きみがいなくなるのがいやでした。 
 ただ、それだけ。




    それだけのこと




 立ち止まると、一拍おいて止まる。
 歩き出すと、僅かに遅れて歩き出す。
 任務が終わった帰り道、ずっと後をついてくる中途半端な気配は、よく見知ったもので。
 いくらドベでも、気配くらいもう少しまともに消せるはずなのに、そうしないということは、気付いて欲しい、声をかけて欲しいという意思表示。
 らしくない消極的な態度は、サスケを無性に苛立たせる。
 「おい、ドベ」
 いつもなら、あるいは他のヤツならすっぱり無視するはずのそれに、足を止めて振り向いてしまう程に。
 「何してる」
 詰問口調に、気配は一瞬怯えたように立ち竦み、やがて一人の子供がこそこそと姿を現した。
 「見つかっちゃったってばよ」
 頭をかいて、ナルトが照れたように笑う。
 その視線はサスケから微妙にそらされたまま。
 こちらを見ようとしない態度に、サスケの声音は自然と冷たくなる。
 「何の用だ」
 「おまえ、まだ怪我治ってないみたいだし、なんかあったらいけないと思って・・・」
 「だから、家までこっそり送ってやろうって?そりゃありがたいことで」
 明らかに揶揄を込めた台詞に、沸点の低いナルトのこと、いつもならここで大爆発なのだけれど。
 一瞬、何か言いたげに口を開いて、けれどすぐに思い直したように口を噤むだけ。
 項垂れる金色の頭に、サスケの目が険しくなる。
 苛立ちも限界に近い。
 いつもバカみたいに騒いで、弱いくせにキャンキャンうるさくて、何かと言えば勝負を挑んできて。
 いつだってサスケを真っ直ぐ睨み付けてきた青い瞳を、正面から見ることがなくなって、もうどのくらいになるだろう。
 何か言いたげにこっちを見ているくせに、目が合うと反らす。
 カカシやサクラと楽しそうに喋っていても、サスケが近づくと途端に気まずそうに黙り込む。
 そして、そんなことにいちいち苛立つ自分。
 理由なんて分かってる。うんざりするほど明らかだ。
 すべてはあれから。
 波の国で、生死の境をさまよう羽目になって以来のこと。


 ぎこちないナルトを見るたびに、サスケの中で、あの国での出来事がよみがえる。
 正直、思い出したくはないことばかり。
 初めての実戦、初めての死線。
 あの時、命の瀬戸際で自分の中にあったのは、片時も忘れたことのない野望ではなくて。


 ・・・そんなこと、自覚したくなかったのに。


 自覚した望みはひどく単純で、けれどこの身に課せられた義務とは相容れない。
 それでも、既に捨て去ることが不可能な程、心の奥深くまで巣くってしまっていたから。
 サスケはまだ、この厄介なシロモノとどう折り合いを付けていけばいいかなんて分からない。
 だから、その原因が、罪悪感なんてものを顔に貼り付けて目の前をウロウロしていると、
 どうしようもない気分になる。 


 「いい加減にしろよ。鬱陶しいんだよ。終わったことをいつまでもウジウジと」
 襟元を掴み上げ、無理矢理のように瞳を合わせると、ナルトの目線はようやくこっちを向いて。
 ためらうように、それでも随分思い切った様子で口を開く。
 「だって、オレを助けるためにサスケ怪我しちゃったんだってばよ」
 「何度言わせれば分かる。オレが自分でやったことをおまえにどうこう思われる筋合いはねえんだよ」
 「・・・じゃあ、今度はオレが命をかけるってばよ」
 「・・・」
 「おまえが危ない時、オレがおまえの盾になるってば。それで貸し借りなしだろ?」
 「・・・うぬぼれんなよ」
 冷たい声音に、ナルトはぴくっと身を竦ませる。
 脅えたように見上げる瞳に、サスケは口元を歪めた。
 「オレの盾になるだって?」
 ぐいとナルトを引き寄せて、乱暴に唇を合わせる。
 突然の出来事に、何が起きたか理解し切れないのか、小さな身体は固まったまま、抵抗の素振りも見せず。
 「な・・・に?」
 唇が離れて、ようやくぱちぱちと瞬きをする。
 「こんなのも避けられないで、百年早いんだよ」
 呆然とするナルトに、嘲るように笑いかけた。
 「いい加減にしとけ、ウスラトンカチ。ついでに言うなら、あれはおまえのためにやったことじゃないからな」
 だから、この話はもう終わりだ。
 硬直した身体を突き飛ばすように離すと、ナルトはそのまま尻餅をついて。
 自然と、サスケを見上げる形になる。
 見開かれた瞳が、怒りと、そして傷ついた色とをたたえて、サスケを射た。
 久しぶりに見る強い意志を秘めた眼差しに、サスケは目を細くする。
 「何だってば、それ!・・・じゃあ、何のためにわざわざ死ぬような真似、したんだよ!」
 「知らねーよ」
 「何なんだよ、おまえっ、さっぱり分かんねーってば!」
 「分かってたまるか」
 震える叫びに、背を向けて歩き出す。
 もう気配がついてくることはなく。
 だから、サスケは振り向かなかった。


 「おまえには分からない」
 

 分からなくていい。
 少なくとも、今は。
 この持て余すほどの感情は、まだ、おまえにも自分にも重すぎる。


 ただ、あの時命を捨てたのは、本当におまえのためなんかじゃなかった。
 だから、借りなんて返す必要はない。
 まして、そのためにおまえが命を懸けようなんて許さない。
 あれは、ただ自分のためだけに、
 拍子抜けするほど単純で、すべてを捨て去れるほど強い、身勝手な望みゆえにやったこと。




 ・・・きみが、
 いなくなるのがいやでした。
 あえなくなるのがいやでした。
 きみがたおれるのを
 きみのからだがつめたくなるのを
 きみのひとみがひらかなくなるのを


 ・・・絶対に、見たくなかった。




 ただ、それだけのこと。







 さよが2000キリで自爆したんで、あゆりんが書きました。テーマは「恋心を自覚するサスケ」
 テーマは可愛いのに、話は全然可愛くなりませんでした。
 結局、自覚はしたがぐずぐず煮え切らないサスケの話になってしまって大反省。
 これが開き直って突っ走ると「傷」のサスケになります。いや、全然つながってはいないんですが。



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