Such a Lovely Place


ガラでもねぇ。
マジで、俺らしくねぇよ。



本日の任務内容、薬草の摘み取り作業。
変わりばえしない任務の上、今回は他の班員と合同で行われた。
下忍の班としてはまだまだ新人で、アカデミーを卒業したばかりの自分たち向きの任務というか。
忍者じゃなくともできてしまう、仕事内容。
本当に忍者というのは何でも屋だな、任務に就くようになり、そう確信ばかりが強くなってゆく。
そして現在、任務の真っ最中。


広い範囲に分布しているため、班は関係なく6区画に分かれ各々薬草を探している。
草原へと腰を下ろし、下這えの草木を手で分け、薬用に使う植物を探してゆく。
目的のそれを見つけ、葉の部分を片手で摘み、もう一方にクナイを逆手に構える。
根をできるだけ傷めないように気をつけつつ、大地へとクナイを潜り込ませ球根を抉り出す。
ぼこり。
根の張る部分がそれほど深くないため、呆気ないほど簡単に球根部分から掘り出すことができた。
簡単に土を払い落とし、脇へと置いた籠に向かいぽい、と無造作に放り込む。
数刻の間に両手の指以上の数、同じ動作を繰り返した。
まぁこれくらい取れればいいか。
半日(とはいえカカシが遅刻してきたため開始時間は大幅に遅れたが)でこの量ならまずまずだろう。
一息つき、辺りを見回す。
先ほどから気になっていたが、この辺りには毒性は微弱だが有毒な植物が多数分布している。
どっかのドベが間違えて口にでも入れなきゃいいけど。
ま、そこまでバカじゃねぇか。
いや、でもアイツならやってもおかしくないかもしれない…
そこまで思い、苦笑。
くだらない思いつきを振り払うかのように空を仰ぎ、太陽の位置を確認。
そろそろ集合場所へと戻るか。
籠を手にし、サスケは腰を上げた。



集合場所へと向かう途中、8班員の犬塚キバ、そして同班のウスラトンカチこと、うずまきナルトを見かける。
こちらに背を向けるかたちで座り込み、なにやら顔をつき合わせているようだ。
ちょうどあのふたりは隣接する箇所で薬草の摘み取りをしていたため、小休止、いわゆるサボって話でもしているのだろう。
キバのやろぅ、ムカつく。
あいつは意外にドベと仲がよい。
それでもふたりの間には友好といえる感情しかないことが傍目にも分かるので、敢えて口は挟まない。
しかしそう分かっていても、心というのは複雑で。
とりあえず、声をかけて邪魔をしてみることにした。


「おい、何やってんだお前ら」
びびくぅ!
面白いようにふたりの肩が跳ねた。
同時にこちらを振り向き、その顔を歪めて喚く。
キバの頭の上に己の場所を定めている、忍犬赤丸は我関せずの表情。
どうしょうもない主人を呆れているかのよう、どこか白けたように見えて。
その忠実(?)な主人といえば。
「な、なに急に出てくんだサスケッ、驚くじゃねぇか!!気配消して近づくなっての!」
マジ焦っただろが!
そのキバの隣には、目を見張っているナルト。
何故かふたりは口に草を咥えている。
マジで何をやっていたんだ、こいつらは。
疑問を口にしようと、ナルトへと視線を向けた途端。
「ああぁーー!!、ヤベッ呑んだっっ!!!」
「うわっ、マジやば、吐き出せナルト!」
怒鳴った拍子にキバの口に含まれていた草端が足元へと落ち、小さな黄色の花弁がぱらりと散った。
ナルトといえば、喉を鳴らし何かを吐き出そうと懸命な様子。
「吐け、吐き出せ!」
ナルトの背中を平手で打ちつけ、怒鳴るキバ。
「出ねぇってばよぅ」
うっすらと涙を浮かべ、キバを見上げて弱々しい言葉を口にするナルト。
「それでも死ぬ気で出しやがれ!」
騒ぐことをやめないふたり。
ひとり取り残されるサスケ。
一体なんだってんだ。
蚊帳の外に取り残されたサスケはこの状況を作り出した理由を聞き出そうと再度声をかけようとした途端、ナルトに大声で怒鳴られた。
「ばっかサスケ!急に声かけんなってばよ!」
呑んじまったじゃねぇかっっ!!
流石に理由もわからず怒鳴られれば、こちらだって下手に出るわけにはいかず。(下手にでることなど殆どないのは敢えて無視)
やられたらやり返す精神で反撃。
「ふざけんな、テメェ等こそサボって何やってんだよ。昼時だからわざわざ声かけてやったっつーのに、その態度は何だってんだ」
「時と場合ってのがあるってばよー!」
「何が時と場合なんだ、ドベ!」
「ドベって言うなって言ってるだろー!!」
「じゃ、ウスラトンカチか!?」
怒鳴り合いはエキサイト。
そしてそれに水を差したのは、ふたりのやり取りを見ていたキバ。
「おーい。いい加減にしとけっつーの、お前等」
その口調も顔つきも、呆れたようなそれ。
先ほど赤丸が浮かべていた表情と同様のものだった。
我に帰り、場を整えるためわざとらしく咳払い。
そしてサスケは大騒ぎの原因を、やっとのことで聞き出すことに成功したのだった。



室内へと足を踏み込む。
狭い三和土では身体の向きを変えることもできないため、後ろ手で扉を閉める。
その際、背負っているナルトがずり落ちないように気を使うことは忘れない。
足先に引っ掛けるようにして己の履いていたサンダルを脱いだ後、前方へと背を屈め重心をずらしその上へとナルトを乗せるかたちをとり、片手で器用にもサンダルを脱がすとそれを、ぽいと放った。
乱れたままの靴を気にすることもなく、急いで部屋の隅にあるベッドまでナルトを搬送する。
慎重に上着を脱がせ、下履きを寛がせ、寝台の中心に位置するように仰向けに寝かせると蒲団を被せた。
窓も開き、換気を行う。
ブラインドを調節し、室内への光の入り具合を改める。
手にした上着は洗面台へと持ってゆき設置してある石鹸を擦り付け、洗う。
今日の任務は薬草集めだったため、橙色の上着は土埃やら草の汁で斑の染みがいくつもできていた。
本来ならば洗濯機で洗えばいいのだろうが、ただ今ナルトは就寝中。
煩くなどできようか。
そういう訳で、サスケ自ら揉み洗い。
健気すぎるじゃねぇか、俺。
自覚しつつも、やはり手は止らない。
本当は下履きも脱がして洗った方が良かったのだろうが、ナルトの了承を貰わずにそこまでしてしまうのには抵抗がある。
そして、己の歯止めを奪うような真似は避けるためというのが、本当は一番の理由。
顔が赤らんでいるのを自覚しつつ、手を休めることもせず、先ほどの情景を思い出した。


発端はキバとナルトの下らない競争。
適当にそこら辺で見繕った毒草を口に咥え、どれだけ我慢できるか。
競技途中(?)現われたサスケに声をかけられ、驚いた拍子にそれを飲み込んでしまったナルト。
大丈夫だと言い張るナルトだったが、午後の任務開始早々結局体調は悪化し、同じ班員であるサスケが送りついでに看病することとなったのだった。
歩くのも億劫そうだったので有無を言わせず背負い、最初騒いでいたナルトも流石に暴れる気力もなくなったか、背中へと静かに収まった。
そして現在へと至る。


ばしゃ、ぱしゃん。
あらかた汚れを落とし、そして力いっぱい絞る。
金具などが付いているので絞りにくい。
それでもどうにか水気を払い、風呂場のバスカーテンの金棒へとハンガーごと引っ掛ける。
窓辺へ干したいところだが、ナルトの枕元で煩くするのは極力避けたい、そう思っての行動。
本当に健気だな、俺って男は。
溜息を零しつつ洗面所を後にし、台所へ。
そしてコンロのコックを捻り、水をはった片手鍋を火にかけ、研いだ米を入れる。
煮込む。
病人食の定番、お粥作り開始。


ナルトが飲み込んだ植物はそれほど毒性が強いものではない。
黄色い光沢のある小さな5花弁からなる、木の葉の里ではそこここで見られる夏草である。
茎葉の汁に毒を持ち、それが肌につくと小さな水ぶくれが多数でき、口に含めば口中焼け付くような疼痛とやはり水ぶくれ。
そして発熱、嘔吐。
ナルトが誤って口に含んでしまった毒草のもたらす症状は大体こんなものだ。
シャモジで時々鍋をかき回しつつ、空いた時間を使い服用薬も用意。
熱冷まし。
痛み止め。
胃腸薬、etc…
同時服用で副作用がでない物を自らチョイスして組み合わせてゆく。
服用薬だけでなく、塗り薬も作っておこう。
ナルトの肌に毒草の汁が付いてでもいたら大変だ。
それならナルトの手足だけでも拭いておいた方がよいのだろうか。
鉄面皮のため感情通りの表情が浮かぶことはないが、内心では軽度のパニックに陥るサスケ。
そうして、数度目の自覚。
ナルトのことになると、どうしょうもなく落ち着かない自分を確認し。
己の気持ちを目前に鋭く突き出される。
ああ、重症だ。
傷む頭を抱えつつ、薬剤の調合も、お粥への味付けも怠ることないサスケだった。



火を止めたところに、ナルトの小さな声が聞こえた。
起きたのかと思い、寝台へと足を向ける。
「ごめ、サスケ吐きそぉ」
弱々しい声で嘆願。
ベッド下へと用意しておいたビニル袋を急いで手渡し、丸く縮めた背中を擦ってやる。
けはっ。
苦しそうな声の下、ナルトは胃液を吐く。
昼飯も殆ど摂らなかったり、帰宅途中にも嘔吐していたため胃の中身は空っぽで、ビニル袋に吐き出されたそれは黄色く粘った胃液がほんの少し。
それでも吐き気はまだ収まらないらしく、喉を痛めたような音をたて吐く仕種を続ける。
その間サスケはできるだけ優しくナルトの背中を擦り続ける。
少しでも苦痛が遠ざかるように、と。
殆ど残ってもいないだろう胃液を再度吐き、ナルトはやっと落ち着きを取り戻した。
枕元に用意した水差しからグラスへと水を注ぎ、ナルトへと差し出す。
「これでうがいしろ。水はここへ吐き出せ」
「ん、さんきゅ」
グラスを受け取り素直にサスケの指示に従う。
口元を漱いだ水は、先ほど吐瀉物を吐き出した袋へと捨てさせる。
そして今度は飲料水を与える。
ただでさえ発熱のため大量の汗をかき、体内の水分が不足しがちなのだ。
嘔吐までしているのだから、絶対量が足りていないはず。
脱水症状の恐れがあるため、水分の補給をできるだけさせた方が良い。
当然のことながらナルトも喉が渇いていたのだろう。
サスケが注ぐだけの水を、喉を鳴らし飲み干してゆく。
3杯ほど水を飲ませ、グラスをナルトから受け取る。
「もうちょっと寝ろ。まだ辛いだろう」
ナルトの背に腕を回し重心を傾けさせベッドの上にゆるりと寝かせた後、肩口まで蒲団をかけてやる。
こちらに向けるナルトの視線には、いつもの強さがない。
「あのさ…」
「ん?」
「えっとさ、お前に礼なんてホントは言いたくねぇけど、いちよー言っとく」
ありがと。
しおらしい言葉を口にしたナルトの頬が一気に朱に染まった。
そして言った途端、蒲団をすっぽりと頭までかぶってしまう。
言われ慣れない謝礼の言葉を貰ったサスケはどこか面映い。
「別にいい。俺にも責任あるし」
ごそり、まだ赤い頬をしながらナルトがゆっくりと頭を除かせる。
文句か嫌味を言われると思っていたのだろう、こちらに向ける表情は驚きのそれ。
きょとりとしたつぶらな視線を投げかけられ、サスケは赤面。
「どっ、どうでもいいから、さっさと寝ろ!」
「…ん」
怒鳴られたことに反発することもなくナルトはちいさくう頷き、すぐに瞼を閉じる。
しばらくして小さな寝息が聞こえてきた。
それを確認し、ベッドの脇に置いた洗面器に浸していたタオルを絞る。
伸ばして二つ折りにし、ナルトの額の上へと乗せる。
タオルの下にひくかたちになってしまった髪の筋を生え際に沿って指を差し入れ、引っ掛けるようにして外へと出してやる。
やわらかさが、指先に心地良い。
感触が、心に染み込み。
そしてサスケは、しばしナルトの寝顔に見入ったのだった。


風向きがかわったのか遠くの喧騒が一瞬強くなり、窓越しに飛び込んできた。
電線に集まっている小鳥たちのさえずり。
幼子の泣き声。
大人の怒鳴り声。
子供へと呼びかける、親の声。
たくさんの、笑い声。
日常が生む、たくさんのざわめき。
西日にはまだ早い、多分な熱を残す陽光が斜めに窓越しから室内を照らし出す。
陽の向きが徐々にだが、確実に傾き始めている。
眠るナルトに直接その光が当たらないようにするため、サスケはブラインドをずらし影を作ってやる。
横筋に走る影が蒲団越し、眠るナルトのかたちを浮き上がらせるように映る。
穏やかな午後の陽射しは、室内にやわらかい陰影のコントラストを描いていた。



「んぅ…」
一刻ほど経った頃だろうか、熱に浮かされているのだろうナルトの寝息が苦しそうに歪んだ。
寝汗も大量にかいている。
吐息が随分熱を孕み、こめかみ辺りにもぷつぷつと汗の粒が浮いている。
タオルを濡らし、再度額へと乗せる。
そして新しいタオルを用意し、首筋だけでもと汗を拭っていった。
何度もそれを繰り返しているうちにナルトの苦しそうな呼吸が少しずつ収まっていくのを確認し、それに安堵したサスケは大きく溜息を吐いた。
呼吸と比例し、顔色もどこか良くなってきた気がする。
何時もは過ぎるほど元気なナルトが大人しく静かで、うなされずに眠る幼い顔を見つつも心配は止らない。
このまま息が止ってしまうのではないか、そんなありもしない想像まで。
ああ、嫌なことを思い出しそうだ。
それを振り払うように額のタオルを取り替えようと手を前方へとかざしたところで、ナルトの瞼がふるりと震え。
幾度か浅い瞬きをし、青い目がこちらに向けられた。
澄んだ色が、何時か見た海の青を思い起こさせる。
「あ、れ。サスケ、ずっと付いててくれたの?」
ナルトは寝惚けたような声音で呟く。
「ああ。それより具合はどうだ」
「ん、結構楽になったってばよ」
「そうか、何か食べれるか?」
そう口にしながらナルトの髪を梳いて、乱れてしまった流れを丁寧に直してゆく。


何時もウザい。
何所にいたって煩い。
食い意地が張ってる。
寝汚い。
バカ。
愚か。
本当に何でこんなにドベなんだろう。
幾らでもあげつらうことができるほど、欠陥ばかり目立つウスラトンカチ。
なのに、こんなにも好きで。
時々思う、何故、よりによってコイツなのだろう。
ナルトよりも幾等だって上等な人間はいるだろうに、やはり俺の気持ちの向かう先には。

サスケは苦笑。
あーあ、俺って本当に趣味がいいよな。


「うん、何か食べたい」
「お粥でいいか?」
「ん、とね、できたらさっぱりしたモノがいいってば」
「林檎とかだったらどうだ?」
「林檎とかスッパイ系なら、たぶん大丈夫」
「じゃ、用意する。ちょっとかかるから、それまで寝てろ」
「ん」
ナルトの髪をもうひと撫でし、サスケはくるりと向きを変え台所へと歩いて行った。



病人食第二段、消化に良い摩りおろし林檎。
三分の一ほど皮を剥いて摩りおろす。
残りは食塩水に浸した後ラップに包んで冷蔵庫行きかな、そんなことを考えているところへ、遠慮がちなノック音。
複数の気配が、外部へと続く扉越しに感じられる。
畜生、擦った林檎が変色しちまうじゃねぇか。
見舞い客だろうことを予想しつつも、心中悪態をついてしまう。
それでも流石のうちはサスケ。
開閉音が響かないよう、気遣いは怠らない。
そして扉を開いた途端。
「おい、ナルトの様子どうだよ、大丈夫そうか!?」
心配気なキバ。
「任務終わったから、みんなでお見舞いに来たの」
にこやかなサクラ。
「ちゃんと面倒見ているかなぁ、サスケ?」
相変わらず掴み所のない笑いを浮かべるカカシ。
「あの子、大丈夫かい?」
これは紅。
「煩くして悪いな」
気遣いを見せるシノ。
「ナ、ナルト君の具合、どうですか?」
やはりオドオドしているヒナタ。
「それでね、あのね、これお見舞い」
皆の言葉が一段落したところを見計らい、サクラが後ろ手に隠し持っていた花束をサスケへと手渡す。
コスモスに始まり、キキョウ、ノゲシ、シュスラン、ナデシコ、ユリ。
他にも名を知らぬ、とりどりの花。
売り物のような均整のとれた華々しいものではない。
しかしまとまりを欠きつつも、どこかあたたかみを感じさせられる花束だった。
「食いしん坊のナルトでも今はあんまり食欲ないだろうから、お花でもと思って。
こんな季節だからちゃんとした花とかあんまりなかったけど、皆で一緒に集めたのよ」
どーせナルトの部屋じゃ殺風景だろうから、花でも飾って貰おうと思って。
何時もすげない態度をナルトにとっているサクラの、精一杯の優しさと、照れ隠しの言葉。
「ああ…」
サクラから花束を受け取ったサスケは室内へと視線を向け、躊躇。
それに気付いたカカシが気を回し、言葉を紡ぐ。
「いいよ、寝込んでるところに皆で押しかけるのは悪いからね。俺たちはこれで失礼するから。サスケ、ナルトの面倒よろしくね」
「…ああ、わかった」
今回ばかりはサスケも素直に頷く。
その反応を珍しいと思いながら、カカシも素直に退去のむねを告げる。
「じゃ、ま、帰りますか」
皆を促したところに、先ほどから落ち着かずに視線を巡らしていたヒナタの一生懸命な声。
「あ、あの、これ。」
ナルト君に使ってあげて下さい。
いつもならば俯いている顔をしっかり上げ、それでも恥ずかしそうに薬を差し出す。
懸命な言動から、本当にナルト心配しているのがわかる。
自分と同じ感情を、同じ相手に抱く存在。
無下にできるはずがない。
差し出された薬を受け取り。
「サンキュ、あいつに伝えとく」
たぶん初めてヒナタに向ける、あたたかいだろう言葉。
そんなサスケに、目を見張るヒナタ。
「……ありがとう、サスケ君」
心から感謝を込めて呟いた。
それを温かく見守っていたヒナタの担任教師の紅は、皆の代表としていとまを告げる。
それを合図に皆も口々にお見舞いの言葉を告げ、連れ立って帰っていった。
見送った後静かに扉を閉め、花を生けるのにちょうどよい器を探す。
どうにか大きめの空き瓶を見つけ不器用ながらも花を生け、食事用のテーブルへとそれを置いた。
そして続きになっていた摩りおろし林檎といえば。
………ああ、変色してやがる。
色は変わったとはいえ、味は殆ど変わらないだろう。
それでもこれをナルトに出すのは却下。
ずぞぞぞ。
音を立ててサスケは飲み下す。
意外と上品ではない、うちはの坊ちゃん。
林檎の残りをまた二分割し、その半分で三切れほどのウサギ林檎をつくる。
多分アイツはこういうのを好むだろうから。
喜んでもらいたい。
そのためだけにうちはのサスケ、ウサギ林檎作成。
こんな俺どうよ、とか内なるサスケ、ひとりツッコミ。
キャラが変わりつつあることに煩悶しつつも、手は疎かにしない。
残り三分の一で林檎を再度擦りおろす。
よし完成。
お盆を用意し、その上へと盛り付けた皿、冷えたミネラルウォーター。
そして、ヒナタが持ってきたピルケース。
足音を立てずに、ナルトの枕元へと運んでゆく。
陶器の触れ合うかすかな音にナルトが目を覚ました。
「起きたか」
「ん。なぁサスケ、今さっき誰か来てたってば?」
「ああ、カカシたちがな」
サスケは両手が塞がっているため、顎をしゃくり後ろを指し示す。
卓の上へと設置された簡易花瓶には鮮やかさには欠けるが、あたたかい、たくさんの彩。
「うわぁ、キレイだってば」
「お前のために任務後摘んだらしい」
見舞いにと言って、先ほどみんなで持ってきた。
「そっか…」
ナルトは皆の心遣いに、それ以上の声が出ない様子だった。
目元がかすかに潤んでいるのは見なかったことにするサスケ。
そして普段通りに話を進めてゆく。
「あとこれ。」
重心を崩さないように盆を片手に移しかえ、そこへちょこんと乗っていた小さな携帯用のプラスティックのケースを摘み上げ見せる。
「?何だってば、それ」
「ヒナタがお前に持ってきてくれた薬」
日向家特製の鎮痛剤だそうだ。
「へぇ、そぉか」
手に取り、どこか珍し気に目先にかざして見つつ。
「あいつってば変わってるけど、優しいってばよ」
ほころんだナルトの顔と対照的に、サスケの表情は憮然としたような、困ったような複雑なもの。
誰かの言動が、こいつにこんな顔をさせる。
忌々しくもありながら、笑っているナルトを見れたことが純粋に嬉しくて。
それを与えたのが自分でないことが、悔しくて。
雑多に混ざった、一言では言い表せないオモイのかたち。
青春小僧は大変です。
「ともかく花は勝手に飾らせてもらった。あと薬は食後にな」
ヒナタが持ってきたヤツと別に、まだ飲むのあるから覚悟しとけ。
サスケの容赦ない言葉に先ほどまでのナルトの笑みは一気に吹き飛び、これ以上ないというくらい正反対の表情。
「えぇっ、薬飲まなきゃなんねぇの!?」
ナルトと対照的な、冷静な態度のサスケ。
「当たり前だろ、そんなの」
何言ってやがる。
「で、でも…、もうそんなに具合悪くないし……」
どうにかして薬を飲むのを避けたいようで、ナルトは無駄な足掻きを続ける。
「ホントにもう俺ってばフッカツしたしさ」
「何、お前。もしかして薬飲むのが嫌とか言うつもりか?……ああそうか、見た目と同じで中身もやっぱガキなんだ」
苦い薬が飲めねぇんだ。
刺々しい笑顔と共に、嫌味の進呈。
「そっ、そんなことないもん!」
「じゃ、飲むな?」
言い返すこともできずに不承不承に頷くナルトを見据えつつ、心中でしてやったりと呟くサスケ。
この単純バカめ。
「まぁとにかく、林檎が変色する前に食え」
胸前で抱えていたお盆ごと前面へと差し出した。
「うっわ、すげー、何これ!?」
何よりもまず、皿に乗ったウサギを見てナルトは喜ぶ。
予想通りだ。
「林檎で作ったウサギ。口ん中痛いだろうから、固形の林檎は食えなかったら残せ。あとお粥もあるから食えそうだったら言えよ」
「うん、サンキューなサスケ」
じゃ、いっただきまーす。
早速ナルトは摩りおろした林檎を匙ですくい口元へと運んでゆく。
それを見つつ、内心ドキドキのサスケ。
別にこれといった加工を施した料理という訳ではないので、味自体は素材の持ち味のみ。
それでも反応がとても気になるサスケ。
こんなものでもいちよう、ナルトに振舞う初の手料理(?)なのだ。
匙の先端がナルトの口腔へと消えるのをじっと見守る。
「……どうだ?」
「うん、うまい!」
「そうか」
ナルトの返答にホッとしたサスケは、ウサギへと手を伸ばし自分の口へと放り込む。
「おいちょっと何食ってんだよ、サスケってばー。それ俺のだってばよ!」
サスケの行動を目にしたナルトがくってかかる。
「んだよ、どうせ全部は食べられないだろ」
林檎のウサギは飾りとして出したようなものだ。
口中には水ぶくれができ痛みがあるのだから、普通固形物は好んで取りたがらないはずだ。「ダメ、俺がひとりで食うの!」
「無理すんじゃねぇよ、口ン中よけい酷くなるだろうが」
「ゆっくり食えばへーキだってば」
「あのなぁ、テメェ…」
文句を言ってやろうと言葉を続けようとしたら。
「ひとりで食うっつったら食うの!折角サスケが俺のために用意してくれたんだから、全部食いたいんだってばよ!!」
わかったかと言わんばかりに、大きく胸を逸らしこちらをねめつけるナルト。
「………わかった、食え」
ナルト自身はそれほど重要なことを言ったつもりはないのだろう。
ただ思ったことを素直に口にしただけであって、含みも、裏の意味もない。
直球のような気持ちが嬉しくて。
「水を持ってくる」
真っ赤に染まった頬を隠すため、そう口にしてその場を離れるしかなかった。



結局お粥は食べられないということで、明日の朝へと持ち越し。
もう帰ってよいという、ナルトの案も見送り。
着替えまで手伝ってくれなくてもいいってばー、という言葉も却下。
そして俺はナルトのベッドへ潜り込むことに成功。
「なーなー、サスケ。ホント帰んなくっていいのかよー」
「何言ってる、もし体調が悪化したらどうするつもりなんだよ」
「大丈夫だってば。それにさ、俺ってば汗もかいてるし汚いってばよ」
ふたりだとフトンも狭いしさぁ。
「さっき身体拭いてやったじゃねぇか。大体てめぇの家に客用蒲団も置いてないのが悪い」
「だって、うちに客なんて来ないもん」
「…まぁ別に客用蒲団なんぞ、なくていいんだけどよ」
「……何それ?」
「何でもない、気にするな」
納得いかない顔をしているナルトに誤魔化しの意味も込めて、質問。
「それより体調はどうだ?」
「ん、けっこーいいよ、気持ちも悪くないしさ。口ん中はちょっと痛いけど、口ん中って傷の治りとか早いだろー」
だから大丈夫だってばよ。
「唾液で代謝がいいから、他のところに比べて治りは早いだろうな」
「うん、だからへーキだっ…」
放たれた言葉は完成されることなく、半分は中空へと溶ける。
そしてもう半分は、サスケの唇へと溶けたのだった。


「サスケのすけべ」
「唾つけると治りがいいんだろ」
これで治りが早くなるな。
「んなっ、何言ってるってばよ!」
「治療の手伝いだ」
「頼んでないっつーの、そんなこと!!」
「うるさい黙れ、それよりさっさと寝ろ。まだ熱はあるんだろ」
言いたいことは多量にありつつもやはりナルトの体調は万全ではなく、サスケの言葉に素直に従う。
言われた通り肩まで蒲団をかけ、眠りにつくための準備を整える。
「なぁ、サスケ。」
「どうした、水か?」
「ううん、違う。」
ころりと身体の向きを変え、サスケへと向き直る。
「もしもさ、サスケが怪我とかビョ―キとかしたらさ。
俺がメンドー見てやるってばよ」
サスケはあんまり身体壊すこととかないかもしんないけど、もしもそうなったら俺がメンドーちゃんと見てやるからな。
「…テメェに面倒見られた日にゃ、治るモンも治らないぜ」
「むー、そんなことないってばよ」
「そんなことあるっつーの」
「ないってばよ!今日してもらったよーに、ちゃんと俺だってできるもん」
つーか、やるの!!
ぷくりと頬を膨らましつつ、決意表明。
「………まぁそんな時はまずねぇだろうが、そん時はヨロシク」
サスケ、そう言いつつも素早くその光景を頭の中でシミュレート。
ご飯作ってもらう。
着替え手伝ってもらう。
一緒に寝てもらう。
……………めちゃめちゃ、美味しいじゃねぇか。
「おっし、ゼッテ―な!」
サスケの脳内で繰り広げられている想像を知ることなく、ナルトは元気な笑顔を返すのであった。


とろりとした睡魔が心地良く身体を浸透してゆく。
この眠りが覚めたら、こいつは元気を取り戻しているだろうか。
まぁ体調が平常に戻ってなければ、俺が引き続き明日も看病をするだけだけどな。
その魅力的な案に惹かれつつも、やはり元気を取り戻して欲しいと思うのも本当で。
二律背反な思いを抱き、今夜は安らかな眠りが訪れるだろうことを確信して。
サスケはゆるりと瞼を閉じた。



君がくれた感情に触れて。
ゆるやかに、そして激しい変革がもたらされる。
ココロに溶け落ちて来たあたたかさに、ゆるるとカタチをかえていくオモイ。

君は、俺の。


ガラじゃねぇ、マジでカンベンしてくれ、そう思いつつ。
あいつに蕩けた俺、自分で結構気に入ってるしな。
ま、今はこれでいいとするか。




 さよが花風水の日生様のキリを踏んでいただいてきました♪
 リク内容は「面倒見のいいサスケ」ということで。
 日生さまのサスケはめちゃくちゃ優しくて、超いい男です!実は理想の彼氏ー!
 こんなに甲斐甲斐しいサスケ、一家に一台って言うか、私も欲しい!!!!!
 もらったからには、さよのです!っていっちゃったら、だめかなー。
 日生様。本当にありがとうございました。
 



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