おはよう
ゆっくりと意識が浮上していく。
閉じた目蓋の裏側でも明るい光が感じられ、朝なのかとサスケは思った。
普段なら、意識の覚醒と共に身体も速やかに覚醒するのだが、今朝はどうにも起きる気がしない。
充足感を伴ったわずかな疲労が全身を包み、起き上がることを拒否している。
掛け布団がかかっていないらしい肩がひんやりと冷たく、どうやら夜着を纏わず眠っていたらしいことに気付く。
寝返りを打つと、傍に何やら暖かい温もりを発見し、無意識のうちにそれを抱き込む。
それは柔らかくいい香りがして、じわりと染み込んでくる温もりにサスケは目を閉じたまま薄らと微笑んだ。
微かに聞こえる規則正しい寝息も耳に心地よくて、再び微睡みに落ちそうになる。
・・・寝息?
一瞬にして眠気が覚め、反射的に開いた目に映ったのは、ふわふわの金色の髪。
(ナルト・・・)
「ん・・・」
思わず手に力が入ったのか、腕の中の身体が僅かに身動く。
慌ててそっと髪を撫でると、ナルトは気持ちよさそうにサスケの胸元に顔を擦りつけて、また深い眠りに入っていった。
深呼吸ひとつ。
一度目を閉じて、またゆっくりと目を開けて。
・・・どうやら、夢ではないらしい。
開いた目に映ったのは、見慣れた自分の部屋と、腕の中の見慣れない現実。
おまけに。
ひとつの布団に、お互い一糸纏わぬ姿で眠っていて。
妙にすっきりした倦怠感なんてものが残っていて。
加えて、肩や背中がヒリヒリするとか、ナルトの身体のあちこちに紅い痕が残ってるとか。
一体何がどうしてこうなったかなんて、状況はあまりにも明白で。
何より、証拠なんかいちいち数えなくても、頭がはっきりすると同時に記憶も全部蘇っている。
夕べ、この子をダキマシタ。
ずっと好きだった相手とようやく想いを通じ合わせたのは、つい先日のこと。
とんでもなく素直じゃない上に口の悪い自分と、素直すぎて言葉の裏なんて読むことすら思い付かないドベとでは、そこまで辿り着くには思い出したくないほど紆余曲折があったりしたが。
それに比べると、こうなるまでは妙に自然だったように思う。
最初からこういう目的で、ナルトをこの家に連れ込んだ訳ではなかったけれど。
想いを伝え合っても、喧嘩ばかりなのは相変わらずで。
昨日もつまらないことで喧嘩して、仲直りのきっかけを探しながらもタイミングが掴めなかった。
以前なら、なし崩しにまた明日ということになっていただろうけど、今となっては喧嘩したまま1日が終わるのは耐えられなくて。
それはあの子も同じだったようで、思いきって夕食に誘ったら素直についてきた。
どうにか仲直りをして、一緒にご飯を食べて、たわいもないことを話したりして。
そうこうしているうちに、もっと近づきたくなって触れたくなって、抱きしめたら、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに腕を回してきた。
口付けると震えながらしがみつく姿に、頭も身体もどうしようもなく熱くなって。
そこから先は、もう何も考えられなくなった。
正直言って、意外だった。
傍にいたい、笑顔を独り占めしたいという思いは嫌と言うほどあって、キスするとおかしいくらい心が沸き立ったけれど。
その先は考えなかった。というより、考えないようにしていた。
あの子をアイシテル。
それは掛け値なしの真実。
本当すぎて到底口になんか出せないから、あの子はいつもちょっぴり不満そうだけど。
けれど、自分と同じ構造の身体にどこまで求めていいのか、どこまで許されるか分からなかったから、正直、戸惑いも大きくて。
それでも一度触れてしまえば、驚くほど身体が自然に動いて、本能がどんどん先を求めて。
苦し気に自分を呼ぶ声とか。
触れる度に、過敏な程反応を返す肌とか。
震えながら絡み付いて離さない熱とか。
・・・こんなに溺れるとは思わなかった。
ナルトはまだ眠っている。
日もかなり高くなっているというのに、一向に目覚める気配がなく、サスケは心配になってくる。
そっと様子を窺えば、穏やかな寝顔はただ熟睡しているだけのようではあるが。
(無理させすぎたか?)
させたんだろうな、とサスケはため息を吐く。
初めてだから、加減なんか分からなくて、たくさん泣かせてしまった。
思い出すと頬に血が上ってきて、誰も見ている者はいないというのに、顔を押さえて辺りを窺ってしまう。
とりあえず、今日は任務も休みだから、惰眠を貪るのに支障はないけれど。
・・・目覚めたナルトに対して、どんな顔したらいいか分からないし。
あれだけいろいろ晒し合った相手に、素面でどうやって向き合えばいいんだろう?
ひとまず先に起きて、場つなぎに食事の準備でもしようか。
そう思って、そっと身体を離して起きあがろうとすると、
「う・・・ん?」
ぱたんと寝返りを打って、眠り姫が目を開けた。
どうやらナルトは現在の状況が分かっていないようで、眠そうに眇められた瞳は瞬きを繰り返している。
やがてサスケの姿を捉えると、ふにゃっと嬉しそうに笑み崩れた。
「あれー、サスケがいる・・・」
「おい、いきなり動くな!」
ぼやーっと起きあがろうとするのに、サスケは慌てて止めに入るが、既に遅く。
「いっ・・・」
低く呻いて再び突っ伏してしまう。
痛みに蹲るナルトの腰の辺りをさすってやると、じきに落ち着いてきたようで。
ぽふっと頭を撫でると、ぴくんと肩を揺らした。
「大丈夫か?」
問う声に、ナルトはサスケをちらっと見るなり頭から布団に潜り込んでしまった。
「・・・いい態度じゃねえか」
むっとしたサスケが構わず布団をはがすと、ナルトはこっちに背を向けて丸くなっている。
視線から逃れるように、ますます身を縮こまらせるナルトの首筋は真っ赤で。
どうやら夕べのことをすっかり思い出したらしく、サスケの顔を見て一気に羞恥心が溢れ出した模様。
つられてサスケもわずかに赤くなる。
気まずく流れる沈黙が、照れくささを余計増大させて。
とは言うものの、初めて一緒に迎える朝なんてこの先二度とないんだから、できればどんな表情もじっくり堪能したい。
気恥ずかしいのはサスケも同じだけれど、先に相手がここまで顕著な反応を見せてくれると、反動で強気な気分になった。
無防備に曝されている首筋に指を這わせると、目覚めて久しいサスケの手はかなり冷えていたらしく、冷たさにナルトがひゃあっと声を上げる。
「何すんだってば!」
「てめーが無視するからだろ」
「うー」
しらっと言うと、ナルトはようやく振り返った。
慌てて取り返した布団を口元まで引っ張り上げて、目から上だけ覗かせて、こっそりサスケを窺っている。
じっと見上げる潤んだ瞳に、
(その目線は反則だろ!)
思わずふらふらと身を寄せると、しっかり布団でブロックされた。
「それ以上近づいたらダメ!」
耳まで赤くなって、ナルトは必死に何も身に付けていない身体を布団で防御している。
照れ隠しだとは分かっているし、その姿もかなりクルものがあったけれど、昨日の今日でこんな拒絶反応示されれば、さすがにムカついて。
無理矢理腕を掴んで引っ張り寄せた。
「やっ、やめろってば!・・・痛っ」
叫び声にはっと手を放すと、ナルトは再び腹を押さえて蹲った。
薄らと涙を浮かべて痛みを堪える姿に、サスケの罪悪感が刺激される。
「そんなに辛いか?」
「いてーに決まってるだろ!おまえが無茶ばっかするから!」
「無理矢理なんかした覚えないぞ」
心外だとばかりに軽く睨み付けると、うっと言葉を詰まらせる。
流されたようなものとはいえ、結局拒まなかった自覚はナルトにもあるようで。
「でも、こんな痛いことまでされるなんて思わなかったってば。・・・しかも、なんか1回じゃなかったような気がするってばよ・・・」
「・・・細かいこと言ってんじゃねーよ」
(そう簡単に終われるわけないだろーが!)
・・・まあ、好き勝手した覚えはあるので強いことは言えず、赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いて。
それでもじとーっと見上げてくる目線に、ごまかし半分、その実かなりのところ誘われて、顎に手をかけて上向かせると。
ぺち。
「もー、またそーゆーことする!」
寸前でナルトの両手で阻まれた。
結構思いきり平手で鼻の辺りをはたかれて、サスケはムッとした顔を隠せない。
「うっせーな、朝のキスくらいさせろ!」
「その前に言うことがあるだろ!」
「はあ?」
きっと睨み付けられて、サスケの頭の中は疑問符で一杯になった。
言うことって、何を?
まさか夕べの感想とか?
お望みならば微に入り細を穿つように語るのはやぶさかではないが、ナルトの性格から考えるとそれはないだろうし。
では、アイノコトバというやつだろうか。
こういう状況では定番なのかもしれないが、サスケ的にそれができるかどうか、ナルトもいい加減理解していると思ってたのだが。
なかなか言えない分、行動や態度で示してきたつもりなのに、まだ分かってもらえてないんだろうか。
些か情けない気分になりつつ、あれこれ考えていると、
「朝、なんだからさあ・・・」
ちょっと拗ねたようにじーっと見つめられて。
「起きたら誰かいるのって、ハジメテなのに・・・」
その言葉に、目が覚めた瞬間のことを思い出す。
手を伸ばすと触れられる柔らかい温もり。
心の底から湧き上がってくる暖かい何か。
それは、サスケにとっても、家族を失って以来、随分長いこと忘れていた感情。
そして、同じように、サスケを見て微笑んだナルト。
温もりを知らずに生きてきたこの子の心底嬉しそうな笑顔が、とても愛しかった。
「おはよう」
自然に言葉が滑り出る。
ナルトは大きく目を見開いて、
「・・・もっぺん、言ってってば」
「おはよう、ナルト」
「・・・おはよ、サスケ!」
満面の笑みと共に言葉が返る。
そっと頬に手を当てて唇を近付けると、素直に目を閉じて。
今度は邪魔は入らなかった。
『おはよう』
朝起きて、大切な人に一番最初に言う言葉。
これからずっと、何度でも言う。
何より大事なきみだけに。
「でも、やっぱ痛いのヤダ」
きりもなくお互いの顔に唇で触れる戯れの後、サスケの腕の中に収まってナルトはぼそっと呟いた。
「こんな体勢で言っても説得力ないぞ」
指摘するとナルトは顔を赤らめたが、離れようとはせず、反対に背中に回した手にますます力を込める。
「ぎゅってすんのは好きなんだもん!」
ぎゅうぎゅうにしがみつかれて、こんな朝っぱらから誘ってんのか、と暴走しそうになる思考をサスケは必死に押しとどめた。
「・・・だったら少々の事は我慢しろよ。そのうち慣れるだろうし」
「って、これからもまだあんなことやるのー?!」
「当たり前だろ、ウスラトンカチ」
思わず逃げ腰になる身体を掴まえて、しっかりと抱き込む。
「夕べもイタイだけじゃなさそうだったし?」
「な・・・!」
耳元で囁くと、真っ赤になって口をぱくぱくさせて。
それでも否定の言葉を紡ぎ出さない唇に、サスケはもう一度キスをした。
書きたかったのはイチャパラのはず、だったんですが。
何かわけわからん代物になってしまいました。
サスケ、前半と後半で性格変ってるし。
時期設定も適当だけどつっこまないでね。