いっしょうの、おねがいだよ
人の望みの喜びよ
「一生のお願いだから、ね」
またですかあ、と、君は呆れた顔をする。
うんお願い、と、僕は君に笑いかける。
君は首を傾げて、少し考え込んでるようで。
そんな振りしてもダメ。君の答えは分かってる。
「もう!しょうがないですね!」
これっきりですよ、と君はわざとらしく拗ねてみせる。
「ありがとう」
君は優しいね、と僕は笑ってみせる。
「すぐ笑って誤魔化すんだから……」
「誤魔化されてくれない?」
「……ほんっとーに、今回だけですからね!」
怒って見せても、僕は知ってる。
「今回だけ」なんて言ったって、次もその次もきっと君は同じことを言ってくれるんだ。
あの頃、僕がそうしてたように。
「マクドールさんって、結構わがまま」
「うん、君にだけだから」
途端に君は真っ赤になって、あちこち視線を泳がせる。
夕焼けみたいに真っ赤な顔で、意味不明の言葉を呟くばかり。
何て言っていいかも分らない?
「あーっ、また僕をからかったでしょ!」
「そんなことないって。本当のことだよ」
ぽんぽんとあやすように柔らかい髪に手で触れる。
まだ少しだけ頬を膨らませたまま、君は僕を見上げて。
疑い深そうな眼差しに、僕は微笑みかけた。
「ね、信じて? 一生のお願い」
「マクドールさんの一生って、一体何回あるんですか……」
「少なくとも、人の数倍はありそうだよねー」
途中、うっかり事故にあったり殺されちゃったりしなきゃだけれど。
何気なく呟いた言葉に、途端に君の態度が変わる。
「あ、あの……」
息を呑んで、目を見開いて、しまった!と大きく顔に書いてある。
本当に、可愛い。
「気にしない気にしない」
「で、でも僕……」
「ホント気にしないで。ね、一生のお願いだよ」
悪戯めかして片目を瞑る。
強張っていた君の顔が、ふっと緩んだ。
「ほんっと、マクドールさんってしょうがない人ですね」
安心したような笑顔が何かを思い出させる。
そう、あれは昔の僕。
あいつが、傍にいた頃の。
「じゃあ今度は僕の一生のお願いきいてくださいね?」
「駄目」
途端にしょげ返る君は、まるで子犬のよう。
そんな顔しても駄目だよ。
僕はもう、誰の「一生のお願い」もきかないよ。
特に君のは絶対に。
だって、君までいなくなったら嫌だから。
いっしょうの、おねがい。
それは、あいつの口癖だった。
たったひとりの僕の親友。
今は、この右手の中の。
覚えてる。
忘れたことはない。
毎日毎日、よく飽きないなと呆れるくらい繰り返されたあいつの口癖。
僕は、今の君みたいに、呆れて、時には怒って。
だけど、悪い気分じゃなかったんだ。
頼られてるみたいで、甘えられてるみたいで、くすぐったくて、嬉しくて。
きいてあげたよ、僕に出来ることは全部。
日々が穏やかだった頃のたわいのないお願いも、そして。
最後の最後に、あいつが本当に心の底から望んだことも。
全部、叶えてあげたのに。
なのに、僕の願いは叶えてくれなかった。
勝手なお願いだけ残して、いなくなってしまった。
あいつだけじゃなくて。
僕の大切な、大好きな人たちはみんな、お願いをきいてあげたら、いなくなってしまった。
…………ずるいよね。
「…………それって、ずるい」
同じことを考えてた君に、つい笑みがもれてしまう。
途端に丸いほっぺたがぷうっと膨れて。
あんまり柔らかそうだから思わず突付いてしまったら、やっぱり飛び切りの触り心地。
「ずるいったらずるい!」
「ずるくないよ。一生の、なんて言わなくても、君のお願いはきいてあげるから」
現にきいてるじゃない、と囁けば、また真っ赤に染まる頬。
それじゃ駄目?と念を押すと、戸惑ったように俯いて。
「でも、やっぱり僕も言ってみたいです」
「どうして?」
「だって、一生のお願いをきいてもらえたら、すごく特別だって気がするから」
逆だよ。
特別だから、一生のお願いをするんだよ。
特別な人にきいてもらわないと、意味がないんだよ。
あいつがいなくなってから初めて気がついたこと。
でも、君は分らなくていい。
「じゃあ、君は僕が特別だから、お願いきいてくれるんだ?」
「〜〜〜今更聞きますか、それを!」
ぽかぽかと殴りかかってくる腕をかわして、細い手首を掴むとゆるく抱きしめる。
「それじゃ、特別」
「マクドールさん?」
「君が僕の一生のお願いをきいてくれたら、君のもきいてあげる」
「って、もう何度もきいてるじゃないですかっ!」
「本当の『一生のお願い』だよ」
「本当の?」
「いつか、言うから」
「……何か、それってやっぱズルイ」
「ごめん」
謝らなくていいと、君は軽く首を振る。
そして。
待ってますから、と、小さな声で呟いた。
いつか言うよ。
君の一生が、僕の一生と同じ時間を刻むようになった時に。
大丈夫、僕はいなくならないから。
絶対にいなくなったりしないから。
だから誰でもない、君だけが叶えて。
たったひとつの、僕の「一生のお願い」を。
久しぶりに坊ちゃん書きましたー。ライトに黒いぼっさん、ネタさえ浮かべばめちゃくちゃ書きやすいっつーか、書いてて楽しいです。
あ、ちなみにテッドと坊ちゃんはきっぱりはっきり友情です。私にとってテッドは聖域に近いんで、彼で不健全ネタはちょっとパスりたい。坊ちゃんと2主は、あまり健全じゃないかもですが(笑)。
次はルックと坊の陰険漫才とか書いてみたいんだけど、いつになるやら。