Soft Touch






 玄関の方向から聞こえてきたけたたましい響きに、サスケは読んでいた書物から顔を上げた。
 うちは邸は広い。
 里でも有数の旧家のこと、総面積も建坪も一般家屋とは桁2つ程違う。
 もっとも、今現在の住人は若き当主唯一人であり、彼が通常使用する範囲以外は屋敷も庭もほぼ放ったらかしの状態であるため、かつての壮麗な面影は見るべくもないが。
 当主曰く、もうじき嫁をもらうので手を入れるのはそれからでいいらしい。
 とにかく、近隣の子供達からお化け屋敷(大量殺人現場であるのは事実なので否定しない)と陰口を叩かれようとも、未だうちは邸は広大な面積を誇っている。
 当然、もっとも奥向きに造られているサスケの自室まで玄関の物音が聞こえてくることなど、通常ならばあり得ない事態であった。
 急な来客や泥棒の場合はどうするのだという声もあるが、いきなり来るような奴は基本的に相手にしないのがサスケの主義であり、罠だらけの忍者屋敷に忍び込むような度胸のある者など殆どおらず、いたとしてもすべて血祭りに上げるだけなので問題ない。
 それがここまで賑やかに、玄関を壊さんばかりの勢いで突っ込んでくるような心当たりと言えば、唯一人。
 門から入り口まで、果ては玄関から彼の居室までのトラップの数々をサスケ自ら教え込み(それでも時々引っかかっているが)、合い鍵まで渡してある可愛い可愛い恋人だけである。
 思考がここに至るまで約0.5秒。
 とりあえずその場から動かず、サスケはドタバタと廊下を疾走してくる足音を聞いていた。
 「サスケ!!」
 「やかましい、ウスラトンカチ!忍びならもう少し足音を殺してこい!せめて一般常識の範囲内でいいから静かに歩け!」
 ばたんとこれまた騒々しく襖が開け放たれて響いてきた声は予想通りのもので、振り向きもせずにサスケは答える。というより、怒鳴りつける。
 普段であれば、彼が熱愛してやまない少女は、ここでちょっとしゅんとして『ごめんってばー』とサスケにすり寄ってくるのだが(実はそれを期待していたのだが)、今回は少々風向きが違った。
 うずまきナルトという名のその少女は、ずかずかと室内に踏み込むやいなやサスケの襟首をがっと掴んで振り向かせると、そのまま首を絞めるほどの勢いで、
 「サスケ、金を出せ!」
と迫ったのだった。




 うちはサスケ、唖然呆然。
 沈着冷静で知られるエリート忍者が、頭が真っ白になって思考停止状態に陥る姿なんて、滅多にみられるもんじゃない。
 任務中だったら死んでるなと、どこか他人事のようにちらりと思う。
 反応のないサスケに何と思ったか、ナルトはなおもぐいぐいと襟元を引っ張った。
 「オレ貧乏なんだから、これ以上余計な出費できないの!だからサスケ、金出せってばよ!」
 サスケとしては別に金を出し渋って黙り込んでるわけではない。
 むしろ、たまにプレゼントをしても、喜ぶより先に、困ったようなすまなそうな顔をするナルトに物足りない思いを抱いてたくらいで、彼女のためならそれこそ家屋敷を売り払ったとしても全然かまわないのだが。
 しかし、いくらなんでも恋人相手にカツアゲなんて、頼み方にも程がある。
 表情を唖然から憮然に変えてナルトの顔を見下ろすと、しかしじっと見上げてくる目は真剣そのもの。
 青い瞳は大きく見開きすぎて潤みを帯びていて、サラサラの金髪からはいい香りがして、襟元を握る細い指は微かに震えていて。
 「・・・いくらいるんだ?」
 気がつけばそんな台詞を吐いているサスケ、結局好きな子のお願いにはどんな形でも逆らえないらしい。
 (しょうがねえだろっ、こんだけ態度悪いくせに可愛いなんて反則だ!)
 内なるサスケ、密かに逆ギレ。
 「いいの?!」
 「・・・ああ」
 「わーい、やったー」
 にっこり笑顔付きで抱きついてなんか来られたら、まだ残る釈然としない思いも殆ど消えてしまい、サスケの両手はすかさず細い腰に回っていたりする。
 我ながら重症だと自覚しつつも、治す努力を放棄して久しい。
 「で、いくらいるんだ?」
 重ねて聞くと、ナルトは少し考え込んで。
 「えーとね、・・・このくらいかな」
 遠慮がちに告げられた金額に、サスケはあからさまに不審そうな表情になる。
 多いのではなくその逆で、端金とは言えないまでも、せいぜいちょっと高価な忍術書を2〜3冊買える程度の金額に過ぎなかったのだ。
 「本当にそれだけでいいのか?」
 「十分だってばよ」
 「・・・一体何を買うんだ」
 考えてみれば最初に出てきていい筈の質問だったが、それが今まで念頭に上らなかったのは、思ったより動転していたらしい。
 もっとも、意外性No.1と彼らの上司をして言わしめた彼女を前にして、サスケが平常心を保てたためしはあまりないのだが。
 「そんなの秘密だってばよっ」
 「金を出すのはオレだろうが」
 慌てた様子で目を逸らされて、さすがにムッとする。
 途端に決まり悪そうな顔をするナルトに、サスケは更に追い打ちをかけた。
 「オレだって、現金はあまり持ってないんだぜ?」
 はい、ちょっとだけ嘘。
 確かに大金を持ち歩いているわけではないが、実はサスケの口座にはナルトが聞いたらひっくり返りそうな程の残額がある。
 性格的に贅沢とは縁がなく、彼女にも金がかからない上(うっかり家宝を壊されることはあるがどうでもいいらしい)、うちはの地所からは普通に生活するには十分過ぎる程の収益が上がってくるのだ。
 が、普段は忍びとして里から支給される給料にしか手を付けていないため、使われないまま積もり積もった金額はなかなか凄いことになっていた。
 けれど、そんなことは知らないナルトはしょんぼりと俯いている。
 「・・・じゃあ、いいってばよ」
 「出さないとは言ってないだろ」
 元気なく立ち上がろうとしたナルトの腕を引っ張って、サスケは自分の膝の上に座らせる。
 小さな身体は一瞬逃げ出したいような素振りを見せたが、すぐにぽすんと背中から凭れてきた。
 まるで子供を抱っこしているようなこの体勢、気恥ずかしいからあまりしてやることはないが、実はナルトはこれを気に入ってることを知っている。
 腰に手を回して覗き込むと、拗ねたような青い瞳が見上げていて。
 「中身を知る権利くらいあるんじゃないか?」
 「でも・・・」
 「オレには言えないようなことかよ」
 「・・・だって、サスケが悪いんだもん!だからサスケにセキニン取らせろって、サクラちゃんたちが言ったんだってば」
 「ああ?」
 何のことか分からずサスケが目を白黒させていると、ナルトは腰の手を振り解いてそのまま身体を反転させ、サスケを正面から睨み付けた。
 「オレの胸がおっきくなったのって、サスケのせいだってばよ!」





 事の起こりは数日前、ナルトが仲のいい女の子達と近場の温泉に遊びに行った時のこと。
 「ナルト、あんたブラのサイズが合ってない」
 脱衣所で景気良く服を脱ぎ捨てるナルトをしみじみ見つめて、サクラが厳かに言ったのがすべての始まりだった。
 小柄なナルトは、それに見合うように腕も足も腰もごくほっそりしているが、胸だけはぽんっと気持ちいいくらい張り出していて、まさに見て楽しい触って楽しい理想的な体型をしている。
 成る程、サクラの指摘にぎくりと身を竦めるナルトの胸は、窮屈そうな下着の脇から柔らかい膨らみが零れんばかりになっていた。
 「うわ、ほんとだ。何かそれエッチくさいわよ」
 揶揄するように、いのが指先でちょんとつつくのを身を捩って避けながら、ナルトはぶーっとムクレ顔になる。
 「だってこのブラまだ新しいんだってば。勿体ないってばよ」
 「でもナルトちゃん・・・、それって胸の形が崩れちゃうと思うの」
 控えめなヒナタの忠告に、賛同するようにサクラもうんうんと頷く。
 「ちゃんとサイズに合わせて買わなきゃダメよ。じゃないとヒナタの言うとおりたれちゃうわよ」
 「だって、バーゲンじゃなかなか合うのがないんだもん。1枚買うお金があったらラーメン10杯以上食べられるってばよ?」
 「何ぜーたく言ってるのよ!この肉、付けたくても付けられない子が一杯いるってのに!!」
 「わー、いのーっっ、掴むなってばあっ」
 「いのちゃん、乱暴は良くないと思う」
 「・・・これ以上肉増やす手伝いしてどーすんの」
 追いかけっこ状態のナルトといのに、一所懸命ナルトを庇おうとするヒナタ。
 狭い脱衣所で繰り広げられる騒動に呆れたようにサクラが呟くのを、こそこそとヒナタの背中に隠れたナルトが聞きつけて、目をぱちくりさせた。
 「ふやすてつだい?」
 「そうよ、胸って揉まれると大きくなるって言うじゃない」
 「ちっ、だからあんたそんなにでかくなったのね」
 「ほえ?」
 わけが分からないという顔のナルトに、サクラが苦笑しながら言葉を続けた。
 「いつもサスケ君に揉まれてるから胸でかくなったんでしょって言ってるのよ」
 「も、もまれてるって、サクラちゃんっっっ」
 途端に真っ赤になって、両腕で胸を押さえるナルトにサクラはあっさり一言。
 「今更何慌ててるの、されてないなんて言わせないわよ」
 はい、その通りです。
 なんて開き直れる程羞恥心が欠けているわけではなく、ナルトは胸を庇うように押さえたまま立ち竦む。
 そんなナルトの様子に、サクラといのは顔を見合わせるとにんまりと笑った。
 「そういうことならナルト、あんたの衣料費がかさむのはサスケ君にも一因があるというわけね」
 「い、いちいん?」
 「あんたがしょっちゅう下着を買い換えなきゃいけないのはサスケ君のせいってことよ」
 「サスケのせい・・・。サスケのせいでオレ、胸がおっきくなったの?」
 「そう、ぜーんぶサスケ君の責任なの」 
 「・・・だったら、仕返ししなくちゃってば!」
 「そうよ、可愛くおねだりして元を取り戻さなきゃね!」
 「オレ、がんばるってばよ!」
 精神を二つ持つ少女と他人の精神に入り込める少女の双方に詰め寄られれば、どちらかと言わなくても単純に出来ているナルトが抗える筈もない。
 あれよあれよと言う間に相手の術中にはまっていく様は、まさしくマインドコントロールの実践を見ているようで。
 「でも、それは俗説だから本当かどうかは分からないのよ・・・」
 同じく豊かな胸を持つヒナタの良心的な訴えは、すっかり面白がっているサクラ達とばっちり思惑にはまってしまったナルトに、あっさり黙殺されたのだった。
 




 (頭いてえ・・・)
 ナルトの、性格と同じくらいあちこち気儘に飛びまくる説明をどうにか最後まで聞き終えて、サスケは頭を抱えたい気分になる。 
 んなこと信じてるんじゃねえとか、こんなに騙されやすくてどうするとか、言うべき事はいろいろあるが。
 (てめえの可愛いおねだりってのはカツアゲか?!)
 真っ先にそんなことが思い浮かぶあたり、サスケ、可愛くおねだりされてみたいらしい。
 しかし、ナルトは大真面目であるし、ここで下手なことを言えば非常に面倒なことになるのは過去の経験上火を見るより明らかで。
 「・・・別にでかくて困るもんじゃねえだろ」
 とりあえずの素朴な感想は、しかしナルトの大反発を買った。
 「バカ言うなってば!すげー大変なんだぞっっ。重いし暑いし走る時邪魔だし、普通の服だって胸に合わせると他のとこゆるくって、気に入ったのあっても買えないし!」
 「オレのせいかよ?!」
 「おまえのせいだってば!」
 「・・・大体、揉まれりゃでかくなるなんてバカな話信じる奴があるか!」
 「だって、サクラちゃんが言ったんだもん!それにサスケ、いっつも触りまくるじゃん!」
 「しょうがねえだろ、触り心地いいんだから!」
 目をつり上げて言い立てるナルトに、一方的に犯人にされてはたまらないとばかりにサスケは反論・・・というか、開き直る。
 とは言うものの、このままいけば『触るの禁止!』とか叫ばれそうで、サスケとしてはどうにかそれは避けたいところ。
 憚りながらうちはのサスケ、決してナルトの顔や身体に惚れたわけではなく、たとえ洗濯板の如き代物でもナルトであればノープロブレムと胸を張って断言できる。
 だがしかし、目の前に惚れた女の丸くて柔らかな膨らみがあれば、つい手が伸びるのが男心の性というもの。
 それを禁止されるのは非常に困る、というより悲しい。
 現に、ちょっと視線を落とせば、膝に乗り上げるように詰め寄るナルトの豊かな胸が目の前にあって。



 「もー、開き直ってんじゃねえ!いいからセキニン取って金出せってば!」
 「分かった」
 「へ?」
 唐突に変わった風向きに気勢を削がれて目を丸くするナルトに、サスケは更に続けた。
 「10枚でも20枚でも買いたいだけ買え」
 「サスケ・・・何でいきなり気前よくなったってばよ・・・」
 「オレはケチじゃねえぞ。わけ分からんことに金を使う気がないだけだ」
 「ふーん、まあいいや。ありがと、サスケvv」
 些か不思議そうではあるものの、基本的に物事を深く考えないナルトのこと、要求が通れば途端に機嫌を直して、すとんとサスケの膝に座り込む。
 ネコの子のようにすり寄るナルトの身体を少しだけ引き離し、その隙間にサスケはそっと右手を這わせた。
 「や、サスケ、何触ってるんだってば!」 
 やわやわと胸を揉みしだく感触に、ナルトの身体がぴくんと跳ね上がる。
 反射的に逃げを打つ身体を、サスケは空いた左手を腰に回して押しとどめた。
 ナルトはサスケの肩に両腕を突っ張って、せめて少しでも離れようとするが、先端を掌で撫でるように触られて小さく叫び声を上げた。
 声を封じるように唇を合わせて、開いた隙間から舌を侵入させると、一瞬逃げたいような素振りを見せつつもやがておずおずと応え始める。
 「ん・・・やあっ」
 白い頬が上気してくるのを見計らって胸に這わせた右手に力を込めると、途端にナルトは目を見開いて首を振ってサスケから逃れようとする。
 唇を外してやると、ナルトは息を弾ませながら、潤んだ瞳で懸命にサスケを睨み付けた。
 「ひ、昼間から何すんだってば!こんなことばっかしてるから、おっきくなっちゃうんだってばあ」
 「別にかまわねえだろ。いくらでも新しいの買えばいいし」
 「そーゆー問題か?!」
 「そーゆー問題だろ。いいじゃねえか、ちゃんとセキニンは取ってやるから」
 「何か違う気がするってばよ・・・」
 柔らかい感触を堪能しながら腰を引き寄せると、ナルトはまだ不服そうに唇を尖らせている。
 軽く触れ合わせるだけの口付けを落としてやると、ちょっと睨んで仕方なさそうにため息を吐いた。
 「おまえってば強引すぎ」
 知ってたけどさ、と呟きながら力を抜いて凭れかかってくる身体を、サスケはしっかりと抱き込んだ。




 愛しいこの子の愛しいカラダ、触れずにいるなんてできないから。
 責任なんて一生分、嫌だと言っても取らせてもらう。
 ちなみに、拒否権はないからそのつもりで。







 「サスケ、金出せ!」
 「・・・またかよ」
 「おまえが悪いんだろ・・・って、何やってんだってば!」
 「どれくらいサイズ変わったか確認してんだろ」
 「サスケのスケベ!オヤジ!おっぱい星人!」




 相変わらずうちは邸からはけたたましい声が聞こえてくるが、騒ぎの元は犬も食わない何とやらであるわけで、結局最後はどうなるかなんて分かり切ったことだから。
 とりあえず、止める者はいない。

 
 
 



 何だかうちのナル子、天然とゆーより・・・おばかさん。
 とりあえず、ナル子でないとできない話ってことで、胸の話でした(爆)。
 ちなみにこの話では巨乳らしいですが、貧乳な話も書いてみたい(未定)。 

 サイズいくつ?(さよ) ・・・EかFくらいかな。現段階では。(あゆりん)




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