ともだち
 





 「やあ、諸君。今日は時計を持ったウサギを追いかけててねー」
 「はい、ウソ!」
 「・・・・」


 抜けるような青空が広がるとある日。
 太陽がすっかり高くなってからようやく集合場所に現れたカカシに、サクラがツッコミを入れ、サスケがじろりと睨み付ける。
 それは毎度おなじみの光景であったが、本日は予定調和の一片が欠けていた。
 「おや、ナルトは?」
 欠けているのは黄色い髪の男の子。
 いつもの集合場所がいやに白々と感じられるのは、誰より賑やかな子供がいないせいかとカカシは得心する。
 見れば、薄紅の髪の女の子はどこか張り合いなさそうで、黒髪の男の子はいつも以上に不機嫌そうな顔をしていて。
 「え、先生のとこにも連絡なかったの?」
 「腹でも壊して寝てるんじゃねーか?」
 心配そうな声を上げるサクラの隣で、サスケが素っ気なく言い捨てる。
 けれど、すげない言葉と裏腹に落ち着きなくそわそわし出す様は、少なくともこの場にいる人間にはバレバレで、上司とチームメイトは笑いをこらえるのに苦労する。
 「じゃあ、サスケ見てきてくれるか?」
 「・・・しょうがねえ」
 何気なさを装った言葉に、うざそうに、そのクセ明らかにほっとした様子でサスケは駆け出した。
 「速い、速い」
 「ほんとねー」
 背後で楽しそうに繰り広げられる会話には、気付かない振りをして。
 



 『ともだちをさがしにいってきます。みつかるまでかえりませんってば』



 
 約30分後。
 ひとりきりで戻って来たサスケは、待っていた二人に1枚の紙を見せた。
 「あいつはいない。ドアにこれが貼ってあった」 
 「あたまわるそーな文・・・」
 「ナルトだからねえ」
 くしゃくしゃの紙に鉛筆で殴り書きされた書き置きとも何ともつかない文章に、サクラが呆れたように呟く。
 フォローとも何ともつかないようなことを口にするカカシを、きっと睨み付けて。
 「笑い事じゃないわよ。これってもしかして家出?」
 「新しい遊びじゃなさそうだしなあ。昨日、何か変わったことでもあった?」
 「任務が終わって別れた時は、何もおかしな所はなかったと思うんだけど。・・・サスケ君は?」 
 「・・・夕べ、一緒に修行した」
 普段いがみ合ってる彼らのこと、さしたる期待もなく問いかけたのだが、思いがけない返事にサクラとカカシはずいっとサスケに詰め寄った。
 「いつの間にっ?!ねえねえ、いつの間に?!」
 「意外と積極的だねえ」
 「修行場で偶然会っただけだ」
 ムッとした顔をして横を向くサスケに、カカシはにんまりと目を細くする。
 「そうかそうか。まあそれはどうでもいいから、その時の状況を話してくれない?」
 「・・・・」
 「それとも、言えないような事情でもあるのかな?」
 「んなもん、ねえよ!」
 なおも、にたにたと笑い続けるカカシに本気で殺したそうな視線をくれて、サスケはいかにも渋々と話し始めた。
 



 夕べはいい月夜で。
 誘われるように外へ出ると、足は自然に通い慣れた修行場へ向かう。
 森の奥深いその場所には、既に先客があった。
 月光に仄かに浮かび上がる色素の薄い髪を見なくても、その小柄な影の主など分かり切っている。
 こんな夜更けに家族の目も気にせずに歩き回れる子供など、サスケは自分の他には一人しか知らない。
 たとえば、月が明るいとか風が気持ちいいとか、一人の時間を持て余すようなこんな夜。
 たまさかこうやって訪れると、その子供は大抵そこにいた。
 「よう」
 「何だ、またおまえかよ」
 一通り動き回った後なのだろう、額に汗をうっすらと滲ませて、ナルトが笑う。
 「おまえ、もしかしてヒマジン?」
 「てめーも同類だろうが」
 たわいもないやり取りの後は黙々とそれぞれのメニューをこなし、月が空の天辺に上る頃、家路を辿るのがいつもの習慣。
 これまで殆ど言葉を交わすこともなかったのに、その日に限って一体どんなきっかけで会話が始まったかなんて、もう覚えていない。
 いずれにせよ、おそらくはごくたわいもない言葉から、いつもの口論に発展するのに時間はかからなかった。
 「おまえってホント性格最悪!」
 「今更何言ってやがる、ドベ」
 「・・・おまえ、そんなんじゃ絶対ともだちなくすってばよ」
 「そんなもん、最初からいないからどうでもいい」
 その言葉に、むくれていたナルトが反応する。
 探るような、どこか縋るような視線をサスケに向けて。
 「ともだち、いねーの?全然?」
 「別に必要ないからな。つくる気もない」
 その時、ナルトがどんな表情をしていたかサスケには分からない。
 次の瞬間には、タオルをサスケの顔に投げつけて、ナルトは身を翻していたから。
 「オレだっておまえなんかだいっきらいなんだからな!サスケのバーカ!!」
 捨て台詞を残して走り去る姿を、サスケは呆気に取られて見送った。
 「わけ分かんねーヤツ・・・」




 「それだけだ」
 語り終えたサスケに、カカシとサクラは揃ってため息を吐いた。
 「それはショックよねえ・・・」
 「てか、泣いてるかもね」
 「何で泣くんだ!」
 「おしえなーい」
 気色ばむサスケに一瞥をくれて、カカシは高らかに宣った。
 じろりと睨まれても全く意に介さない素振りで、カカシがサクラの方をちらっと見ると、サクラは心得顔で頷く。
 「私、探しに行ってくる。どうせ今日は任務中止でしょ?里の外にでも出ちゃったら一大事だもんね」
 「それはないと思うけどね。・・・ああ、サスケは残んなさい」
 さっと姿を消したサクラとは反対方向に向かおうとしたサスケを、カカシが引き留めた。
 行く手を塞がれて、サスケはムッとした表情を隠せない。
 「何で、行ったらいけない」
 「そういうおまえは、何で探しに行くの」
 「サクラ一人じゃ手に余るだろう。あいつは行動範囲だけは広いからな。さっさとどけ」
 「そんなこと言ってるうちは行かせられないなあ」
 「・・・どういう意味だ」
 「ナルトは友達を捜しに行ったんだからさ、おまえが行ってもしょうがないでしょ。おまえ、あいつの友達じゃないんだろ?」
 ぐっと言葉に詰まるサスケ。
 目一杯の殺気を込めて睨み付けるが、カカシがそんなものに動じるわけもなく。
 剣呑な表情の中で焦りや苛立ちや羞恥といった感情が様々にせめぎ合い、やがて絞り出した言葉は。
 「友達じゃ、ない」
 「それで?」
 「・・・なりたいのは、友達なんかじゃない」
 「もう一声」
 分かってて面白がっている。
 ぎりっと唇を噛んでサスケは口を開いた。
 「あいつは・・・」




 「先生、意地悪ね」
 ようやく解放されたサスケが突風のように走り去るのを確認して、物陰からサクラが姿を現した。
 「サクラ程じゃないでしょ。なかなか見事な気配の消し方だったぞ」
 「誰かさんのご指導のせいに決まってるでしょ」
 「サクラ・・・、そういう時はせめて『おかげ』とか言ってほしいなあ」
 「いちいち傷ついた振りするのやめてくれません?大体、気付かれなかったのだって、サスケ君がすっごい動転してたせいだもの」
 「でも、おかげで面白いものが聞けたでしょ」
 「まあね。でもやっぱりちょっと複雑かなあ」
 一応、初恋だったわけだし。
 言いながらも、やけに清清しい表情で、サクラはカカシの隣に腰を下ろした。
 



 「いいご身分だな、サボリ君」
 夕暮れも迫る頃、ようやく見つけ出した探し物は、修行場の裏、茂みの陰で膝を抱えて座っていた。  
 かけられた声にぴくんと黄色い頭が揺れて、それでも蹲った姿勢を崩さない。
 「わざわざ迎えに来てやったんだ。さっさと帰るぞ、ドベ」
 「頼んでなんかないってば!一人で帰れ!」
 「んなこと言ってたら、いつまで経っても帰れやしないだろうが。友達なんていないくせに」
 強情にこっちを見ないナルトにいい加減苛立って、サスケは腕を掴んで強引に引っ張り上げようとするが、その手は思いがけず強い力で振り払われた。
 「・・・っ、だとしても、おまえには関係ないだろ!おまえだってともだちじゃないじゃんか!」
 ようやく振り返った顔は目元が赤くなっていて、あちこち葉っぱや土で汚れている。
 おそらく、森の中を歩き回って汚れたままの服で濡れた頬を拭った跡。
 (ビンゴかよ)
 サスケは小さく息を吐く。
 「オレなんかどうだっていいなら、ほっとけってばよ!」
 「・・・どうでもよくなんかない」
 ぼそっと呟かれた言葉に、ナルトは絶句する。
 大きく見開かれた瞳から視線を外さないまま、サスケは言葉を継いだ。
 「どうでもいいなんて思ってない」
 素っ気ない口調は、けれど酷く真剣な色を帯びている。
 それを感じてか、ナルトはやや躊躇ってから口を開いた。
 「・・・ともだちなんかいないって言った」
 「ああ」
 「必要ないって言ったってばよ」
 「ああ」
 「じゃあ、何で今更そんなこと言うってば!」
 「おまえと関係ないのは嫌だから」
 「・・・・」
 「だから、友達になってやる」
 ナルトは、じっと見下ろしてくる瞳を戸惑ったように見つめる。
 何度か口を開いては、言葉を探すようにまた引き結んで。
 「おまえ、めちゃくちゃえらそう・・・」
 さんざん迷う素振りを見せた挙げ句、結局出てきたのはそんな言葉。
 けれど、気を悪くした様子も見せずに、サスケはナルトに手を差し伸べる。
 なぜなら、ナルトの顔が赤く染まっているのは夕焼けのせいだけじゃないと分かっているから。
 「帰ろう、ナルト」
 「・・・うん」
 僅かな躊躇いの後、おずおずと手が伸ばされる。
 触れ合った瞬間、力を込めると、小さな手がぎゅっと握り返してきた。


 
 夕焼けに染まる道を並んで歩く。
 時折、肩や手が僅かに触れ合う距離は、いつもよりほんの少し近くて。
 「おまえ、何であんなとこいたんだよ」
 珍しく口数少ないナルトを見つめながら、サスケは疑問に思っていたことを口にした。
 「あんな誰もいないとこいたって、友達なんか探せないだろ」
 「・・・見付けてくれると思ったんだってば」
 「見付ける?」
 「ともだちなら、絶対見付けてくれるって思ったんだってばよ!」

 だから、待ってた。
 いつも一緒に修行してたあの場所で。

 やけくそのように言い捨てて、赤くなった顔を隠すようにナルトはそっぽを向く。
 しばらく経っても何も言い返してこないサスケに、不審そうにちらっと横目で窺うと。
 じっとナルトを見つめているサスケの顔に浮かんでいるのは、滅多にない程の自然な笑み。
 初めて見るそれに、ナルトは一瞬ぼうっとして、慌てて気を取り直すように首を振った。
 「何笑ってるんだってば!」
 「しょうがないから、見付けてやるよ。友達だからな」
 「・・・だから、おまえ、いちいちえらそうなんだってばよ!」





 「ナルト、見付かったかなあ」
 サクラは、退屈そうに投げ出した足をぶらぶらさせた。
 沈み始めた太陽を、カカシは目を細めて見遣る。
 「大丈夫でしょ。あんな大きいこと言った手前、捜し出せなかったら笑うよ?」
 感情を表に出すことが少ない少年の本音。
 さんざんつついてようやく引き出した言葉は、思っていたよりちょっと過激だったりしたが。
 思い出して、サクラは苦笑する。
 「ほんと、面倒くさいったら!」
 得体の知れない上忍と内なる己を持つ少女は、同じ笑みを浮かべながら顔を見合わせた。





 「・・・とりあえず、友達からでいいか」
 小さな声でサスケが呟く。
 「何か言った?」
 「何でもねえよ」
 不思議そうに首を傾げるナルトに、サスケはにやりと笑った。





 いつもいつも。
 今日は会えるだろうかと心が騒ぐ。
 辺りを照らすような金色を見付けると心臓がはねる。
 声をかける時なんて馬鹿みたいに緊張する。
 並んで歩いたりなんかしたら頭が沸騰しそう。
 そんなこと、教えてなんかやらないけど。
 今だって、ほら、こんなに。
 だから、いつか絶対に





 『あいつはオレのにする』




 
 

 ともだちと言えばボール。(はっ、前歴が・・・とゆーより年齢がバレる・・・)
 この話のナルトのモデルはさよのとこのポスペです。同じような書置きを残して一晩行方不明になったそうな。
 できてて甘い話は結構書いた気がするけど、できてなくてらぶい話は初めて書いたかも。サスケ、余裕あるんだかないんだか分からんし。
 実はサスナルの次に好きなカップリングがカカサクです。将来的にぬらりひょんのような得体の知れないカップルになってくれることを希望。
 

うちのぽすぺは飼い主に似て、ちょっとのうたりん・・・(さよ)    ちょいとおまけ



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