Sweet Candy
ちょっとオシャレな喫茶店とか、美味しいと評判のケーキ屋さんとか、はたまたスーパーのお菓子売り場とか。
「甘いモノ」を置いてある場所なんてのは、とかく女の子がさざめいていて、大多数の少年達にとってはかなりな所入り辛いもの。
しかし。
1年に1度、かの場所における男性比率が跳ね上がる時期がある。
おそらく殆どは好きで来るわけではないだろうが。
しかし曲がりなりにも「彼女持ち」だったりしたら、その日の行動如何で今後の付き合いに影を落とす可能性大なわけで。
かくて、甘い香りと華やかな彩りの中、所在なげにうろうろする野郎どもなんてうざい光景が一時的に出現する。
今年もまたそんな季節がやってきた。
「軽い」
右手に載せた包みを睨みつけながらサスケは呟いた。
拳二つ分程のそれは、小花模様の包装紙にピンクのリボンがふわふわと巻かれていていかにも女の子が好みそうな可愛らしさ。
しかしサスケは不満げにそれを戻して、別の包みを手に取る。
それも先程のものと負けず劣らず愛らしくラッピングされていたが。
試しに耳元で振ってみると、からからと軽い音がして、ますますサスケの眉間に皺が寄る。
子供のくせに、妙に馴染んだ仏頂面。
余人には単なる無愛想としか映らないそれも、彼に憧れる女の子達からすれば「影があってステキv」なんて頬を染めるかもしれないが。
「大きさの割に中身が軽すぎる。てか殆ど入ってねーんじゃねえか?それでこの値段は暴利だろ。それとも包装の値段かよ。んなとっとと捨てちまうもんに金かけてどうするってんだ」
ぶつぶつ呟いてる内容が聞こえたとしたら、サスケへの認識を改めること確実。
まあ、そうなったところでサスケにとっては痛くも痒くもない。
こうやってお菓子売り場の真ん前で考え込む羽目になった原因である「彼女」以外には、どう思われようと基本的にどうだっていいのである。
2月14日、女の子が好きな男の子にチョコレートを贈り
3月14日、男の子がクッキー(orキャンディーorマシュマロ)を返します。
なんて、どう考えてもお菓子業界の陰謀としか思えない行事。
はっきり言って甘いものが死ぬ程嫌いなサスケには、どうでもいいというより、なくなってくれ、いっそ潰してやろうかなんて、毎年毎年思っていたものだけれど。
今年の彼はちょっと違う。
とんでもない苦労の挙句、ようやくナルトを「彼女」にして。(なってもらって)
どきどきしながら迎えた初バレンタイン、ちょっと・・・かなり天然入ったナルトにこれまた行き違いがありつつも、どうにか本命チョコをゲットした。(てか奪った)
甘党の彼女が用意したチョコはやっぱりとても甘くて、かなり時間はかかったけれども、一片も残さず頂いた。(残したらどうなるかなんて考えたくもない)
そしたらやっぱりお返しするのが筋ってもんだし、あの子は意外とこーゆー行事が好きで、色気より食い気、特に甘いものには目がないから。
気恥ずかしくはあるけれど、ここは一つ世間のルールに則ってみようかと、「ホワイトデーセール」とやらで賑わうお菓子屋さんに足を踏み入れてみたのだが。
「何で、クッキー2枚ぽっちでこの値段なんだ?」
綺麗にラッピングされた小さな包みとその前の値札は、長年の一人暮らしのせいで子供にしては発達し過ぎた経済観念を真っ向から刺激した。
というよりも。
これだけじゃ、絶対足りない。
繰り返すが、ナルトはとっても甘党だ。
というより中毒だろと言いたくなるくらい、日々の暮らしに甘いものは欠かせない。
誕生日なんか一人でバースデーケーキワンホール食べてしまって、その時はさすがにどうしようと思ったが、腹も壊さずけろりとしていたのを見て以来、口出しするのはやめた。
それでもちっとも太らないのは何故なのか、サクラがかなり真剣に凄みをきかせて聞き出そうとしていたが、本人は首をひねるばかりで。(サスケとしてはもう少し肉がついてもいいかもなんてこっそり思っていたりする。)
そのナルトが。
こんなホワイトデー仕様だかなんだか知らないが、見た目ばっかり飾り立てて中身はぽっちりなんて代物に満足できるだろうか。(反語)
「やっぱり見かけより中身・・・つーか質より量だろ」
骨の髄まで実用的に出来ている彼に、夢見るお年頃な女の子の気持ちが分かる日は遠い。おそらく。
あのチョコレート、選ぶのにすっごく時間かかったんだってば。
ナルトは遠い目をして考える。
今年のバレンタイン、ナルトは1ヶ月以上も前から里中のお菓子屋さんを回っていた。
他人にあげるためではない。自分で食べるために。
だって、生まれて初めて本命チョコをあげたい相手ができたのに、彼は甘いものが大嫌い。
こんな美味しいもの食べられないなんてやっぱりサスケってヘンって思うけど、嫌いなのに食べさせても、チョコが可哀想ってもんだし。
無理矢理おしつけたって、サスケ、きっとイヤーな顔するんだろうし、だったらあげない方がマシでしょう?
だけどやっぱり、一応「彼氏」がいるのにバレンタインに参加できないのも悔しいしムカツクし。
せめて選ぶ楽しみだけでも味わおうと、とりあえずお菓子屋巡りをして気に入ったチョコを買ってきた。
最初から自分が食べるつもりだから、べたべたに甘いスイートチョコ。
包装だけはちょっとサスケのイメージで黒い包み紙にしてみたりして。
とりあえずバレンタイン当日だけサスケ人形にお供えして後から美味しく食べちゃおうと、実は結構楽しみでもあったのだけれど。
『チョコよこせ』
あのサスケがそんなことを正気でぬかすなんて、一体誰が予想したことか。
すっごいびっくりして、でもやっぱり嬉しくて。
だから、とっときのチョコレートをあげた。
『残したりしたら承知しないからな』
ちょっと照れもあってそんなこと言ってみたら、サスケは真に受けたようで、きっちり全部食べてしまった。
わあ。ほんとに食べたってば。でも一口くらいくれてもいいのに。
嬉しいんだけどなんか物足りなくて、ナルトがじいっと空になった包み紙を見てると、口直しだってキスされた。
サスケの口の中すごく甘くて、やっぱりこのチョコおいしーな、ちょっともったいなかったかなって思ったけど。
ナルトに美味しいと感じるチョコレート、サスケにとっては死ぬ程甘い筈。
鼻の頭に皺寄せながら、何も言わずに全部食べてくれた。
だから、まいっか。
その代わり、ホワイトデーは期待してもいいよね?
キャンディー、マシュマロ、クッキー。
全部ナルトの大好物。(実は義理チョコばらまいたのもこのためだったり)
何でもおっけー、どんとこい!
なんて、すっごいわくわく楽しみにしてたのに。
「オレってば、こんなに安いの?」
目の前に無造作に置かれたスーパーの袋に、ナルトはそれを持ってきた彼氏を恨みがましく見つめた。
木の葉印のビニール袋。
毎日のように買い出しに出かけるスーパーの袋の中には、溢れる程に詰め込まれたキャンデー、キャラメル、etc。
これはあれだ。
ぐるぐる回転するプラスチックのケースに並んだお菓子を、欲しい分だけ買うという。
いわゆる量り売り。
「おまえ、これ好きだろ。いつも買い置きしてるじゃねえか」
むくれてしまったナルトに、困惑したようにサスケが問いかける。
そりゃ確かに、ナルトはかなり頻繁にこの手のお菓子は買ってるし大好きなんだけど、でも。
こんなそこらのガキが日常的に買えるようなものが、ホワイトデーのプレゼントだなんて。(量は半端じゃないけれど)
「サスケのバカ!オレ、ちゃーんとチョコレートあげたのに!」
「こっちだってちゃんとおまえの好きな物買ってきただろ。それとも少なかったかったのかよ?」
「そーゆー問題じゃないってば! 今日は特別なんだから、ちゃんと特別なモノ選ばなきゃダメなの!」
だって、ナルトはあんなにドキドキしながらチョコを買った。
そりゃ自分で食べるつもりではあったんだけど、もしサスケが受け取ってくれるとしたらどんなのがいいかなんて、すごくわくわくして。
チョコを選ぶ間中、サスケのこと考えてたのに。
別にめちゃくちゃ高級品が欲しいってわけじゃないけれど、その辺のスーパーで買い物ついでに適当に放り込んだとしか思えないこれってどうよ。
バレンタイン、自分はあんなに大騒ぎしてチョコを分捕ったクセに、これって釣った魚にエサはやらないってヤツ?
「サスケ、オレの事なんかどーだっていいんだろ!」
どうしてそうなる。
ナルトの突拍子もない発言にはいい加減サスケも慣れた感はあるが、そうは言ってもその瞬間の衝撃が緩和されることはない。
「どこをどうしたらそんな発想が出るんだ、このウスラトンカチ!」
よりによってサスケがナルトを蔑ろにするなんて世界がひっくり返ってもあり得ない、と彼らを知る者ならば口を揃えて断言する所。
サスケ自身も、ナルト以外ならどーだっていいとはっきりきっぱり言い切れる用意はいつでもある。
だけど何で肝心要の彼女にだけこんな事を言われねばならないのか。
「どうでもいいなんて、オレがいつ言った?! 何月何日何時何分何秒、言ったっつーんだ!」
「言ってねーけど・・・」
「けど?」
「言ったも同然じゃん! こんないい加減なもんで誤魔化そうとして!」
おいこらちょっと待て。
仮にもサスケ、それこそバレンタイン直後からずーっと悩んで、甘ったるい匂いに耐えながらお菓子売り場を探索して、ナルトの傾向と対策も考慮してやっと決めたのに、その努力をいい加減と言うか。
さすがにこれは、ムカツク。
すっとサスケの表情が消える。
元々感情表現に乏しいサスケの顔は、怒れば怒る程かえって能面のように静かになる。
もちろんナルトの前では滅多に見せたことはないけれど、さすがに今回は怒ってもいいだろうと心の中で呟いた。
「・・・分かった。いらないならいい」
表情を消したまま、サスケはぼそっと呟くとビニール袋を抱えて踵を返そうとするが。
「そーゆーこと言ってんじゃないってばっ、サスケのバカ!」
裾を引っ張られて思わず振り返ると、そこにはぎっと睨み付けてくる青い瞳があって。
しかもうるうると潤んでいたりして。
うわ、卑怯。
ここで奥の手を出すかよ。てめえ。
そう思いつつも、元々ナルトに対してそう長続きする筈もない怒りの感情はなし崩しに下火になっていって。
(ああ、オレって終わってる)
サスケは思いきり嘆息した。
「だってオレ、チョコ買う時すげーたくさん考えたんだってば。なのにサスケはいーかげんだなんて、そんなのずるい! それってアイが足りないって言うんだってばよ!」
「・・・オレだって一応は考えた」
「どこが?!」
「ホワイトデー用の商品ってのは見かけは仰々しいが、中身はあんまり入ってねーんだ。そんなんでおまえの胃袋満足できるのか?」
「・・・うー」
「それにおまえは買い物のついでとか言うけどな、このオレがついでで菓子売り場なんか行くかよ」
「そりゃ・・・」
甘い物に興味なんか欠片もないサスケ、日常でそんな所にはまず絶対に足を踏み入れることはない。
さすがにそれくらいは思い当たったのか、一旦ナルトは口を噤むと探るような視線を向ける。
「じゃあさ、ちゃんとオレのこと考えながら選んだ?」
「・・・・」
「オレの好みとかどんなのだったら喜ぶかなとか、そーゆーこと、ちょっとでも考えてくれた?」
「・・・甘い物なら何でも好きだろ、おまえ」
「そーゆーんじゃなくてっっ」
「だからおまえの好きそうな物、片っ端から買ってきたんじゃねえかっ!」
また頬を膨らませかけたナルトに、サスケは一気に言い立てた。
アイが足りないだの何だのこれ以上見当違いな言い掛かり付けられちゃたまらないし、大体今日は喧嘩するための日じゃない筈。
勢い口調も表情も任務中もかくやという程真剣になる。
そんなサスケをナルトはしばらくじいっと見つめると、不意ににっこりと笑った。
「ならいいってばよ。真剣に選んでくれたんだったら嬉しいってば」
ビニール袋をぎゅっと胸に抱いて、更に悪戯っぽく付け加える。
「考えてみれば、サスケにデリカシーってもん求める方が無理だってばよ。ホワイトデー知ってただけでも上出来だよな〜」
にこにこしながら宣うナルトに、サスケは思わず脱力する。
いつものことながら、この子の切り替えの早さには振り回されてしまう。
まったく扱い易いんだかそうでないんだか分からない。
御機嫌を直してくれたらしいことには文句をつけるつもりはないのだけれど、何だか理不尽な気分になるのは何故だろう。
「・・・そういうことは、ちゃんと中身を全部確認してから言え」
「はあ?」
「いいからとっとと見てみろ」
不思議そうな顔をしつつも言われるままにナルトがごそごそと中身を探ってみると。
「あれ?」
底の方に、何やら違う感触。
カサカサとかさ張る物体をそっと取り出してみると。
「これ・・・」
ナルトの両手に乗り切るくらいの、金色のリボンが巻かれた包み。
綺麗な空色の包装紙には『Happy White Day』なんてシールが貼られていて。
「それだったら文句ねーだろ」
偉そうな台詞の割に、サスケの目線は微妙に明後日の方向を向いていて、しかも頬はうっすら赤くなっていたりする。
だからナルトもにっこり笑って、
「ごーかくだってば!」
サスケの首に腕を回して、ほっぺたにちゅっとキスをした。
数分後。
上機嫌でビニール袋をぶんぶんと振って歩いているナルトが、ふと思い出したようにサスケを見上げた。
「でも何でこれ、袋の底に隠してあったの?」
青色の包みだけ片手で大事そうに持ったナルトの問いかけに、サスケは一瞬ぎくりと足を止めたが。
「別に・・・」
答えにもならない事をもごもごと呟くと誤魔化すように早足になる。
だって、袋一杯のお菓子を買い込んだ帰り道にふと目に止まった店先のそれ、青い包みに金色のリボンなんてどっかの誰かみたいだなんて思ったら、買わずにはいられなくて。
渡すとなると妙に気恥ずかしくて、後から気付くように細工してたなんて、どの面下げて言えるだろう?
「ねえってば、なんでなんでなんで〜?」
しかしナルトの追求は思ったより執拗で。
辟易したサスケは、おもむろにナルトからビニール袋を奪い取った。
「何すんだってば!」
奪い返そうとするナルトをあっさり躱して袋を持った手を高々と上げてしまえば、小柄なナルトには到底届かない。
「“いい加減”で“適当”に買ったヤツなんかいらないんだろ?」
「〜〜ウソ、ウソ、ウソだから返すってばよ!!」
必死に背伸びするナルトに、どうやら誤魔化せそうだとサスケがほっと気を抜いた時。
「サスケがくれたモノは、全部オレが食べるの!」
思わず手が緩んだ隙を見逃さず、ナルトがすかさず奪い返して。
そのまま勢いでぱたぱたと小走りに駆けて、くるりと振り向く。
「おまえには分けてやらないってばよ!」
「いらねえよ、ウスラトンカチ・・・」
小さく呟いた声は、幸いにもナルトには聞こえなかったようだけど。
真っ赤に染まった顔が気付かれずにすむかどうかは・・・些か自信がなかった。
今ごろホワイトデーネタなんて遅すぎ。
さよがバレンタイン話をアップした直後くらいに、そんじゃ私はホワイトデーでいくかと軽い気持ちで書き始めたんですけど、すげー難産でした。(途中で他の話書いてたってのもありますが。)
どうでもいいけど、サスナルコだとバカップル度が三割方はアップしてる気が。ナルコの天然具合がパワーアップしてるせいかも?
スーパーでのサスケ、おばさんくせー!(笑)いや、好きだけど。(さよ)
せめて所帯じみてるくらいにしとけ。(あゆりん)
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