刻々と鮮やかになっていく君の笑顔が眩しくて―――
終わらない季節
一月から始まって、冬・春・夏・秋そしてまた冬。
二ヶ月おきに決まって必ず来る。
十三の頃から始まって、今はもう十七。
四年の間、取り決めをしたわけでもないのにほぼ同じ日に来る。
最初は面倒くさかったし、うざかったしで、あまり歓迎しなかった。
自分は早く強くなりたかったから。
少しの時間も修行に当てたかった。
それでもアイツは来た。
いつも何か食べ物を持って来て、居た。
スリーマンセルを解散してからといって邪険にすることは出来なくて、しょうがないか
ら・・・というのが最初のキモチ。
ちゃんと通常の人が思うであろう疑問も投げ掛けてはみる。
「・・・なんでお前、俺んとこくんだよ。こーゆーもんはサクラにやったほうが喜ぶんじゃ
ねーの?」
これで三度目の訪問の時に聞いてみた。
五月の良く晴れた日で。
その時は筍御飯だった。
「んー――。サクラちゃんは女の子だし、こーゆーのはあげても喜ばないと思うってば
よ。どっちかっつぅと、誰かに作ってあげたい立場だろうし・・・。それにさ、サスケって
ば、ほっとくと季節とか行事とか関係ないみたいに生きていきそうだしさ・・・。だから
俺ってばサスケにそーゆーの忘れて欲しくないからさ、こうして来てやってんの!」
そして笑うと使った食器類などを片付け始め、筍御飯が入っていたプラスチックのパッ
クは捨てていく。
帰り際、思い出したように近寄ると、いつもは聞くことの無い小さめの声で呟いた。
「お前さ、たまに誰かに構ってもらわないとダメだってばよ・・・。」
なんだか見透かされたような気分になったが、何も言わなかった。
あの時、嫌味なり悪態なり、アイツが二度と来なくなるようなことを言っておけば良かった。
ナルトの持って来る料理のレパートリーはいつも同じ。
一月はお雑煮。
三月は赤飯。
五月は筍御飯。
七月は冷やし中華。
九月は茸御飯。
十一月は栗御飯。
四年間変わることが無かった。
なんとなくナルトが二ヶ月おきに来るのが自然になった三年目。
桜の蕾が早く綻んだ、三月。
毎年同じく赤飯だった。
「・・・なぁ、他にレパートリーはねぇの?三月・桜っていったら桜餅じゃねーのか?」
別に赤飯に飽きたわけでもないし(殆んどこいつが持って来なきゃ、年に一回も食わ
ないだろう)、ただ少しからかってみたかっただけ。それなのに・・・
「だってお前、甘いのダメじゃん。食べたかったのなら、今度買って来るってばよ。」
なんて、きょとんとした顔で言いやがった。
「・・・いや、いい。」
さすがに買ってこられては困るので断っておく。
まさか反撃されるとは思ってなかったけど・・・俺、こいつに食べ物の嗜好、教えたっけ?
カカシとサクラが付き合ってるということが密かに周りを騒然とさせた四年目。
前の年に二人揃って上忍に上がってからも、任務や仕事の忙しい最中、必ず俺の
居る日にナルトは来た。
長期間任務で里を離れていても、帰った次の日には何故か来る。
たまに受付業務をしているイルカあたりが情報を流しているのかもしれない。
俺もいつしか、ナルトが来るのを心待ちにしているのだろうか。
ナルトが来る日に近づくと妙に気が逸る。
いい加減、俺も餌付けでもされたか?
なかなか梅雨の明けきらない、じめっとした熱さの七月。
今年も冷やし中華。
この時ばかりはナルトも台所を使う。
「はい。できたってばよー。」
ガラスで出来た深皿のなかに冷やし中華が綺麗に盛られている。
「・・・いつも思うんだが・・・これ、多すぎないか?」
麺の上のトッピングはキュウリにハムに錦糸玉子に紅生姜が少々、そしてトッピング
の半分をスマイルカットされたトマトが見目良く並べられている。
「だってお前、トマト好きだろ?嫌だった?」
「嫌じゃないが・・・俺の好き嫌い、どこで聞いた。」
「カカシせんせ。」
「・・・そうか。」
そういえば言った気がする、とかこれはこれで美味いからイイか、など考えているうちに
今更ながらに疑問が一つ。
・・・あまりに今更すぎて聞く気が引ける・・・。
「・・・なぁ。」
「ん?」
「今更すぎて何なんだが・・・今までお前が持ってきたのって、全部お前の手作り?」
さすがに雑煮は鍋ごと持ってきたのであれは判ったのだが、他の御飯類は全部、惣
菜屋で売っているようなプラスチックのパックに詰めて輪ゴムで止めてあり、白の無地
のビニールの袋に入れて持って来ていたのだ。
予想以上に長い沈黙が流れた。
ナルトは無表情のまま、こちらを見ている。
あまりの長さにさすがの俺ですら居心地が悪くなった頃、やっとナルトが口を開いた。
「・・・鈍い。」
「・・・・・・・・・」
全くもって返す言葉が無い。
「お前ってさ、俺のことドベとかウスラトンカチとか鈍いとか散々言ってるくせに、その
言葉そっくりお返しするってばよ。全く、なんでこんな鈍い奴がモテるんだってば。」
「・・・悪かったな。」
「・・・で?」
「?」
「だーかーらー!美味かったかって聞いてんの!」
「・・・とても・・・美味しかったです。」
「・・・・・・しょーがないから、許してやるってばよ。」
さっきまでの無表情から怒った顔、そして今度は笑い顔へ。
それも今まで見たことの無い、照れたような、困ったような、やさしい顔。
なぜか妙に胸がざわついた、鼓動が速くなった。
そして、秋が過ぎ、冬が訪れ、もうすぐ年が明けようとしていた。
なんとか長期の任務を遣り繰りして大晦日までには帰路につく。
翌日の元旦にはアイツが・・・ナルトが毎年ように具と出汁の入った鍋と餅の入った袋
を抱えて来るから。
最初は面倒、うざい、しょうがないと思っていた過去の自分に苦笑する。
いつの間にかナルトが来るのを楽しみにしていた自分。
そして、いつの間にかナルトに好意を抱いていた自分。
こんなママゴトみたいな事だけれど、いつまでも続けばいいと思った。
一月一日 元旦
早朝から待っていたけれど、来なかった。
昼も来なかった。
夕方になったけれども来る気配は無い。
しょうがないから報告書を出しに行く。
いつもならナルトが付いてきたが今日は独り。
受付に提出。
七日も休みを貰った。
家に戻っても人の気配は無い。
なんだかイライラしてきた。
自分だけ待っているということに。
ほんの少しでも期待していた自分に。
そしてその日は早々に寝てしまった。
一月二日 翌日
結局、昨日一日、何も口に入れることなく寝てしまったため、携帯食品と冷蔵庫を漁っ
て腹の足しにする。
腹八分目まではいかなくとも、それなりに満たされた。
満たされると、今度は昨日のことを冷静に考えることが出来た。
なんで来なかったのか、そして何故自分から出向かなかったのか。
四年も前からのことも今になって思い立つ。
二ヶ月の間、全く会えなかったわけではない。
広くて狭い里の中、偶にだがすれ違うこともあるが、軽く挨拶を交わすだけ。
会おうとすれば、いくらでも会えた。
ただ、ナルトは二ヶ月ごとにしか来なかったし、自分もあえて出向こうとはしなかった。
きっと、二ヶ月にだけれどナルトは必ず来てくれると思い込んでいたから。
だから昨日はあんなにイラついた、勝手に裏切られたと思ってしまったから。
まるで儀式のようだ。
二ヶ月ごとの会食、その日に逢えなかったら、また二ヵ月後。
――――冗談じゃない。
なんで今まで二ヶ月も会えなくて平気だったのだろう。
俺は今すぐ会いたい。
今はその感情だけが先走って、その後のことは会ってから考えればいい。
ナルトの家に着き、ドアをノックしてみるが返事は無く、人の気配すらしないのがあり
ありと感じられた。
何処へ行ったのか。
受付まで赴くと、サクラに出会った。
「やだ、サスケ君いつ帰ったの?」
「昨日だが・・・。」
「ちょうどいい時に帰って来てくれて良かったわ。ナルトの事聞いた?」
「っ・・・ナルトがどうかしたのか?」
「やっぱり聞いてないのね。」
「・・・何が?」
「ナルトったら、仲間庇って怪我しちゃって・・・。三日ほど前に木ノ葉病院に担ぎ込ま
れたのよ・・・・・・って、もう居ない。・・・・・・せんせー、これで良かったかしら?」
「んー、上等上等。ま、ナルトにゃ悪いが、この機会を有効に使わせてもらわないと。
見ているこっちが歯痒くてねー。」
「――本当。もうナルトの出方なんか待ってられないわよ。この際、サスケ君に主導権
渡したほうが一気に進むと思うのよね。でも普通、四年も手料理持って通ってりゃ気付
くでしょー?」
「まぁ、それは男同士の友情か底抜けのお人好しとして取ってたんじゃないかなぁ。で
も、さっきのサスケに主導権握らせたら、一気に何処まで進むか見ものだね〜。」
「・・・せんせー、今度からナルトにはあんまりチョッカイ出さないほうがいいわよ。次か
らはこわ〜い彼氏が付いているんだから。」
「はいはい。(反省の色なし)」
息一つ乱すことなく、病院の入口まで走る。
そういえばサクラに病室を聞くのを忘れていたが、なんとかなるだろうと思い、正面玄
関のガラス戸をくぐる。
受付に向かおうとした、その時、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。
「もー、いつまでも寝てられないってばよ。腕の怪我なんだから寝ててもしょうがない
じゃんか。」
「まだ日常生活するには早いと言っている。くっついた所がずれたらどうするんだ!」
「大丈夫だってば、無理はしないから。あ、退院届は出しといたからな。」
「ちょっと待ちたまえっ君っ!」
「・・・ナルトっ!」
「――サスケ?」
駆け寄ると本当に驚いた顔をしていて、左腕を首から三角巾で吊っている。
「なんでサスケがいるんだってば?」
「サクラから聞いた。それより怪我は!?」
「あ・・・あぁ、もうなんともないってばよ。これから帰るとこなんだ。」
「何言ってるんだ!君は重傷なんだぞ!」
「・・・重傷?」
眉を寄せてナルトを見ると、明らかに苦々しい顔をしている。
「あ〜、ちょっと腕が半分切れただけだってば・・・。」
「くっつけてまだ二日だ。日常生活はまだ無理だから戻れといっている。」
「俺ってば直るの早いから、大丈夫だってばよ。」
「確かに君は治癒力に優れている、だから半分も腕が切れても後遺症も無く動かせ
るだろう。しかし、ずれたまま直ったら、もう一度繋げなおさなくちゃいけないんだぞ。
せめて一週間は安静に・・・」
「先生、こいつの面倒は俺が見ます。・・・ナルト帰るぞ。」
「うぇっ!?ちょっ・・・サスケっ!」
無事なほうの腕を掴んで強引にナルトを連れて行く。
背後では先程の医師がまだ何か叫んでいるが、さすがに病院を出ると聞こえなくなった。
「・・・サスケ、腕、離せってば。人、見てるし・・・。」
大通りをさけて自宅へとナルトを引っ張っていくが、日中のこと。
どこかしらに人はいる。
「そんなん気にするタマじゃねぇだろ。」
「変な風に掴むから、腕、痛ぇの!!」
「・・・じゃあ、こうする。」
ナルトの手首を離し、手の平を握る。
「んなっ!!」
「これで駄目ならあとは抱きかかえていくしかないな。」
「〜〜〜〜!!」
やっと静かになったナルトを連れて自宅を目指す。
門をくぐり、飛石を歩き、玄関まで辿り付く。
そこで、大人しく手を引かれていたナルトが動かなくなった。
「ナルト?」
「なんで、サスケん家なんだってば。別に俺、独りでも平気だってばよ・・・。」
「俺が一緒に居たいから。・・・もう二ヶ月に一度は嫌なんだ。」
―――サクラにナルトの怪我を聞いたときの焦燥感
「だったら、今度は頻繁に来るからさ・・・」
「それじゃ、もう満足できない。・・・お前、最初の頃言ったよな。俺は誰かに構っても
らわなくちゃ駄目だって。」
―――病院で会った時には消えていたけど、次にでてきたのは独占欲
「・・・言った気は・・・する。」
「言ったんだよ。・・・俺は今、「誰か」じゃなくて「お前」に構ってもらいたいんだ。」
だから有無を言わさず、ナルトの家ではなく自分の家へと引っ張って来た。
「んな、俺じゃなくても、お前になら他にいっぱいいるだろうが・・・」
「なんで四年もの間、お前が来るだけでいいなんて思えたんだろうな。どうしてお前が
昨日来なくてイラついたんだろうな。」
―――こうして話している間も湧いてくる恋心
ゆるりとナルトの身体に手を回し、肩に顔を埋めるが嫌がる素振りを見せない。
「・・・サスケ。」
十三の時から縮まらない5cmの差。
背丈は縮まらなかったけど、気持ちの上ではお前のほうが縮めてくれた。
最後の1cmは俺から縮める。
こんな結果、お前は望んでないだろう。
「お前のほうが周りに構ってもらえる、求められてる。でも俺はお前がいい。ナルト・・・
お前だけでいいんだ・・・。」
こんな感情をぶつけるのは間違っているか?でも今言ってしまいたい。
只でさえ、人より言葉を紡ぐのが苦手なのだから。
「・・・ナルト・・・好きだ・・・。」
気持ち悪いなら突き飛ばしていい、気分を害したら殴ってくれて構わない、右の拳は
無事なのだから。
案の定、ナルトの身体はビクリと跳ねる。
固まってしまったのか、動かなくなったナルトを窺うと、寒さの所為にするには耳が真
っ赤だ。
「ナルト?」
急いで身体を離し、顔を見ると、恨みがましい目でこちらを見ている。
やはり顔も先程よりも赤い。
「やっぱサスケって鈍いってば・・・。」
これは・・・期待してもいいのだろうか・・・。
「もっと早く気付けってばよ。四年も通ってりゃ分かるだろーが・・・」
そう言って、ちらちらと様子を窺うと何度か深呼吸をする。
「・・・俺もさ・・・お前のこと・・・好きだってばよ・・・。」
告げた瞬間、肌の見えるところすべてが朱に染まった。
それがあまりにも初々しくて、愛しくて、嬉しくて、ナルトの身体を掻き抱く。
「ぬぁっ!ちょっと!サスケっ・・・腕、痛ぇってばっ!!」
・・・あまりに嬉しくて力の加減を忘れていた。
「悪い、大丈夫か・・・。でも、すげぇ嬉しい・・・。」
なんだか、自然に笑えたような気がした。
なるとは再び顔を赤くして、右手で顔に風を送っている。
「う〜〜〜。寒かったり、熱かったり今日は大変だってば・・・。ほら!いつまでも怪我人
外に立たせてるんじゃないってばよ!中に入れる入れる!」
俺を急かして玄関の戸を開けさせる。
勝手知ったる他人の家、片手では巻けなかったのか脚半の無いナルトはさっさと玄関
をあがって廊下へと進む。
自分も慣れてしまった脚半を手際良く外し、廊下へ歩みを進めると、向こうからナルトが
小走りに戻ってくる。
やっぱり帰る、とか言い出すんじゃないかという思考が一瞬、脳裏を駆け巡る。
しかし、そんな心配も吹き飛ばすが如く、軽い衝撃とともにナルトが抱きついてきた。
「へへへ・・・。あのさあのさ、今年のお雑煮はさ、俺、作れないからサスケが作るって
ばよ?」
「・・・解かってるよ。・・・これからは、半分づつな・・・。」
そう言って出来るだけ穏やかに微笑むと、どちらからともなく、唇を寄せた。
刻々と鮮やかになっていく君の笑顔が眩しくて
無視することの出来なかった自分を密かに褒めて
奇跡にも似たこの腕の中の存在を離すまいと心に誓う。
いつまでも終わらない季節を君と―――
終
「市屋」の市谷かがり様がお正月で配付されてたので、頂いてきました。
ナルトがこんなに一所懸命アピールしてるのに4年間気付かないサスケ・・・、鈍すぎてめちゃ楽しいです。でも自覚したらすげー積極的で素敵に無敵v
手料理で餌付けを目論むサスケってのは結構あるけど、ナルトが、ってのは初めて見たような。同じ事やっててもサスケだと姑息だけど、ナルトだと可愛いくて健気vなのは、やはしサスナラー視点だからでしょうか(笑)。
それにしてもナルト料理上手だなあ。サスケ、いい嫁ゲットできてよかったねv
ちょっと配付期間過ぎてたんですけど、持ち帰り許可くださって、市谷様ありがとうございました。
宝物部屋へ トップへ