思いのイルカとは裏腹に、クナイの主---サスケにとっては最早そんなことはどうでもいいようで、あっさりとクナイを投げ捨てて胸に飛び込んできた少女を抱き締める。
「どうした、ナルト」
「あのさあのさ、オレ達ケッコンしちゃだめって〜〜!」
「・・・何だ、そんなことか」
ナルトを抱き寄せつつ、バリバリに周囲を威嚇していたサスケは、その言葉に緊張を緩めたようだ。
反対に、ナルトはその淡々とした様子が気に入らないらしく、むうっと唇を尖らせる。
「そんなことって何だってば!サスケはオレとケッコンしたくないのか?!」
「早合点すんな。誰もそんなこと言ってねーだろ」
「オレだけって約束したのに、もうオレのこと好きじゃないんだあーっっっ」
「・・・どうしてそうなるんだ!」
「だったら、好きか?!」
「今は、んなこと言ってんじゃねーだろ!」
「やっぱり嫌いなんだ!」
「・・・このウスラトンカチが」
ああ、もう埒があかない。
舌打ちをすると、サスケはナルトの耳元に口を寄せて、ぼそっと一言、二言呟いた。
「・・・最初っから言えばいいんだってば」
今泣いたカラスがもう笑って、ナルトは嬉しそうにサスケに抱き着く。
「うるせー、てめーが物覚え悪いからいけないんだろうが」
「もー、すぐそーいう言い方するってばよ!まったく素直じゃないってば」
言い返しながらも、そっぽを向くサスケの耳が赤いのに気付いて、ナルトはますますぎゅっとしがみつく。
「あー、これこれ、続きは後でやるよーに。サスケ、何か用事があったんじゃないのか」
そのまま際限なくエスカレートしそうなイチャイチャぶりに、カカシがしょうがなさそうに止めに入った。
ちなみに、イルカは横で真っ白に燃え尽きている。
「ああ、これに印をもらいに来た」
片手でナルトの髪を撫でながら、サスケがポケットから紙切れを取り出してカカシに渡す。
カカシは、それをおやおやという顔で眺めていたが、ぽんと印をついてサスケに返した。
「おまえも懲りないねえ。せめて後2年待てばいいのに」
「こっちの勝手だ」
「またハネられるんじゃない?」
「手はある」
2通目の特別婚姻許可申請書をポケットに突っ込みながら、サスケはふふんと笑う。
「うちはの跡継ぎを私生児にする程、あいつらもバカじゃねえだろうよ」
「・・・成る程」
既成事実を盾に結婚を迫る。
使い古された手ではあるが、それは果たしてこういう使い方をするものだったか?
思わず首を捻る大人とは裏腹に、少女はぱあっと顔を輝かせた。
「サスケ、あったまいー」
「分かったら帰るぞ、ドベ」
「ドベ言うなってば!」
文句を言いつつも、差し伸べられた手をナルトは素直に受け取った。
「じゃあね、イルカ先生、カカシ先生。・・・あれ、イルカ先生、また寝ちゃったの?」
燃え尽きたイルカ、未だ復活を果たしておらず。
「あー、大丈夫だから、おまえ達はさっさと帰っちゃいなさい」
「あ、せんせー、子供の・・・」
「それは、また今度ね」
突如、当初の問題を蒸し返しかけたナルトの口を、カカシが素早く塞ぐ。
途端にサスケに睨み付けられて、すぐに手を放したが。
「気を付けて帰るんだぞー」
「せんせー、ばいばーい」
「・・・」
遠ざかる後ろ姿を、カカシは手を振って見送った。
「もしもし、大丈夫ですかー?」
「あ、ええ。すみません、お手数おかけしまして」
子供達の姿が見えなくなった頃、ようやく我に返ったイルカであったが、ベンチに座り込んで黄昏れている姿は、何だか一気に老け込んでしまったようで。
同情を覚えつつ、つい洩れ出て来る笑いをカカシは噛み殺す。
「あいつらのことですけどね、確かに若過ぎますが、早過ぎはしないと思いますよ。・・・そろそろ幸せになってもいい頃でしょう。子供云々はともかく」
「・・・ええ、分かってはいるんです。あの子達程独りの寂しさが身に滲みている子供はいない。どんなに可愛がっていても、誰もあの子達の家族にはなれない。・・・ただ」
ふうっとイルカは吐息を吐く。
「そうですね、もう少し長く手元にいてほしかっただけなのかもしれないなあ・・・」
寂しそうに肩を落とす姿は、まさしく一人娘を奪われた父親そのもの。
イルカはもう一度ため息を吐くと、気を取り直したように明るい声を出した。
「まあ、ナルトが幸せならもう何だっていいですよ。あの子の子供なら、きっとすごく可愛いだろうし・・・」
想像したのか、既におじいちゃんモードで相好を崩すイルカの様子に、カカシの覆面の奥でぶっとくぐもった音がした。
「カカシ先生?」
「い、いや失礼。しかし、それは当分ないと思いますがね」
「はあ?」
不得要領な顔をするイルカに、カカシは声を潜めて。
「だって、ナルトは多分、初潮まだでしょう」
「!!!!!!」
本日何度目かの爆弾投下。
まともに言葉を紡ぎ出せないらしく、イルカは真っ赤になって無意味に口をぱくぱくさせている。
「な、な、なん・・・っっっ」
「何で分かったかですか?まあ、大体のカンですか」
実にセクハラすれすれの嫌なカンの持ち主である。
「それに、さっき毎日頑張ってるって言ってたでしょう?普通、あの期間はできませんよね。多分、ナルトは方法は知ってても根本的な仕組みは理解してないんだろうし、サスケもさすがにそこまで女体に詳しくないでしょうしねえ。・・・もしもし、イルカ先生?」
「ゆ、許せん、サスケ・・・!」
「まあまあ待ってくださいよ」
真っ赤になった後、今度は蒼白になり、殴り込みかねない勢いでがばっと立ち上がったイルカを、カカシはのんびりと止めに入る。
その悠長な様子に、イルカはついにぶちキレた。
「放してください!そんな未発達な子供相手に・・・淫行罪ですよ、これは!」
「そう言われてもねえ、サスケも同い年だし。むしろ生まれ月はナルトより後ですが、それでも成立するんですかねえ」
「う・・・」
水を差されて言葉に詰まるイルカに、カカシはにっこりとどめを刺した。
「それに、お赤飯炊く日もそう遠くはないでしょうしね。・・・まあ、諦めた方がいいですよ、お父さん」
保護者達の心境も知らず、黒髪の少年と金髪の少女は仲良く帰り道を辿っている。
「なあなあ、サスケ」
繋いだ手をぎゅっと握りしめ、振り向いた少年に少女はへへっと笑いかけた。
「オレね、サッカーチーム出来るくらい子供欲しい」
「・・・・」
「サスケ?」
「ラグビーチームくらいでもオレは構わん」
子供達の夢が叶うのは、一体いつのことでしょう。
馬鹿話です。でも書きたかったので後悔してません。(←悔やめ)
サスケ含有率少ない上に、激しくニセモノ・・・。こーいう奴になるのは分かっていたんで、最初は全く出ない予定だったけど、サスケスキーとしてそれはどうよと思って急遽出番増やしました。・・・やっぱ出さない方が良かったかも。
今回のツッコミ所。
・この世界にサッカーやラグビーがあるのか?てゆーか、バレーチームくらいにしとけ。
・申請書の存在をナルトは知らなかったが、サスケの独断で提出していいのか?ハネられたのはそれが原因かも。
・あんたら何歳?(少なくとも15歳以下・・・)