歩きにくい新雪の上をゆっくりと歩いて帰る。
時々足を取られて転びそうになるナルトをその度腕を掴んで支えてやれば、さんきゅーと照れたような笑みが返った。
「すっげー楽しかったな、サスケ!」
「・・・・そうだな」
はしゃぐナルトに、サスケが静かに返す。
対照的な口調だけれど、吐く息はどちらも白い。
パーティーがお開きになったのはもうかなり夜も遅い頃で、雪はもう止んでいたけれど、凍みるような寒さはいっそう増していた。
ぽっかりと浮いた月が照らし出す、静かな静かな夜の道。
聞こえるのは、お互いの足音と時折交わされる会話だけ。
「サスケ、もっとサンタの格好してればよかったのに」
「あんなイカレた格好いつまでもしてられるか」
家まで迎えに来てくれたナルトと一緒にカカシ宅へ向かったはいいが、一人ならともかく少年が二人サンタの格好で歩いているのはそこそこ人目についた。
微笑ましそうな視線にひたすら耐えながらやっと目的地に辿り着いてみればそこには、この上なくなまぬるーい目をした上忍とチームメイト。
任務現場に置き忘れていった着替えをきっちり回収してきてくれたのはありがたいが、よかったわねえとしみじみ述懐された日には立つ瀬がない。
うん!と何も考えずに元気良く返事していたナルトの単純さを、初めて羨ましいと思ったものだ。
「おまえだって即効着替えてたじゃねえか」
「だってあれ、寒いんだもんよ」
「ほらみろ」
言いながら、少しでも寒さを凌ごうとポケットの中に手を突っ込んだサスケは、指先に何か固い物が当たるのに気がついた。
(そういえば)
ほんの少し考え込んで、サスケはそれを取り出した。
「ナルト」
「ん?」
呼ばれて振り返るのを確認して、サスケは無言で手の中の物を放る。
「うわっ」
不意を突かれたナルトはかなり慌てたようで、投げられたそれをどうにかキャッチするにはしたが、受け止めきれずにアワアワとお手玉している。
最後には胸で抱え込むようにして、ほーっと安堵のため息を吐いた。
「いきなり何すんだってば」
「それ、やる」
「やるって・・・・これを?」
思いがけない言葉に、ナルトは抱え込んだそれをマジマジと見る。
片方だけの赤いブーツの模造品。
中には色とりどりの紙で包まれた何か(おそらくお菓子だろう)がぎっしりと詰め込まれていて。
「・・・・これって今日の任務で配ってたあれ? ってことはもしかしてサスケ、ネコババ?!」
「おまえと一緒にすんな。道歩いてたら押し付けられたんだ」
「なーんだ、他にもオレ達と同じようなことしてた人いたんだ。・・・・って、オレだってネコババなんかしないってばよ!」
「最初に見た時、おまえすげー物欲しそうな顔してたじゃねえか」
任務開始直前、各自に手渡されたサンタ袋の中のブーツ菓子。
『これ、全部食べられんの? すっげー、きれー、うまそー』
『でもブーツは食べられないぞー』
『それくらい分かってるってばよ、先生!』
こんなの初めて見た、と目を輝かせていたナルト。
任務の途中も、それを手渡す相手より、ナルトの方が余程嬉しそうで。
「だって、見てるだけでわくわくしねえ? なんかさ、楽しいことがたーくさん詰まってるみたいじゃん」
「オレにしたら単に甘いものが詰まってるだけだな。用はない」
「うわ、おまえ夢がないってばよ」
「うるせえよ。そこまで言うならそれ、いらないんだな? 返してもらってもいいんだぜ。適当に捨てるから」
「わー、いるいるいるってばよー。いっぺんもらったんだからオレの!」
絶対渡さないと気合を込めて、ナルトはぎゅっとブーツを抱きしめる。
「だったら最初からそう言えばいいんだ、ウスラトンカチ」
習慣で憎まれ口を叩いてしまったけれど、内心サスケはひどくほっとした。
その一瞬の隙を突くように、ナルトがすっとサスケの正面に回る。
「ウスラトンカチは余計だってばよ!・・・・でもさ、あのさ」
ほんの少し背伸びして、しっかり目線を合わせて、
「クリスマスプレゼント、ありがとな」
「ありがと、サスケ」
満面の笑みでナルトが繰り返す。
まぶしい。まぶしすぎて直視できない。
サスケは、ジャケットの襟を立てて赤くなった頬を隠した。
実の所、サスケがそのブーツ菓子を押し付けられたのは、任務に就く前、待ち合わせ場所に向かう途中だった。
こんなんどうすんだと思いつつ、ふと頭をよぎったのは愛しいお子様のこと。
(あいつは好きそうだな)
そう思ったら、いつもだったら即ゴミ箱行きのそれをなんとなく手放せず、気がついたらポケットの中。
けれど任務が始まってみれば、同じようなブーツ菓子を配りまくる仕事で。
同じものがごろごろしてる中渡すのはちょっとどうだろうと思ってるうちに、喧嘩勃発。
それどころじゃない状況に追い込まれていたせいで、今まで忘れていたのだけれど。
パーティーの間中、ナルトは本当に嬉しそうで、楽しそうで。
帰り道の今だって、見たことないくらいはしゃいでて。
だったら、プレゼントを渡したらもっと喜ぶかなと思った。
クリスマスプレゼントにしてはちゃちいし、そんなこと言う気もないけれど。
ほんの少しでも喜ばせることができたなら、そんな気持ちで。
その目論見は、めでたく大成功だったわけだが。
あいにくと、サスケにはナルトの笑顔に対する免疫がこれっぽっちもなかった。
あれ程渇望してたのに、いざ与えられたらどうしていいか分からないなんて、情けないことこの上ない。
「こんなのプレゼントって程のもんじゃねーだろ。タダだし」
そっぽを向いて吐き捨てるように呟いて。
こんなんじゃ、またしてもナルトを怒らせてしまう。
分かっていても、そう簡単に矯正できるようなら苦労はしない。というか、うちはサスケじゃない。
ため息を吐きつつそっと横目で窺えば、ナルトは困ったように首を傾げていたが、やがてキッと顔を上げた。
次の瞬間パンと乾いた音が響き、次いで両頬に軽い衝撃。
見ればナルトが、サスケの顔を両手で挟みこむようにして、目を合わせてきた。
「いいんだってばよ! だってオレ、すげー嬉しかったんだから。オレがプレゼントだって思ったんだから。だからこれは、クリスマスプレゼントでいーの!」
一気に言い切って、どうだと言わんばかりに睨みつけてくる。
挟み込まれたままの頬に染み込んでくるナルトの体温。
ああ、本当に。
ふっとサスケは笑みを浮かべた。
本当に、敵わない。
ひとかけらの悔しさもなく、そう思う。
「そう、か」
「そうだってばよ」
「なら、いい。・・・・オレも、おまえに渡したかった」
思い切って告げた正直な言葉に、ナルトはびっくりしたように目をまん丸にしたけれど。
「それならいいんだってばよ!」
得意げに、なぜか胸を張りながら。
そしてもう一度、心からの笑顔をくれた。
「あ、でもオレばっかりもらいっぱなしじゃ悪いよな。うーん、でも今からじゃ店開いてないし」
「もうもらったからいい」
「へ? でもオレ、何もやってないってばよ?」
「オレがもらったと思ったから、それでいいんだ」
「何だってば、それ」
さっぱりわけが分からないと言いたげにナルトは首を捻っている。
その手には大事そうにしっかりと、ブーツのお菓子を握りしめたまま。
物じゃない、形じゃない、だけどサスケが一番欲しかったもの。
「なあなあサスケ、それってどーゆー意味だってばよ」
「自分で考えろよ、ウスラトンカチ」
追い縋るナルトを軽くかわして、サスケは歩き始めた。
天に月、地には雪。そして隣には愛しいひとの笑顔。
これ以上のものは、きっといらない。
どうにか年内にアップできました。クリスマスSSのおまけ話。最終話で予告したとおり、ちっとも大した話じゃありませんが。
それにしてもこの話のサスケ、欲がないよなー。ナルトが笑ってくれればそれで満足なんて、キヨラカ過ぎて泣けてきそう(笑)。
ま、人間ひとつ願いが叶うごとに段々欲張りになっていくもんだから、この先はどうだか分かりませんが。それより、ここまで来たら告白のひとつもしてみればいいのに(苦笑)。