「それじゃ行ってくるってばよ、サスケ」
 慌しくナルトを見送ると、サスケはゆっくりと踵を返した。
 猫は寝る子とも言われるが、サスケの一日はこれでなかなか忙しい。
 まずは、朝一番でナルトのために朝食の調達。
 放っとくとかっぷらーめんという変な匂いで変な味の物ばかり食べているナルトに、栄養満点の餌を食べさせるのが自分の使命だと、サスケは固く信じている。
 あいにくとナルトはまだ一度も取ってきた餌を食べてくれたことはないけれど、それしきで諦めるようなサスケではない。
 その甚だしい偏食もそのうちどうにかしないといけないが、それよりナルトが食べられるものを見つけるのが先決とばかりに、日々努力は怠らない。
 おかげで狩りの腕前もうなぎ上りだが、それが報われることがこの先あるのかどうかは微妙なところ。
 そしてどうにかこうにかナルトをアカデミーに送り出した後は、縄張りの見回りだ。
 本当はそんな面倒なことしたくないし、そんな時間があったら他にやるべきことは色々あるのだが仕方ない。
 どこの誰とも知らぬ輩をナルトに近づけるわけにはいかないから、この見回りも欠かせない。
 悠然と歩いていく黒猫の首元で、ちりりと微かな音がする。
 黒い毛並みの中に一際鮮やかな金色の鈴。
 一緒に暮らし始めた頃、ナルトが付けてくれた。
 歩くたびに澄んだ音が響くそれは、狩りや喧嘩の時にはひどく不便なこともあるけれど。
 『キュウクツだけどごめんな。でもこれ付けてないとサスケがうちのこだって分らないんだってば。そしたら、ほけんじょってのに捕まっちゃうんだってばよ』
 申し訳なさそうにサスケの首に鈴を付けるナルトの手は、ひどく柔らかで心地よかった。
 『ほけんじょに捕まったら、サスケもう帰って来れないんだって。………ころされちゃうんだってばよ』
 だから絶対外さないで。
 そう言ったナルトの瞳は、それはそれは真剣で。
 サスケとしては、誰がそんなのに捕まるかてめえと一緒にするんじゃねえ、と不満がなくもなかったが、ナルトにそんな顔をされては無下にもできない。
 それに、金色の鈴はナルトの髪の色とどこか似ていて、正直そう嫌な気分でもない。
 音が邪魔になるという問題は、そんなのをものともしない程、強く素早くなればいいだけの話。
 サスケはそう割り切っている。
 そうじゃなくても、もっともっと強くなる必要がサスケにはあるのだから。


 

 
 本人そういうつもりはなかったが、降りかかる火の粉を払っていたらいつの間にやらこの辺り一帯の大ボスになってしまったサスケの縄張りは、かなり広い。
 なので、一通り見て回るだけでも相当の時間がかかってしまう。
 行く先々で見かける猫は一様にサスケに道を譲り、あるいはごろりと仰向けになって服従を示してくるものもいたけれど、サスケはそれに視線を向けることさえしなかった。
 媚びてくる輩は鬱陶しいだけだし、そんな時間すらもったいない。
 とっとと終わらせて、早く修行に行かなければ。
 逸るサスケの内心も知らぬ風に、今度は妙に鼻にかかった声が飛んできた。
 「あ、キレイな猫ちゃんがいる!」
 「やーんかわいい! ほら、こっちおいで〜」
 ナルトよりも少し年上くらいに見える少女が数人、目を輝かせてこちらを見ている。
 何故かは知らないが、人間の女子供はやたらと猫に近寄りたがるのが多い。
 その鬱陶しさは同族の比ではなく、勿論サスケはそれらを綺麗に無視した。
 「あー、行っちゃった〜」
 残念そうな声が背中に聞こえたが、それはすぐに遠ざかっていった。
 今日出会った人間はまだタチのいい方だけれど、中にはしつこく追いかけてきて、どうにか一撫でしようとする奴らもいる。
 そんな時には、高い所に飛び乗ったり、牙をむいて唸ってやったり、適当にあしらえば大抵諦めて去って行った。
 必殺の爪を使えば手っ取り早いけれど、それはやらない。
 以前一度だけ、ナルトを苛めていた子供達に爪をたてたことがある。
 手加減なんてしなかったから、負わせた傷はかなり深く。
 怒り狂った相手の親が怒鳴り込んできたとき、ナルトは言い訳をしなかった。
 小さな子供に大人が向けるとは思えない罵詈雑言の中で身を竦めながら、たった一言。
 『サスケは悪くない』
 サスケをぎゅっと抱きしめながら、それだけ呟いた。
 どうにか大人たちが帰って行った後、
 『ありがと、サスケ』
 ぽつんと一粒だけ落ちてきた涙のしょっぱさを、サスケは忘れない。
 だからそれ以来、人間相手にその爪を振るったことはない。
 やるんだったらもっと上手く、バレないように使えるようになってからと、そう決めた。
 他の人間も猫も縄張りも、サスケにとってはどうでもいい。
 サスケの大事なものはひとつだけ。
 それだけを、絶対守ると決めている。
 だから見回り後には必ずサスケは、近くの原っぱで修行をする。
 それは最早日課というより義務に近く、苦手な雨の日だって欠かしたことはない。
 だって強くならなければいけないのだ。
 ナルトに、二度とあんな顔をさせないために。





 あと、どれくらいだろう。
 黙々と修行を続ける黒猫は、時折空を見やって時間を確かめる。
 ナルトがアカデミーから帰ってくる時間はいつも同じというわけじゃない。
 ツイシとかホシュウとかいう輩が時々無理に引き止めているらしく、日によってまちまちだ。
 そいつらに会うことがあったら絶対にシメてやるとサスケは密かに決意しているが、残念ながら現時点では果たせていない。
 そういうわけで、ナルトとうまく待ち合わせるためには、かなり時間に余裕を持って行動する必要がある。
 絶えず時間を気にすることは集中力という点では修行の妨げになるし、待ち合わせ場所でナルトを待つ時間もそうそう馬鹿にならないのだが、サスケにとってはまったくもってどうでもいいことだ。
 絶対にナルトより先に待ち合わせ場所に辿り着くことも、サスケの譲れないポリシーの一つ。
 それにサスケの修行は全部ナルトのためなのだから、それでナルトを蔑ろにすることなんかあったりしたら、正に本末転倒としか言えない。
 道の向こうに、ぽつんと浮かぶ小さな点。
 それが段々大きくなって近付いて来る。
 やがて、サスケを認めるとぶんぶんと手を振って。
 『ただいまサスケ!』
 その輝くような笑顔を見逃すような馬鹿な真似、これっぽっちもする気はない。
 ………もう少しだろうか。
 焦がれるようにサスケは、今日何度目かの空を見上げた。






 ネコの修行って何さ。ってのはおいといて。
 えと、リハビリ中です。ほんっとに一ヶ月以上、何も書いてなかったもんで。
 覚悟はしていたが、ブランク長いとただでさえ荒い文章がとんでもないことに(遠い目)。
 まあ、いつものごとく気が向いたらちまちまと書いていきます。
                                                                           (04.04.30)




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