初夏





 「これ、やる」
 ドアを開けたら目の前に、見慣れた仏頂面。
 にこりともしないで、ずい、と紙袋を差し出されても、少々反応に困るというもので。
 「とりあえず、中入れってば」
 狭い玄関、ちょっと身体をずらしてスペースを空けてやれば、サスケは躊躇う様子もなくずかずかと入ってくる。
 勝手知ったる何とやらで、ナルトが何か言うより先に、サスケはいつもの定位置に腰を下ろすと持ってた袋を突き出した。
 「おまえ、夏服足りないって言ってただろ」
 袋の中には、紺色のシャツが1枚。
 まだ新しそうなそれに、ナルトは目を丸くする。
 「もしかして、プレゼント?」
 「何で、オレがおまえにプレゼントしなくちゃなんねーんだ。大体誕生日でも何でもないだろう」
 「日頃お世話になってるお礼とか」
 「世話してるのはオレの方だ」
 「軽い冗談だってばよ。サスケってば、ほんとすぐ怒るよなー」
 「怒ってねえ!」
 「・・・やっぱ怒ってんじゃん」
 「帰る」
 「わー、冗談、冗談だってば!」
 立ち上がったサスケの服の裾を慌てて掴んで引き止めれば、元々本気で帰るつもりではなかったのだろう、あっさりもう一度座り込む。
 「笑えない冗談、ほざいてんじゃねえ。ウスラトンカチ」
 ムッとした顔で、憎まれ口のおまけもつけて。
 クールで無口なサスケ君って、一体どこの誰?
 こんな時、ナルトは誰かに真剣に問いかけてみたくなる。
 「・・・で、結局これどうしたんだってばよ」
 「こないだシャツを買ったら、小さくて着られなかったんだよ」
 「おまえ、試着とかしねえの?」
 「面倒だろ。返しに行くのもうざいし、おまえなら着られるだろうと思って」
 「むー、何でおまえに小さい服がオレなら着られるんだってば」
 不満たらたらにナルトが口を尖らせると、サスケはおもむろに両腕で空中に輪を作った。
 まるで何かを抱き込むような動作で。
 その輪を、肩や腰(と思われる位置)に移動させつつ、しばらく考え込む様子。
 「・・・余裕で大丈夫だろう」
 「さいてー! しんじらんねー、サスケのバカ!」
 顔を真っ赤にして掴みかかってくるナルトを、サスケは容易く捕まえて、今度はきっちり本物を腕の中に収めてしまう。
 逃れようとじたばた暴れてみるけれど、抱き締められたら条件反射のように身体の力が抜けてしまった。
 確認するようにサスケの腕に力が込もる。
 「やっぱ、楽勝じゃねえか」
 「・・・ほっとけ」
 「いらないなら、持って帰るぞ」
 「・・・いる、から。もー離せってばよ!」
 拗ねたように呟けば、含み笑いと共にあっさりと拘束は解かれた。




 何だかんだ言いつつ袖を通したシャツは、サスケの言う通り、ぴったり、というか結構ゆったり気味だった。
 「身長はそんなに変わらないのに、この差は何だってばよ!」
 「ラーメンばっかで栄養片寄ってるからだろ」
 「うー・・・、あれぇ?」
 返す言葉もなく悔し気に唸っていたナルトは、ふと不思議そうな表情になって、ぱふっとシャツの襟元に顔を埋める。
 「サスケの匂いがするってばよ」
 「・・・洗濯はしてあるぞ」
 「んー、でもするってば。ぎゅってした時と同じ匂いする」
 なおもシャツに鼻をくっつけて、ふんふんと匂いを嗅ぎながら、ナルトはにぱあっと笑った。
 「えへへ、何だかこれってさ、サスケといっつも一緒みたいで、ちょっといいってば・・・いってえ!」
 でこぴん一発。
 結構強烈なそれに、ナルトは額を押さえながらサスケを睨み付けた。
 「いきなり何するんだってばよ!」
 「おまえがあんまりウスラトンカチだからだ」
 「どこがだってば!」
 「そんなモン無くたって、ずっと一緒なのは当たり前だろうが」
 何でもない事のようにあっさり呟く声音は、ひどく素っ気ない。  
 そっぽを向いた横顔は、相変わらずの仏頂面だけど。
 「サスケ?」
 首にしがみついてぐいと引き寄せれば、驚いたようにサスケが振り向く。
 きっちり視線を合わせると、ナルトは悪戯っぽく囁いた。
 「だーいすきだってばよ」
 「・・・んな事、知ってる」
 一瞬の間があって返って来た言葉は、これまた、オマエ何様?と言いたくなるようなもの。
 だけど、よくよく見れば、微妙に逸らされた目線は、どっか泳いでて。
 殊更怒ったように引き結ばれた口元は、うっかりすると緩みそうなカンジで。
 何より、くっついた身体から聞こえる心臓の音は、とても速くて。
 無理してるのがミエミエで、すっごくおかしい。
 きっとこんなサスケ、誰も知らない。
 だから
 「サスケ、ありがと。大事にするってばよ」
 このシャツも。
 それから
 無愛想で口が悪くて骨の髄まで素直じゃなくて、実はとんでもなく照れ屋で不器用な誰かさんも。
 「おまえの事だから、すぐどっかで破いてダメにするんじゃねえのか?」
 返事はやっぱり可愛げのカケラもなかったけれど、困ったように、でもとても嬉しそうにサスケが笑うから、ナルトも幸せな気分になって一緒に笑った。





 「今度は、オレがおまえに何かやるってばよ」
 「別にいらねえよ」
 「ダメ! お返しはちゃんとしなきゃいけないんだってばよ。だから何か欲しいもの言えってば」
 「・・・じゃあ、ひとつ貸し、な」
 「貸し?」
 「そのうちまとめて回収するから」
 そう言ったサスケの顔は、珍しくも心底楽しそうというか、何やら企んでそうというか、なんかヤなカンジがしないでもないけれど。
 「じゃあ、借りとくってば」
 一応お返しをする側としては、なるべく相手の希望に合わせた方がいいだろうし。
 それに、サスケは見かけに寄らず優柔不断な所があるから、多分今すぐ欲しいものを思い付かないんだろう。
 ナルトは、そう自分を納得させて。
 「言っとくけど、あんま高いのは無理だってばよ?」
 「その心配はねえよ。・・・金や物じゃねーし」
 「は?」
 「何でもない」
 妙に上機嫌なサスケの様子に、やっぱり何かヘンだとは思いつつ、こんな楽しそうなサスケってあまり見た事ないし、まあいいかと思う事にした。




 この時、サスケの真意を深く追求しなかった事を、後日ナルトが悔やんだかどうかは。
 本人の希望により、秘密である。




 



 副題「サスケのシャツ着たナルト」(まんまやん)
 「frozen pink」のTAKAさんと掲示板で萌えたネタです。
 そのうちじっくり書こうと思ってたんだけど、TAKAさんがとある検査を受ける事になったため、急遽お見舞い品として献上させて頂きました。
 こんなちゅうもなければぎゅうも中途半端なブツを送りつけちゃって、申し訳ない・・・。
 でもセクハラサスケは気に入ってくださったみたいでよかったですv (あゆりん)

サスケのシャツは市販品なのか??という疑問は置いといて。なかなか描いてて楽しかったです。
TAKAさま養生してくださいねー。(さよ)




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