一口に忍者の資質なんて言っても色々とあるわけで。
 忍術、体術、チャクラ及びそのコントロールなんて基本のキ。
 常に物事の先の先を読む目だの、咄嗟の状況判断だの、相手に真意を悟られない冷静さだの。
 フィジカル面もさることながら、メンタル面も大きく物を言う。
 (そういう点で言うならば)
 サスケは、強い実感を込めて考える。
 間違いない。
 目の前のこいつは、ぶっちぎりのウスラトンカチだ。








 キミが何かをたくらんでいても








 その視線が向けられるようになったのは少し前のこと。
 長く続いた雨がようやく収まる気配を見せ、たまの晴れ間から覗く日差しは眩しさを増して来て、本格的な夏も近いと思い始める頃からだった。
 サスケにとって、他人からじろじろ見られるのは、珍しい事ではない。
 少女達の憧れを込めた視線だとか、あれがうちはの生き残りかと好奇と同情と畏怖の混じった目だとか、はっきり言って日常茶飯事だ。
 もちろん無遠慮に注がれるそれらが心地良いわけもなく、むしろうざい以外の何物でもなかったから、害意や殺意を含む物でなければ、自動的にさっくりと切り捨ててはいるけれど。
 ただし何事にも例外はあるもので、完璧無比のシャットアウト機能にも、ごく僅かながらそれが存在した。
 実際には僅かなんてものじゃなく、たった一つしかないのだが。
 そして、今向けられている視線は、その唯一の例外。
 「何見てんだ、ナルト」
 「べ、別に見てなんかないってばよ」
 何気ない素振りで振り返れば、青い瞳が慌てたようにそっぽを向く。
 「ホントのホントに何でもないからな!」
 早口でそれだけを言い募ると、ナルトはくるりと背を向けてしゃがみ込んだ。
 そのまま右手の鎌を勢いよく動かして、本日の任務である草刈りの続きを始めたが。
 勢いが良すぎてか、刈れているのはほんの先端部分ばかり、今にも手指を刈ってしまうんじゃないかと見ていてハラハラしてしまう。
 それは見事にナルトの動揺ぶりを示していて。
 サスケは軽く肩を竦めると、自分も背を向けて草刈りを再開した。
 途端にまた、背中に感じる視線。
 といっても、それが色めいたものではない事くらい、サスケは知っている。
 勿論、サスケとナルトは誰憚ることのない恋人同士であったし(少しは憚って欲しいという意見もあるが完全無視)、どれだけ熱の篭もった視線を交わし合おうと、問題はこれっぽっちもないのだが(問題は大ありだという意見も以下同文)。
 ここ最近ずーっとナルトが向けてくるのは、残念ながらそういう類のものではなく。
 何か探るような、考え込むような、そして近頃ではひどく困ったようなため息さえ伴う視線。
 実の所、サスケにはその原因も分かっている。
 正確には推測しているに過ぎないが、おそらく確度は99.99%。
 カレンダーが7月に替わった頃から、とみに頻度を増してきたそれの意味。
 分からない、あるいは分からないと思っている奴がいるとしたら。
 「おまえくらいのもんだ、ウスラトンカチ」
 聞こえないように、サスケは小さく呟いた。




 「なあなあ、サスケ」
 ややあって、躊躇いがちにかけられた声に、サスケは草を刈る手を止めた。
 とうとうギブアップか?なんて意地の悪い事を考えながら、わざとゆっくり振り向けば、案の定ナルトの顔ときたら。
 むうっと唇を尖らせて、拗ねたような瞳がいかにも悔しそうにやや上向き加減に見上げてきて。
 本人無意識なのだろうが、サスケのストライクゾーンど真ん中。
 ナルトは普段かなりの甘ったれで、気を許した人間にはとことん甘える傾向があるが、その反面恐ろしく負けず嫌いな所がある。
 特に、恋人とは言えライバルでもあるサスケに対してはそれが強く、忍術でも生活一般でも、サスケが知っていて自分が知らない事があるなんて、ひどく悔しいらしい。
 素直に聞くのもまた悔しいから、自分でどうにかしようと奮闘するのだが、あえなく玉砕、渋々ながらサスケに訊ねるのがいつものパターン。
 『何でおまえばっか、そんなに色々知ってるんだってば』
 『おまえが知らな過ぎなんだよ、ドベ』
 『ムッカツク〜〜〜!』
 せっかく教えてやっても、ズルイと言わんばかりに睨まれるのは理不尽な気がしないでもないが、それ以上言い返すことも出来ずに、ふてくされる表情がまた、こたえられない。
 本当は。
 大抵の場合、ナルトの問いかけはごくたわいのないもので、訊かれなくてもそれとなく教えてやるくらい簡単なのだが。
 悔しげに頬を膨らませながらこちらを窺う表情が、そりゃあもうとんでもないくらい可愛くて、その顔見たさに向こうから折れて来るのを待ってるなんて事は、秘密の話。
 「・・・で、何だ?」
 今、目の前にあるのはその時と同じ表情だった。
 「えっと、その・・・」
 何だかひどく言いにくそうに、物問いたげな目を向けてくるナルト。
 こっちから話を切りだして欲しいのがミエミエで、だけどわざと知らんぷり。
 目線だけで続きを促せば、ますます困ったようにあちこちに視線を漂わせて。
 だけどどうしたってサスケの方から話の糸口を作ってくれそうにない事を悟ってか、ナルトはようやく口を開いた。
 「あのさあのさ。もしも・・・もしもだぞ? オレが、おまえに何かやるとしたら、何が欲しい?」




 そう来るか。
 あまりと言えばあまりな台詞に、サスケは一瞬眩暈すら覚える。
 いつでも単純一直線、猪も真っ青な程まっすぐに進むことしか知らないナルトの事、そう穿った訊き方はしてこないだろうと思っていたが。
 もっとこう、遠回しに好みをリサーチするとか、せめて今欲しい物があるかとか、それくらいの捻りは効かせてもいいんではなかろうか。
 なんて、呑気に考えていると。
 「人がマジメに聞いてんのに、なに笑ってるんだってば!」
 まったく思いがけない事に、サスケが何か言うより先にナルトからの逆襲がやってきた。
 自慢じゃないが、幼い頃から磨き抜かれたうちはサスケのポーカーフェイスは伊達じゃない。
 海千山千の担当上忍にさえ、もう少し感情を表に出した方がいいぞ〜と、愚痴だか忠告だか受けるくらいだ。
 そのせいで、ただでさえ難しい恋路を更に険しくした過去はごく最近のものだったりするが、上手くいってしまえばそんな苦労もあっさり棚の上に放り投げられてしまうわけで。
 結果的にサスケの無表情っぷりは今も大して変わっていない。どころか、最近では鉄面皮と評する輩もいる程だ。
 今だって、ナルトに悟られる程に表情を変えていた覚えは、まったくないのだけれど。
 「ふふん、馬鹿にすんな。いくらおまえがお面みたいな顔してたって、それくらい分かるってばよ。何つってもオレってば、おまえのこ・・・」
 「こ?」
 はた、と口ごもったナルトに思わず期待を込めて問いかければ。
 途端にナルトの顔はかーっと真っ赤に染まって、それこそ笑えるくらいにわたわたと慌てふためいて。
 「おおおおお、おまえのこと、ずーっと観察してたんだからな。間違いないってばよ!」
 一気にまくしたてると、ほっとしたように息を吐く。
 意味ありげに見つめるサスケの視線なんて気付きもせずに。
 これで誤魔化せたつもりなんて、まったく単純。
 それに乗ってやってもいいけれど、やっぱりもっとカワイイ反応が見たいなんて、意地悪心がそそられる。
 「何だ、コイビトだから分かるのかと思った」
 「う、うぬぼれてんじゃねーっっっ」
 希望と確信のこもった言葉は見事に的を射たようで、ますます赤くなったゆでだこにサスケは更に追い打ちをかけた。
 にんまり意地悪い顔のオプション付きで。
 「で、表情読めるようになるくらい、ずっとオレのこと見てたって?」
 「そ、そんなこと・・・あるけど。でもそーゆー意味じゃないってばよ・・・って、ちーがーうー! だいたいオレの方が先に質問してたんだってば!」
 「ああ、もし、おまえから何かもらえるとしたら何がいいかって話だよな」
 「分かってんだったら、話逸らすな!・・・で、何がいいってば?」
 ぷうっとふくれつつも律儀に問い直すナルトに、サスケはまたこっそり苦笑する。
 (ホントに、分からねえのか?)
 嫌いなものはたくさんあるが、好きなものは殆どないうちはサスケ。
 本当にイヤになるくらいの片思いの挙げ句、ようやく思いを通じ合えた相手から何が欲しい?なんて聞かれたって。
 そんなの、一つしかあるわけない。




 「・・・そうだな」
 「なあなあ、何だってば。早く言ってみろってばよ」
 サスケの欲しい物は、いつだって一つだけ。考えるまでもなくとうの昔に決まってる。
 多分、口にすれば真っ赤な顔で、『今更そんなのプレゼントにならないってば』なんてムクレつつ、それでも最後にはちゃんとくれるのだろうけど。
 でも、とりえあずは。
 「そう急に言われたって、すぐには思い付かねえよ」
 「えー、そんな事言わずに何か言えってば」
 「おまえからもらえるんだったら、何でもいいけど」
 「・・・なんかさ、そう言うような気はしてたけどさあ」
 それじゃ困るんだってば、とふくれっ面で呟く声に含み笑う。 
 「もしも、の話だろう? そんなに考え込む事もないんじゃないか?」
 「そ、そうだけどさっ、でも・・・ふへっ?!」
 ぷうっとふくれた頬を思いっきり左右に引っ張れば、面白い程ぶにーっと伸びる。
 両の指に伝わる柔らかさがたまらない。
 「いきなり何すんだってばよ!」
 ぎゃんぎゃんうるさい文句なんか右から左に聞き流し、痛そうに頬をさする手をそっと外して。
 最初に右頬、それから左に、ちゅっと宥めるようなキスをする。
 まんまるになった瞳に視線を合わせてやれば、小さな顔が火を噴いた。
 「・・・・・サスケっっっ」
 照れ隠しの怒鳴り声が降ってくる前に、今度は唇に軽いキス。
 一瞬黙り込んだその隙に、にっこりと笑ってやった。
 「しょうがないな。教えてやるよ、オレの欲しい物」
 「ほ、ほんとか?!」
 「ああ。23日の朝になってもおまえが思い付かなかったら、その時にな」
 何気ない風を装ってさらりと爆弾を投げてみれば。
 案の定、ぴきーんとナルトは固まっている。
 (・・・何で分かったんだってばよ!)
 見開かれた青い瞳が言葉よりも雄弁にその心情を表していて、サスケは笑みを深くする。
 この会話の流れで分からない方が、無理があり過ぎだ。
 なんて事に気付かないのは、きっと目の前のこいつだけ。
 本当に、何て可愛いウスラトンカチ。
 「な、な、何言ってるんだってばよ! オレ、ほんとに何かやるなんて言ってないってば。もしもってゆったろ?!」
 「分かってる。心配しなくても、一日で準備できる物にしてやるから」
 「分かってない! おまえに誕生日のプレゼントやるなんて、ひとっことも・・・・・・・あ」
 愕然。あるいは痛恨の一撃。
 次の瞬間、ナルトが見せた表情は、正にそうとしか言いようのないもの。
 それから徐々に、困ったような途方に暮れた顔に変わっていって。
 さすがにこれは失言だって事くらい分かるんだな、と、妙な所で感心しながらサスケは口を開いた。
 「まだ時間はあるしな。なるべくなら自分で考えろよ」
 その方が嬉しいし。
 付け加えてやれば、ナルトはしばらくどうしようと言うように視線を泳がせて、やがて諦めたようにため息を吐く。
 「・・・知らねー」
 ぷいと顔を背けてしまったけれど、ちくしょー絶対目にもの見せてやる、なんて物騒な呟きが小さく聞こえてきた。
 ジタバタと今更ながらの悪あがきも、ただただイトシイだけ。
 こっそり握り拳を作ってるそんな様も可愛くて、つい緩んでしまいそうになる表情を、サスケは辛うじて押し隠した。




 もっとたくさん、もっと迷って、ぎりぎりまでめいっぱい考えてくれればいい。
 サスケは、希望を込めてそう思う。
 ものすごく迷って、しまいには途方に暮れてしまうかもしれないけど、多分それもきっと楽しい。
 (オレがそうだったんだから)
 ・・・・思い出すのは、去年のナルトの誕生日。
 サスケは、それこそ一ヶ月も前から、ナルトがどうすれば喜んでくれるか考えに考え抜いた。
 こんなに悩んだのは生まれて初めてと言っていいくらい考え込んで、うっかり睡眠不足に陥ってしまった程。
 だけど、そうして迎えた当日にナルトが向けてくれた笑顔の眩しさと来たら、ちょっと言葉に出来ないくらいで。
 きっと、めちゃくちゃに悩みまくったからこそ、笑顔があんなに嬉しかった。
 それにおそらく、ああでもないこうでもないと思案すること自体も、ひどく楽しかったのだと思う。
 誰かのためにお祝いをしたい。絶対に喜んでもらいたい。喜ばせたい。
 サスケにとっては家族を失って以来忘れかけてた気持ち。そして、ナルトにとっては多分初めての。
 そんな幸せな昂揚感を、きっと今、ナルトも味わっている。
 こうやって、同じ気持ちを分け合うこと。
 それだけでもバースディプレゼントには十分過ぎる。
 だから、当日ナルトが何を持って来ようと、サスケにとっては至上の贈り物であることは間違いない。
 ないのだけれど。
 鈍いアイツが頭を振り絞って振り絞って、それでも何も思い付かなかったとしたら。
 (トクベツに、教えてやるよ)
 サスケの好きなたったひとつのモノ。
 それ以外は欲しくない、心の底から欲しいモノを。
 その時には、ねだってみるのもいいかもしれない。




 「あのさ、さっきの話だけど・・・ほんっとーに、一日で準備できるような物なんだってば?」
 「ああ」
 「それって、サスケがもらって嬉しいモン?」
 「もちろん」
 「・・・・そっか」
 まだ幾分拗ね気味の、だけどひどく真剣な問いかけに頷き返せば、途端にほっとしたような笑みが広がって。
 それがあんまり安心しきった表情だったから、
 (一日どころか、その場でも大丈夫だ)
 なんて事は、とりあえず言わないことにした。










 どうやらただいま何様サスケブーム到来中のようです。そこまで原作に逆らってどうする(遠い目)。
 つーかこんなにナルトに愛されてる自信ありまくりのサスケって、やっぱ間違いのような気がひしひしと…。まあ、誕生日とゆーことで見逃してください。
 



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