好きなもの





キィン!
襲いかかってくる敵の刃をクナイで弾き返し間合いを取る。
最初は女一人となめてかかっていた相手も次々と地に伏す仲間に認識を改めたようでなかなか決定的な一撃を与えられない。
このまま長引けば自分が不利になる。
いくら人並み外れた身体能力を持つ忍だとて、男と女とでは根本的な身体の造りが違う。戦いが長引けば長引くだけ体力的な差というものがはっきりと出てくるのである。

じりじりと緊迫した睨み合いが続く。
そろそろカタをつけないと、とナルトが動き出そうとしたその瞬間、
ガサガサっ…
背後の茂みが揺れる音に、ナルトは思わずそちらへ振り返った。
「もらった!」
その隙を敵が見逃そうはずもなく、一気に間合いを詰めて襲いかかってくる。振り下ろされる刃物を止めるには間に合わず、咄嗟に身を低くすることでそれを躱した 。
しかし。
バサっ…
闇の中、鮮やかに金糸が舞う。
ナルトは敵がそれに怯んだ一瞬にその懐に飛び込み、左胸にクナイを捩じ込んだ 。

「にゃあ。」
クナイについた血をぴっと払い落としていると、先程茂みを揺らしたネコが足元に擦り寄ってきてふわりと微笑う。
その艶のある毛並みを撫でようとしゃがみ込んだが、周りに散らばる金糸が目に入って手を止めた。
「なぉん?」
「む〜…」と口を尖らせていたら不思議そうな問うような鳴き声が聞こえて視線を落とす。
揺れる長い髪にじゃれつくネコの頭を軽く撫でて別れ、里へ向かって歩き出した 。

高い位置で2つに結った髪に手を伸ばせば、片方はすぐに手から離れていってし まう。
「…ま、しょうがないか。」
ナルトは暫し考えていたものの明るくそう呟いて帰り道を急いだ。



*****



あ〜…何だっけ?何か有名な絵の…あれみたいだってばよ。
報告書を出しに受付に入ったナルトが頭の中で考えていたこと。
ここに辿り着くまでも大勢の人が目を丸くしていたけれど、今正面に座っているサクラは今にも叫び出しそうと言うか声もなく叫んでいると言うか。
口は大きく開いてるけど息してるかな〜?なんて暢気に考えていたら、
「っっ、嫌ーーーーっ!!アンタその髪どうしたのよーーーーー?!」
耳を劈くような叫びが受付に響き渡った。

「サ、サクラちゃん…耳痛…」
余りの声の大きさにキィンと耳鳴りのするこめかみを押さえて眉を顰める。
サクラはそんなナルトを無視して短くなった右側の髪を酷く哀しそうに見つめていた。
「何なのよ、その髪〜。一体どうしたのよ〜。」
まあ驚かれるだろうとは思っていたけどここまで過剰に反応されるとは思っていなくて、ナルトは困ったように苦い笑みを浮かべる。
「任務中にさ、ちょっと油断しちゃって…切られちった。」
「勿体無い…あんなに綺麗だったのに…」
簡単に明るく説明すると「勿体無い勿体無い」と繰り返すサクラにまた困った顔で笑った。

「んでさ、もう短くしちゃおうと思うんだけど、サクラちゃん切ってくれない? 」
切れ落ちてしまったものは戻らないのだからとサクラをどうにか宥め、手先の器用な彼女に整えてもらおうと報告書を渡しながらお願いする。
小さい頃から伸ばし続けた髪はかなり長くなっていて、多少動くのに邪魔な気がしていたからちょうどいいと思ったのだけれど。
「それはいいけど…サスケくんがそれ見たら何て言うかしらね…。」
まだ哀しそうな瞳で答えるサクラの言葉にナルトは苦笑するしかなかった。
「うん…アタシもそれだけが心配。」



*****



ナルトより数日遅れて別の任務から戻ったサスケは、報告を済ませるといそいそと恋人の家へ向かう。途中の商店街を早足で進んでいたら、視界の端に金色の髪を見つけて足を止めた。
ナルトが買い物にでも出ているのかと思いそちらを見やるも、目に入ったその人物の髪は肩の辺りまでしかなく。人違いかと背を向ける。
しかし、この里で金の髪を持つ人間など他にはおらず。
サスケは踵を返してその女性の方へ歩み寄った。
無言で肩に手をかけると驚いたように振り返る紺碧の瞳。大きく見開かれたそこにサスケを映すと嬉しそうな光を浮かべるのは間違いなくナルト。
「サスケ帰ってたんだ!お帰りってばよ!」
ナルトは満面の笑みを湛えてそう言ったけれど、完全に思考の停止したサスケは先程のナルトに負けず劣らず大きく大きく目を見開いて固まっていた。


サスケが漸く思考を取り戻した時には既にナルトの家に着いていて。正面に座るナルトはホットミルクを飲みながら「戻ってきたってば?」なんて小首を傾げている 。
「ど…したんだ…その髪…」
「ん〜…切れちった。」
どうにか声を振り絞って問うたのに対して返ってきたのは、そんなあっさりとした一言だった。

流れるような金の髪はその手触りも心地良くて、サスケはそれを撫でるのが特に好き。
だから引き寄せ梳いてもすぐにするりと指から離れていってしまう感触が淋しくて、
思わず溜め息を吐いてしまった。

それに当然むっとしたのはナルト。
アカデミー時代、サスケが髪の長いコが好きらしいって噂を聞いて、ガラにもなくお手入れなんてものに気を配っていたんだから、自分だってちょっと――いや、かなり残念。
だけどサスケの態度が何だか髪が短い自分は嫌だって言われてるみたいで腹がたつと
同時に哀しくなってきて。
ナルトは腕を突っ張ってサスケの体をぐいーっと押し返した。
「そんなに髪の長いコがいいなら他のコとつき合えば?!」
抱き寄せていた腕から逃れ、ぷいっと背をむける。
サスケは髪が長いから自分を好きだったのかなんて思ったら、じんわり涙が浮かんできた。

「ちょっ、待て。何でそうなるんだよ。」
背を向けてしまったナルトとその言葉に、サスケは慌ててもう一度抱き寄せる。
目に映る短くなった髪はやはり哀しかったけれど、
「ただ、お前の髪綺麗だから、勿体無ぇなと思っただけだ。」
変わらず陽だまりの匂いのするそれに顔を埋めて言葉を紡いだ。

「でも…サスケ、髪長いコが好きって言ったってば…」
「は?」
覚えのないことを言われて間抜けな言葉を返す。
「オレ、そんなこと言ったか?」
「アカデミーの時…噂になってたってば。」
いくら思い返してみてもそんなこと言った記憶はなかったが、こくんと頷いたナルトが発した言葉に「…ああ」と納得したように呟き、それからくすくすと笑い出した。

アカデミーにいた頃のことなんかすっかり忘れていたけれど、小煩い女共にしつこく
訊かれて答えたことが確かにある。
何で笑い出したのかわからないと見上げてくるナルトの額に己のそれをこつんと合わせた。
「あれな、お前のこと指してたんだよ。」

きらきらと光を振りまいて目の前を走り抜けた金の髪に一目で惹かれた。
次に会った時には強い意志を秘めた紺碧の瞳に。
それからたおやかなその精神(ココロ)に。
あっさりと心は奪われて、だけど訊かれた時はそれを隠すべくそう一言だけ答えておいたのだ。

きょとんとするナルトに微笑んで、その髪を手に取り口づける。
「お前の髪が短かったら、そう答えてただろうな。」
つまりはナルトが好きだということ。髪が長かろうが短かろうが。
漸く理解したらしくかぁっと顔を赤らめるナルトのその頬に、サスケはちゅっと音を立ててキスをした。



*****



「お前これ、また伸ばすのか?」
風呂上がりで濡れた髪を乾かしているナルトの背後に座り、サスケはきちんと揃えられた毛先を弄びながら問いかける。
結局長いのが好きなんじゃん?
ナルトは心の中で呆れたように呟いたけれど、ふと思いついたことに気づかれないよう悪戯な笑みを浮かべた。
「ううん。やっぱ長いと動きにくいし今回みたいなこともあるし、もう短く切っちゃおうと思ってるってば。」
「えっ?!」
鏡越しに見るサスケの酷く狼狽えた顔に吹き出しそうになるのを必死で堪える。
「サスケ…やっぱり髪短いアタシはイヤなんだ…」
「そうじゃねぇ!そうじゃねぇけど…」
哀しそうに呟いたらわたわたと言葉を探すサスケにとうとう堪えきれなくなって、ナルトは声を上げて笑い出した。

「髪短くっても好き?」
唖然とするサスケに向き直って問うと、サスケはもちろんと言わんばかりに大きく頷く。
「でも、伸ばして欲しいんだってば?」
もうひとつ問うたら困った顔をして、それでも小さく頷く様子にくすくすと笑い、その腕の中に飛び込んだ。
「しょうがないから伸ばしてやるってば!」


サスケがほっとする気配を感じてナルトは腕の中でくすくす笑う。
本当はナルトもサスケに髪を撫でられるのが好きなんだけど、綺麗に伸ばすのって結構大変なんだからちょっとだけ意地悪して、サスケにはまだ内緒。







香月様のサイト「prisoner」様で、さよが33333を踏んで頂いてきました。
ラブラブーなサスケとナルト、やっぱり髪の長いほうが好きそうな髪が短くなって残念そうなサスケが、
(おたおたしてたりして)かわいくって楽しいですね。
きゃー、でも髪切っちゃって(って自分がリクしたんですが)、もったいない!(さよ)

サスケ、長い髪に未練あるならとっとと正直に言ったれやってカンジで、この程よいヘタレ具合がさすが香月さん!
任務終わるなりいそいそと恋人の所に向かう色ボケサスケと、なんだかんだ言いつつサスケを翻弄するカカア天下ナルト、天下無敵のバカップルですねvv(あゆりん)

香月様、本当にありがとうございました。



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