ナルトのサスケはとても賢い。 ちょっぴり頑固で意地悪で、だけど優しい黒いネコ。たった一人のナルトの家族。 「おまえより、頭いいんじゃねえ?」 悪友どものからかう言葉は冗談半分本気半分。 「そんなことないってばよ!」 一応怒ってはみるものの、ひょっとして、なんて時たま思ってしまうのもまた事実。 もしかして、もしかしたら、……もしかするかも。 僅かにベッドがへこむ感触に、ナルトは身じろぎをした。 とは言ってもまだ意識のほとんどは眠ったまま。目を開けようとすら思いつかないほどだ。 「んー」 ぎゅうっと布団を抱き込んで、とろとろと夢の世界に戻って行こうとしたその時。 ちょん。 ひんやりした何かが、耳元に触れた。 (あ、サスケだ) ほんの少しだけ覚醒したした頭の隅で、思う。 サスケが、ナルトの耳をしきりに鼻先で突付いている。 次いで、低い唸り声。 サスケと暮らすようになってから、ナルトの遅刻は随分減った。 それはもちろん、妙に規則正しい黒猫が、決まった時間に起こしてくれるからだ。 もっともナルトの寝坊もかなり筋金入りなので、起こしてもらってもそこで必ず起きられるわけではなく、遅刻ゼロとはいかないが。 耳元で唸るサスケの声が大きくなった。 なかなか起きないナルトに焦れてきているらしい。 けれどナルトは寝返りをうって、それに背を向けた。 だって眠いのだ。 起きなくちゃと頭の一方では思うのだけど、もう一方がすかさず誘惑をかけてくる。 (もう少しなら平気だってばよ) (でも、こないだもそれで寝過ごしちゃったってば) (大丈夫。サスケが起こしてくれるもん) (あ、そっか) 安心したナルトの寝息は次第に深くなっていく。 心地よい眠りに再び落ちるまであと一息というところで、頬の辺りに柔らかな感触が乗った。 どうやら今度は、サスケが前足で頬に触れているらしい。 あ、ぷにぷにして気持ちいい。 にんまりするが幸せな気分は長く続かず、不意に前足に力がこもったかと思うと、思いっきりぐいっとサスケの方へ振り向かされた。 さすがにそこまでされれば、寝起きの悪い頭も覚めてくる。 覚めるのだが、このままヤツの思う壺にすんなり起きるのも、どうしようもなく癪に障る。 サスケがこちらをじーっと見ているだろうことは感じられたが、ナルトは頑なに目を瞑ったまま、布団をぎゅっと握りしめた はーっと、息を吐く音。 ネコのくせにため息を吐くのだ、サスケは。 なっまいきーと考えていると、今度は頬をぺちぺちと叩かれた。 再び耳元で響くせかすような鳴き声。 サスケは普段ほとんど鳴かないので、こんな声を聞けるのはかなり珍しい。 楽しくなって、漏れそうになる笑いをこっそり堪えていると、とうとうサスケは業を煮やしたらしかった。 不意に前足が頬から離れ、視界がふっと翳った。 目を閉じていても感じられていた朝の光が、何かに遮られている。 あれ、と思う間もなく、今度は。 「…………っ!」 反射的に目を開くと、すぐ目の前にサスケの顔があった。 とは言っても、正確には勝ち誇ったような黒猫の姿を映しているのは、ナルトの右目だけで。 左目は未だ閉じたまま。そもそも開くことができないのだ。 その上に乗っているもの……サスケの右の前足のせいで。 もちろん爪は綺麗に引っ込んでるし、重さだって殆どない。 力加減には細心の注意を払っているだろうことは明白だ。 それはゆっくりとナルトの左目の上をすべり、まぶたを押し上げようとする。 「やーめーろー! 起きるから、その手どけろってば、サスケ!」 ばんばんと布団を叩きながら叫ぶと、ようやくサスケは前足を離した。 が、そのまま枕元に留まって、じっとナルトを見下ろしている。 その顔は、今すぐ起きなきゃまた同じことをする気満々で。 「なんつー起こし方すんだってば……」 渋々と起き上がってはみたものの、ナルトは朝からぐったりした気分になった。 なんて高度なテクニック。もはや猫のレベルではないような気すらする。 「てゆーかまだこんな時間じゃん。早く起こしすぎだってばよ、サスケ」 恨みがましく言うと、サスケはすうっと目を細めた。 ぺしりとひとつ、咎めるようにナルトの足をしっぽで叩いてベッドから飛び降りる。 歩いて行った先は、床の上に放り出したままのカバン。 昨日、アカデミーから帰ってから投げ散らかしたままのそれを足先でちょんちょんと突付きつつ、サスケはふんと鼻を鳴らした。 何の準備もしてないくせに遅すぎるくらいだ、ウスラトンカチ。 なんて心の声が聞こえた気がする。空耳に決まってるけど。 「……分ったってばよ。ふん、サスケのイヤミネコ!」 ぷっと頬を膨らませて起き出すと、ナルトはのろのろとカバンを拾い上げた。 それでようやく満足したのか、サスケはナルトのすぐ傍できちんと座り直し、優雅に顔を洗い始めた。 もうまったくこちらに興味ありませんとでも言うようにしきりに前足を顔にこすりつける様は、まったく普通のネコなのだけれど。 「サスケ」 カバンに荷物を詰めながら呼びかけると、ぴくんとサスケの耳が動く。 聞こえてないふりで顔を洗い続けているけれど、その耳はしっかりナルトの方を向いたまま。 「おまえさあ、ネコだなんてぜったいウソだろ。実は着ぐるみなんか着てたりしてー」 くすくすと笑いながら言ってみれば、サスケはようやく顔を洗うのをやめて振り返った。 「カンネンして白状しろってば。おまえって実は人間だったりするんだろ。どうだってばよ、サスケ」 うりうりと肘でわき腹の辺りを突付いてみると、サスケはいかにも嫌そうに身を捩る。 サスケは普段から自分から甘えて擦り寄ってくることはないが、スキンシップが嫌いというわけでもないらしい。 ナルトが部屋で座っている時には、膝の上には乗ってこないけれど、すぐ傍ら、太股の辺りにぺったりとくっついて丸くなるのが定位置だ。 そういう時は大抵ひどく満足そうな顔をしてるのだけれど、それでも頭を撫でたりしようとすると怒られる。 今も、逃げるサスケにしつこく手を伸ばして指先で額をぐりぐりすると、ぺしっと手を叩かれた。 更にそれだけでは足りないと思ったのか、その手を前足で床に押し付けて動きを封じる。 「うっわ、そんなに嫌がんなくてもいいじゃんか、サスケのケチ」 どうだと言わんばかりに見上げるサスケの方へほんの少し身をかがめて、ナルトはぷうっと頬を膨らませた。 「なあなあ、ほんっとにほんとは、おしゃべりくらいできるんだろ? けちけちしないで一言くらいしゃべってみろってば」 諦め悪く言い募ると、サスケはこれみよがしにそっぽを向く。 話にならないと言いたげに、ふわあと退屈そうな欠伸をひとつ。 「カンジわるー。いいじゃん、オレ、おまえがネコニンゲンでもネコマタでも、絶対誰にも内緒にするからさ。それに」 まったくつれない黒猫に、ナルトは声を落として囁いた。 ひみつばなしをするかのように。 「……バケモノ、なんて、ぜってー言わないから」 黒い瞳が瞬きもせずにナルトをじっと見た。 表情筋のないネコの顔は、その感情を窺わせない。 ただ、その耳はわずかに伏せられて、くるんと巻いたしっぽは揃えた後足に巻きつけられていて。 ややあって、ナルト不意に顔を綻ばせた。 「じょーだんだってば、冗談。何本気にしてんだってばよ」 首を傾げる黒猫に、にっと笑った顔を見せる。 「だから、そんなに困った顔すんなってば、サスケ」 笑うナルトを、サスケは気難しげな顔でしばし見つめた。 それから、ナルトの手を押さえていた前足を外すと、ぐんと伸び上がって今度はそれをナルトの肩にかける。 目の前一杯にサスケの瞳が広がって、黒い頭がほっぺたにぐりぐりとこすり付けられ、ナルトは目を丸くした。 「サスケ?」 べたべたするのが嫌いなサスケがこんなことをするのは初めてで、驚いて問いかければ、サスケは更に顔を寄せてきた。 ひんやり冷たい鼻先がナルトのそれに触れ、ざらりとした舌が唇を舐める。何度も何度も。 「くすぐったいってば」 ナルトはきゅっとサスケを抱きしめた。 サスケは一瞬、逃げたそうなそぶりを見せたが、おとなしくナルトの腕の中に収まっている。 いかにも仕方なさそうに、ため息を一つ落とすことは忘れなかったけれども。 「ほんとは、話が出来なくたって何だってかまわないんだってば。ただ、おまえばっかオレのこと分ってて悔しいから、オレもおまえの考えてること分ったらなあって思っただけ」 腕の中の黒猫は、もぞもぞと身じろぐと、にゃあと小さく一声鳴いた。 ひどく不満そうに。 にこりとナルトは微笑んだ。 「うん、分ったってば。おまえがネコでもニンゲンでも、オレはおまえが大好きで」 こつんと額に額をあてる。 「オレがネコじゃなくても、もしかして、ニンゲンじゃなくても、おまえはオレが好きなんだってば」 なあ?と首を傾げるナルトに、ぐるぐるとサスケは喉を鳴らしてみせて。 顔を寄せると、ナルトの唇をもう一度ぺろりと舐めた。 にゃんこのいない生活がいい加減長いんで、思いの丈をぶつけてみました(笑)。うおー、猫に触りてえー! ナルトと猫サスケが一緒に暮らし始めた頃の話です。 妙にらぶっちいのは、サスケが口をきかないせいだと思われます。常々ふつーのサスナルで、サスケが余計なこと言わなきゃもっと色々スムーズなんじゃ、と思ってたのですが。喋らなきゃとりあえずラブは芽生えやすいらしい(笑)。 元ネタあり。日参している猫サイトさんとこのにゃんこが、こういう起こし方するそうです。はうーなんてお利口さんなんでしょ、とめろりんきゅーになっちゃいまして、思わず猫サスケに適用。 サスネコ、単なるお利口さんなのか、人外……じゃなくて、猫外(笑)なのかは、ご想像におまかせします。つか、こうなってほしいという未来図は考えてるので、それからいくと、ムニャムニャ…かも。 念のため。獣○はありません(笑)。 (05.06.20) |