彼岸
おなかがいたい。布団から起き上がれない。
いつも。この日は。
彼岸、その日は死者を弔う日。
1年に一度、里中が戸を閉め、しんと静まり返り、静かに死者をいたむ。
せっかくのお休み、意味なんかないと思ってた。
だけど、この日は十二年前、里が壊滅しかけた日で。そして、俺の誕生日。
今までだって、こんな日に誕生日なんて、位には思ってた。
どうせ誰も祝ってくれる人などいないのだけど。
だけど今年、知っていること。
今日、自分に向けられる目が、いつもよりも悪意に満ちている。
ひょっとしたらこれは呪いの様に、皆の憎悪で痛いのか。
それとも九尾が思い出して自分を喰い破るつもりなのか。
どちらにしても、声を出したくなかった。
外にも、内にも、自分が苦しいと悟られたくない。
じっと寝てれば、過ぎる痛み。
そうでないと死んでいった人たちの霊が、とりころしに来るかもしれない。
(ばかばかしい。)
思っては見るものの。
いつもより、天井が遠い気がした。
コンコンと、ドアをたたく音。
出たくないから、そのままじっとしてる。
「ナルト、いないのか」
驚いて、跳ね起きる。急いで走っていって、ドアを開けた。
「イルカ先生!」
目の前に、イルカ先生。大好きな。
思わず、ジャンプして、飛びつく。
「お前、休みだからって、まだ寝てたのか?」
パジャマ姿のナルトを受け止めて、頭をぽんぽんとなでる。
「どうしたんだってばよ。」
「ああ、用事で出てたから、帰りにな」
今日の用事といえば、お墓参りに決まってる。今日は目の前で死んだ両親の命日だ。
『イルカもな、本当はお前が憎いんだよ!』
ミズキ先生の言葉を思い出して、イルカ先生を見た。
(イルカ先生は、俺が憎くはないの?)
「今日はどこも休みで、まいったよ。だいぶ歩き回ったんだぞ」
そういって、イルカ先生は四角い白い箱を目の前に出した。
箱の中から「ハッピーバースデイ」の文字の入った、ケーキ。
「ナルト。お誕生日、おめでとう。」
そういって笑いかける。
先生。
「お前ケーキ好きだし、このくらい食うよな。」
せんせいいせんせいせんせいせんせい・・・。目の前が涙で曇る。
ぎゅうと、先生に抱きついた。
「だいすき・・」
おおきな手が、あたまをなでる。
イルカが複雑な顔をしていたことをナルトは知らなかった。
水晶で見ていた火影様の指示で来たことも、
本当には割り切れていないことも、この子には、見せない。だから。
「ごめんな。」
「5人で割って、ちょうど位ですかね。」
不意に後ろから、とぼけた口調で。
「カカシ先生!」
二人声をそろえて、視線をやると。
「ドアあいてたもんで。入っちゃいましたよ?」
その後ろ、ドアの向こうに、仏頂面のサスケと、並んでサクラちゃん。
「・・・今日は、任務休み・・だよね?せんせ」
「祝日は依頼は受けませんし、できるだけ仕事はしない決まりになってますが?」
答えず、こっちをむいて、すこしかがむ。イルカ先生のむっとしたのがわかる。
「んー、退散してもいいんですけどね。でもまあ、せっかくだし。」
目の前の触れそうなくらいぎりぎりまで顔が近づいて。
「お誕生日、おめでとう」にっこりとわらった。
サクラちゃんも、「おめでとう」といった。わざわざあんたのために出てきたのよ。ともいった。
さすけはなにもいわなかった。カカシ先生が、せっかくきたのにねえ、と頭をかいた。
(火影様の差し金ですか。)イルカは苦々しく思う。
カカシ先生は、今のナルトの監視役だ。
純粋に慕う子供を、自分たちは偽善と慈愛をすり替えて裏切る。
微笑んで、捕らえて、手の内にあることを確かめて安心する。
愛しいと思いながら、守りたいと思いながら傷つける。
だって、この子供の中には魔物がいるのだから。
まだ、思い出すとぞっとする光景。今日でちょうど12年。
ケーキを切り分けて、みんなでたべる。
「ナルト、あんたこんな日が誕生日で災難だったわね。」
サクラちゃんが言う。
「だけどね、毎日誰かがどっかで産まれてるんだから、そういうこともあるわよ」
サクラちゃんは、何も知らない。
「そういうときにあんたのおかあさん、それでもあんた産んでくれたんだから。
お母さんは、あんたを愛してたんだよね」
うちのおかあさんもそうだよね、きっと。とさくらちゃんはいった。
「お父さんだって、あいしてたさ。」
カカシ先生がつぶやくように続けた。
生まれる前に愛されて、生まれたあとに呪われる。
(生まれる前の記憶があればいいのに。)
「ナルト」
テーブルに片肘をついたカカシ先生がこっちを見ている。
「大丈夫。あいしてるよ。」
「・・おれも、みんな、大好きだってばよ。」
しばらくして、それじゃ、と皆が去る。
曲がり角でカカシ先生はサスケに何か耳打ちして小さな袋を渡す。
サスケの顔色がさっとくもって、なにか文句をいって去っていく。
サクラもいなくなったところで、イルカは苛立たしげに切り出す。
「いったいどこまで本気なんですか?」
「何のことですかね。わたしは嘘は言ってませんよ」
「本心ではないでしょう!」
「何を怒っていらっしゃるのか分かりませんが。」
のらりくらりとしたその態度に苛々する。
「イルカ先生、口出しは無用です。あの子はもうあんたの生徒じゃない。」
ぴしゃりと言い放つ。言葉が出ない。自分でもわかっていた。
俺だけがあの子にしてやれると思っていたことを他人がするから妬ましい。
九尾の影を拭いきれず、心のどこかで愛することもできずにいるのに。
「でもね、俺も失格です。目付役はもう少ししたら譲ろうかと思ってるんですよ。」
「・・・・12年前を知っているから、だめ、ってことですか?」
「自分も大切な人をなくしましたから。どっかで、怖いですよね。」
深くかかわると、いざというとき迷うから、と笑い、
その意味を分かっているだけに、何もいえなかった。
おなかが、痛い。
台所の床にうずくまる。
がまんしてたけど。もういいよね。
みんな来てくれてうれしくて。だから、痛くても、平気。
「なにやってんだ、ドベ。」
・・・さすけ?気のせいだってばよ。
「ほら、布団はむこうだろ?立てないのか?おい。」
ああ、幻か。サスケこんなにやさしくないもんな。
「しょうがねえなあ。ちょっと我慢しろよ。」
いって、背中と膝を抱えて、持ち上げる。
運んで、布団に落とされる。
「まってろ」
ちょっとして、水と薬。
「痛みが少しひくはずだから。」
言われるままに薬を飲む。
飲み終わると、また寝かせてくれる。
「・・・・ったく。痛かったんなら、ちゃんといえ。」
そういいながらも。こんなにやさしいなんて、サスケじゃない。
「今日、誕生日かよ。わりいな、なんもやるもんなくて。」
「あのさ、それはいいから」
「なんだよ」
こんなにやさしいんじゃ、絶対幻に決まってるから。お願い。
「て、にぎってってばよ」
ぎゅう、とにぎる。冷たいて。
安心したのか、薬が効いてきたのか、すう、っと意識が遠のく。
「ずっと側に、いてやるから」
そう、聞こえた気がした。
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