アカデミーで、私達くの一の憧れの的だったサスケ君。
 顔が良くて、実力もあって、里有数の名家出身で、おまけに生い立ちに影があるなんて、女の子に人気ない方がウソでしょ?
 クールで他人なんかどうでもいいって雰囲気も人気に拍車をかけるだけ。
 おかげで一緒の班になった時は、すっごい大変だったんだから。
 でも、こんなことになると分かってたら、誰も羨まなかったと思うわ。 





 サクラサク   後編





 「心狭いし、視界狭いし、おまけにフシ穴!サイテーって思いません?!」
 思い切り主張すると、向いでカカシ先生がうんうんと頷いた。
 結局連れてこられたラーメン屋。
 開店したてらしく真新しい様子のその店は、ナルトの好きな一楽よりも小綺麗で、店内も広くて、ちょっといいカンジ。
 座ってるのはちょっと奥まった二人がけのテーブル席で、適度に混んだ店内はかなりざわざわしてて、何を喋ってても気に留められそうにない。
 意外と密談向き?
 ニヤニヤ笑ってる先生。やっぱり私、ハカラレタのかしら?
 だけど、堰を切ったように言葉が止まらなくて。
 「もー、ナルトに熨斗つけてやっちゃれってとこ?」
 「それで正解なんじゃない?あんなのとくっついたら苦労するよー」
 「そーですよねー」
 「素直じゃない上に、滅茶苦茶やきもちやきだし」
 「そーそー」
 「すぐ怒るし、口悪いし、威張りたがりだし」
 「そー‥‥」
 「見た目に誤魔化されがちだけど、かなりおバカで情けないとこあるし」
 「そんなことないわよ!」
 テーブルを叩いて先生の言葉を遮る。
 思わず大声になってしまって、さすがに周囲の人達がじろりとこっちを見た。
 先生はまったく平然としてて、怒鳴った後にシマッタって思ったけど、でも仕方ないじゃない。
 そこまで言うことないでしょ。
 そうよ、本当はそんなこと思ったことなかった。
 だって、サスケくんがそんな風になるのは。
 「ナルトに対してだけだもの‥‥」
 私の前ではそうじゃない。
 無口で冷静で、アカデミーの頃から憧れ続けた姿そのままで。
 だから、諦めるしかなかったんじゃないの。



 何だか目元が熱くなって、やばいと思った時。
 「おまたせしました!」
 威勢のいい声と共に目の前にラーメン。
 グッドタイミング!とばかりに、食べ始めて。
 「‥‥っ、先生、これ、何っ‥‥!」
 「んー、特製の激辛ラーメン。ここは、これがウリでねえ」
 激辛って、これはそんなレベルじゃないわよっ。
 落ち着いてよく見れば、真っ赤なスープはいかにもソレモノ。
 そりゃ、注文任せた私も悪いけど、なんでこういうセレクトするかな!
 「この店に来る連中は大概これを頼むんだよね」
 確かに周囲の人達はみんな、涙やら鼻水やら汗やらで顔中ぐちゃぐちゃにしてて。
 私にもあーゆー真似をしろと?仮にも女の子にそれはどうよ。
 「だから、気にしなくていいよ。思いきりやっちゃいなさい」
 怒鳴ってやろうかと思った時に、機先を制するように先生が言う。
 相変わらず無責任そうにへらへらしてて、でもこっちを見てる目は暖かくて。
 それで分かってしまった。
 あーもう、何でこんなに切れ者かな、私。
 やけのように口に運んだラーメンは脳天直撃の辛さで、今度こそ堪え切れずに、
 目から熱い塊がぼろっと零れた。




 だって、しょうがないじゃない。 
 気付いてしまったんだもの。
 私はサスケ君を変えられなかった。
 いつも過去ばかり見ているあの人の目を、外に向けることができなかった。
 きつい目線が和んで、引き結ばれた唇が解かれて、僅かに笑みを見せてくれるのは、あの子がいる時だけ。
 ナルトが見ているのは私じゃなかった。
 いつも私の事を好きだと言ってるクセに、答えを求めてくることはなくて。
 まるで最初から期待なんかしてないみたいに。
 憎まれ口ばかり叩いて、真正面からぶつかって、振り向いて欲しいと全身で叫ぶのは、あの人に対してだけ。
 私、完璧ダシじゃない。
 じゃあ、どうすればいい?


 
 ひとつ、方法はあった。
 何も気付いていないあの人とあの子。全部知ってる私。
 気付いてしまうその前に、甘い言葉を囁いて、憧れと恋心をすり替えて、あの子の目を私だけに向けさせて。
 私には偽りを、あの子には裏切りを、あの人には孤独を与えれば。
 誰も幸せにならない。
 でも、一人だけ不幸にはならない。
 そんな愚かな女に、なれるものならなりたかった。
 多分その方が容易くて、ずっと楽な方法だったと思う。
 ・・・だけど、なれなかったの。




 ぐっと喉が鳴る。
 お腹の底から何かが込み上げて来て、みっともない嗚咽が零れてきそうで。
 「先生、辣油取って!」
 すかさず差し出された小瓶の中身を丼に振りかけて、一気にかき込んだ。
 



 ほんとは、物分かりのいい女になんかなりたくなかった。
 身を引くなんて、鳥肌立つ程趣味じゃない。
 だって好きだったのよ。
 誰にも渡したくないと思う程、あの人が大好きだったのに。
 ・・・いっそ、ナルトが見た目通りの子供だったら良かった。
 お調子者で騒がしくて、傷付くなんて繊細な感情、欠片もないみたいな、本当にそんな子だったら。
 そうしたら、私、踏みにじってやれたかもしれないわ。
 でもね。
 ちょっと優しい言葉をかけてあげた、それだけで私を、誰かを好きって言えるような単純馬鹿。
 「好き」を返してもらえるなんて思い付かない程に、ひとりぼっちだった寂しい子。
 あの子を傷つける人間になりたくない。
 そう思えるくらいには、あの子を好きになってしまった。



 どうしようもないじゃない。
 こんなことってあり?
 まったく、私が何をしたっていうのよ!!





 「・・・ご馳走様でした」
 静かに箸を置く。
 何か今更だなあとは思うけど、なるべくお淑やかに、しずしずと。
 「ご感想は?」
 「香辛料効き過ぎ」
 目がはれぼったくて、顔中ガビガビ。鼻もぐずぐずして熱を持ってるのが分かる。
 きっと今、ものすごい顔してるんだろうなあ。
 「でも美味しかった」
 すっきりした。
 だから。
 アリガトウゴザイマス。
 声に出さずに唇だけ動かした。
 先生は、少し目を細めて笑ったみたいだった。
 




 「ねえ先生。考えてみると私、相当ハードな経験したよね」
 ラーメン屋を出ると、すっかり日が暮れていて。
 ひんやりした空気が火照った頬に気持ちよかった。
 「まあ、滅多にない経験かもね」
 「でしょ?」
 初恋の相手の好きな人は男の子で、しかも邪魔するどころか応援してしまいましたなんて、どこの美談よ。
 自分の事じゃなかったら大笑いしてやるわ。
 「でも、大失恋って女を磨く糧になるっていうし、だったら私も将来期待できるかなあ」
 「そうだなあ。サスケやナルトが悔しがる程、いい女になれるかもね」
 「・・・そんなちゃちいモノ目指してどうするんですか!」
 胸を張って言い放ってやると、先生は意外そうに私を見下ろした。
 びっくりしてるみたい。ちょっといい気分。


 「あの二人が跪いてひれ伏すくらいのいい女、目指すに決まってるでしょ!」


 思い切り宣言してやるわ。
 だって、たとえ世界一の美女が相手でも、あの人達がこれっぽっちも後悔なんかするわけないから、そういう意味で見返すのは無理ってーか無駄だし。
 だったら、一目置かざるを得ない程上等な女になってやるしかないでしょ。
 恋愛じゃなくても『特別な存在』になることは、まだ諦めてなんかいないんだから!



 一瞬絶句して、それからいきなり笑い出す先生。
 うわ、珍しい。
 ニヤニヤとかニタニタとかにへらーとかだったら、いつもしてたような気がするけど、ここまで全開で大笑いって初めて見る気がする。
 ・・・しばらく呆気に取られてたけど、あんまり笑い続けるもんだから、段々腹が立ってきた。
 そりゃ先生から見れば子供の戯言かもしれないけど、精一杯の心意気ってヤツなんだから、ここまで虚仮にしてくれなくてもいいでしょ。
 「もう、そんなに笑うことないでしょ!」
 「ゴメンゴメン。そんなことは思ってないって」
 笑いを残したまま言われたって、誠意なんか欠片も感じられない。
 もっとも、この人にそんなものがあるのかどうかアヤシイけど。
 「信用できません!」
 心にもない謝罪の言葉なんかきっちり無視してやると、先生はやっと笑いを収めて困ったように首を傾げた。
 「ウソじゃないよ。ほら」
 言いながら口布を取って、その場に片膝をつく。
 初めて見る素顔は結構整ってて、ちょっと意外。
 いつもと違う低い所から見上げる目線が、何だか酷く落ち着かなくて。
 先生はそのまま私の右手を取って、ゆっくり顔を近付けて・・・ちょっと、何してるの、この人!


 「今だって十分、オレを跪かせるくらい極上の女の子だよ」


 「な、なななな・・・!!!」
 慌てて手を振りほどいて、勢いで1mくらい後ずさって。
 左手で右手の甲をぎゅっと押さえた。
 何よ、コレ。
 触れた唇はひんやりしてたのに、何でこんなに熱いのよ!



 絶句していると、先生は立ち上がって、何事もなかったみたいに私の頭をぽんと撫でる。
 「それじゃ、お休み」
 「・・・オヤスミナサイ」
 呆然としているうちに、猫背気味の背中は夜道に消えた。





 また、からかわれた?(多分そう)
 少しは本気だったりする?(それはナイナイ)
 この私としたことが、頭の中混乱しててツッコミ一つできなかった。フカク。
 とりあえず、確かなことは。
 イイオンナを目指すためには、何よりまず、あのボケ教師をどうにかできなきゃいけないわ。





 
 


 サスナル、ほんとにまったく出て来ませんでした。思ったよりカカサク色強くなって、自分でもちょっとびっくり。
 この話に出てくるラーメン屋は、「spicy」でサスナルが行った店です。つまりサクラちゃんが食べたのは、ナルトが一口で挫折したタンタンメンだったり。時間的には「spicy」のちょっと前ですね。
 このサクラちゃん、さよの「DISTANCE」のパラレルがちょっと入ってるかも。ぎりぎりで踏みとどまったサクラちゃんってイメージだったんだけど、こんなへたれたカカサクにしてしまって、さよ、すまん。
 




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